第5話 才能の目薬 5-3
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個展の日。
ギャラリーには、予想を上回る人が集まった。
拓海の絵に人々が惹きつけられている。
「この絵、作者の思いを描き切っているね」
「何か、感情が伝わってくる」
「この画家、今まで知らなかったけど才能感じるよ」
拓海は、人々の声を聞きながら、幸せを感じていた。
ついに、認められた。
個展は大成功だった。8枚の絵は、全て売れた。
個展に来ていた美術評論家も、拓海の絵を賞賛した。
「新進気鋭の画家、安藤拓海。彼の絵は、見る者の心を掴む力がある。まるで、描かれたものが実体化するかのような表現力だ」
拓海の名前は、美術に造詣のある人たちの間で一気に広まった。
次の個展も決まった。美術誌の取材も来た。
拓海は、徐々に有名になっていった。
でも、少しずつ、何かが変わり始めていた。
ある日、拓海は目薬を使わずに絵を描こうとした。
キャンバスに向かい、筆を取る。
でも、描けなかった。
キャンバスに絵が浮かばない。
それでも筆を動かすも、キャンバスには自分の思い描くものが浮かばなかった。
拓海は焦った。
目薬を差す。すると、すぐに描けるようになった。
拓海は気づいた。
もう、目薬なしでは描けない。
恐怖が、拓海を襲った。
このまま、目薬に依存し続けるのか。もし、目薬がなくなったら、自分はまた何も描けなくなるのか。それは自分の才能や実力とは違う何かなのではないだろうか。
拓海は目薬を確認した。残り、半分ほど。
毎日使っていたら、あと2ヶ月ほどで終わる。
拓海は不安になった。
でも、止められなかった。次の個展が控えている。期待されている。描かなければならない。
拓海は、目薬を使い続けた。




