25-2 日本人
【25話】 Bパート ※ここまでで2クール終了
ロープで入念すぎるくらい入念に10名の牢番達を縛りつける。
その男達…監視員だろうが山賊だろうがもはやどうでもいい。
こっちはきちんと労働をしていたのに村の女性を死刑にするなどという暴挙に出た為、皆の堪忍袋の緒が切れたのだ。
勇一はそんな村人たちのロープで縛りあげる様子を見ながら呆然としていた。
まだ心臓がドキドキしている。
あの時、自分はとっさにタックルをして相手を倒し、武器を奪った。
これまでは確かに酷いことをされてきた。…だからといって相手を痛めつけるような暴行を行うつもりは無かった。
でも無我夢中で村人と共に共闘し、この難局を乗り切った…
自由になった。
ドキドキが一行に止まらない。
一歩間違えば…ボタンの掛け違いが起こっていたら……この目の前の男達に叩き殺されていたかもしれないのだ。
そう思うと、今の自分の選択に対して震えるものがある。
東の村出身の男がそんな震える勇一に近づき、肩をポンと叩いてきた。
彼の名は“アブドゥラメン”という名前だと知ったのはすぐ後の事だった。
勇一の事を考えてだろう。
アブドゥラメンはすぐに紙を持ってきた。
ボールペンのようなものでそこに簡単にイラストを描く。
この要塞内の簡易マップだ。
この後、騒ぎを聞きつけて他の山賊達がここにやってくるかもしれない。
自分達はひとまずここを出る。
皆もそれぞれの村の人質達が心配だと思うので、ここからは分かれて行動しようというのが彼の提案だった。
アブドゥラメンと彼と出身を同じとするメンバー20名は、死刑広場の近くに陣取り、様子を見るそうだ。
命を懸けて死刑を止めたい。
でもそのアクションを起こすのは今じゃないそうだ。
他の村人達も追手が来ない今のうちにこの場所から離れるということ。
まずは上層部へ行って、牢屋に閉じ込められている同郷の女性達の安否を確認したいところだろう。
長い間続いた不当な搾取と言う名の労働は、これにて解散となった。
勇一も今ここに残されている仁科さんと葉月が気がかりだった。
処刑されるなら何としても止めないといけない。
しかし自分一人では何もできない。
結局勇一もアブドゥラメンと一緒に上の階を目指すことになった。
彼らは宮殿内部まで行けば、あとはひとまず潜伏するらしいので、宮殿まで出た後に別れる事にした。
いつもなら上階へと続く道には沢山の牢番が待ち構えているのだが、今日は居ない。
牢番に遭遇したとしても少人数だ。
お構いなしである。
先ほど取り押さえた男達から拝借したムチや木刀を振り回しながら20名+1名はどんどん上の階へ上がっていく。
彼らは鞭の「パチィン」という音を響かせば簡単に震え上がる。
“あんなに偉そうだったのに情けない悪党だな”と勇一はこの時少し可愛く思えた。
彼らが目指す場所はとりあえずは死刑台のある広場だ。
彼らも正式に行ったことのないその場所を確認したうえで一旦離れて対策を練るようだ。
* * * * *
監視員を蹴散らし、あっという間に上層階まで登っていく。
まさに数は力だ。
それにまだ見張りや牢番の数が少ない今のうちだ。
やがて宮殿の内部に入る。
ここからはあくまで慎重に、建物の外壁から広場に向けて近づいていく数名。
2~3人が相手なら対処できるものの、大人数に発見されたらたまったものではない。
その辺は皆十二分に注意をしながら進んでいた。
「!?」
ふと壁の向こうから、一人の女性が逃げだしている姿が見えた。
恐らく東の村出身の女性で、さっきまで縄に繋がれていたのだが自力で解いたのだろう。
必死の形相で逃げる。
しかしその逃げ道の先に信じられないくらいの大きなガタイをした男が待ち構えていた。
頭を革のベルトで巻き付けた異様な風貌だ。一度見たら忘れないだろう。
目の前に現れた怪物に思わず足を止め、恐れ震える女性。
顔が真っ青だ。
追手は後ろからもやってきている。
逃げ場を失った!
それを見た瞬間アブドゥラメンが勇一の方を見た。
『お前は来るな!ここにいろ!ここまでありがとう。』という言葉を浴びせたのだが勇一はよく分からない。
とりあえず「来るな!」ということだろう。
そこは表情で分かった。
外壁に隠れていた勇一を残して、アブドゥラメンとあと同じ村出身の若者であろう面々…20名が一斉にそのデカブツの男めがけて突進していった。
「ウルファー!」
そう叫んで彼らは目の前の追い詰められた少女を助けるために飛び出したのである。
あの“ウルファ”という名前の女性…おそらくアブドゥラメン達と同じ村出身の女性なんだろう。
今なら追手の数も少ない。
このデカブツを片付けて一気に皆で逃げる算段だろう。
勇一は外壁からその様子を見守る。
村の男性達がアブドゥラメンの指示の下、デカブツめがけて次々と飛び掛かる。
20名が波状のような形で彼に向かっていった。
「アブドゥラメン!」ウルファという女性は泣きそうな笑みを浮かべ彼の救出を喜び駆け寄った。
アブドゥラメンは「こっちだ」と彼女を自分達の後ろ側に誘導する。
そして目の前のデカブツに立ち向かっていった。
しかし、現実というのは残酷である。
20人もの村人が束になってかかっても目の前のデカブツはびくともしない。
日ごろからろくなものを口にしていない為、体力不足というのもあるが…まるで相撲の関取に次々とぶつかっていく小学生のようだった。
ハンマーのようなブローを頭部に受けた若者はそのまま動かなくなった。
掴みかかった男性も逆に首根っこを掴まれたかと思うと豪快に叩きつけられた。
まるでチョークスラムのような形だ。
頭から叩きつけられた若者は気絶したようでピクリとも動かなくなった。
その様を見てウルファの表情が引きつる。
そんな現状に青ざめた面々。
次第に彼に対して深入りするのを避け、攻撃がけん制のような消極的なものになっていく。
アブドゥラメンはふと先ほど迫ってきていた追手の方に目をやる。
ところが追手の男達は、ある程度まで近づいた後、彼らの様子を見守っているだけだった。
勇一の目から見ても“絶対にこのデカブツには勝てないだろう”とタカをくくっているように見えた。
アブドゥラメンはこの目の前のデカブツを倒さないと打開する術はないと察知し、手にした木刀と共に突進していった。
他の若者の首を掴み投げ飛ばそうとしたまさにその時、アブドゥラメンの振り下ろした木刀がデカブツの後頭部に思いっきりヒットした。
…
……
しかし砕け散ったのが木刀。
アブドゥラメンは逆に首根っこを掴まれる。
「(危ない!)」
勇一が思ったその瞬間、そのデカブツは片手でアブドゥラメンを軽々と持ち上げ、頭からたたきつけた。
ものすごい急角度で叩きつけられたアブドゥラメンは、その後二度と起き上がることは無かった。
……まだ彼らのうち半数しかやられていない。
しかし余りにも力に差があり過ぎる現実を受け止めた残された10名は、体が震え始めた。足がすくんでいる。
勇一も遠目で見てて感じる。
相手が悪すぎると…
恐らくこのアジトの側近クラスだろう。
その側近クラスであろうデカブツは、周りの震える若者には見向きもせず、逃げ出した女性ウルファに向かってゆっくり歩を進める。
勇一は心から思っていた。
「(誰か…誰でもいいから助けてあげてくれ…お願いだ!どうしようもないくらいの力の差…だれか彼女を助けてあげてくれよ!)」
祈るような気持ちだ。
デカブツはニヤニヤしながらウルファという女性と距離を縮める。
ウルファは恐怖で真っ青になっている。
足がすくんで動けない。
そんな恐怖で引きつった顔が見たかったとばかりにウルファの襟を掴み持ち上げる。
『やめろ!ウルファを離せ!』と言っているのだろう。
周りの若者が必死で叫ぶ。
しかし、叫ぶことしかできない…
そのデカブツが叫んだ村人達に視線をやる。
途端にその村人は震え上がった。
…
「?」
その中でも必死で彼の片足を掴むものがいた。
完全にノックアウトしたと思っていたアブドゥラメンである。
地面を這いずりながら声を絞り出す。
『ウルファ…を……離…せ…』
しゃべるのもやっとだ。
160kgほどあるそのデカブツは、そんな地を這いながらも必死で片足にしがみつく彼の顔面を潰した。
“グシャッ”という音がした。
彼の鼻から水のような鼻血が出てきてそこで彼は完全に動かなくなった。
『アブドゥラメン!』
泣きながら叫ぶウルファ。
『処刑されるまでは大人しくしてろ。まだ先なんだからよォ。』そんな事を話してそのまま処刑台の方へ消えていった。
それを呆然と見守る村人たち。
その周りで横たわる…同じく村人たち。
心身共に完膚なきまでに叩き潰された感じだ。
追手である山賊達も、『(これで反抗しようなんてとても思わないだろう…)』という感じで村人たちを捕えにかかった。
まだ体力のある若者たちも初めの方は抵抗したが、次第に無力感の下縄に繋がれる結果になったのだ。
この後彼らはどこに連れていかれるのだろうか。
死刑の時に一緒に殺されるのか…
勇一は一部始終を見て、絶望感を抱いた。
自分一人ではどうしようもならない現実、力を目の当たりにしてしまったから…。
他にも確か地下牢で見た“蹴りの凄まじい男”が居た…
こんな化け物達を相手にどう立ち回ればいいのか。
考えを巡らせるほどどうすればよいかの道筋が見えてこない。
せっかく宮殿内部まで上がってきたのに何も出来ない自分が悔しくてたまらない。
でも時間は待ってくれない。
一人になってしまったけれど、自分には今やることがある。
「今は今しかない、次に同じような状況になってもそれは今じゃない。」
確かよく生一が言っていた言葉だ。
先ほどの残酷な光景から必死に自分を奮い立たせ、連行された彼らの後を気付かれないようにこっそりついていく。
向かった先は話に聞いていた処刑台だった。
本当にコソコソ隠れてばかりだが、勇一はまた建物の陰から広場の様子を伺う。
連れていかれたアブドゥラメン達20名は、隅っこの方で縛りつけられていた。彼らのその顔に精気は無かった。
そこから処刑台手前の方に視線を向ける。
…
いた!!
割と近くに仁科さんと葉月がいた。
2人とも手かせをつけられ自由が利かないようだ。しかも涙を流している。
このまま2人もここで処刑されてしまうのか…
いや!
絶対になんとかしたい。
ただ、今は手立てがない。
とりあえず、冷静に見てここに居続けるのはまずい。
今は隠れられても兵士たちが集まってきたらいずれ見つかる。
勇一は一旦広場の場所を確認した後、この場を離れる事にした。
周りに注意を払いながら外壁をソロソロ歩きつつ処刑台広場を後にする。
改めて自分一人になってしまったと痛感する。
でも…
そんな時だ。
外壁の上…2階の窓から何やら女性のすすり泣く声が聴こえる。
悲しみに暮れた声だ。
今まさに誰かに虐待を受けて泣いている声ではなさそうだ。
勇一は近くにあった木をつたい、2階の壁際に捕まる。
そして建物の中を覗いてみる。
周りに気づかれないようあくまで慎重に…
部屋の中を見る。
そこでは赤毛で美しい女性が…泣いていた。
何か残酷な知らせでも聞いたかのような感じだ。
女性の周りを見渡す。
…
……どうやら誰も居ない。今はこの女性だけのようだ。
勇一はもう一度周辺を確認した後、2階の窓に飛び移った。
「あの…すいません。」
…伝わるわけないか…
『エクスキューズミー?』
思わず英語で話しかけてしまった。伝わるわけないのに…
すると泣いていた女性はこちらに気づいた。
反応したのだ。
『フアーユ?』
「!(コレは英語だ。まさか、英語が…伝わるのか…)」
勇一は仮説を立ててみた。
そして英語で話しかけてみる。
『どうしたのですか?何で泣いているんですか?』
『え…?あなたは?誰?』
返答が帰ってきた。
この女性、英語がいけるみたいだ。
『手短に言います。私は勇一と言います。日本から来ました。』
『ええっ。日本人?では兼元さんや小谷野さん、生一さんの知り合いですか?』
「!!」
予期せぬ返答だ!
この美人なお姉さん、なんと3人を知っている!?
周りには今のところ誰も居ない。
話も通じる。
勇一は情報を得られるチャンスとばかりに聞き返す。
『もちろん知っています!彼らは今どこにいますか?私に教えてください。私は助けたいです。』
英語は話せるが、実践が乏しく難しい表現が出来ない勇一。
でも話が通じるのだ。
精いっぱい気持ちを伝えた。
しかしその質問に対し、またすぐ涙目になった目の前の女性。
『……うぅ……彼らは……殺されました…』
「なっ!」
驚きの表情を隠せない。信じられない。
『先ほど幹部の方に直接言われました。その幹部に挑んでいって返り討ちにあったと。
気を失った彼らを…向こうに見えているあの陸橋の下に突き落としたと。』
勇一は先ほど無残に敗れたアブドゥラメン達の姿を思い出した。
「(…アイツだ!あのデカブツに違いない。あいつに…生一達も……。ちくしょう!…ちくしょう!!)」
悔しさで唇が震える。
『私を助けようとしたばかりに…』
どうやら目の前のお姉さんを助けようとして生一達3人はこの宮殿に乗り込んだようだ。
無事この内部まで入り込めたものの…アブドゥラメンと同じように玉砕をした…ということだ。
勇一はどうにもならない現状から目を背けるように空を見た。
「八薙…それに真也も…一体何してんだよ。
こんな化け物みたいな奴がいる宮殿内で、どうやって仁科さんや葉月、そして処刑されそうな村の女性達を救い出せばいいんだよォ!
俺に…何が出来るんだ!教えてくれよ。こんな自分にもできる事!!
生一や……兼元…小谷野も居なくなっちまった…俺は…今、何が出来る?こんなイチ日本人の自分に…何が出来る?」
処刑の時刻は刻々と近づいている。
反逆者たちの勇気により状況は打開されたかに見えた。しかしそれ以上の力によって結局は蹂躙されてしまうのか…
* * * * *
「静那!北の村が見えてきたぞ。着いたらまずはお水をいただこうな。」
ママチャリのような自転車に乗って、アジトから北側に位置する村へ、真也と静那が到着するのは、まだ少しだけ先の話である。
* * * * *
『八薙さん!見えてきました。急ぎましょう。』
アジトから西側に点在する村々の仲間を引き連れ、八薙が先陣を切り処刑広場に乗り込まんとするのは、まだ先の話である。
ここまでで2クール(全25話)終了となります。この後のエピソードは『MOVIEⅠ』へと続きます
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