16-2 野球
【16話/B面】Bパート
「日本文化交流会」の部活動といっても、メンバー全員が揃うまではたわいもない話をしていたりする。
男性陣だとゲームやプロスポーツの話に花を咲かせることが多い。
今回はそんな男性側の会話の一面である……
「なんやねん!おまえ以前は部活もしてて、趣味もちゃんとあるんやんか!その趣味ちゃんと言えばよかったのに…この前の何やねん“嗅覚を極める”とか。」
女性陣とは少し離れた机で、話をしている4人。
小谷野と兼元と机を対にして話をしているのは勇一と生一。
熊本での合宿で初めて会った時、一応会話は交わしたものの、その時は静那がらみの事ばかりでろくにそれ以外の話をしていなかった。
しかし話をしているうちに、小谷野は野球、兼元は中学までは野球で高校からはバスケをしていたというのが判明した。
2人とも野球を一応はやっていたのだ。
「それについてはもういいだろ。野球はやってたけど絶対勝てへんって思った頃からはもうやるのが苦痛でしかなかったよ。黒歴史言うてもええくらい。」
「大阪の私立校は強すぎるし、“大阪桐蔭”とか“PⅬ学園”がさらにクッソ強いから、どう頑張っても無駄みたいな風潮あったで。だからもう俺ら野球人のモブ(群衆)になるん嫌やったから冷めてたわ。
チーム全体が絶対勝てんいうオーラ出してたから常にやる気は無かったな…」
「ちなみにPⅬや桐蔭と高校野球の予選で当たったことは?」
「ないない。俺らの高校一回戦負けやったし。でも俺らの高校打ち負かしたトコが桐蔭にコールド食らってんねん。それ聞くだけでもう嫌になるやろ。
それに関西おったら噂になっとるやつすぐ知れ渡るねん。当時は“関本”いう奴がとにかくバケモンやったわ。そういう奴が結果的にプロに行くんやろうなって。」
「野球やっててもあいつらの肥やしにもならん思うたら…もう野球でモテるん無理やと悟ったわ。」
「おまえの動機が不純なだけやんけ。純粋に野球道を邁進してなかったんかよ。」
「んなこと言うても俺は兼元みたいに逃げへんかったで。あいつはスラムダンクの影響で高校からバスケやるとか言い出しやがって。
結局俺よりデカい奴に何度も吹っ飛ばされてよ。大人しくなって“次はミッチーのポジション目指す”とか言うてたけど、もう1年目の夏には部活いかんようになっとったやろ。」
「うるさいなぁ。逃げたわけやないし!走りっぱなしのスポーツとか夏死ぬねん!夏のバスケとか狂気やないとでけへんぞ。お前もいやいや続けよったくせに。」
「野球やったら遠征あるねん。そこで男女共学の学校行けるやん。あれオアシスやったな~」
「そんな理由かよ。」
「なんやねん。それ大事やで。女のおらん世界とかホンマ監獄やで。」
「スポーツメンのイメージ崩れるわ~」
「生一は野球とかの部活してなかったのか?」
「俺はまぁ拗ねてたからな…帰宅部やったわ。なんもやりたくなかった。」
勇一も小学生の頃からずっと何事にも関心を示さずぼーっとしているのが好きだったので、あまり人の事は言えないなと感じた。
「それでも野球とか関心はあったで。阪神タイガースが家族皆好きやってん。弱いねんけどな~。」
「あぁ…あのクソ球団か。あそこのファンとか終わってんなお前。」
「おい…言うてええことと悪い事あるって習わんかったか?お前失礼にも程があるやろ!」
生一は関西の人間が地元の球団を叩くのが許せなかったようだが、勇一はその理由が気になる。
「おい待てよ生一。確かに俺から見てもあのチーム(阪神)は強くないイメージあるけど、なんでそこまで言うのかは知りたいよ。だって2人とも関西人だろ?阪神タイガースを知らないわけないだろ。」
「…確かに地元やのにけなすんは理由あるわな。」
「まぁええわ。教えといたる。確か3年前か…運も味方して奇跡的にAクラスにはなれたけど、すぐ浮かれてまた下がったし。
…とにかくあそこは編成部というかフロントがアホやねん。あんなアホなんばっかりがトップにおって勝てるチームになるわけないやろ思てたわ。
野球は監督の首をすげ替えただけでは勝てへんねん。球団が勝てない原因はオーナーやいうのを思い知らんとあかんやろ。」
「お前それでも関西人か!阪神ファンに袋叩きにされんぞ!」
「いや、事実やろ。監督も負広やし。負けるばっかりやん。しかも同じパターンで。阪神ファン関西人の母数が多いから、県外の人間から見たらぎょうさんおって熱心に見えるかもしれんけど中身は冷めてもうてたで。先発が5回ももたんし外国人はすぐ帰国するし…あれ一般企業に置き換えてみろ。異常やで。酷いなんてもん違う。会社の内部が既に崩壊しとるようなもんやと思わんか?」
「マジなんか…阪神ファンって…日本全国どこにでもおって、石を投げたら阪神ファンに当たると言われたくらいと違うんか…」
「俺らの間じゃ…いやいや、野球をある程度知ってる人間の間じゃ、あのチームは駄目やと早くから見切り付けられとったで。
巨人に3タテするのは万馬券出すより難しいとか言われとって、まぁ散々やった。」
「クラスに巨人ファンの子がおったらボコられんかったんか?」
「いや、子どもの方がまだ聞き分けええねん。巨人が好きなんも、まぁ強いからしゃあないなくらいに思うてたし。まぁドライな奴ほど阪神見限っとったで。」
「大阪の奴は皆阪神ファンじゃないんか!?」
「お前世界が古すぎるねん!飛び出してこーい!
弱いチーム応援して何が楽しいねん。マゾやであれ。数少ない勝利を祝い、勝ったら焼酎の原液そのまま流し込んで祝うファンのオッサンは子どもからしたら変人としか見えへんねん。」
「なんだか阪神のイメージ崩れたなぁ…ここ高知県もキャンプの影響で熱狂的なファンが多いのにな…」
「俺も高知の高校選んだ理由の一つが、キャンプの時期に間近で選手見れるいうポイントやったのに…実のところはこんなにも地元からコケにされとったんか…」
「まぁ純粋なファンには受け入れがたいかもしれへん。でも事実負けすぎやろ。巨人とかに舐められてるやん。これぐうの音も出んってやつやろ。」
「でもええ新人入ってるやん。確か…藪いう投手が。」
「だからまず打ててないやん。藪いう投手ももうムエンゴの未来が見えてるわ。それやのに何オマリー外してんねん。なんか反論できる材料あるか?ドラフトも的外れやろ?誰の為のドラフトやいうて思うわ。」
「ぐっ………」
「お前…結構見てんだな。」
「そやで、俺かて関西人や。地元の球団なんやし応援したりたいよ。でもこんなに弱くて応援する気になるか?こんな負け癖がしみついた球団誰が応援したい思うねん。
県外の阪神ファンはどうか知らんけどなぁ、関西人はタイガースに対してフラストレーションだいぶ溜まってるで。関西人やからこそ阪神見限る人って意外とおるねんぞ。
なんか応援してる自分の心までも負け癖ついてまうみたいな感じするし。
何事にも負けても阪神いう“下”の存在を感じて安心してもうてる自分がおんのが嫌やねん。深く関わればメンタル病んでくるねん。
勝ったらあかんみたいな縛りかけとるみたいに感じるねん。
俺はもう以前中日の監督してくれてた星野さんみたいなな…ああいう人がここの監督でもやらん限りは多分チームの再起は無理や思うで。」
「それは良い提案って分かるけど…星野さんやろ?阪神に縁もゆかりもないし無理と違う?」
「せやろ。だから俺はもう絶対優勝できん思てる。
うちの親戚のじいちゃんなんかな、えらい阪神ファンなんやけど、4-0とかで阪神が序盤、珍しくリードでもしてたら何でかテレビ消すねん!“怖あて見てられん”言うて。なんでリードしとんのに見るん怖がらなあかんねん。明らかにおかしいやろ!このムーブ。」
「でも10年以内くらいには優勝は…」
「絶ッ対無理やな。10年以内やったら奇跡的にAクラスとか入る可能性はあるで。でも優勝は10年経っても無理と断言したるわ!」
「そんな言うんやったらもし優勝したらどないすんねん。」
「そうやな…10年以内に優勝出来たら一生パンツいっちょでおったるわ。」
「俺も同じくパンツいっちょかけてもええで。その代わり優勝できんかったらお詫びに“風俗店全国巡礼ツアー”くらいはプレゼントしてもらわんとな。8発7日くらいで。」
「なんで旅行先が日本中の風俗店やねん!
…でもやっぱり俺は生粋の阪神ファンや。
その条件のんだるよ!
それに今のままで阪神ファンが黙ってるわけないやろ。全国におるんやで。どっかから外様の監督連れて来てでもして改革せんとマジであかんのは俺でも分かるし。」
「だからあかんって。これはチームの問題やなくてチームを束ねる大人の問題やからな。もう組織の大人が腐っとったらあかんっていう反面教師になってるんやで、大阪では。」
「くそ…なんかショックやな。始めはお前らの言い方に腹立ってたけどなんか反論もできんし…」
「同じ関西人に言われたら効くよな…結果が結果だけに生一も受け入れざるを得ないとこあったと思うし。」
「俺、正直巨人とかのカネにモノ言わせた補強見てて僻んでばかりやったわ。でも僻んだまま、拗ねたままじゃいかんねんな。なんか相手の動向やなくてこっちの問題をまず受け止めて動かなあかんねん。なんか自分見てるみたいでちょっと嫌やったわ。」
「阪神見よったら、人生は想い通りに行かんことばっかりやな~ってつくづく思うねんな。そういう学びはあるよ。
でもやで。想い通りにいかんからこそ、そこからどうすればええかをしっかり考えて具体的に行動せんと、ずっとあのダメトラのままやで。
今の阪神の姿はなぁ、俺らの未来の失敗例を見せつけてくれてるみたいな感じやねん。俺もそんな阪神からは学ぶことはあるよ。チームとしてはほぼ見限っとるけどな。」
「お前ら今日はすごいまともな事言うな。さすがに今の持論は暴言だけじゃなくて説得力があった。感心したぞ。」
「昔は好きやったんやな。お前らもタイガースが…。」
「まぁそんなん言わすなや。強いからって金にモノ言わす球団が好きなわけないやろ。今パリーグの方やけど“イチロー”いう選手がおるねん。レベルの高い野球を純粋に見たいんならあの選手が抜群にお勧めやで!復興の元気印みたいになっとるし。」
「へぇ~俺も見に行ってみたいな。プロ野球。高知県というか四国内じゃ試合してくれないもんな。」
「それやったらさっき言ったパリーグお勧めするで。チケット余裕で取れるし何よりゆったり見れるし。」
「野球か…じゃあ静那も大阪あたりなら一緒に付き合ってもらえるか誘ってみるよ。」
「ホンマか!お前初めてちゃう?俺らの役に立ったん。」
「うるさいな。なんでそんな事言われないといけないんだよ!」
席を立ち、勇一は静那達の方へ向かう。
「静那!ちょっと先の話になるんだけどさ…野球、見に行ってみないか?」
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。
各話完結型ですので、お気軽にお楽しみください。
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