第4話 出来すぎるノート 4-3
3
今宵薬局。
店の奥で、「 」は水晶球を眺めていた。
球の中には、翔太の姿が映っている。教室で、テストを受けている翔太。笑顔で答えを書いている。
でも、「 」の表情はすこし曇る。
「順調に見えますが……」
今宵は水晶球をじっと見つめた。
球の中で、翔太がノートに何かを書き写している。教科書をそのまま写している。理解せずに、ただ書いているだけ。
「やはり、そうなりましたか」
今宵は小さくため息をついた。
「ノートに頼りきりになっている。本当の理解が、失われていますね」
今宵は水晶球を布で覆った。
「どこで気づいてくれるでしょうか」
4
一ヶ月後。
翔太は、すっかり「錠剤+ノート」に依存していた。
授業中、先生の話を聞かなくなった。どうせ後でノートに書けば覚えられるから、と思っていた。
教科書も読まなくなった。ノートに写すだけで十分だから。
問題集も、解き方を理解せずに、答えだけをノートに書いていた。
でも、テストの点数は良かった。ノートに書いたことは、全て頭に入っている。
翔太は満足していた。
ある日、健が翔太に頼んできた。
「なあ、翔太。数学教えてくれないか?」
「え? お前、数学得意じゃん」
「今回の数学の範囲がちょっと難しくてさ。翔太が最近すごく点数良いから、コツ教えてほしいんだ」
翔太は少し戸惑った。でも、断る理由もない。
「いいよ」
放課後、ふたりは図書館で勉強することにした。
健が問題集を開いた。二次関数のグラフの問題だ。
「この問題、どうやって解くの?」
翔太は問題を見た。見覚えがある。ノートに書いた問題だ。答えも覚えている。
「えっと、答えは……」
翔太は答えを言った。
「いや、答えじゃなくて、解き方を教えてほしいんだけど」
健が困った顔で言った。
「解き方?」
翔太は問題を見つめた。
答えは頭に入っている。でも、どうやってその答えを導き出すのか、わからない。
翔太は焦った。
「えっと……これは、まず……」
言葉が出てこない。公式は覚えている。でも、どう使うのか、わからない。
「翔太?」
健が不思議そうに翔太を見た。
「ごめん、ちょっと待って」
翔太は教科書を開いた。でも、教科書の説明を読んでも、理解できない。ノートに書いただけで、実際には理解していなかったのだ。
「森田、大丈夫?」
「ごめん、健。やっぱり無理かも」
翔太は逃げるように立ち上がった。
「え? どうしたの?」
「ちょっと、用事思い出した。また今度」
翔太は図書館を飛び出した。
廊下で、翔太は壁に寄りかかった。
恥ずかしかった。答えは知っているのに、説明できない。まるで、本当は何も知らないみたいだ。
翔太は鞄から「ノート」を取り出した。
ページをめくる。びっしりと書かれた文字。公式、年号、単語、答え。
全て、頭には入っている。でも、理解はしていない。
ただ、暗記しただけ。
翔太は気づいた。自分は、本当の意味で勉強していなかった。
ノートに書いて、頭に入れただけ。それは、勉強じゃない。
翔太は、ノートの残りページを確認した。
残り、10ページほど。
もうすぐ、ノートは終わる。そうしたら、自分はまた元の赤点に戻ってしまうのだろうか。
翔太は不安になった。




