24-3 敢行
【24話】 Cパート
※24話はアクションが多いので3部に分けています。
ついに宮殿内部に入ってきた。
トビラを開けると光が刺してきた。
太陽だ!
夜明けからは結構時間がたっていたが、太陽の光だ。
造りも宮殿の内装に近い。
一気に本丸に入ってきたという感がある。
向こう側を見ると黒い煙が立ち込めている。
“アレやったん俺やで”と言わんばかりの顔をする生一。
そして今兵隊たちは武器庫の消火活動にあたっている。
見張りも少ないまたとないチャンスだ!
少し緊張感を持ちつつも冷静に宮殿内を進んでいく。
ここで頼りになるのは…兼元の“嗅覚”だ。
今まで数えきれないくらいの女子のパンツを嗅ぎわけてきた彼の嗅覚が、こんな所で発揮されることになるのかと突っ込みたい気分になるが、本当に今の彼にしかできない芸当である。
「頼むで!リーダー!嗅界のプリンス!」
「お前の嗅覚!信じてるわ!」
風に流れてきた煙と火薬の臭いが邪魔をするが、兼元は“ネイシャさんが連行される際に通った匂い”を必死に探し出す。
建物の庭に隠れつつ周りを探索していく。
「ネイシャさん…ネイシャさん…ネイシャさん…」
はやる気持ちは分かる…
生一は2人に目くばせする。“焦るな”という事だ。
山賊の多くが出払っている今が絶好の機会なのは分かる。
もしかしたら、あの“ハイキック野郎”とデブも消火の為に武器庫の方へ行っているかもしれない。
嫌でも心臓の鼓動が速くなる。
「!?」
ふと兼元が向こうの宮殿を見た。
「あっちや。俺の人生をかけて言う!ネイシャさんの匂いが続いてる!」
間違っていたら囲まれてハチの巣にされる可能性もある。
でももう迷っている時間は無い。奥の方に見えるあの大きめの宮殿…
そのまま宮殿の奥へと駆け抜けていく。
3人だと相手が刀を持っていようがいける…勝てる…
3人でかかれば山賊達が束になってかかってきても…
「この先に行ったら一番奥の宮殿になるけどネイシャさんの匂いは!?」
「あぁ…感じてるで。あそこに居てる!ネイシャさん!」
兼元の顔が引き締まる。
奥へとつながる道、宮殿と宮殿を繋ぐ道は陸橋になっていた。
結構高いところに出たようで、下が見えない。宮殿エリアに入ってからは上り坂だったことに気づく。
陸橋の下は、どうも地下深くのゴミ溜まり場に通じているようで底が見えない。
「(ココで振り落とされたら一貫の終わりだな…)」生一が陸橋から下の景色をチラッと見たのだが、小谷野と兼元が見たのはそこではなかった。
陸橋の向かい側で待ち構えていた人間がいる!
忘れもしない…あのデカブツ。
vaderの姿が……。
革のベルトを頭に巻き付けている。ヤツで間違いない。
2人の顔つきが険しくなる。
デカブツの方は『お前はあの時の…』という感じの言葉を呟き、ニヤニヤ笑っていた。
あの小便を漏らして震えていた小谷野を思い出したのだろう。
「こいつがラスボスって訳か…まぁ想定していたけどよ…上等だ。」
「あぁ…正直言って怖えよ。でも3人でかかれば…」
「せや。気持ちで押されんな。あとリングアウト勝ちは狙うな!ハナッから捨てろ!」
「せやな…向こうはそれくらいしか俺らに勝つ算段無いと思うてるやろうし。」
険しい顔でファーダーを睨みつける。
しかし一気に状況は一変する。
そこへさらに2人の男が現れたのである。
『なんじゃ?あの東洋人とかいうネズミが侵入してきたのか?わざわざそちらから。』
姿が見えたのは少し小太りの男性…そしてその横には、生一が命名したあの“ハイキック野郎”!
途端に生一の顔に汗が垂れる。
「クソっ。あのデカブツに3人でかかれば何とかってイメージはあったのによ…
よりによってハイキック野郎も同時に相手しねぇとダメなのかよ…話が違うぜ…こんな怪物2人…」
パッと見、小太りで髭を生やした男性はどうとでもなりそうだった。
しかしハイキック野郎は身長も190cm程あり、筋骨隆々である。体つきがまるで違う。
生一はその“ハイキック野郎”を睨みつけ、今知っている言葉を投げつけた。
『ネイシャさんはどこにいる?!』
“どこにいますか”という言葉を覚えた。その言葉を怒鳴りつけた格好になる。
ハイキック野郎は声に反応し、生一を見る。
そして“おまえはあの時の”という感じで少しニヤつき、指をチョンチョンと上に向けた。
この上の階にネイシャさんが捉えられているという意味だ。
そこは兼元も小谷野も瞬時に理解した。
小声で2人に素早く言う生一。
「今の分かったよなぁ…このラスボス倒したら正真正銘のお姫様との再会…エンディングや!悔いを残すなよ。」
「……」
黙り込む2人。
分かってはいる。
この先はエンディングだと。
ただ、その前に立ちふさがる敵があまりにも強大なのだ。
しかも同時に2体である。
状況は以前より悪く、打開策がまるで見当たらない。
言葉が出てこない2人に対し、生一は日本語で驚きの提案をする。
「俺があのハイキック野郎の相手をする。お前らはあのデカブツを何とか頼む。倒したらすぐに俺とあいつの事は無視してネイシャさんの所にかけこむんや!」
「生一!お前死ぬ気か!」
「どのみち相手は待ってくれん。お前らはアイツが心底憎いやろ!
今もニヤニヤしてるし…意地見せてみろ!」
「生一…」
「何やねん。もう俺がやられる気でおるんか?八薙の分のカリを返さんといかんやろ!人の心配すな!」
「…もう何も言わんぞ!ええんか?」
「あぁええ。お前らはアイツにカリまとめて返してこい!行くぞ!!」
険しい形相でまずは生一が前に出た、そしてハイキック野郎に対し、親指で自分の胸をトントンさせながら、もう一つ“覚えた言葉”を発する。
それは……
『来いよ、雑魚。』
雑魚から雑魚と呼ばれ、ハイキック野郎の顔つきが変わる。
そして前に出てきた。
その眼中に兼元や小谷野はいない…
こいつは俺が叩くという感じだ。
それを見て、2人は彼の傍を通り抜ける。
そして少し奥の方にいた因縁のデカブツの前に立ち、陣取る。
こっちは2体1だ!
生一の考えている戦法はこうだった。
まず自分ではハイキック野郎には勝てない。それはハナッから分かっている。
あの八薙に放ったえげつない左ハイキックの映像が頭から離れない。早すぎて見えなかった…それをきちんと自覚したうえでの分析だ。
だから、せめてコイツ相手に時間を稼ぐ。
間合いをとってけん制だけに留めておく…。
ハイキックが入れは即アウトなので、頭らへんのガードは固めておく。絶対に下げない。
その流れで、小谷野と兼元のがんばりに賭けるしかない。
ネイシャさんの運命がかかっているのだ。死ぬ気で立ち向かうだろう。
生一の狙いはそこだった。
もし…あいつらがファーダーを怯ませることができたら…そのままネイシャさんの元まで駆け込んでもらって彼女を奪取。そのまま窓からでも脱出してもらう。
今ならまだ武器庫周辺の消火活動で兵隊達も殆ど戻ってきていない。
武器庫と反対の方向からなら逃げる事が出来る。
そしてその逃げる時間を自分が命をかけて稼ぐ。こいつの足でも何でもしがみついてでもだ。
視線を“キッ”とハイキック野郎に向ける。
この先のビジョンは決まった。
生一はガードを頭から下げないように十二分に注意しながらジャブなどけん制を入れるフリをする。
あくまでフリだ。時間稼ぎの為の。
だが相手は百戦錬磨かどうかは分からないが格闘家か用心棒のプロであるのは確かだ。
向こうが2体1になった段階で、あの2人の方に賭けているという生一の意図にすぐに気づき、一気に間合いを詰めてきた。
とたんに生一もバックステップで間合いを離す。
彼のあの間合い…“左ハイが飛んでくる間合い”を極端に嫌った。
その動きで完全にバレたようだ。
それに左足の方をチラチラ見ている。
明らかに左ハイキックを警戒している。
それくらいはお見通しだった。
距離を詰めるというよりずんずん歩いてきた。生一はたまらず距離を離す。
しかしハイキック野郎は距離を離してくれない。
一回攻撃をガードしつつ逆サイドに回ろうと閃いた生一は、相手の攻撃を受ける覚悟を決める。
2人の距離がいよいよ近くなった時…
「(来たっ)」
左ハイ!
生一はとっさにコメカミあたりまでガードの腕を上げた。
来るのが分かっていたからとっさには対応できたと思う…素人ながら。
しかし相手はそんな生一の心理は全てお見通しだった。
次の瞬間、ハイキックのような軌道で足を上にしならせた後、強烈なミドルキックが生一の胸元に食い込んだ。
『ハイキックを恐れているの、見え見えなんだよ!』といわんばかりだ。
頭部以外はガードしていなかったので、蹴りをモロに受けて崩れそうになる生一。
しかし“次”が来る。
敵は休ませてくれない。
生一は先ほどのミドルが体に食い込んだ時、一瞬呼吸が出来なくなった。それと同時に頭が少し混乱したのだ。
混乱の中、自分の本能に言い聞かせる生一。
「左ハイキックを食らえば終わる。絶対にガードを下げるな!ガードを下げたらアレが来る…ガードを下げるな!」
頭の中はそればかりだった。フラッとするものの意地でも頭部の守りは崩さない。
頭を抑えて前を向く。
その向いた瞬間……
強烈な痛みが顔面を襲った。
蹴り…ではない、膝だ!
顎を突き上げるような軌道の膝…ニーリフトが生一の顔面に思いっきり入った。
鼻の下…人体急所の一つにモロに膝を撃ち込まれ、生一はその衝撃で吹き飛び…頭から落ちていった。
ミドルキックから膝突き上げのコンビネーション。
まともに入ってしまった。
完全にノックアウトだ。
膝蹴りを受けた時、生一の見える世界はスローモーションで写っていた。一瞬だが応戦している兼元と小谷野の姿が映る…
しかしその光景は既にあのデカブツに蹂躙されていて…………虫の息の姿だった。
* * * * *
『結局暇つぶしにもならなかったな…』
『東洋人か…所詮こんなもんだろう。口ほどにもない。』
『どうするよォこいつらのトドメはよぉ。』
ハイキック野郎は完全に気を失った生一を見て呟く。
『まぁこいつらも逃げずによくここまで来たわけなんだし…頑張ったんじゃないですか?
ご褒美に3人で仲良く死なしてやっても良いんでないです?』
『まぁあれだけ無様にやられたのにまた向かってきたのは意外だったぜ。
死ぬ思いまでしたのによォ。こいつらが来た時、まさかあの東洋人だとは一瞬思わなかったからなぁ…そこだけは褒めてやるよ。へへへ…』
小谷野の顔を半分踏みつけながら語るファーダー。
小谷野と兼元は失神している訳ではないのだが、背中からモロに叩きつけられて体が動かない。体中の力が入らないのだ。
傍に寝っ転がる兼元の顔を蹴り上げた後、髭を蓄えた小太りの男性は話しだす。
『まぁ残念賞として、3人一緒に奈落の底で死ねる施しくらいしてやっても良いんじゃないかのぉ。』
『まぁそうですね。ここまで来た敬意を表して。』
少し笑いながら応じるハイキック野郎。
『たった2人で俺に挑んでくるとか馬鹿じゃねえのか?東洋人ってやつはよぉ?』
『まあ無謀にも程があるな。それも分らんとは東洋人とやらも先が知れとるのォ。』
動けない3人をいっぺんに背負ったファーダー。
余力が余りまくっているようだ。
そして陸橋の淵へ足を進める。
「や……や…め…ろ…」兼元が言葉を絞り出すが日本語が通じるわけがない。
うわ言の様に言う兼元を見て、ファーダーが笑い出す。
『なんか言ってるぜ~雑魚がよぉ。これってもしかして“やめてくれ”って意味なのかなぁ?東洋の言葉で言う。』
『処刑の時刻が遅れるぞ。もうそれくらいで捨ててしまえ。』
『名残惜しいよなぁ。東洋人共よ。まぁ弱っちい癖によくやったよ。』
そう言って、3人を底の見えない陸橋から突き落としたのである。
真っ逆さまに落ちていく3人に目もくれず、3人は宮殿の奥へと消えていった。
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