5-1 貧しいってこと
【5話/B面】Aパート
ここは校舎の東側2階。
放課後に入ってしばらくして静那が2階奥の部屋に入ってくる。
「こんにちは。」
ただいつも一番乗りではない。
だいたい先に来ている“ある人間”が隅っこの方でマンガを読んでいる。
静那は漫画を読んでいる人間の元へ行く。
「こんにちは、ボス」
「おう、漫画の邪魔や」
「窓開けますね。雨もやんだので、空気を入れ替えましょう。」
ボスこと生一の許可もなく勝手にガラガラと窓を開ける。
とたんに空気が入り込んできた。
部室の入り口へと風が抜けていく。
静那は椅子に座り、日記のようなものを書きはじめた。
部員メンバーたちが部室に入ってくるまでの間はだいたい日記を書いている。
暫く書いていたら生一が訪ねて来た。
「お前飯食うてる?今日も屋上いたやん。多分昼何も食べてないやろ。」
少し難しそうな顔をして静那が応える。
「そうですねボス。4月は必要経費というやつが結構かかりましてね…持ち合わせが厳しいんですよ。
家に帰ってからの寮長さんのごはんが“生命線”というやつです。」
「朝は?」
「食べてますよ。一応。」
「一応って何よ。」
「ごはんとか味噌汁とかです。日本人っぽいでしょう。あと魚もらった時は調理して夜と朝にいただきます。魚さばく練習にもなります。」
「まぁならええけど、昼抜くん厳しない?
高校生って言ったら成長期やで。
ただもの太ればいいというわけじゃねえけど、女子は宿命的に太らなあかん部位があるねん。社会人になって大人と対等に勝負していくためにも」
「何の勝負ですか?」
「まぁそれはおいおい言う。でも女にはやらんといかん時があるってことよ。コレ日本人でなくても全世界の女共通や。」
「誰かの名言ですかね。」
「俺のカンや。人生17年生きてきた中でな。」
「さすがボスですね。」
「何がさすがなんか分らんけど、昼くらいなんか食えよ。…5月になったら仕送りとかで使えるお金が増えるみたいやけど、それまで耐えられるか?
あんまりお金無いと色々できんやろ。」
「確かに私まだ家と高校までの往復くらいしか出来てないですね。あ、帰りにおばさんに買い物頼まれてスーパー寄ったかな…あ、“スパー”ね。」
「お疲れ様。静ちゃんも買い物とか行くの?」
仁科さんが部室に入ってきた。
「勇一ちょっと遅くなるって。あと椎原さんも。
でさ、今の間に静ちゃん含めた女子の間でもっと親睦を深める為、近々どこか買い物行きたいな~って思ってんの。
今の間に計画たてない?静ちゃん。
行くお店話し合いたいんだけど。ね、どう?静ちゃん。」
「私は…ちょっと厳しいかな。特に今月。」
「何でよ静ちゃん?あれからまだタコ焼き屋も行ってないし、静ちゃんに是非食べてもらいたいスイーツがあるのに…クレープっていうー」
「静那今金ないねん。5月になるまでは何にも買えんらしいぞ。」
「そうなの静ちゃん。それならそう言ってよ。私おごるから」
「えぇぇ、それは悪いですよォ。さすがに。」
「遠慮しなくてもいいのよ。」
「それでもちょっと。」
「ホラ!後輩に対してグイグイ行き過ぎてるから委縮してるやん。」
「うるさいな。私は静ちゃんと遊びに行きたいだけなの!あんた関係ないでしょ。」
「いや、後輩とはいえおごってもらうのはやっぱり気が引けるやろ。」
「そうなの静ちゃん。」
「はい。お父さんからも“おごってもらう事よりも自分が何かしてあげる事を大事にしろ”って言われてて…」
「素敵なお父さんだね。」
「はい。ありがとうございます。それに今本当にお金が無いので、やっぱりG・W過ぎくらいにならないと難しいです。…ちょっと。」
「もう…真面目なの。東京の私の知り合いとは大違いね」
「東京の知り合い?どんな人だったんですか?」
「うん…。その子はね、東京育ちでお金はそこそこあるんだけど、すぐ使っちゃうコでさ。
東京は本当に誘惑っていうか物珍しいものが多いの。
それに次々と魅力的な食べ物や催し物を出してくるから消費したくてたまらなくなるのよ。
利用するには当然お金がかかるでしょ。
結局、コンサートや新商品、魅力的なお店と回っていくうちに高校生の財布はあっという間にカラになるのよね~」
仁科さんは少し寂しそうな顔をする。
自分もそういう世界に住んでいたことを思い出しているのだろうか。
「それでも世の中は東京を中心に面白いモノをどんどん世に送り出していくのよ。
それで好奇心旺盛な10代の学生はそれを体験したり見てみたくなったりして我慢できなくなるわけ。
そこでお金が無いんなら踏みとどまれば良いんだけど…やっぱり時間が経つごとに我慢できなくなるんだよね。
なんかさ、自分が世間から置いてけぼりくらっているような感覚にもなるし……そこから手段を選ばなくなるケースがあるの。」
生一が珍しく突っ込まずに黙って聞いている。
「都会にはお金を使わせる魅力がいっぱいって事ですね。」
「そうなのよね。お金は有限なのにそれを超えてでも使わせようとする社会って何なんだろうね。
つい前の話だけど…振り返ってみれば、私も含め人間の欲望をうまくコントロールされてたように感じる…。
そうならないように自分の感情を自分でコントロールしないといけないんだけどね。
だから私は食べ物みたいな自分の血肉になるもの以外はあまり見ないようにしてる。
以前はブランド物のファッションなんかもすっごい興味あったんだよ。けどね…立ち止まれるようになった…かな。」
「高知に来てからですか?」
「ううん。その知り合いのコ見てて感じたの。
その子それなりにお金あるのにいつも貧乏だ貧乏だって嘆いていた。
私から見れば私より裕福な家庭で育ってんのにさ。
それでもお金を得るために暴走しつつあった様子を見て、“貧しい”ってなんなんだろうなって思った。」
「結局感情を自分でコントロールすることができるかどうか…ですか?」
「そうね。金銭的に貧しくても自分の感情をコントロールできればいいんだと思う。ずっと我慢してたらストレスたまるけど、そこも含めてコントロール…かな。」
「お前にしてはええ話やな。」
「やかましいわ!」
即座に突っ込んだ後も静那への忠告は続く。
「いくらお金あっても貧しいって思ってる人沢山いるからね。気の持ちようよ。…でも静ちゃん本当にお金無いの?」
「はい、あと2500円くらい…」
「マジで!5月まであと半月もあるじゃん。まさかだと思うけどお昼ご飯代は別にあるよね?」
「いえ、お昼ごはんのお金コミです。」
「それじゃ無理よ!2週間を2000円台で乗り切るのはきついって!服とか買えないじゃない。」
「服は…家に2着だけありますよ。」
「ええぇ!女の子にとって洋服ってイノチみたいな物よ。もしかして学校が無い日にそれを着回してるとか…?」
「はい…まぁ。」
「それは駄目よ!静ちゃん。ちょっと洋服の1着くらいは買いに行きましょう!お金は私出すから!」
「あ…あの。」
「下着だって大事よ。ブランドとかじゃなくてもいいから可愛いやつを。」
「あの…あのですね…。」
「今の静ちゃんをより素敵に見せるのはやっぱり…」
ここでハッとする仁科さん。
「あぁ、そうだった、私また先走ってたよね。なんかゴメン…
でもさ静ちゃん。やっぱり5月になったらお洋服一緒に買いに行かない?やっぱり女の子なんだからお洒落は大事よ。
さっきはああいったけど、さすがにお洒落は女性のたしなみ。
やっておくべきよ。」
「はい…そうですね。」
「それにお化粧だってきっと静ちゃんしてないでしよ。元の素材が良いから。」
「化粧も~まだですね。あれ、高くないですか?」
「大丈夫!お化粧道具とCDは女子高生の間では回しながら利用するものって言われてんのよ。」
「じ…じゃあやってみようかな」
「そうよ静ちゃんやってみよう!じゃあ5月になったら行コ。奢りとかじゃなくて対等な関係のお買い物!いい?」
「うんっ」
「よーし、やっと“はい”じゃなくて“うん”って言ってくれた。」
「え?あ。ゴメン…なさい。」
「いやいやそれでいいのよ。私にも勇一に話してるみたいに砕けてしゃべってくれたら嬉しいなって。」
「あ、そう…だね。ありがとう。仁科先輩!」
「何か俺の話した?」
遅れて部長の勇一と椎原さんが入ってきた。
二人で生徒会に活動報告をしに行っていたらしい。
椎原さん“も”連れて行ったことで、活動報告は円滑に進んだようだ。
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。
各話完結ですので、お気軽にお楽しみください。
尚、本編のストーリーとB面の話数は所々リンクしています。こちらを読んでから本編を読み進めていくとより楽しめます。
※文章中、誤字がありますが、これは意図的に入れております。
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