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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season1【A面】
8/210

4-1 みなごろし

【4話】Aパート

学校に登校する静那…と諭士。


今日は担任の先生を交えての保護者面談。


---そう予定を取り付けたのだ。




学校の門に差し掛かった時、静那の表情が少しこわばる。手が震えた。


その表情を見逃さず背中にポンと手をやり、諭士は話しかける。


「思っていることをきちんと話していいからね。大丈夫だ。今日は僕もいるからね。」


少しだけ静那の表情が柔らかくなる。


対話のスタート地点には立てそうだ。




* * * * *




昨日…一通り静那が落ち着いたあと、真也と諭士は静那から今の学校生活のヒアリングを行った。



度々靴が無くなったのは無くしたからではないことから…体の傷の事を怖がられ、そこから周りからの扱いが酷くなったことなど。


他にも自分が原因でクラスの雰囲気が悪くなってしまった事。


話は夜遅くまで続いたが、2人とも疲れたそぶりも見せずに話が終わるまでずっと聞いていた。



静那は本当は、みんなと会話を交わしたかったのだ。


だから日本語を一生懸命勉強した。


そして学校で色んな人と会話を交わすのを楽しみにしていたのだ。そんな気持ちが根っこの部分から伝わってきて、よけいに2人の気持ちを締め付けた。


皆と話したいのにクラスでは気持ちを押し殺して黙っていた。


1人ぼっちだった。




なんて思いをさせてしまったんだと。


時折、真也が厳しい表情になる。しかし諭士からすぐに注意を受ける。


「真也!そんな表情で聞いてたら静那も話しづらくなるよ。この子は自分が負った恨みを晴らしてほしいとかそんな気持ちで言ってるのではないのは分かるだろう。」


真也は会話の途中で、つい感情的になって自分の世界に入りこんでしまう癖があるようだ。


その部分は逃さずに、話の途中だろうが真也に注意する諭士。



静那は話し終わった後、しきりに謝っていた。


でも謝る事なんて何も無いと真也は笑顔で返す。その雰囲気は少しだけミシェルさんを思い起こさせた。


彼が意識してミシェルさんぽい仕草をしたのかは分からないが。



真也の思いやりや包容力には少し驚きを見せる諭士。


静那に向ける優しい表情にかつての自信のなさや迷いは無いように見えた。




* * * * *




学校では先生との3人で面談に臨む。



学校としての対応は何かあったのかという問いに、担任は口を詰まらせた。


肩口を覆うため黒のTシャツを着てくるように伝えたくらいで、後はクラス内の規律を乱してほしくないからということで「外国人だからと言って、あなただけが特別じゃない。甘えないで。」の一辺倒だったようだ。


静那は諭士達に迷惑が掛からないようにずっと気持ちを押し殺して耐えていたんだろう。



他にも真也の不登校問題が学校からは迷惑がられている要因の一つでもあった。



要約すると…


諭士の運営する児童養護施設出身の子ども達はきちんと学校に来なかったり問題を起こしたりする生徒が多かったので、学校側は問題児集団のレッテルを張っていたようだ。


親の愛をきちんと受けられなかったわけだからある程度の問題は仕方ない。


でも学校側としてはあまりウチに来てほしくない、迷惑な存在として認知していたのが理解できた。





実は既に学校以外の伝手があった諭士は、この学び舎に見切りをつけることにした。


静那だからこそだ。


こんな優しい子がこれ以上傷ついていいワケない。


静那の方が「自分のせいでクラスの雰囲気を悪くしてしまった。」と懺悔していたのだが、この学校の対応や偏見なら対応の仕様がない。



ちなみに諭士の“伝手”というのは近くの介護施設でお手伝いさん達と一緒に働くというもの。


ここなら優しくて話好きなおばちゃんばかりだし、きっと静那も溶け込めるだろうと。



帰り道、諭士を心配そうに見ながら上目遣いで静那が問いかける。


「あの…さ……学校へ行かないのは悪いことじゃ…ないの?」


その問いに優しいまなざしで静那を見つめる諭士。


「真也君だって学校に行ってないだろ。」


「それはそうだけど…」



「学校に行かないのって周りが大騒ぎしているだけで、別に何てことないんだよ。

それに静那…“学校に行かないのが良くないことだ”っていうのは子どもでもちゃんと分かってる。そうだろう。

分かってるのにさらに大人から頭ごなしに“学校へ行かないといけない”なんて咎められたりしたら、もう子どもに逃げ場なんてないよ。

どうしてもつらい時は逃げ場をきちんと作ってあげる事が大人の役目なんじゃないかなと思う。まぁ僕もまだ子どもがいないからこの考えが正しいかどうか分からないけどね。」



「えぇ?諭士さん結婚してなかったの?」


静那が意外そうに問う。



「そうだよ。僕ぐらいの年齢になったら今の日本じゃみんな結婚してるけどね。

でもそれだって別に何てことないんだよ。

日本でもいずれは結婚してもしなくてもどっちでもよい社会になれば良いなと思ってる。いや、なるんじゃないかな。

学校に行くか行かないかに関しても、もっと大らかで自由になればいいんだよ。みんな違っててみんな素敵なんだから。」



最後の言葉に反応したのか、静那の表情が急に明るくなる。



「それ、お父さんも言ってた。“みんな違ってみんな素敵”って…同じこと!」


「そうか、そりゃよかったなぁ。お父さんと考えが一致してて。ははは。」



そこから帰路への足取りは軽かった。


自分が選んだ道が決して世間から許されない事でない…ダメな事じゃない…それが彼女自身の腹に落ちたのだろう。


初めは辞めてしまったことで申し訳なさそうな表情だった静那だが、心のつっかえが取れたような表情に変わった。


初めての日本の学校ではうまくいかなかったけど、新しい環境で…やり直そう…やり直すんだと。




* * * * *




季節行事等で静那達が生活している児童養護施設に時々顔を出してくれていたおばあちゃん達。


彼女たちが在籍している介護施設「草秋」。


この施設で朝からお昼過ぎまでは介護者の給食を作ることになった静那。



午後からは食器を片付けるような作業を中心に掃除を担当。


それが落ち着いたら勉強部屋として施設の机を自由に貸してもらえるということで、待遇はなかなか良い。


介護施設には熊本県内よりも、結婚や家庭の事情でどちらかというと県外出身の方が多く、個性の強いお母さん方が大勢勤めに来ていた。


お母さんと言っても40~50代の熟女という感じだが、会話の絶えない賑やかな職場だ。



料理長の“日野さん”は長野県出身ということで、かなり遠方からの出である。


そんなお母さん達から静那はすぐに受け入れられた。



「お人形さんみたい~!かわいい~」というノリから、料理をやらせてみれば結構丁寧な手つきで関心しきり。


静那でも調子が狂うほどのアイドルみたいな扱い…



職場に通いだしてからすぐ、小学生の女子グループとはまた違った妙なグループが出来た。


給食班ということでそんなに母数が居ないため、2グループほどだが。



1つのお母さんグループは、全年齢万能スキルだということで、静那にお菓子の作り方を教えてくれた。『お菓子作りグループ』である。



もう1つのお母さんグループでは“外国人でも包丁の使い方が上手くなれば仕事にはくいっぱぐれることはない”と、魚の捌き方を伝授してくれた。



静那はこれまで生魚を包丁で捌いたことがなかったので、これには初めは怖がっていたものの、興味を持つようになる。


アジなどの小魚から地道に練習を重ねていく。


キレイに“3枚におろす”作業が出来るようになれば、料理チームでは即戦力だ。


一刻も早くお母さん方の役に立ちたいと思い、静那は包丁の捌き方を優先して練習した。


お母さん方は

「もうこんなに手際よく魚を捌けるようになったの~小学生なのにえらいわね~」

「うちの子の小5の時よりよっぽどしっかりしてるわ~」

「将来はうちの明石の料亭に来なさいな!」…などやたらと褒めてくる。



しかし前回が前回なのでそのギャップからか、まだ静那はお母さん方に対して心を開けていなかった。


もしかしたら急にそっぽを向かれるかもしれない…急に冷たくされるかもしれない…


身体の傷の事はもちろん誰も知らないし…



そんな心配、客観的に見てもする必要がなかったのだが、新天地ということと大人ばかりの環境というのもあり、静那は完全に心を開ききれずにいた。


そんなある日の事、静那は背筋が凍る衝撃的な会話を耳にする。




* * * * *




その日も食器の洗い場で雑務をこなし終えた静那は洗濯物やエプロンを干しにいく為、ベランダへ続く施設内の廊下を通る。


その時である。


障子越しからお母さんたちの会話が聞こえてきた。


タバコをふかしながら迷惑そうな口調だ。料理長を囲んで何やら話をしている。



「アレ…どうするのよ。」


「いつも色々してくれてるけれど…アレ、どうするん?」


けだるい声で話している。



アレ…とは自分の事なのだろうか?尚も聞き耳を集中させる。



「こんなにやってもまだあるし。あかるしもう半殺しにする?」


「そうやねぇ。邪魔になるだけだし。」


“半殺し”という言葉に静那は凍り付いた。あと、仕事はまだ沢山あるらしい。



会話の内容に構わず、一人のお母さんが腰を上げて話を進める。


「せっかくだけど半殺しに…いやもう皆殺しにしとこうか。後々ずくを出さんように手を打っときたいし。今はもうごしたいしね…。」


「じゃあ皆殺しにしよう。あの子…確か“静那さん”かねぇ?ちょっと呼んできてー。」




一気に血の気が引いた感覚になった。


猶予はない。


静那はお母さん方が自分を見つけ出す前に急いで、施設から脱出する事を決断する。



でもどこへ行けばいい?


諭士の施設…


でもあそこに逃げ込めばすぐに見つかる。


施設に逃げ込めば他のみんなも“皆殺し”にされるかもしれない。


静那は走りながら頭の中をフル回転させる。


靴もはかずに靴下だけで施設から町に飛び出し、走り出ていた。


「殺される!」


そんな恐怖が思考を支配していた。


もうどんな形でも逃げ切らないといけない。


でもやっぱり諭士の寮…は皆に迷惑をかけるかもしれないし…



そうだ!真也が仕事で向かっている場所!阿蘇だったか?あそこでかくまってもらおう。


確か「湯浦」とかいう牧場で加工や開墾を手伝っているって聞いてるし…このまえ送ってくれた食材もそこからのお裾分けだった記憶がある。


国道を行こうか…国道なら人通りも多い。いや…逆に警察官に見つかって補導されるかもしれない…捕まったら施設へ戻されてしまう…



それは皆殺し……「死」を意味することになる。



もう山道に入ろう。川の下流から上流づたいの道なら人も殆どいないし…とにかく人の多い道を避けて…ひたすら逃げるしかない!



死にたくない!



捕まったら最後だ。



“みなごろし”にされる!

【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は大いに勇気をくれます!


現時点でも構いませんので、ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです!


頑張って執筆致します。よろしくお願いします!

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