第3話 時戻しの咳止め 3−4
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直樹はアパートの部屋で、床に倒れていた。
残り、あと2回。
何度やっても、明日香を救えない。
運命は、変えられないのか。
直樹は天井を見つめた。涙が、頬を伝った。
でも、諦めたくなかった。あと2回。まだ、チャンスはある。
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9回目。
直樹は、冷静に考えることにした。
10分間。この短い時間で、何ができるのか。
事故を止めることは無理だった。何度試しても、間に合わない。車は必ず突っ込んでくる。
それなら、せめて明日香が事故に遭った理由を知りたい。
なぜ、明日香はあの時、あの場所にいたのか。待ち合わせはハチ公前だったのに、なぜ明日香は別の場所を歩いていたのか。
直樹は、もっと早い時間に戻ることにした。午後2時40分。事故の20分前。
咳をした。
過去に戻った直樹は、明日香を探した。そして、見つけた。
明日香は、ショッピングモールに入っていくところだった。
直樹は後を追った。
明日香は、三階の文具屋である商品を物色していた。
万年筆だった。高級そうな万年筆。
明日香は店員に何か尋ねている。店員は笑顔で、万年筆を箱に入れて渡した。明日香は会計を済ませ、嬉しそうに袋を持って店を出た。
直樹は、明日香の後をついていった。
明日香はビルを出て、交差点に向かい始めた。
時刻は、午後2時48分。あと12分で事故が起きる。
直樹は焦った。このままでは、また事故に遭ってしまう。
でも、10分の制限がある。直樹が過去に戻ってから、すでに8分が経過していた。
あと2分しか居られない。
直樹は明日香に駆け寄った。
「明日香!」
明日香が振り返った。
「直樹? どうしたの? 待ち合わせは3時からじゃ……」
「いいから、今日は帰ろう!」
直樹は明日香の手を掴んだ。
「え? 何言ってるの?」
「いいから、お願いだから!」
直樹は必死だった。でも、その瞬間。
世界が歪んだ。
10分が経過したのだ。
直樹はアパートの部屋に戻っていた。
また、明日香を助けることが出来なかった。
直樹は床に座り込んだ。
でも、わかったことがある。
明日香は、プレゼントを買いに行っていた。万年筆を。
来週の直樹の誕生日。明日香は、サプライズを用意していた。
だから、あの店に寄った。だから、待ち合わせに遅れた。
そして、事故に遭った。
もし、明日香がプレゼントを買いに行かなければ。
明日香は、死ななかった。
直樹は床を叩いた。
瓶を手に取る。最後の一回。
直樹は考えた。10分間。何度挑戦しても、事故は止められない、運命は変わらない。
いや、運命は変えられない?
そうか、だから店主は……
それなら……せめて、明日香に最期、会いたい。
ちゃんと、話をしたい。
直樹はシロップを飲み、咳をした。




