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TERRA NAUTS(テラノーツ)  作者: Co:Creation Lab


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第7話:天空の目と、空への切符

Scene 1: 天空の刃・デルタ


「……それで、これからどうやって『上』へ行くつもりだ?」


カイはドラム缶の火を見つめたまま、シエルに問いかけた。 地上にあるものはすべて「ゴミ」か「残骸」。空を飛べる船なんて、この迷宮区を何年探し回っても見つかった試しがない。


「……手がかりはあるわ。でも、まずは敵の追っ手を警戒しないと。エデンの追跡ドローンはしつこい。私のカプセルが発していた信号を辿って、今もこの周辺をスキャンしているはずよ」


シエルの言葉に、カイはポケットで丸くなっているナットを撫でた。 「ナットのセンサーを広域モードにしても、ここから数キロが限界だ。……もっと遠くから、空の様子がわかればいいんだが」


『――フン。その程度の悩み、我が家臣がいれば一瞬で解決するわ』


アトラスが、自慢げに鼻を鳴らした。彼は鉄骨の上、暗がりに鎮座している「空色の正四面体」を顎でしゃくった。


『おい、デルタ! いつまで寝ている。王の前だぞ』


その言葉に応じるように、正四面体が微かに震え、透き通った空色の光が走った。 カシャ、カシャカシャッ! 小気味よい金属音と共に、三角形のパネルが複雑にスライドし、鋭い翼と鉤爪が展開される。


そこに現れたのは、スカイブルーと白の装甲に包まれた、一羽の「怪鳥」だった。 ナットのような愛くるしさも、ボルダーのような重厚さもない。ただひたすらに鋭く、速さを体現したかのようなフォルム。


『……やれやれ。ようやくこの窮屈な鞄から出られたと思えば、相変わらず酷い色の空ですね、アトラス様』


デルタは鉄骨の上で羽繕いをするような仕草を見せ、それから流し目でカイとシエルを見た。


『私が、テラ・ノーツ三番機……天空の刃、デルタ。この澱んだスモッグの底で、私のような美しい翼が必要になるとは、皮肉なものだ』


「デルタ……。こいつも、テラ・ノーツなのか」 カイはその鋭角的なデザインに見惚れた。ナットが「歩兵ポーン」、ボルダーが「ルーク」なら、このデルタはさしずめ「騎士ナイト」といったところか。


Scene 2: 空からの索敵


『さて、マイスター(技師)殿。この私に何を望みます? 先ほどのドローン掃除なら、もう済ませておきましたが?』


「あぁ、助かったよ。だが、もっと重要な仕事がある」 カイは立ち上がり、自身のゴーグルをデルタに向けた。


「ナットのセンサーじゃ範囲が狭すぎる。お前の目で、この周辺にエデンの第二陣が来ていないか見てきてほしい。それと……俺たちが上へ行くための、使えそうな船の残骸や、古い打ち上げ施設がないか。デルタ、お前にしか頼めない」


デルタは一瞬、カイを試すように見つめたが、やがて優雅に翼を広げた。


『「お前にしか頼めない」、か。……いいでしょう。地べたを這いずる皆様に、最高の視界ビューをプレゼントして差し上げますよ』


デルタの翼が青く発光し、内部のスラスターが起動する。 『王よ、しばしの別れを。……高く、速く!』


キィィィィィィン!!


鼓膜を突き刺すような高周波の駆動音を残し、デルタは一気に加速した。 彼は入り組んだ鉄屑の迷宮を弾丸のようなスピードで潜り抜け、垂直に上昇していく。


カイのゴーグルに、ノイズ混じりの映像が流れ込んできた。 デルタの視覚データだ。ナットの視点とは比較にならない高度。 そこから映し出されたのは、スモッグの中に潜む複数の赤い光点――エデンの追撃部隊の影だった。


「……見つけたぜ。デルタ、そのまま敵の死角を突いて、北側の廃棄ドックの方を回ってくれ」


了解コピー。……ふふ、やはり空は私にこそ相応しい』


デルタの声が通信から響く。 その圧倒的な機動力に、シエルは驚きを隠せない様子で空を見上げていた。


「すごい……。これなら、エデンの網を掻い潜れるかもしれない」


「あぁ。偵察はデルタに任せよう。その間に俺たちは……ボロボロになったボルダーと、俺の右腕を叩き直すぞ」


カイは工具箱を力強く引き寄せた。


Scene 3: 失われた技術ロスト・テクノロジー


「さて、と……まずは俺の右腕からだな。完全に焼け焦げてる」 カイは、だらりと下がった義手の装甲パネルを工具でこじ開けた。中からは、嫌な臭いのする黒煙が立ち上り、炭化したケーブルがぼろぼろと崩れ落ちる。


「……ひどい。メインの伝導回路が完全に焼き切れてるわ。これじゃ、動力を繋ぎ直しても……」 シエルが横から覗き込み、顔をしかめた。彼女の白いスーツの袖には、すでにいくつかの油汚れがついている。


「あぁ。ファランクスのあのバカげた出力に耐えるようには作ってないからな。だが、直すしかねぇ。予備のパーツは……」 カイがジャンクの山を漁ろうとした時、シエルが「待って」と声をかけた。


彼女は自分のスーツの腰の辺りを探り、小さなカプセルケースのようなものを取り出した。それを開けると、中には銀色の粘体のようなものが詰まっている。


「これは……?」 「『自己修復性ナノメタル』。エデンで使われている、最先端の伝導素材よ。断線した回路の間に塗布すれば、周囲の金属イオンを取り込んで自動的にバイパスを形成するわ」


カイは半信半疑で、そのナノメタルを指先ですくい取り、義手の炭化したケーブルの間に塗りつけた。 すると、銀色の粘体はまるで生き物のように蠢き、シュルシュルと細い糸を伸ばして、断線した箇所をまたたく間に繋ぎ合わせてしまった。


「すげぇ……なんだよこれ、魔法か?」 カイが義手に動力を流すと、失われていたはずの指先が、カシャッ、と小気味よい音を立てて動いた。しかも、以前よりも反応速度が上がっている。


「魔法じゃない、科学よ。でも、あなたのその義手……ジャンクパーツの寄せ集めなのに、このナノメタルの形成速度に耐えられるなんて。ベースの設計が、すごく……美しいわ」 シエルは、ジャンク屋の少年が組み上げた不格好な義手を、心底感心したように見つめた。


「へへっ、だろ? 俺の最高傑作だからな。……よし、この調子でファランクスのエネルギーパックも、エデンの技術と俺のジャンクでハイブリッドにしてやろうぜ!」 カイの目に、職人としての火が灯る。二人は頭を突き合わせ、ガラクタの山の中で、地上と天空の技術を融合させる作業に没頭した。

Scene 4: 巨人の遺骸


数時間後。 カイの右腕は完全に息を吹き返し、ナット(ファランクス)も新たなエネルギーパックを内蔵して「キュイ!」と元気よく鳴いた。


『――マイスター殿。空のお散歩から戻りましたよ』


入り口の隙間から、青い光の筋が滑り込んできた。 デルタだ。彼は空中でパシュッと正四面体に変形し、アトラスの横に転がった。


「おかえり、デルタ。どうだった?」 カイが尋ねると、デルタの表面からホログラムの映像が投影された。


『追手のドローン部隊は、東のセクターへ向かいました。しばらくはここには来ないでしょう。……それよりも、もっと面白いものを見つけましたよ。あなたが「空を飛ぶ船」を探していると言ったのでね』


ホログラムに映し出されたのは、スモッグを突き抜けるほど巨大な、塔のような建造物の残骸だった。 表面は苔と錆に覆われ、周囲のゴミ山と同化しているが、その人工的で幾何学的な構造は、明らかに「この星のもの」ではない。


「なんだ……これ?」 「……まさか。あれは……『軌道エレベーター』の基部!?」 シエルが息を呑んだ。


「軌道エレベーター?」 「大破壊の前に、地球と宇宙を繋ぐために作られた巨大な柱よ。……そうか、エデンは元々、あのエレベーターの終着点にあるステーションだったんだわ。でも、大破壊の時に切り離されて……」


シエルの言葉に、カイの心臓が高鳴る。


「ってことは……あの巨大な塔のてっぺんに行けば、スモッグを抜けられる! しかも、あそこには宇宙(上)へ行くための推進装置マスドライバーの残骸が残ってるかもしれないってことか!?」


『ふふ、その通り。さすが私が見込んだ人間だ』 デルタが自慢げに光る。


「上等だ……! 目標が決まったな」 カイは立ち上がり、新しくなった義手で力強く拳を握った。


「行くぞ、アトラス、ボルダー、ナット、デルタ! そしてシエル! あのバカでかい塔の残骸を目指す。そこが、俺たちのエデンへの出発点だ!」


『フン、大言壮語を。だが……悪くない。我らテラ・ノーツの真の力を、上の連中に見せつけてやろう!』 アトラスの青い瞳が、野心に満ちて輝いた。


廃棄区画グラウンドの奥深くで、一つの小さな反逆の火種が、確かな目標を見つけて燃え上がり始めていた。


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