第4話 出来すぎるノート 4-5
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それから、翔太は健と一緒に勉強するようになった。
健が丁寧に教えてくれる。公式の意味、解き方の手順、考え方のコツ。
翔太は、ここで本当の意味で勉強した。
ノートに書くだけじゃなく、自分の頭で考える。わからないことは健に聞く。一緒に問題を解く。
翔太は、ようやく理解できるようになってきた。
ノートに頼らなくても、自分の力で覚えられるようになってきた。
ある日、翔太が健に言った。
「なあ、健。今度は俺が、お前に教えるよ」
「え? 何を?」
「英語。俺、英語は結構得意なんだ」
翔太は笑った。
放課後、二人は図書館で勉強した。今度は、翔太が健に英語を教える番だ。
「この文法は、こういう意味でね……」
翔太は説明した。健が頷きながら聞いている。
「なるほど! そういうことか。わかりやすいな、森田」
「本当?」
「うん。お前、教えるの上手いよ」
健の言葉が、翔太の胸を温かくした。
誰かに教えるって、こんなに嬉しいことなんだ。
自分が理解したことを、相手に伝えて、相手が「わかった!」って言ってくれる。
それが、こんなに喜びなんだ。
翔太は、今まで感じたことのない充実感を味わった。
家に帰った翔太は、「錠剤」と「ノート」を取り出した。
錠剤の残りは10粒
ノートの残りは3ページ。
でも、もう必要ない。
翔太は、小瓶の中身とノートを机の引き出しに放り込んだ。
「ありがとう、ノート。でも、もう大丈夫」
翔太は微笑んだ。
本当の勉強の仕方を、やっと見つけたから。
7
今宵薬局。
店の奥で、「 」は水晶球を眺めていた。
球の中には、翔太の姿が映っている。錠剤とノートをゴミ箱に捨てる翔太。そして、笑顔で教科書を開く翔太。そして健太と翔太がふたりで図書館で勉強をしている姿。
「彼は自分なりの勉強方法を見つけられましたようです」
「 」は水晶球を布で覆った。
「わたしがお渡し出来る処方は本当に必要なものとは、似て非なるもの。本当に必要なものは、ご自身で手にいれるしかありません」
「 」は、そう呟くと水晶球にそっと布を被せた。
8
次の定期テストで、翔太の成績はさらに上がった。
数学、85点。英語、83点。理科、76点。
今度は、自分の力で取った点数だ。
担任の佐藤先生が、嬉しそうに言った。
「森田、素晴らしいぞ! このまま頑張れば、夏休みはお前の顔を見ないで済む」
「ええ、このまま頑張って夏休みは登校しないにします」
翔太は笑顔で答えた。
放課後、健が翔太に声をかけた。
「なあ、翔太。今日も一緒に勉強しようぜ」
「おう!」
ふたりは図書館に向かった。
途中、翔太があの路地を通りかかった。
「今宵薬局」を探したが、そこには薬局はなかった。シャッターが下りた店舗が並んでいるだけ。
翔太は微笑んだ。
もう、薬局は必要ない。魔法のノートも必要ない。
大切なのは、自分の頭で考えること。理解すること。そして、誰かと一緒に学ぶこと。
翔太は前を向いて、歩き出した。
「翔太、早く!」
健が手を振っている。
「おう、今行く!」
翔太は走り出した。
9
今宵薬局。
店の奥で、「 」は水晶球を眺めていた。
球の中には、翔太と健がふたりで図書館で勉強をしている様子が映っている。
「いいですね、学ぶということは。知識欲の塊だった友人を思い出しますよ。」
「 」は微笑んだ。
「ともに学ぶ、そうすれば彼とたもとを分かつということも無かったのかも、いや詮無きことですね・・・」
「 」はやや寂しそうにつぶやいた。そして水晶球を布で覆い、静かに店の明かりを消した。
また、誰かが困りごとを抱えて、この店を見つけるまで。
「 」は、静かに待ち続ける。
第4話 できすぎるノート -了-




