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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: SHUSAKU
season1【B面】
93/241

13-1 ゲーセン

【13話/B面】Aパート

一九九五年の初夏、高知――


毎日、代わり映えのしない授業が繰り返される、灰色の学生生活。


人よりも目立たないように、波風を立てず無難に生きていくのだと思っていた。


けれど、あの日出会った彼女が、僕の見ていた世界をどんどん鮮やかに塗り替えていった。


放課後のチャイムは、かつての退屈な終わりの合図ではなく、新しい物語が始まるファンファーレへと変わったのだ。



* * * * *



「静ちゃん、こっち! この台よ、この景品!」


仁科さんの弾んだ声が、電子音の渦巻く店内に響き渡った。


ここは学校の部室ではなく、放課後の熱気が充満した若者たちのたまり場だ。


今日は部活動の見聞を広めるという名目で、静那を連れて街へと繰り出してきたのである。


一九九五年のゲームセンターは、格闘ゲームの重低音やメダルゲームの金属音が、競い合うように鳴り響く騒がしい場所だった。


空気には、古い機械の油の匂いと、誰かが吸っているタバコの煙が薄く混じっている。


仁科さんは、都会で抱いていた「あまり良くない場所」という偏見を、今の静那の楽しそうな表情で上書きしようとしているようだった。


数年後にプリクラが登場し、女子高生で溢れかえる前の、どこか無骨で、けれど活気に満ちた空間。


まず一行が足を止めたのは、入り口付近に並んだ「UFOキャッチャー」と呼ばれるクレーンゲームの台だった。


「よっしゃああああ♪」


ガランという音と共に、出口にぬいぐるみが落ちた瞬間、仁科さんは拳を突き上げた。


「これ面白いですね。ぬいぐるみも、とってもかわいいし」


静那が、透明なアクリルケースの向こう側を、子どものように瞳を輝かせて覗き込む。


その仕草は好奇心に溢れていた。


「おっ、静ちゃん、興味持った?」


仁科さんが景品を手に取り、得意げに静那へ差し出す。


「うん。私、このゲームはコツがいるなって、すぐ分かったよ」


静那は受け取ったぬいぐるみの感触を確かめながら、鋭い観察眼を見せた。


「この掴むところがとにかく弱いですもんね」


彼女はクレーンのアーム部分を指さして、真顔で言った。


「そうだね。意外と正攻法で行ってもダメなところが、奥深いよね~」


椎原さんが横から頷き、彼女もまた初めて見る「攻略法」を模索しているようだった。


「この『タグ』っていうんですか? ここを引っかけたら、意外と持ってくれません?」


「もう、そんなこと言ってたら、もう『1ゲーム』したくなるじゃない」


仁科さんが百円玉を弄びながら、いたずらっぽく笑う。


「鉄は熱いうちに打てって言うけど、どうする? どうする?」


「そうね~まだ一体だけだし、もう一体狙っちゃおうかな」


そこへ、別のエリアで遊んでいた勇一が、三人の盛り上がりを聞きつけてやってきた。


「なんだよ、三人ともすっかりハマってるな」


「うん。勇一、これ面白いよ。正攻法でいっても取れないところが、特に」


静那が振り向き、にっこりと微笑んだ。


「ちょっと面白さの観点がよくわからないけど、楽しんでもらえて良かったよ」


「白都君はどうしてるの?」


椎原さんが、少し奥にある対戦格闘ゲームの筐体を見据えて尋ねる。


「俺は……その、向こうの対戦ゲームで、生一にボコボコにされて……今、たそがれてる」


勇一は少し悔しそうに答えた。


「あいつの言ってた『2D格闘ゲーム』っていうやつね。あんな暴力的なの、何が楽しいんだか」


仁科さんは、激しい操作音が聞こえてくるエリアを、やや冷ややかな目で見つめた。


「仁科さんは、知ってるのか?」


「たしか『ストⅡ』だよね。東京じゃ大会まで開かれてて、すごいブームだったよ。興味なかったけど、嫌でも学校内で情報が流れてくるほど流行ってたから」


「うん。今は『スーパーストリートファイターⅡ』っていうのが人気らしい」


勇一の説明に、仁科さんは都会での記憶を辿るように頷いた。


「そう、それ! 東京ではしょっちゅう大会があったのよ。

大勢の男の人が大画面にすずなりになって……まぁ、目立つもんよ。それで大盛況だから、運営側がデパート内やおもちゃ売り場内で大会を開いてたかな。毎週末」


「高いお金を払って有名なタレントさんを呼んだりしなくても、労せず集客できるイベントだから、味を占めてしまったんだね」


椎原さんが、冷静に社会構造の一部として分析を加える。


「東京の催し物は、どれだけ人を集められるかが一つのステータスだからね~」


「多分、これからもどんどん、この手の新作が作られていくんじゃないかな。

ってか、仁科さん、ゲームセンター否定派だったにしては随分詳しいね」


勇一の突っ込みに、仁科さんは「仕方ないでしょ」と肩をすくめた。


「嫌でも都内の学校内で、情報が飛び交うコンテンツだったからね。

女子高生って『自分だけ知らないこと』っていうのに対しては敏感だからね~

それが例え、興味ないモノだったとしてもさ」


「そんなものなんだ……。だったら都会って、やたらとお金がいるのも分かるかも」


勇一が納得したように呟くと、仁科さんは「でしょ」と力強く同意した。



「きゃあああああ!」


不意に横で、椎原さんの叫び声が響いた。


クレーンゲームのアームが、あと数センチというところで景品を離してしまったのだ。


「静那もそうだけど、椎原さん。なんて声出してるんだよ。もう完全に虜になってるな」


「認めたくないけど、このゲームははまるね」


椎原さんは顔を赤くし、興奮を抑えつつ悔しげに台を見つめた。


「うん。これ、『どうしても取りたい』っていう欲望を、よく引き出してるよね」


静那もアクリル板に顔を近づけて頷く。真剣な表情だ。


「そうね。このままモヤモヤして帰りたくないし……でも、どこかで引き下がらないといけないし……もう、そのあたりの自分との心理戦?」


仁科さんが腕を組み、台の中をじっと見据えた。


「俺、やってみようか?」


勇一がポケットから百円玉を取り出し、投入口へ入れた。


「勇一っ! やるの?」


静那が、期待に満ちた瞳で勇一の手元を注視する。


「上からガシッと掴んでも駄目だよ。ネームタグあるでしょ。あれに引っかけるんだよ」


まだ数分しか遊んでいないはずの静那が、まるで玄人のようなアドバイスを飛ばす。


勇一が慎重にボタンを操作し、アームがゆっくりと降りていく。


ガシッと景品を掴み、ゆっくりと景品を持ち上げ上昇し始めた。


「やった!」


三人が同時に叫んだ瞬間、ボトッとぬいぐるみは元の位置に落ちてしまった。


「腕力ないな~」


静那が、アームの握力のなさを残念そうに嘆く。


「う~ん。そうなんだよね~」


静那は笑いながら残念がる。


狙っていたぬいぐるみが落ちたのは、取り出し口のすぐ縁だった。あと少しの振動で落ちそうな、もどかしい位置である。


「う~ん。今の状態で『震度3』くらいの地震が起きたら、取れそうなんやけどな」


様子を見に来た生一が、後ろで手を組み、不謹慎な冗談を口にした。


「不謹慎なこと言うなよ! 一月に起こった地震の事考えろよ」


勇一が小さい声で突っ込む。ここはあくまで遊びの場だからだ。


「ボスはやらないですか? クレーンゲーム! 思ってたよりもずっと楽しくて……」


静那が、目を輝かせて生一を誘った。


「俺は、それよりもあっちの対戦台の方がええんでな」


生一は顎で格闘ゲームのコーナーを指し、マイペースに答えた。


「あぁ、格ゲーね。まぁ、頑張れば?」


仁科さんは興味なさそうに、視線を台に戻した。


「ということで、静那よ。俺が格ゲーの何たるかを教えてやる。来い!」


「え? あ、はい、ボス!」


「ちょっと! 勝手に静ちゃんを持ち出さないでよ!」


「お前も静那を所持物みたいに言うなよな。

あと、無理に金使わせてゲームやらすつもりはないから。簡単なレクチャーだけや。簡単な!

それに、そこにずっと立ってたら、また悶々としてクレーンゲームにお金投入するだけやろ」


「確かに……」


仁科さんと椎原さんは、同時に納得して思わずハモってしまう。


「あいつなりに、自分の『好き』を知ってもらいたかったんじゃないかな。だから俺も、止める気はなかったし」


勇一が二人の様子をフォローするように言った。


「……まぁ、あのバカ二人の趣味と比べたら、遥かにマシか。つか……あの二人はどこ行ったのよ?」


仁科さんが辺りを見回す。


「それは……ちょっと、秘密……かな」


勇一は視線を逸らした。


「なんか、麻雀のゲーム台で熱心に遊んでたね」


「そうだね、椎原さん。でも、それ以上の詮索はやめてあげてね」


* * * * *


麻雀ゲームのエリアの一角。


一九九三年くらいから爆発的に増えた対戦格闘ゲームの筐体が、そこには並んでいた。


「静那よ、ここが対戦格闘ゲームのエリアや。

台が対になっとるやろ。これで、顔が見えんモノ同士で対戦するねん」


生一は、背を向け合うように配置された筐体を指し示した。


「対戦ですか? ボス」


静那が、画面の中の激しい動きを不思議そうに見つめる。


「せやで。ちなみに、卑怯な攻撃をすることによって、よりリアルな対戦へ発展さすことも可能や」


「リアルですか……それはちょっと……」


「まぁこの画面見てみ。今、キャラ選択画面なんやけど……このキャラの中から一人使いたいのを選んで、それで勝ち抜き戦やっていくねん」


「いっぱいいますね」


「せやで。いっぱいいるけど、みんな違うキャラなんよ。『みんな違っててみんないい』ってやつやな」


「その考え、いいかも! 私、共感できますよ」


静那が、自分の価値観と重なる言葉に顔をほころばせた。


「でも、問題もあんねんなぁ」


生一はあくまで静那にゲームをやらすわけではなく、対戦が行われている様子を見ながらレクチャーを続ける。


「自分の好きなキャラを選んで使って対戦するっていうので、もちろんええんやけどな。ゲームっていうのは、人間が作るもんやろ。

どうしても、『強キャラ』いうんが出来てしまう。ようするに、強いキャラや」


「ふむ」


「このゲーム、対戦の大会があるんやけどな……どうしても強キャラばっかり選ばれる傾向があるねん。

今、向こうが使っとるこのキャラ……まぁ強いんやけど、とにかく固いねん」


生一は、緑色のタンクトップを着た、髪を垂直に立てた軍人キャラを指した。


「固い? 防御面が強固っていうこと?」


静那が、すぐにその意味を察して問い返す。


「なかなか飲み込みが早いな。ここ見てみ」


生一は、画面上部のタイムカウンターを指差した。


「ここがタイムオーバーになったら、試合は強制終了やねん。どんな凶悪なラスボスも、なぜか必ず守る恐るべき鉄則やねんけどな」


「なるほど。防御面が固いキャラだとタイムオーバー狙いもいけるっていうことですね」


「おまえ、ちょっと見込みというか、適性あるかもしれんな」


生一は感心したように頷き、さらに言葉を重ねた。


「まぁ、そういうことで、対戦の時『待ちガ●●』っていうのが流行って嫌がられてたな。勝つためには手段を選ばんくなってきてな」


「へえ……」


静那は、画面の中でほとんど動かずにガードを固める軍人キャラの姿を、じっと観察していた。


生一は最初から静那に操作させるつもりはなかったようで、ある程度対戦の様子を見せた後、席を立った。


「まぁ、俺の趣味もちょっと知ってもらいたかっただけやから、そろそろ戻るか。

次、行く所もあるやろうし」


「あ、良いんですか、ボス?」


「何が?」


ゲーム音がやかましい店内で、静那は生一の腕をそっと持ち、顔を近づけて、耳元で話しかけた。


上目遣いの彼女の吐息が近く、生一は思わず身体を固くした。


「その、……しなくて」


「お前、ドキッとさすなよな! モジモジしながら言いやがって、何か別のこと想像したやろ!」


「え? 私、何かしたっけ?」


「いや、もうええよ。戻るで」


「あの、さっきのゲームの名前は?」


「スーパーストⅡや。なんか、感じたことあったか?」


静那は歩きながら、少し考え込んでから言った。


「さっきの『強キャラ』のことなんですけど。結果として、弱いキャラクターは使われなくなるんですか?」


生一は、ニヤリと不敵に笑った。


「そこが、奥深いところやねんな。

まぁ、この辺は作り手もよう考えてると思うけどな。弱いキャラでも、練習重ねたら上手くなるねん。そのキャラ特有の強みも分かってくる。

それで、弱い言われるキャラで、さっき言った強キャラたちに勝てたら、爽快やんか」


「なるほど。ボスがこのゲーム好きな理由、ちょっと分かったかも。

……っていうことは、ボスは、もちろんこのキャラは使わないんですよね?」


静那の問いに、生一は即答した。


「当たり前や。弱いモンが強いモン倒すからおもろいんやで。どんな世界でもな」


* * * * *


場所は変わり、薄暗い一角にある麻雀ゲームのコーナー。


「おい、ゴリラ野郎」


「なんだ、サル野郎」


小谷野と兼元が、並んで設置された「脱衣麻雀」の筐体の前に座っていた。


「ここに都合よく二台、脱衣麻雀のゲームが連なってるのだが」


「それがどうした。俺はこの子が好みなんだが……」


小谷野はデモ画面のキャラクターを指差し、恵比須顔で言った。


「んなこと聞いてねぇよ! 今から同時にこのゲームを行う。対戦や」


「ほう」


「ルールはいたってシンプル! 『先に乳出させた方が勝ち』っていうのでどうや」


兼元の下心剥き出しの提案に、小谷野は沈黙の後、低く応えた。


「勝ちというと……」


「もちろん対価はある。この後の静那ちゃんの下着のコーディネート権をかける、っていうのでどないや?」


「ふむ。……もしゲームに負けたとしても、爽やかな心でいられる……悪うない」


小谷野が、大きく頷いた。


「決まりだな……では、いざ尋常に……勝負ッ!」


その声と同時に、二人は勢いよく百円玉を投入口へと滑り込ませた。



一九九五年――


高知のゲーセンの片隅で、実にバカげたインナーを賭けたバトルが、今、幕を開けたのである。

『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。各話完結型ですので、お気軽にお楽しみください。


【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は大いに勇気になります。

現時点でも構いませんので、ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。

よろしくお願いします。

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