15-2 打ち明け話
【15話/B面】Bパート
ここは校舎の東側2階…
いつも1番か2番目に部室に入ってくるこの部活の看板娘が珍しくお休みしていた時の話である。
生一が一番乗りで、その後勇一がやってきた。
窓の換気をしているところで仁科さんがやってくる。
「お疲れ。」
「うん、お疲れ。静ちゃ~んと、あのアホ来てる、」
「誰がアホやねん。おれ静那の先輩やのに扱い酷くない?」
「だってあんたはおまけみたいなもんだし。数合わせの。」
「けっ、扱いひでーの。でも静那は今日は来れへんってさ。」
「えぇえ!静那欠席なの?なんかあったのかよ。昨日の部活の時なんだか心ここにあらずみたいな感じしてたし…」
「そんなの口に出さずともだれでも分かるわよ。静ちゃん表情に出やすいんだから。」
生一の方を振り向く仁科さん。
「で、静ちゃんなんの用で欠席なの?」
「“アホ”だから分っかりっまとぅえ~ん!」
「くッ…じゃあ藤宮さん。」
「ビックボスと言え!」
「なんでボスとか言わないといけないのよ。静ちゃんには言わせてるみたいだけどなんであんたがボスなの!調子に乗るな!何の用か知ってるなら教えてくれていいじゃない。漫画持ってきてる件、先生に言うよ!」
「漫画を弱みにしやがった…」
「生一、俺も知りたいよ。分かるなら教えてくれよ。」
「まず何で俺なん?」
「だって静ちゃんが休むこと知ってたでしょ。それに静ちゃん誰にも言わず無断で休んだりするような子じゃないもん。で、勇一が知らないならもうあんたしかいないじゃない。」
「なかなか良い推理だワトソン君。」
「ワトソン君って誰よ!いい加減言ってよ!」
「もう、小春!外まで聞こえてるよ。女の子があまり怒鳴っちゃダメ!」
椎原さんが部室に入ってきた。
この1カ月の間、お出かけしたりしてある程度仲良くなったせいか、今では仁科さんの事は下の名前“小春”で読んでいる。
「あ、ごめん。でもこいつがいちいち話はぐらかすから。」
「何かあったの?そういや静ちゃんは?」
「だからアイツ今日は来ないって話。」
「昨日なんだか思いつめた顔をしてたからね…。何かあったのかな。」
「それについては私から話をさせていただこう」×2
奇麗にハモった声で後ろから変態が部室に入ってきた。小谷野と兼元だ。
「まぁあんたらでもいいわ。何?教えてよ。」
「おい!その言い方失礼と違うか?まったくどういう頭してんだ。」
「だからさっさと言いなさい言ってんの!」
イライラする仁科さん。
「どうも乳にばっかり栄養が行ってるみたいで頭が足りてないみたいですな。」
謎の上から目線の兼元に対してキレかける仁科さん。
「まぁ小春。ここはきちんと聞こう。知ってるなら私も知りたいしさ。」
椎原さんがなだめる。
怒りの原因は明らかにあの2人なのに。
「静那ちゃんは…あれは男が出来たんだ!あぁ、何てことだ。世界の崩壊か~スゥイ~ズゥ~ヌゥア~!」
いきなりオペラみたいな口調で話始める小谷野。
「1年にガタイの良い男の子がいるんだけど、そいつに静那ちゃんなぜかお熱なんだよ~。」
なぜかハンカチを取り出して口にくわえたと思ったらその状態で下に引っ張る。どこで知ったのか分からないが、しぐさがとにかく古臭い。
「お熱って…言い方古っ!」
「そこ!黙らっしゃい!」
「そりゃあ静那ちゃんはお人形のような可愛さと美貌があるよ。リカちゃん人形も真っ青な顔立ちだ。寄ってくる男もさぞいるだろう。でも彼女には私という旦那がいる。
そこは意識して貞操を守り通してくれたと思っている。」
「おい、俺が旦那やぞ!このバカゴリラ!」
「何を言う、この下着マニアニマル!」
「すいません。話がおかしくなってるんで~主線部分だけ喋ってくれませんか?」
ゴミを見るような目で冷めた突っ込みをする仁科さん。
「私という旦那がいるから他の男の口説きには応じない…それは立派だ。
しかし、一昨日由々しき事態が起こったのだ。
嫁が…嫁が自ら進んで私の知らない男をエスコートし、なんと屋上まで連れて行ったのだ。」
「静那が独断で同学年の男子を屋上に連れ出したって…そういう解釈で良いんだな?」
「コレ聞いてそれくら分らんか?お前、もうちょっと脳みそ頑張ろうや!」
「なッ!」
キレそうになる勇一。
「そして“大事な話がある”なんて言い出すんだ。
屋上で行われるイベントって分かるか!屋上だぞ屋上。屋上マジックがかかってんだぞ!」
「屋上で何のマジックがかかるねん!アホやろ。」
まともな突っ込みだ。
「屋上って言ったら…告白したり…なんかしたり、他にもなんやかんやお互いがするところと違うんか!」
「後半ワケ分らん!」
「要するに愛の告白をするために静那が屋上にその男の子を連れだした可能性があるという事だよな。」
「そうやねん!そんなん話の初めの方で分かっとこうや。お前話の流れってのに乗り遅れすぎやで!くらいついてこーい。」
「なんかムカつく言い方だなぁ」
「それで、静ちゃんが告白したって証拠は?」
「それがなんだか煙に巻こうとするんだよォ、俺達の事~。旦那やのに!
どう思う!?旦那やのにコレどう思う?旦那やのに!
“私この男の人とは初対面ですゥ”って絶対ウソやん!女が浮気する時の常套句バスト10には入る言葉やん~」
またハンカチを加えて下に引っ張る仕草を見せる小谷野。いちいち見苦しい。あとさりげなく静那の声色をマネするのにもイラッとする一同。
「あんた仮に嫁とか言うんならさ、なんで嫁の言葉信じてあげらんないのよ!バッカじゃない?静ちゃんはとっさに嘘ついたりするような子じゃないの!
それに何よ。“バスト10”とか?四六時中バストの事ばっか考えてるからそんな言葉遣いになるんじゃないの?このど変態!」
「確かに静ちゃんはとっさに嘘をついたりする子じゃないよ。初対面だって言うのならそれが本当なんだろうね。」
「だからって初対面の人に一目ぼれしたかもしれませんやん!」
小谷野と兼元…この二人のケースを考えたら“絶対それはない”とは言い切れない。
「じゃあ…告白したのかな…」
「そりゃ絶対してるやろ。屋上で二人きり…天気は晴れ…二人はまだ出会ったばかり…しかも1時前…条件揃いすぎてるん違うか?」
「意味分らんわ!なんで時間とか関係してるんよ。」
「昼休み終わりのチャイム(1時のチャイム)鳴る前って大体昼休みのクライマックスやろ!」
「どこ情報だよソレ。とにかく話にいちいち妄想を入れ込んだりして…いい加減にしろ!」
「じゃあ仮に告白したとしよう。それと静ちゃんが今日休みなのとどういう関係があるのよ。」
「それが…今日その嫁の意中の男、“八薙”っていうやつなんやけど…そいつ学校休んでんねん。
そして嫁も学校終わったら急いで下校してた…どうよ。これ八薙ってやつの家に心配で駆け込んでいったという仮説はアリなん違うか?その後八薙の自宅で起こるイベントとか~。(涙)親とかは多分仕事で家に2人以外誰もおらん設定やと思うし…」
「その設定というか妄想は置いておくにしても、確かに静ちゃんだったらありえるかもね…。その八薙君って子が心配でお見舞いに行ったとかいうケース。」
「それは無いとはいえないよね。」
ここで少し沈黙が入る。
「その“八薙君”って子、どんな子か知ってる?」
「西山なら知ってるかもだけど…」
西山は今日は生徒会で欠席だ。
「じゃあ彼についてこれから聞き込みをしませう!」
「待って!バカな事しないの!」
「うちの部員意外と県外勢ばかりだから分かる人間居ないんだよね…ていうかなんで勇一が分からないワケ?もっと人間関係に関心持っときなさいよね。」
「そこは…ごめん。でもよく分からないんだよ。」
「まったく頼りにならない部長ね。」
「まったくだわ…部長失格ね。」←小谷野
「オイコラ!私の声色で真似すんな!気持ち悪いでしょうが!」
「それにどさくさに紛れて俺の事けなすなよな!…でも俺思ったんだけど。」
一同が勇一に視線を向ける。
「そういえば静那の好みのタイプって知らないよな…。静那にだって好みはあるはずだし…」
「それはもちろん旦那である俺し--「お父さんが大好きだって言ってたからきっとお父さんに似た感じの人が好きなんじゃないかな?」
「じゃあ八薙君が静ちゃんのお父さんにどことなく風貌とかが似ていたから一目ぼれしたって線も考えられなくはないよね。ガタイが良いんでしょ。こいつら4人と違って…」
すこし傷つく勇一。
「そんなの…旦那もいるのに!ありえんッ!」
「あのね!人を好きになるのに理由とか無いの。勇一も一応知っといた方がいいよ。女の子は理屈じゃ動かないってね。
たとえ金持ちでこの人と結婚すれば安泰だって思えても、心までは動かないものなの。だから男から見たら急に気が変わったように見えても、すでに心を動かされていたなんて事はよくあるのよ。
心変わりした時はもう理屈では変えられない…
本当に女性って男から見て意味分かんない時もあるし難しいって思う。同性ながら感じてる…」
「じゃあ、その八薙ってやつにやっぱり…」
「無い…とは言えないよ。静ちゃんも女の子なんだもん。そうならそうで尊重してあげないと…」
「お…お…お…俺は一体明日から何を生きがいにしていけば…」
「お前は自宅のタンスに盗んだパンツ沢山保管してるやろ。あれで涙でも拭いてろ!」
トンデモ発言が飛び出してきたが、あまり耳に入らない。
勇一は実は少しショックだった。
「(そういえば静那は俺の事…心から信頼してくれている感じだった…けど…その、恋愛っていう感情ではなかったんだよな…。あくまで信頼できる先輩ってだけであって)」
バンッと背中を叩かれて我に帰る勇一。
「恋してたの?静ちゃんの事。」
少し顔が赤くなる…しかし現実を受け入れたように俯いた後、勇一は答えた。
「うん……多分…恋…だったのかもな。ただの後輩とは思えないくらいいい子だったし…喜んでる顔を見るだけでこっちも嬉しかったし。逆に自分が癒されてたし…」
とたんに仁科さんが笑い出した。
椎原さんも少し笑いをこらえている。
「もう~何マジで落ち込んでるのよ~!可笑しい~。まだ八薙ってコと付き合ってるかどうかも確定してないのにさ。マジ落ち込んだりして!
ホンット馬鹿!単純!ダメ部長!もう失格!ま~ダメダメだわこりゃ。」
「何バカにしてんだよ!ひどくないか?仁科さん!椎原さんまで!」
「だって静ちゃんどう見てもあんたと関わってる時が一番いい表情してるもん。心から信頼してるって感じするし。
あんたは周りがまだ見えてなさすぎなの!
一人いい男が現れたくらいでなに動揺してるのよ!
あんなに信頼した表情向けられてるのにホントバカ!静ちゃんの事きちんと見てない証拠だわ。だから失格って言ってんのよ。」
「な…ななな…俺の嫁のすぐ近くにこんなダークホースが居たとは。」
「そもそもあんたたちは嫁失格よ。この前の着替え覗こうとした段階でね。」
「俺は見てはいない」
「はいアウト。」
「何でだよ!」
「逆にアウトにならないと思ってるのが不思議よ。あんたはあんたで婦人服売り場とはいえ公衆の中で堂々と静ちゃんのスカートたくし上げようとしておいて!警察が居たら間違いなく捕まってるからね!!」
椎原さんは優しく勇一に言う。
「白都君は静ちゃんに対しては普通に接していればいいと思うよ。静ちゃん、この部活を立ち上げてくれた事本当に感謝してるんだから。」
「そんなもんかな…」
少し表情を持ち直す勇一。
「ま、色々話がふくらんでもうたけど、静那は今日屋上で会った時“八薙君と他校生徒との喧嘩を天摘先輩と一緒に止めに行くから今日は休みますって伝えてほしい”言うてたで。」
少しの間が空いた後、全員が生一の方を向く。
「はぁぁぁぁ!?」
「こんのバカァ!それを先に言えよ!まったく!なんか俺すごい恥ずかしい思いしたじゃんかよ!」
「うるせえよ、お前らが勝手に妄想膨らませて打ち明け話してるんが悪いだけやろ。」
「この野郎!俺の心配とここまでの尺を返せ!」
「やだね!何が屋上マジックだバカ!屋上は寝るトコだよ!」
「んだと!よくも俺の純情な感情を弄びやがって!てめぇ!」
「なにが“純情な感情”だぁ?んなもん三分の一も伝わってねーよ!御大層に屋上までストーカーしやがってよ。」
「生一!じゃあ天摘さんと静ちゃんが八薙君って子を助けに行ったの?」
「ああ、あと天摘の道場の人…大人もいるみたいやから大丈夫やと思うで。明日は普通に来るやろ。天摘も。」
「まったく、あんたは何で部室に来た段階でちゃんと言わないのよ!ここまでの時間を返せ!」
「話を大きく脱線させた張本人はあのバカ2人組やろ!
まぁええやん。これも立派なディスカッションって事で。勇一部長様の本心も聞けたんやしええんとちゃう?」
真っ赤になる勇一。
「そうやでお前、言うとくけど嫁はやらんからな。“主人公補正”とか行使させへんぞ!」
「嫁を強奪するようならお前は“SSD”の刑に処す。覚えとけ!」
吐き捨てるように2人は勇一にコメントを浴びせ、今日の所は部室から引き上げていった。マイヒロインの居ない部室に用は無いというところか…
「釈然としないな~。なんか。(何だよ…“SSD”って。あと“主人公補正”っていうワケ分らんのも…)」
納得いかない勇一に向けて仁科さんがまだ意地悪様な顔で言ってくる。
「まぁいいじゃん、一皮むけたんだしサ。白都部長!」
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。
各話完結ですので、お気軽にお楽しみください。
尚、本編のストーリーとB面の話数は所々リンクしています。こちらを読んでから本編を読み進めていくとより楽しめます。
※文章中、誤字がありますが、これは意図的に入れております。
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