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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: SHUSAKU
season1【A面】
53/239

24-3 敢行

【24話】 Cパート

ついに三人は、宮殿の内部へと足を踏み入れた。


石造りの重厚な扉を押し開けると、そこには眩いばかりの光が差し込んでいた。


太陽だ!


生死を彷徨ったあの日から、九日以上の月日が流れていた。久しぶりに浴びる太陽の光は、目に沁みるほど明るい。


建物の造りも、地下の陰惨な牢獄とは一線を画す、豪華なアラブ様式の宮殿そのものだ。


一気に本丸、敵の中枢へと潜入したという確かな実感があった。


向こう側を望むと、空に黒い煙が立ち込めている。


「あれをやったのは俺だぜ」と言わんばかりの誇らしげな顔を、生一は浮かべる。


今、多くの兵隊たちは武器庫の消火活動と事後処理に追われているはずだ。


宮殿内の見張りが手薄になっている、またとない好機!


三人は心地よい緊張感を保ちながら、冷静に宮殿内を進んでいった。


ここで最も頼りになるのは……兼元の嗅覚だ!


これまでの人生で、数えきれないほどの女子のパンツの匂いを嗅ぎ分けてきたという(?)彼のあの特殊すぎる嗅覚。


それが、こんな極限状態の戦場で唯一無二の武器として発揮されることになるとは、皮肉と言わざるを得ない。


「頼んだで! リーダー! 嗅界きゅうかいのプリンス!」


「お前の嗅覚! 信じてるわ!」


風に乗って流れてくる煙や火薬の臭いが邪魔をしたが、兼元は精神を研ぎ澄ませ、ネイシャさんが連行される際に残した微かな匂いを必死に手繰り寄せていく。


庭園の陰に身を隠しながら、慎重に周囲を探索した。


「ネイシャさん……ネイシャさん……ネイシャさん……」


はやる気持ちは理解できる。山賊の多くが出払っている今が絶好の機会だ。


もしかしたら、あの忌々しいハイキック野郎や、あのデブも、消火のために武器庫の方へ向かっているかもしれない。


そう期待すればするほど、心臓の鼓動は激しく速まっていった。


「!?」


ふと、兼元が向こう側にそびえる巨大な宮殿を見つめた。


「あっちや。俺の人生をかけて言う! ネイシャさんの匂いが続いてる!」


もし判断を誤れば、たちまち包囲されてハチの巣にされる危険性もある。


しかし、もう迷っている時間は残されていなかった。奥に見える、あの一際大きな宮殿。


生一たちは覚悟を決め、その奥へと向かって駆け抜けた。


今の自分たちなら、相手が刀を持っていようが関係ない……勝てる。


三人が力を合わせれば、山賊たちが束になってかかってきても、容易く蹴散らせるはずだ。


「この先いうたら一番奥の宮殿になるねんけどネイシャさんの匂いは!?」


「あぁ……感じてるで。あそこに居てる! ネイシャさん!」


兼元の表情が、かつてないほど鋭く引き締まる。


奥へと続く道は、宮殿と宮殿を繋ぐ巨大な陸橋になっていた。


かなり高い位置まで登ってきたようで、欄干の先は底が見えないほどの深みになっている。宮殿エリアに入ってからは、緩やかな上り坂をずっと進んでいたことに気づく。


陸橋の真下は、どうやら地下深くのゴミ溜まり場へと通じているようで、暗黒が広がっている。


(ここで足を踏み外して振り落とされたら、一貫の終わりだな……)


生一が陸橋から眼下の景色をチラリと一瞥したが、小谷野と兼元が見つめていたのは、そこではなかった。

陸橋の向かい側。そこには、忘れもしないあの巨躯が、悠然と待ち構えていた。


vaderファーダーの姿だ。


頭に不気味な革のベルトを巻き付けた、あの怪物で間違いなかった。


二人の顔つきが、瞬時に殺気立つ。


怪物の方はというと、お前はあの時の…という軽蔑を込めた表情を浮かべ、ニヤニヤと下品に笑っていた。


あの恐怖に怯え、小便を漏らして震えていた小谷野の姿を思い出したのだろう。


「…まぁ想定はしていたけどよ……上等だ」


「あぁ…正直言って怖えよ。でも3人でかかれば…」


「せや。気持ちで押されんな。あとリングアウト勝ちは狙うな! ハナッから捨てろ!」


「せやな…向こうはそれくらいしか俺らに勝つ算段無いと思うてるやろうし」


自分たちは険しい表情でファーダーを睨みつける。



しかし、状況は一瞬でさらに最悪なものへと一変した。


そこへさらに二人の男が現れたのである。



『なんじゃ? あの東洋人とかいうネズミが侵入してきたのか? わざわざそちらから』


姿が見えたのは少し小太りの男性……そしてその隣には、生一が命名したあのハイキック野郎!


途端に生一の顔に汗が垂れる。


「クソっ。あのデカブツに3人でかかれば何とかってイメージはあったのによ……

よりによってハイキック野郎も同時に相手しねぇとダメなのかよ。

……話が違うぜ……こんな怪物2人……」


パッと見、小太りで髭を生やした男性はどうとでもなりそうだった。


しかしハイキック野郎は身長も一九〇センチ程あり、筋骨隆々である。体つきがまるで違う。


生一はそのハイキック野郎を睨みつけ、今知っている現地の言葉を、喉が裂けんばかりに投げつけた。


『ネイシャさんは、どこにいる?!』


どこにいますか、という言葉を覚えた。その言葉を怒鳴りつけた格好になる。


ハイキック野郎は声に反応し、生一を見る。


そしておまえはあの時の、という感じで少しニヤつき、指をチョンチョンと上に向けた。


この上の階にネイシャさんが捉えられているという意味だ。


そこは兼元も小谷野も瞬時に理解した。


小声で二人に素早く言う。


「今の分かったよなぁ……このラスボス倒したら正真正銘のお姫様との再会…エンディングや! 悔いを残すなよ」


「…………」


黙り込む二人。


理解はしている。


この先はエンディングだと。


ただ、その前に立ちふさがる敵があまりにも強大なのだ。


しかも同時に二体である。


状況は以前より悪く、具体的な打開策がまるで見当たらない。


言葉が出てこない二人に対し、生一は日本語で、驚きの提案をする。


「俺があのハイキック野郎の相手をする。

お前らはあのデカブツを何とか頼む。倒したらすぐに俺とあいつの事は無視してネイシャさんの所にかけこむんや!」


「生一! お前死ぬ気か!」


「どのみち相手は待ってくれん。お前らはアイツが心底憎いやろ! 今もニヤニヤしてるし……意地見せてみろ!キャプテン!リーダー!」


「生一……」


「何やねん。もう俺がやられる気でおるんか? 八薙の分のカリを返さんといかんやろ! 人の心配すな!」


「…もう何も言わんぞ! ええんか?」


「あぁええ。お前らはアイツにカリまとめて返してこい! 行くぞ!!」


険しい形相で、まずは生一が一歩前に出た。


そしてハイキック野郎に対し、親指で自分の胸をトントンさせながら、もう一つ覚えた言葉を発する。


それは――


『来いよ、雑魚』


雑魚から雑魚と呼ばれ、ハイキック野郎の顔つきが変わる。


そして前に出てきた。


その眼中に兼元や小谷野はいない。


こいつは俺が叩く、という感じだ。


それを見て、二人は生一の傍を通り抜ける。


そして少し奥の方にいた因縁のデカブツの前に立ち、陣取る。


こっちは二対一だ!


生一の考えている戦法はこうだった。


まず自分ではハイキック野郎には勝てない。それはハナッから分かっている。


あの八薙に放ったえげつない左ハイキックの映像が頭から離れない。早すぎて見えなかった……それをきちんと自覚したうえでの分析だ。


だから、せめてコイツ相手に時間を稼ぐ。


間合いをとってけん制だけに留めておく。


ハイキックが入れば即アウトなので、頭らへんのガードは固めておく。絶対に下げない。


その流れで、小谷野と兼元の奮闘に賭けるしかない。


ネイシャさんの運命がかかっているのだ。死ぬ気で立ち向かうだろう。


生一の狙いはそこだった。


もし、あいつらがファーダーを怯ませることができたら……そのままネイシャさんの元まで駆け込んでもらって彼女を奪取。そのまま窓からでも脱出してもらう。


今ならまだ武器庫周辺の消火活動で兵隊達も殆ど戻ってきていない。


武器庫と反対の方向からなら逃げることができる。


そしてその逃げる時間を自分が命をかけて稼ぐ。こいつの足でも何でもしがみついてでもだ。


視線をキッとハイキック野郎に向ける。


この先のビジョンは決まった。


自分はガードを頭から下げないように十二分に注意しながら、ジャブなどけん制を入れるフリをする。


あくまでフリだ。時間稼ぎのための。



だが相手は幾多の修羅場を潜り抜けてきた格闘か用心棒のプロである。


向こうが二対一になった段階で、あの二人の方に賭けているという生一の意図にすぐに気づき、一気に間合いを詰めてきた。


とたんに生一もバックステップで間合いを離す。


彼のあの間合い……左ハイが飛んでくる間合いを極端に嫌った。


その動きで完全にバレたようだ。


それに左足の方をチラチラ見ている。


明らかに左ハイキックを警戒している。


それくらいはお見通しだった。


距離を詰めるというよりずんずん歩いてきた。生一はたまらず距離を離す。


しかしハイキック野郎は距離を離してくれない。


一回攻撃をガードしつつ逆サイドに回ろうと閃いた自分は、相手の攻撃を受ける覚悟を決める。


二人の距離がいよいよ近くなった時――


(来たっ)

左ハイ!



生一はとっさにコメカミあたりまでガードの腕を上げた。


来るのが分かっていたからとっさには対応できたと思う、素人ながら。


しかし相手はそんな生一の心理は全てお見通しだった。


次の瞬間、ハイキックのような軌道で足を上にしならせた後、強烈なミドルキックが自分の胸元に食い込んだ。


『ハイキックを恐れているの、見え見えなんだよ!』といわんばかりだ。


頭部以外はガードしていなかったので、蹴りをモロに受けて崩れそうになる。


しかし、次が来る。


敵は休ませてくれない。


先ほどのミドルが体に食い込んだ時、一瞬呼吸ができなくなった。それと同時に頭が少し混乱したのだ。


混乱の中、自分の本能に言い聞かせる。


「左ハイキックを食らえば終わる。絶対にガードを下げるな! ガードを下げたらアレが来る……ガードを下げるな!」


頭の中はそればかりだった。フラッとするものの意地でも頭部の守りは崩さない。


頭を抑えて前を向く。


その向いた瞬間――


強烈な痛みが顔面を襲った。


蹴り……ではない。膝だ!


顎を突き上げるような軌道の膝…ニーリフトが生一の顔面に思いっきり入った。


鼻の下……人体急所の一つにモロに膝を撃ち込まれ、生一はその衝撃で吹き飛び、頭から落ちていった。


ミドルキックから膝突き上げのコンビネーション。


まともに入ってしまった。


完全にノックアウトだ。



膝蹴りを受けた時、生一の見える世界はスローモーションで写っていた。一瞬だが応戦している兼元と小谷野の姿が映る。


しかしその光景は、既にあのデカブツに蹂躙されていて……虫の息の姿だった。


* * * * *


『結局、暇つぶしにもならなかったな』


『東洋人か……所詮こんなもんだろう。口ほどにもない』


『どうするよ、こいつらのトドメはよぉ』


ハイキック野郎は、完全に気を失った生一を見下ろしながら、退屈そうに呟いた。


『まぁ、こいつらも逃げずに、よくここまで来たわけなんだし……頑張ったんじゃないですか? ご褒美に3人で仲良く死なしてやっても良いんでないです?』


『まぁ、あれだけ無様にやられたのに、また向かってきたのは意外だったなぁ。

死ぬ思いまでしたのによォ……こいつらが来た時、まさかあの東洋人だとは一瞬思わなかったからなぁ……そこだけは褒めてやるよ。へへへ……』


小谷野の顔を無慈悲に半分踏みつけながら、ファーダーが嘲笑した。


小谷野と兼元は失神しているわけではないのだが、背中からモロに叩きつけられて体がしびれて動かない。体中の力が入らないのだ。


傍らに横たわる兼元の顔面を蹴り上げた後、髭を蓄えた小太りの男が口を開いた。


『まぁ残念賞だ。三人一緒に奈落の底で死ねるよう、施しくらいしてやっても良いんじゃないかのぉ』


『まぁそうですね。ここまで来た敬意を表して』


少し笑いながら、ハイキック野郎が応じる。


『たった二人で俺に挑んでくるとか、馬鹿じゃねえのか? 東洋人ってやつはよぉ?』


『まあ無謀にも程があるな。それも分らんとは、東洋人とやらも先が知れとるのォ』


動けない三人を、ファーダーは巨大な両腕でいっぺんに背負い上げた。


その体力は、微塵も削られていない。余力が有り余っているようだ。


そして彼は、ゆっくりとした足取りで、底の見えない陸橋の淵へと向かった。


「や……や……め……ろ……」


兼元が、血の混じった唾液を吐き出しながら、掠れた声で言葉を絞り出す。


しかし、現地の山賊に日本語が通じるはずもない。


うわ言のように繰り返す兼元の無力な姿を見て、ファーダーは耳を劈くような下卑た笑い声を上げた。


『なんか言ってるぜぇ…雑魚がよぉ。これってもしかして、「やめてくれ」って意味なのかなぁ? 東洋の言葉で言う』


髭の男が、飽きたように吐き捨てる。


『処刑の時刻が遅れるぞ。もうそれくらいで捨ててしまえ』


『名残惜しいが、さらばだ、東洋人共。まぁ、弱っちい癖によくやったよ』


ファーダーはそう言い放つと、動けない自分たち3人を乱暴に掴み上げ、底の見えない陸橋の淵から、容赦なく突き落とした。


真っ逆さまに落ちていく三人の姿に目もくれず、山賊の幹部たちは悠然と宮殿の奥へと消えていった。

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