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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: SHUSAKU
season1【A面】
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3-1 傷痕

【3話】Aパート

静那しずな』という名前は、この見知らぬ日本という地で暮らしていくために、いわば“日本版の名前”として真也が知恵を絞り、考案したものだった。


シーナはその名前の柔らかな響きをすぐに気に入り、預けられた孤児院の中でも、いつしか自然とその名が周囲に浸透していった。


彼女は現在、武藤諭士の養子という籍を置いているため、今の正式な氏名は『武藤 静那』である。


* * * * *


「シーナと言います。日本の名前は『むとう しずな』です。私はソビエト連邦のベラルーシというところから来ました。皆さん、よろしくお願いします」


緊張でわずかに指先を震わせ、四十名近くいるクラスの教壇に立った静那が自己紹介を終えた瞬間、彼女はクラスメイトたちの温かい拍手の音に包み込まれた。


席が決まり、静那の小学四年生としての日々が始まった。


授業中も、男子生徒たちからは、隠しきれない好奇心を含んだチラチラとした視線が絶えず送られていた。


日本人の教室では、当たり前だが全員の髪が黒一色だ。


その中で、陽の光を透かすようなブロンドの髪を持つ彼女の姿は、明らかに他の生徒たちとは異質な色彩を放っており、子どもたちの目には当然ながら珍しく、そして息を呑むほど美しく映ったのだろう。


昼休みのチャイムが鳴った瞬間、静那の机の周りには男子たちが集まり始めた。


気づけば、教室の中心にいるのは静那だった。


静那の通う小学校は一学年に四つのクラスがあり、それぞれ四十名前後の生徒が在籍している。


他のクラスからも噂を聞きつけたギャラリーたちが、冷たい廊下の窓際へと吸い寄せられるように集まってきた。


人だかりの中には、背の高い高学年の子の姿もいくつか混じっているようだ。


遠い国から来た、まるで人形みたいな女の子。


その噂は、あっという間に学校中へ広がっていった。


静那は次々と浴びせられる絶え間ない質問攻めに遭い、少しだけ疲れたような陰りを見せていたが、これからの学校生活に対しては確かな手応えを感じていた。


「なんとかうまくやっていけそうかも……

でも、真也も隣で一緒に登校できたらいいな……」


ふとした静寂の瞬間に、頭の片隅をよぎるのは、時折見せるあの刺すような怖い表情をした真也の姿だった。


静那自身も、亡き父親のことなど、自分自身の心の中でどうしても折り合いをつけられずにいる複雑な部分は多々あった。


けれどそれ以上に、病室の白いシーツの中で過ごしていた頃から時折見せる、真也のあの極限まで追い詰められたような苦しげな表情が、彼女は気になって仕方がなかったのだ。


「真也……今、どうしているんだろう……」


お昼休みの中盤になっても、相変わらず大勢の生徒たちが静那の机の周りにひしめき合っていた。


男子生徒に囲まれ、賑やかな喧騒の中にいた静那だったが、真也のことが頭から離れず、ふとどこか遠くを見つめるような浮かない表情を見せてしまう。


だが、彼女が無意識のうちに漏らした“その表情”が、冷ややかな視線を送る周りの女子生徒たちの反感を買う、音のしない導火線となっていたことに、静那はまだ気づく由もなかった。


静那は、たどたどしく不慣れな日本語ではあるものの、相手の言葉を一言一句聞き漏らさないよう、一生懸命に返答をしようと努めていた。


その健気でひたむきな姿は、周囲の多くの生徒に非常に良い好感を与えていた。


「がんばって相手の話を最後まで聞き取り、しっかり言葉を返す!」


彼女はそれを、新しい生活の中での確かな指針として常に心がけていた。


だが、その必死さを「あざとい」と受け取る生徒もいた。


* * * * *


一日目、二日目と表面上は何の滞りもなく穏やかな学校生活を送っていたが、一週間ほどが経過した頃、静かな日常に微かな異変が起こる。


朝の登校時、ひんやりとした空気の漂う靴箱の前で、男子と女子との激しい口論が起こっていた。


とある女子生徒が男子に対して、苛立ちをぶつけるように何やら執拗にちょっかいをかけているようだ。


初めは周囲に憚るような低いトーンだったが、次第に議論は熱を帯び、エキサイトしていく。


静那が靴箱の方へ、彼らが火花を散らして言い合っている現場に足音を忍ばせて近づくと、口論していた二人は静那の気配に気づき、どこか気まずそうに視線を逸らして、それぞれ別々の方向へ逃げるように去っていった。


(今の、何だったんだろう……)


少しだけ胸にざわつきを感じたものの、静那は始業時間までに教室に入り、朝のホームルームを迎えた。


教室を見渡すと、なんだか男子と女子の間で目に見えない壁があるような、気まずい空気が漂っている。


その違和感の理由は、すぐに分かった。


しかも、最悪の形で。


静那の元へ、あれほど集まっていた男子たちがぴたりと全く声をかけてこなくなったのだ。


お昼休みに入ると同時に机が囲まれていた昨日までとは一変し、急に色のない景色へと変わっていた。


初めは戸惑いの表情を隠せなかった静那だったが、「自分の本業は勉強であり、日本語を深く学ぶことだ」と、言い聞かせるように無理に気持ちを切り替えて午後の授業に臨んだ。


だが、明らかに男子生徒と女子生徒の間で、自分を原因とした「何か」が起き、動いているという違和感だけは、どうしても拭い去ることができなかった。


女子生徒の中にも、何人か変わらずに接してくれる仲の良い子はいた。


だが、教室の向こう側の角で固まって、何やらこちらの方をチラチラと盗み見ながら、耳打ちをしている女子グループがいる。


何を毒づいているのか気になったが、話しかけてきた別のクラスメイトに「気にしなくてもいいよ」と、肩を叩いてなだめられたため、静那はそれ以上追求せずそのままにしていた。


しかし、彼女が周囲を「気にしていない態度」を貫いたことが、逆に女子グループのプライドを逆撫でし、癪に障ったのかもしれない。


余計にグループ内だけで、隠す気もないようなヒソヒソ話をしている時間が、じわじわと増えてきた。


「なんだか嫌だな……。向こうを見たら露骨に目を逸らされるし……こういうの、誰に相談したらいいんだろう」


「グループの女の子には勇気を出して話しかけても、まともな返事を返してくれないし……」


孤独な呟きを漏らしても、真也は相変わらず学校には姿を見せない。


朝早くに、誰にも告げず姿を消し、真夜中にひっそりと家に戻ってきているようだが、その時刻の静那はすでに深い眠りについている。


* * * * *


やがて学校生活の暦は進み、一ヶ月が経とうとする頃、取り返しのつかない決定的な事件が起こった。


それは、体育の授業の着替えの時のことである。


四年生ともなると、女子は男子とは別の閉ざされた教室で着替えをするのだが、その際、静那を疎ましく思っていた女子生徒が彼女に背後から忍び寄り、唐突に大きな声を上げた。


「えっ!? この子、お化けみたいな傷がある! うわぁ、気持ち悪ーい!」


静まり返った室内を切り裂く、叫びに近いその罵声に、着替えの最中だったクラスの女子たちが一斉に、剥き出しの好奇心を静那へと向けた。


小学生女子の下着は基本、清潔な白のタンクトップのようなシャツだが、静那の肩口の隙間からは、明らかにハリウッドの特殊メイクでも施したかのような、赤黒く生々しく抉られた切り傷が露出していた。


「怖い!」


一人がそう叫ぶと、伝染するように女子たちが怖がって口々に声を上げ始める。


ただならぬ騒ぎを聞きつけた担任の先生が、血相を変えて教室に駆け込んできた。


「どうしたのよ、みんな。もうすぐ体育の授業が始まるのに何をしているの!」


先生の叱責に被せるように間髪を入れず、一人の女子生徒が指を差して答える。


「先生。静那さんの背中のところに、大きな傷があるんです。怖い!」


「そうです。怖いよー!」


「お化けみたい!」


その場の空気に呑まれるように、周りの女子たちも一斉に非難の声を上げた。


先生は荒い息を吐く皆をなんとか落ち着かせ、やや怒り気味の強い口調で、強制的に全員を着替えさせてから体育館へと誘導させた。


気まずい空気の中で授業を受けた後、静那は先生に連れられ、消毒液の匂いが漂う保健室へと向かった。


「この傷は、どうしたの? 静那さん」


「……自分の国で戦争があって……その時に受けました」


静那は、絞り出すような力ない声で言葉を発した。


「傷のことはね、まだみんな知らなかったから、不意に見てびっくりしたのよ。大丈夫だから、気にしなくてもいいのよ」


先生はそう言いながらも、静那の目を見ようとはしなかった。


「でも明日からは、肩口までしっかり覆うような形の下着を着てきなさい。色は……透けない黒がいいわね。親御さんに頼めるかしら?」


「はい……。あの、傷があるのは良くないことなのでしょうか……

私、怖いですか?」


静那の震える問いに、先生は一瞬言葉を詰まらせた。


「そうね。初めて見たら怖いと思ってしまう人もいるかもしれない。……初めは仕方のないことよ」


「でもこれからが大事。心配することなんかないから。まあ、どこか大きな怪我をしたんじゃないかって……先生だって初めはびっくりしたけれど」


どこか事務的な言葉で少しだけ気分を落ち着かせられた静那を、先生はそのまま教室へと戻した。


しかし、静那が教室に入った瞬間、騒がしかった教室が静まり返った。


そして、誰も静那に焦点を合わせようとはしなかった。


あんなに話しかけてきた男子も……


時々優しく話しかけてくれていた女子ですら、もはや、まともに静那と視線を交わそうとはしてくれなかった。

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