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今宵薬局  作者: 蟷螂
19/65

第4話 出来すぎるノート 4-3

3

今宵薬局。


店の奥で、「 」は水晶球を眺めていた。


球の中には、翔太の姿が映っている。教室で、テストを受けている翔太。笑顔で答えを書いている。


でも、「 」の表情はすこし曇る。


「順調に見えますが……」


今宵は水晶球をじっと見つめた。


球の中で、翔太がノートに何かを書き写している。教科書をそのまま写している。理解せずに、ただ書いているだけ。


「やはり、そうなりましたか」


今宵は小さくため息をついた。


「ノートに頼りきりになっている。本当の理解が、失われていますね」


今宵は水晶球を布で覆った。


「どこで気づいてくれるでしょうか」


4


一ヶ月後。


翔太は、すっかり「錠剤+ノート」に依存していた。


授業中、先生の話を聞かなくなった。どうせ後でノートに書けば覚えられるから、と思っていた。


教科書も読まなくなった。ノートに写すだけで十分だから。


問題集も、解き方を理解せずに、答えだけをノートに書いていた。


でも、テストの点数は良かった。ノートに書いたことは、全て頭に入っている。


翔太は満足していた。


ある日、健が翔太に頼んできた。


「なあ、翔太。数学教えてくれないか?」


「え? お前、数学得意じゃん」


「今回の数学の範囲がちょっと難しくてさ。翔太が最近すごく点数良いから、コツ教えてほしいんだ」


翔太は少し戸惑った。でも、断る理由もない。


「いいよ」


放課後、ふたりは図書館で勉強することにした。


健が問題集を開いた。二次関数のグラフの問題だ。


「この問題、どうやって解くの?」


翔太は問題を見た。見覚えがある。ノートに書いた問題だ。答えも覚えている。


「えっと、答えは……」


翔太は答えを言った。


「いや、答えじゃなくて、解き方を教えてほしいんだけど」


健が困った顔で言った。


「解き方?」


翔太は問題を見つめた。


答えは頭に入っている。でも、どうやってその答えを導き出すのか、わからない。


翔太は焦った。


「えっと……これは、まず……」


言葉が出てこない。公式は覚えている。でも、どう使うのか、わからない。


「翔太?」


健が不思議そうに翔太を見た。


「ごめん、ちょっと待って」


翔太は教科書を開いた。でも、教科書の説明を読んでも、理解できない。ノートに書いただけで、実際には理解していなかったのだ。


「森田、大丈夫?」


「ごめん、健。やっぱり無理かも」


翔太は逃げるように立ち上がった。


「え? どうしたの?」


「ちょっと、用事思い出した。また今度」


翔太は図書館を飛び出した。


廊下で、翔太は壁に寄りかかった。


恥ずかしかった。答えは知っているのに、説明できない。まるで、本当は何も知らないみたいだ。


翔太は鞄から「ノート」を取り出した。


ページをめくる。びっしりと書かれた文字。公式、年号、単語、答え。


全て、頭には入っている。でも、理解はしていない。


ただ、暗記しただけ。


翔太は気づいた。自分は、本当の意味で勉強していなかった。


ノートに書いて、頭に入れただけ。それは、勉強じゃない。


翔太は、ノートの残りページを確認した。


残り、10ページほど。


もうすぐ、ノートは終わる。そうしたら、自分はまた元の赤点に戻ってしまうのだろうか。


翔太は不安になった。


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