7-2 テスト
【7話/B面】Bパート
「で、何が赤点だったのよ?」
勇一と生一を見下ろす仁科さん。少し後ろに椎原さん。
「現国(現代国語)…あと古典…です。」
「まぁ勇一は国語力ってトコね。三枝先生が勇一を部長に指名したのも分かる気がする。
あと生一は?」
「現国と古典と数学、あと科学…あと英語どっちも…………です。」
「ってことは、はぁあ?社会以外全部赤点じゃん。あんた超バカなの?っていうかさっき静ちゃんの事バカにしてたけど人の事言えるの?
あんた数学は静ちゃんより出来てないよ。多分!」
「うるせえよ。アイツ俺より1コ下なんだから俺の方が優秀に決まってんだろ。」
「どういう理屈よ。じゃあ…」
仁科さんはバックから『数学Ⅰ』の教科書を持ち出して問題を見せた。
「コレ解いてみなさいよ。昨年の夏前の期末テストで出たヤツ!
あ、静ちゃんも解いてみる?コレ。無理なら良いけど~。」
「あ、うん、やってみます。」
「なんで俺が問題解かないといけないわけ?」
「つべこべ言わないでやってみる!静ちゃんよりもバカじゃないって証明したいんなら。」
「ちっ…。」
「舌打ちしない!」
なりゆきで2人数学の問題を解くことになった。
やや難解な方程式の問題である。数式を分解していけば解けるので、その過程を書きながらでないと分からない。
生一は頭を悩ませながら、やがてシャーペンの動きが止まってしまった。
静那はまだ習う前だというのにカリカリシャーペンを進めていく。
それを横目でチラチラみる生一。
「できたよ。まだはっきり分からないけど…数式がこれで、この通り習った因数分解を応用していくと“x=46”になるけどどう?」
「あってる!すごーい。静ちゃんまだ授業前なのに。数学は特進クラス行ってるだけあって凄いね~。100点ってのも納得するわ~…んで、そんな静ちゃんよりも優秀なハズの生一は。何してんの?」
生一の答案を見ると、因数分解の数式は途中で止まっており、答えの欄だけ書かれていた。
「ちゃんと答えに至るまでの数式書いてないじゃない!答えだけ書いてもダメに決まってるでしょ。」
「いや、でもおぼろげながら浮かんできたんだよ。“46”という数字が!
なんかその…シルエット的な感じで。」
「そんなの言い訳になるかぃ!どうせ静ちゃんの回答見てたんでしょ。バレてんだからね。」
「ということは私、今の段階でボスより頭良いってことになりますね!いやぁ~“出藍の誉れ”ってヤツですかねぇ。」
「この野郎。アタマの良しあしで調子に乗ってからに。しかも難しい言葉使いやがって…」
「いえいえボス。私はボスに一目置いておりますよ。偽りないですって。」
「ホンマかよ…」
「(静那の奴、実は生一にバカにされたのを結構根に持ってたりしてな…)」
「白都君はとにかく、赤点が6つもあるヤツの…6教科のうち5教科も赤点があるバカは大人しく勉強するしかないでしょ。
国語だけでも免除になるんなら良かったじゃない。」
「でも勉強…したくない。」
「だったら何でうち(の高校)に入ったのよ。この高校、進学校って知ってたでしょ。勉強したくないなら他のトコ行けばいいのに。」
「んな事言ったって、高知に越してきて学校選ぶ時間無かったんだからさ。…近いから。
でも、こんなに勉強ばっかりなの知らんかったよ。学年上がってしょっぱなからテストとか鬼畜やん。」
「じゃあ静ちゃんにマンツーマンで教えてもらえば?こんな可愛い後輩に教えてもらえるなんて超ラッキーじゃない。」
「何で年下に教わらないかんのだ。
クソ!大体ガッコの勉強が社会で何の役に立つねん。」
「それは私も正直思うけどさ、ここは観念して勉強するしかないよ~。」
「まぁ“今のままではいけない、だからこそこのままではいけない”とは思ってる。
でも大人になって実用性が無いもんにどうしてここまでエネルギー割かなあかんかって、体が拒否反応起こしてるわけよ。
誰しもが学生の時思うやろ!角度計るんとかどこで使うねん。サインコサインタンジェントとか何に使うんか説明できるか?
因数分解したらなんか世界が救えるんか?
高校の数学をどう実生活に活かしていけるか見えてこんねん。
まぁ数学で実用的に使える事言うたら“乙π”って表現方法くらいかな。」
「まずお前の赤点何とかしてから考えろよ。最低限。」
「お前もあるやろ。赤点!」
「俺は現国だけだし。」
「まあここは50歩100歩。がんばろう、バカ共。」
その部分の論争は無駄だという感じでスパッと諭す西山。
「そうですよ、ボス。数学なんてパズルみたいなモンですよ。何なら教えましょうか?」
「テメッ、調子乗るな!」
怪訝な顔をする生一。しかし、
「コラ!静ちゃんにそんな言い方するのは私が許さないからね。
だいたいさっきも言ったけど、赤点取るからこんなことになってんのよ!
砂緒里だってあんたが赤点でなかったら代わりに熊本行けたかもしれないのに…
ま、世間はどうもバカとブスにはえらく冷たいんだからさ~。“世間様”ってやつからバカに該当されないように頑張んないと。
あと数字に弱いと、どうも騙されやすくなるしさ。
勉強しないから、騙されたりするのよ。で、騙されて余裕がなくなる。
余裕がないから、余計に勉強できない。そして勉強しないから、また騙されたり搾取されるっていう負のループに陥ったら抜け出せなくなるよ。
だからって感情に訴えてもどうにもならないでしょ。」
仁科さんの方を向きジッと見つめる生一。
「……何よ?」
「む…今の言葉はなんか少し刺さったかも。」
「なら勉強してなさいよ。静ちゃんがどうしても必要ならば貸してあげるから。ほら静ちゃんはこっち!5月に行くショッピングの予定話しよ。」
部室内は男子と女子(+西山)とで別れる形になった。
正式には赤点組とそうでない組に分かれたという感じだが。
「生一。さっき数学の問題やったんだからこの流れで数学からやろうか。俺も数学ならある程度分かるし。」
「まぁそうやな。数学的な考えが出来ない人がだまされるケース……多いしな…
あいつ…何も言い返せんかった。」
「何か言ったか?」
「いや別に。やるか…」
「何なら僕も見てるよ。あと、生一は最後のこの証明問題に手を付けてないよね。これは勿体ないよ。点数高いんだから、きちんと書ききってみよう。」
「(コイツ…椎原が見てるからいうてめっちゃ優等生ぶりやがって…)」
* * * * *
人間はつい感情で判断してしまう。
でも実際に感情で訴えても、相手との親密度や事前イメージのすり合わせをしていない限り伝わらない事が殆どだ。その場合は人を動かすとまではいかない。
相手に伝え、きちんと賛同を得るには、「この地域の市場は◯円で、コストは◯円、時間帯の客は◯人。」などの数値化した説明や図式が時に必要になってくる。
自分の提案したことがどれくらいの数値を達成しないといけないかなど、分かりやすく表記すれば可能か不可能なのかはおのずと分かる。
結論、高校生の年頃で気づくのはまだ先になるだろうが、数学的な考えを身に着けておくことが社会で生き抜くために…はたまた人生において大事になってくるのだ。
しかし目の前の男は5分も持たず意識を乱してしまう。
「あ~もうどこがパズルみたいなモノやねん!こんなのやってられるかぁ!!」
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。
各話完結ですので、お気軽にお楽しみください。
尚、本編のストーリーとB面の話数は所々リンクしています。こちらを読んでから本編を読み進めていくとより楽しめます。
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