表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
MOVIEⅠ【A面】
64/228

弾圧からの解放 ~とある東洋人の軌跡⑫

Chapter12

一旦状況整理と山賊達の捕縛作業の時間に入る。




城門の前でまとめて捕えられていた村の老人たちの縄は全て解かれた。




そんな城門前広場には殆ど戦闘不能状態の兵士たちが横たわっていた。


各村の若者と老人で手分けして、横たわった兵士全員をお縄にかけていく。


老人たちは行動が遅いので意外と時間を要した。





八薙は一旦下に戻り、ここまでを共にし、アジトまで先導してくれた数少ない若者たちと宮殿内の牢獄を回っていく。


牢屋内ではずっと人質として幽閉されていた女性達を次々と解放していった。


女性達は涙を流しながら開放を喜んだ。






広場で捉えられていた東の村の女性達はどうなったかというと…


彼女達は自分達が助かったと分かると歓喜の声を上げた。


そしてそのまま端で乱暴に吊るしあげられていた同じ村の男性達の縄を解く。


「アブドゥラメン!」「ウルファァァ!」


助かったことを確認し合い、抱き合う人もいた。


こうやって村の仲間たちと抱き合うのも久しぶりなのだろう。


皆で力強いハグをして涙を流した。







広場に居た数十人の衛兵は真也にすっかり怯えてしまい、


大人しく縄についてくれた。


彼らは真也がロープできつく縛っていった。


全員を縛り付けた後、女性陣から拍手が沸き起こった。






ちなみに、仁科さんと葉月はどこへ行ったのか…


八薙は腕が重症ではあるものの歩けたので、「先に村人と一緒に全ての牢屋を解放してくる」と告げて先に現場を離れてしまったというのもあるが、まず瀕死の重傷だった小谷野や兼元、生一の元に一番にかけよった。


仁科さんは、3人の顔の鮮血を奇麗にふき取り、頭などに見られた外傷を冷やすなどして応急処置をしていた。


葉月は折れている鼻や腕の骨の確認をして、簡単な添え木で固定するなどの手当てをした。


ほどなくして意識を取り戻した小谷野。そして生一に向かって声を投げかける。


「あんたたち、まぁ…カッコ良かったよ。初めて尊敬した。…まぁ、バカだけどね。」


「けッ…褒めたってなんもでねえぞ。」


「せっかく褒めてやったのにねぇ。体動かないくせに意地張っても仕方ないでしょ。」


「かわいくねぇな…」


「何よ。せっかく褒めてあげてんのに。」


「てめぇに褒めてくれなくても…いい…」


「まったく…あんた達を心から褒めるの初めてかもしれないのに…」


「それにホラ…そんな素直じゃない事言うから“ああいう構図”になるのよ!」




目の前では真也と八薙が村中の人間から感謝と祝福を受けていた。


真也はまず、老人たちの目の前で200名近くの衛兵達を全て圧倒していった事への称賛。そして広場では幹部の人間を難なく退けた武勇。


八薙は、村人たちを団結させ先導させてここまで導いてくれた事への称賛。その後捉えられていた女性達を全て檻から救い出してくれた事に関して。



真也は主に老人と東の村人達に…。


八薙は監禁されていた女性達に…。


それぞれ褒めたたえられ、英雄のように扱われていたのだ。



「どう?この現実。…でもね。私はあんたたちもよくやったって…思ってるワケ。だから素直に喜びなさいよ。」



「…クソォ…納得いかねぇなぁ…」


「俺達がどんな苦労したか知らねえくせに…」


「美味しいところ持っていきやがってよォ…」



「分かった分かった。よく頑張ったって。もう…ほらほら、そんなに僻まないの!……あ。」


仁科さんと葉月が後ろから近づいてきた“ある女性”の存在に気づき、立ち上がる。


「あたしらの役目はここまでって所かな。あとは思いっきり誰かさんに甘えれば?」


フフッ と笑って2人は村人達の歓喜の輪に加わっていった。




「なんだよ、アイツら急に向こう行きやがって。」


「結局、八薙や真也の方に行ってるじゃねえか…」


「それに引き換え、俺ら未だろくに動けねぇし…イテテ。」



そんなボヤキを後ろで聞いている女性がいた。


その内容が日本語だったからよく分からなかったけど、目の前の3人が生きていてくれてる事が何よりも嬉しかった。


傷ついた村人の応急処置を一旦終えたその女性は、彼らのすぐ後ろまで近づき、そっと呼びかける。


「小谷野さん…兼元さん…生一さん…」



「え!」


「その声は!」


「俺の…嫁!」


3人が振り返ると、そこには涙を流しながら微笑むネイシャさんがいた。


3人を優しく抱き寄せる。


『生きていてくれて…本当に良かった。』


思いっきり抱きしめてくれた。


3人にはそれだけでもう十分だった。


誰からも称賛されなくてもいい…目の前のこの天使に、この気持ち…伝わればいい。


ネイシャさんの温かみを感じながら、3人は感じた。



やっと自分達で掴み取った勝利を噛みしめる事ができた。



『3人とも、もう会えないかと思ってた。死んだんじゃないかって。』


3人を抱きしめたネイシャさんは、途中からそのまま肩を震わせて泣いていた。


そんな彼女を優しく抱きしめ返そう…とする3人だが…



「お前、スペースとりすぎや。」


「お前かてネイシャさんの胸、ロイヤルシート確保しとるやんけ!ズルいぞ。」


「お前は抱きしめられながら匂いクンクン嗅ぐな!気持ちワリィ。」


「うっさいわ。嫁の匂い嗅いでなにがあかんのよ!」


「誰の嫁やてえ?ええからどけや。」


「お前かてその乳が当たるエリア、俺にも分けろ。」


「やだね!ここに顔うずめとったら体力全開するし。」


「全開したんならもう替われやボケェ。」


バカな闘争が始まった…。



ネイシャさんは抱き寄せた3人が何を言っているのか分からなかった。


でも彼らが元気で目の前にいる。


生きていてくれている。


それだけが本当に嬉しかった。


『(修道院に戻ったらつきっきりで看病しますね。)』





* * * * *





正直傷を負ったものもいるが、全員の無事を心から喜び、村は解放された。


お互い軽く握手とハグをして、今日のところは一旦それぞれ各村へと帰っていく。



少し日が傾いてきた時刻…


解散の時間が近づく。




全てを終えて、勇一がため息をつく。


あの時…アジャパに向かって木刀を振り下ろした時だ。


心臓が壊れそうなくらいドキドキしていた。


結果的に無我夢中で彼の手から刃物を奪い取ったのだが、物陰に隠れながらタイミングを伺っていたのだ。


もし近づいているのがバレでもしたらネイシャさんの命が無かったかもしれない。


振り返るとまだドキドキしている。



村人と色々話をしてからこちらに向かってくる仲間がいる。


仁科さんと葉月だ。


彼女らはかなり言葉をしゃべれるようになったので、ここまでのいきさつ等を村の人たちに説明して回っていた。


それもようやく終わったようだ。


「勇一。あんたも勇気あるとこ見せてくれたじゃん。良かったよ。」


仁科さんが褒めてくれた。


あんまり褒められることはないが、素直に嬉しかった。


「地下での生活も大変だったんでしょ。10日くらいだったけどよく耐えたね。」


葉月にもねぎらいの言葉をもらう。


思い出すと辛くなる。


何かを学ぶこともせず“労働と寝るの繰り返し”だけになると人はどんどん無気力になる。


環境に支配されるみたいで、その危うさを知れた。


その“空気”に支配されていく怖さも知れた。


もし自分が日本に居て、社会人になっていたら…形は違えど環境次第では無気力な大人になっていたかもしれない…


「もォ、なに真剣に振り返ってるのよ。終わったんだから切り替えよう。勇一ッ!元部長ッ!」


葉月には自分の心理が読まれてしまっているようだ。


「ごめんごめん。なんかお見通しみたいだな。気分を変えるためにもそろそろ村に戻ろうか…」



周りを見れば、やや遠方の村から順に帰路につきはじめていた。


まだまだ重症の八薙、そして生一達の治療もあるので、今夜はネイシャさんの住む修道院がある下流の村へ行こうという事になったのだ。


各村へ帰っていく面々を見送った後、そろそろ自分達も行こうかという流れになった。




その時。


真也が城門のあたりから何かを背中に担いで戻ってきた。


「みんな!実は素敵なお知らせがあるんだ。」




そうだった!


広場での死闘辺りから夢中だったからすっかり忘れていた。





全員がハッという顔をして真也の方に振り向く。


真也が背中の荷物を前に持ってくる。




そこにはサナギのように包まれた毛布の中に…


彼女が…


あの、彼女が包まれていた。




そして彼女は静かに口を開く。


「先輩方…旦那様…八薙君……みんな、生きていてくれてありがとう。」


その言葉の後、途端に涙が溢れだす仁科さん…そして葉月。


声をあげて泣きながら静那の元に駆け寄る。


そして毛布越しだがしっかりと抱きしめた。


泣きながら何度も顔を頬に摺り寄せた。


声にもならないような鳴き声で何度も話しかける。


「静ちゃん…生きていて…良かった。良かった。ありがとう静ちゃん。生きていてくれて。」


「しーちゃん…皆を命がけて助けてくれて…ありがとう。私、一生忘れないから。生きていてくれて…こちらこそありがとう。しーちゃん……大好き!大好きだから!」




小谷野や兼元も…生一もきっと泣いていた…と思う。


顔を見せてくれなかったから分からなかったけど、小谷野は明らかに肩が震えていた。



八薙も無理はないという感じで目に涙を溜めてこらえていた。感極まった…という感じだ。



そんな中、ただ一人呆然としている人間が居る。


それに気づいた真也が毛布に包まった静那を“その彼”の目の前まで持っていく。




「勇一…」



静那は目の前の勇一に呼びかけてみる。



『…ドクン…』



呼びかけられるまでは、本当に目の前の子が静那だと自覚できなかった。



見た目が…火傷で髪が無かったからとかではない。



静那が生きていたという実感が…本人から直接名前を呼ばれるまで信じられなかったのだ。



『…ドクン …ドクン』


胸の鼓動が速くなる。


「あ…」


目の前に静那がいる。


そんな静那が優しく微笑んでくれた。



「静那…」



「うん。」




今までの…これまでの思い出が急にフラッシュバックされる。


………


墜落寸前のぎりぎりの精神状態だったあの時…


静那が皆を間一髪救ってくれた瞬間…


山賊に捕まって限界近くまで歩かされ続けた事…


自分一人が地下に残った事…


だんだん生きる気力が失われていくように感じた事…


鞭で叩かれそうになった事…そこから思いがけない共闘で反逆ののろしを上げた事…


静那の生存を知って希望が湧いてきた事…


ネイシャさんから聞かされた生一達の死、そこから絶望的な気持ちになった事…


地下奥底で生一達がまだ生きていたのを確認できた事…


4人で協力しながら地上まで上がりきった事…


悪党のボスの持つナイフを無我夢中で叩き落とした事…





……本当に辛かったことが圧倒的に多かった。


どうしようもない現実にどうしていいか分からなかった。


本当は絶望して泣いていたかった。


でも静那の“生きて”が支えだった事…




そんな彼女が無事で、生きて目の前にいる。




『…ドクン …ドクン』




胸の鼓動と共に静那を見る。



辛い思い出が溢れてきて、とめどなく涙が溢れて来た。



「あ……ああ…」



傍から見たらどう映ったんだろう。


静那をじっと見ながら、涙を流し泣き崩れる自分…


恐らく変なカオだったんだろう。


静那はそんな自分のこれまでの辛さを全て受け止めてくれるかのようにじっとこちらを見ていた。



その瞳の奥底を見る。



…さらに涙が溢れて来た。




目の前の彼女に思いっきり泣き顔を晒しながら…


「静……あああああ…うわああああああ…あぁぁ。」




勇一はその場で膝から座るように泣き崩れた。




仁科さんと葉月はその様を見ながら涙ながらに少し笑っていた。


彼女を前にして、これまでの辛かった思い出が込み上げてきて、きっと感情的に堪えられなかったんだろう。そんな優しい眼差しを含んだ笑いだった。




肩を落とし、膝から泣き崩れ座り込んだ勇一の元に兼元が近づいてくる。


そして勇一の肩にやさしく手を置いて、こうつぶやいた。




「どうした?お前…もしかして……バスケがしたいんか?」





すべての雰囲気を台無しにするセリフだった。

『MOVIEⅠ』エピソードはコレにて終了。この後は「season2」の26話へと続いていきます。


【読者の皆様へお願いがあります】

ブックマーク、評価は勇気になります!


現時点でも構いませんので、ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆致します。今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ