17-1 昔話「桃太郎」
【17話/B面】Aパート
校舎の東側2階。
放課後になるとこの奥の部屋が部室になる。
誰かが部室にやってきて、それが複数名になったあたりから『日本文化交流研究部』の活動は始まるのだが、今回は何か部室でプレゼンが行われているようだ。
メンバーの中心には勇一。
発表という感じで、今回は静那からのリクエストに応えていた。
リクエスト…それはとある日本古来から伝わる昔話の紹介であった。
* * * * *
「ええ~こうして桃太郎は無事に鬼達を退治し、平和に暮らしました。…と、まぁ『桃太郎』はこういうお話です。日本では特に有名な昔話だから静那もあらすじは知っておいた方がいいよ。」
「うんっ。勇一ありがとう。」
「どういうたしまして。…じゃあ何か補足点や質疑応答あったらここからは受け付けます。
静那も気になった部分があれば何でも聞いてよ。椎原さんからも何でもいいよ。
こちらも調べて来たから質問があればどうぞ。」
一通り“桃太郎”のあらすじを紹介し終えた勇一。
その後の質疑応答に入る。
意外にも生一が静那に問いかけた。
「聞いてみてどやった?」
「不思議な物語でしたね。桃から人が生まれるなんて。」
「お前はそこをすんなり受け入れられるんか?」
「はい?」
「桃から生まれるっていうけどよ、仮に桃の中に赤ちゃんが居たとして、包丁でパッカーンしてもらうまでの間、呼吸とかどうしてたとか思わんか?」
「確かに変ですね。息が出来ないと死にますもんね。」
「おれも子どもながらに不思議やってん。それに包丁で真っ二つにしたら赤ん坊直撃せんか?
まあ静那ちゃんの手前、そこはスルーするにしても、桃の中でどうやって生きてたんか不思議やねんな。」
「俺はおばあさんが桃を拾わんかったらどうなるか思うてたで。
バカでかい桃が流れてきたらまずそれを桃と認識するまでに時間かかるし、多分持って帰らん。よっぽどの物好きでない限り。あの時代転売とかないやろ。
あと川って海へ向かってるやん。海まで行ってもうたら鬼ヶ島の鬼に拾われるかもしれん可能性もあってんやで。
そしたら逆桃太郎?裏桃太郎みたいになってたん違う。鬼を従えた人間が村へ侵略にやってきた!みたいな。」
「うん、お前たちの想像力の豊かさは分かった。でもこれは昔話だ。そういうモノだと思いながら楽しんでもらうためにあったお話じゃないかな?」
「それにしても不可解な設定が多すぎんか?
おれは子どもの時に既にクエスチョンがひしめいてて楽しめんかったぞ。
仮に桃太郎いう物語がこの世に存在せんかったとするで。
そして今の時代に桃太郎みたいな物語を仮に作って出版会社とかに持ち込んで行っても“そもそも話の筋がおかしいですし不可解な点が多くて読者がついてこれません”いう辛辣なコメントが来るん目に見えてるわ。
だいたい桃から生まれたいう設定に無理があるねん。」
「じゃあどういう設定だったら良いのよ。」
「今回のはエロいん無しで真面目な設定やで。
まず、川から桃が流れてくるねん。普通サイズのやつや。色はまぁ金の桃みたいなイメージ?
それなら食べる流れになってもおかしくないわな。
それ食べたじじいとばばあが桃の力で若返るねん。“じいさんばあさん若返る”ってやつよ。」
「おい!それって。」
「そう、若返ったら子ども作れるように体のフォルムが仕上がるやろ。それで何回戦かこなして桃太郎が生まれるいうんが自然な流れと違うか?」
「確かに…」
「それを子どもに説明するとなんか場が変な感じになるから、大人がオブラートに隠してしゃべったのが今のカタチになっとるんと違うか思うてる。」
「う~ん、ちょっと私それは納得するかも。でも言い方気をつけよう。静ちゃんもいるし入ってくれたばかりの天摘さんもビックリするから。」
「とにかく、桃から生まれたっていうのは大人が子どもにわかりやすく説明するために作ったエピソードと考えたら分からなくもない。でもそれ以外に不可解な点あるかよ?
まず静那は何かあったか?」
「う~ん。犬さんとサルさんとキジさんが普通にしゃべったところかな。しかも向こうから。
それに3匹とも桃太郎の名前を知らないはずなのに“桃太郎さん”って言ってきたんでしょ。それはおかしいよ。」
「なるほど。もう何も言えなくなってきたな。」
頭を掻きだした勇一。さすがに返答に困る。
「多分物語を円滑に伝えるためにお話し上はああいう言い方にしたんじゃないかな?
リアルなところだと、犬やサルを何日もかけてきちんと調教していったんだと思うよ。キジもタカ狩りみたいな形で自由自在に動けるまで育てたんじゃないかな?
もちろんきび団子じゃなくてきちんと餌もやりながら根気よく…ね。」
なぜか真面目にコメントする天摘さん。
根はすごく真面目なんだろうなと感じた勇一。
「それだったら桃太郎凄いよな。子どものくせにビーストテイマー(動物使い)みたいなスキル持ってた言う事か。」
「そんな回答でいいかな…静那。」
「うん。子どもたちに伝えるため話を分かりやすくしたっていうので納得いったよ。
でもこの戦力で鬼退治はさすがに無理あるよね。」
「おおお!静那よ。まさしく俺もそこが一番不可解やってん!よくその点を挙げてくれた。
よう考えてみろ。毛も生えそろってへんような少年一人と犬、猿、キジやで。どう課金してもムリゲーやろ。」
「ちょっと生一。今まだ1995年なんだから“課金”とか“ムリゲー”ってワードは言わないの!ちょっと何言ってるか分かんないでしょ。」
「せやったな。まぁ仕切り直して言いたいのは、この小動物達をどう鍛え上げても鬼の集団に立ち向かわせるのは無理があるいうことや。
プロ野球のドラフトで野球少年取ってきて鍛え上げるみたいなもんやで。
これ、さすがに反論ないやろ。」
「なら鬼が…弱かったとかじゃ…」
「アホか!鬼が弱いにしても犬に負けるか?
ドーベルマンでもない限り大人の鬼が負けるとかなったら、それもう鬼の評価が根底から覆るレベルやで。
序列がおかしくなる。“犬>鬼”になるで。
何なら桃太郎の話が鬼の価値を下げたいうて昔トラブルとか起きとるで。
この桃太郎の絵本に出てくる犬のイラスト見てて思うけどさ、どうみても雑種の犬以上でも以下でもないような感じやん。あんな小柄な犬に噛みつかれたくらいで鬼が逃げていくわけないやろ。」
「じゃあ猿はどうなんだよ。知恵も働くだろ。」
「サルも小さいやん。それに犬と仲ようないし。
タッグ組んで連携技とかしたらまだ活路はあるかもしれんで。犬猿タッグとして。
でもタッグにすらならん。
実戦やと個々で勝手に動くイメージしかないねん。
強い敵に弱い奴とか小さい奴が挑むんなら連携は必須やねんぞ!」
「キジはどうなんだよ。偵察とか出来るだろ。」
「お前そもそもキジがどんな鳥か調べたか?全長が1mも無いんやで。しかもニワトリ並みのウェイトしかないし…
くちばしでダメージ通せるとでも思ってんのか?
火ィとか吐くわけでもないのに。そんなんがもし地上でつかまって上から乗られたらもう太刀打ちできんて。毛ぇむしられてあとはクリスマスディナーのメニューに並ぶだけや。」
「ちょっと何残酷な事言ってんのよ。可哀そうじゃない!」
「せやかて鬼も自分らの住処を守らなあかんのやで。ワケの分らん動物が3匹来たくらいで住処奪われたらたまらんやろ。
真面目に対応…というか本気で抵抗するのが当たり前と違うか?
も一回よう考えてみろ。鬼ヶ島が……犬とサルとキジが侵入したくらいで崩壊するような場所に思えるか?もしそうならハリボテもええとこやで。」
「たしかにこの戦力じゃ鬼ヶ島に行っても逆に撃退されるよね。」
「静那さ、そこはリアルに考えなくても良いんじゃないかな?不意をつかれたとか色々ケースはあるだろうし。」
「不意をついて倒せる相手やと思うてんのか?お前のイメージの中の鬼どんだけ弱いんよ。
引っ掻いてくるサルにやられるくらい弱いんか?
キジが鳴いただけで泣き出すレベルの臆病なやつなんか?
仮にそんな弱いやつらやったら既に別の大人が成敗してるっちゅうねん。」
「むぐ……」
勇一は吃る。
「お前さっき物語読んでた時“怖い鬼たちが住む鬼ヶ島”言うてたやん。お前の“怖い”の定義を逆に聞きたいわ!」
「それは…鬼の見た目が怖いってことで…」
「なんでそんな見た目だけの鬼が今まで淘汰されんかったのかが気になるレベルやで。
エンジェル伝説ちゃうんやぞ。桃太郎が行くってのが実は出来レースやったん違うんか?爆破ボタン押したらハイ終わりみたいな。」
「よくそこまで考えられるわね。」
「そうやないとさすがに辻褄合わんやろ。“怖い鬼”やで。
だいたいの奴が悪役プロレスラーみたいな姿をイメージするやろ。
今はまだ1995年やからあくまでも俺の想像上のイメージやけど…
鬼って言うたら…十二鬼月、上弦の鬼、下弦の鬼とかいろんな恐ろしい能力持った化け物がひしめいてるイメージやねん。」
「言ってる言葉の意味がよく分かんないけど、もう桃太郎がすごく強かったってことで良いじゃん。」
「いいや良くないね。桃太郎いうてもまだ子どもやろ。
犬とサルとキジがおれば鬼なんて退治できるやろうとか思うてる時点で考えが甘いというか幼いねん。
自衛隊とか鬼殺隊に一回入って鍛え直さないかんレベルと違うか?」
「さっき意味分らんワードがあったぞ。“鬼殺隊”って聞いた事ねえぞ。」
「まぁとにかくや!無理やり過ぎるねん。たった1人と3匹で鬼たちを殲滅するのは。
よくこの世紀末までだれもこの事に深く突っ込んでこんかったよな。」
「日本の考察委員会も大したこと無いな。」
「そこで俺が考える説がある。交渉と調略や!」
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。
各話完結ですので、お気軽にお楽しみください。
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