21-2 萌える闘魂
【21話】 Bパート
兼元の体調が完全に復調してから、さらに二日が過ぎた。
シスターであるネイシャさんの献身的な看護のおかげで、生一たち三人はもう、日常生活に支障がないほど動けるようになっていた。
自分たちが匿われているこの修道院では、決して贅沢な暮らしではないものの、芋を丹念に研いだ温かいスープや乾燥したパンなど、愛情のこもった食事を提供してもらっていた。
兼元がまだ「アウチアウチィ」とわざとらしく痛がり、ネイシャさんにスープを「あーん」して飲ませてもらっていた時は、小谷野の顔が般若のように真っ赤になっていたっけ。
「オマエな! 後から蘇生した特権を行使して、ああいう姑息なテクニック使うんはどうかと思うわ。
そういう事するんなら、俺にも考えがあるし……!」
小谷野はそう捨て台詞を吐くと、その足でネイシャさんの元へ直行した。
そして、「日頃の感謝の印」と称して、彼女に「入念なマッサージ」を提案するという暴挙にかましていた。
ネイシャさんは、生一たちの看病だけでなく、両親をあの要塞に連れ去られ、孤児となってしまった子どもたちの世話も一身に引き受けていた。
その心労と疲労が蓄積していたのは事実で、彼女は少し困ったように、けれど嬉しそうに微笑んだ。
『……じゃあ、ここは小谷野さんの言葉に甘えて、素直にお願いしようかしら』
まさかの快諾だった。
小谷野は勝ち誇った顔で、修道服の首元のチャックを、うなじが見える位置まで慎重に降ろした。以前のアイツらしい…
震える手で彼女の白く細い肩口に触れようとするその姿は、端から見れば変態の何者でもない不審な動きだった。
まさに今、彼女の綺麗な首筋に指が触れようとした、その時。
『ネイシャさーん! 向こうで子どもたちが泣いてまーす! ちょっと様子を見てきてあげてくれませんかぁああ!』
部屋の隅から、兼元がこれ以上ないほどの嫌がらせの声を上げた。
ネイシャさんは、ハッとしたようにスクッと立ち上がった。
『まぁ、あの子たち……仕方ないわね。あ、小谷野君、ごめんね。ちょっと行ってくるわ』
彼女は首元のチャックを直しながら、そのまま子どもたちのいる聖堂会館へと小走りで去っていった。
その後ろ姿を呆然と見送った後、小谷野は兼元を、殺意を込めて睨みつけた。
…今回の彼の目は、マジだった。
「そろそろ、軽量級のお前には分からせてやらんとなぁ…
この先、俺様の前に立ちはだかるっていうんならよォ!」
「アン? やる気かあぁ? 表出ろやコラ。デカいだけで勝てる思てんのか? あぁ?」
一触即発の空気。その時、生一は思い切り「バン!」と机を叩いた。
「聞け!
お前らさぁ。あのデブの怪物に、秒殺されたんをもう忘れたんか? なぁ!」
激しい口調に、二人の動きが止まる。
「お前ら、ええ加減に優先順位を考えろ!
ええか? 体力が戻ったんやから、そろそろ俺ら、動かなアカン時期やろ!
勇一達あっこに置き去りにしてんやで!」
兼元の顔色が、途端に暗く沈んだ。
「それに関してやけどよ。もう、生一だけで行ってくれへんか?」
「なっ…? お前本気で言うてんのか?」
「……もう俺、“ネイシャさん命”やねん。
命がけで俺の看病をしてくれた彼女と、マジで結婚したいと思てる。
…俺、本気やで。ここ、日本じゃないけど、俺はこのままここに残るのも辞さない気持ちや。
ごめん…俺の愛は、本気なんや…」
兼元は、絞り出すような声で続けた。
「愛とか恋とか、そんなん言えるナリちゃうけどさ……今は、はっきり言える。
本気で好きや……って」
小谷野も、いつになく俯いた表情で、兼元の言葉に同調した。
「俺も…すまんけど、正直、本気やねん。あの子と結婚できるんやったら、もう他になんもいらん。
すべてを捨ててでも、ここで彼女と幸せになれる道があるんなら、ここに居たい……
そんな思いが、芽生え始めてるんや。」
ごめん、生一……。俺も、マジで胸が苦しいくらい、彼女のことが好きやねん。
こんなに人を好きになったの、生まれて初めてや。もう日本に戻って大学行くとか、どうでもええくらいに好きやねん」
「……じゃあ、静那のことは? どうするんよ!」
自分の問いに、小谷野は苦し紛れに答えた。
「あいつは嫁1号やねん。そんでネイシャさんが嫁2号」
「オマエら……ここまで最低やとは思わんかったわ。
皆がまだ生きてんねんで。
なんとかしようと思わんのかよ! リベンジわい!」
「そんなん……お前だって、あの時の絶望、肌を合わせて分かったやろ? あの、ハイキックの化け物とか……あと、あの……とんでもないデブの怪物……」
「怖いんか?」
「……ああ。怖いよ。死ぬほど怖い」
小谷野は即答した。その声は、震えていた。
「お前が俺らのメンバーやったら一番体が大きいねんで。それやのにそんな情けない事言うなよな!」
「う……うっさいわ!あいつどんだけバケモノかお前も思い知ったやろ。
俺さ…あいつ目にした時、足が震えてションベン漏らしてもうて…おまけに怖さで肩震わせて…もうどうひっくり返っても倒せるわけない思ったよ。
結果…箸にも棒にもひっからんかったし…そのまま殺される思た。
でも彼女は全てを忘れさせてくれたねん。今の俺には彼女が全てやねん。何言われてもええ。
彼女が好きや。1号とか2号言うたんは真面目にあかん事や。けどな…もう死ぬような思いしたくないねん!
彼女が大事やって思ったら思う程、もうええやんって感じる。
俺のさ…この“怖い”って気持ちをさぁ……お前は全否定するんか!
俺の正直に沸き上がる感情に対して真っ向から否定するんか?なぁ!」
小谷野がこんなに具体的に自分の心情を吐き出してくれたことは無かった。
だから生一は何も言えなくなった。
睨みつけるわけでもなく、じっと二人を見る。
そこへ、子どもたちの世話を終えたネイシャさんが戻ってきた。
『兼元さん! 子どもたち、泣いてなんかなかったよ。きっと、遠くから私たちの様子を見ていて、心配で声をかけてくれたんだと思うけど』
彼女は、怒る様子もなく、優しく兼元に呼びかけた。
『でも、あの子たちの間のことなんだから、信じて見守ってあげましょうよ。
どうしようもなくなった時に大人が“一声”かけてあげたらいいんだから』
『そうだね~その通りだ』
さっきまで殺気立っていた小谷野と兼元の表情が、瞬時に恵比寿顔へと変わる。
その様子を見て、生一はそっと視線を外した。
そして、二人だけに聞こえるような低い声で、日本語で呟いた。
「…じゃあ、お前らはここにおれ。マジで、それほどまでに好きなんやろ…ネイシャさんのことが。
やったら、俺はもう止めたりはせんよ。ここに居ればええやん。
…俺は、明日には一人でここを出て行くから」
「生一……」
「マジで、怒ってへんから。
お前らの気持ちを尊重しただけや。
……そりゃあ、怖いよな。殺されかけたもんな、あのデカいんに」
そう言い残し、自分は食堂の横にある、暗い寝室へと消えていった。
『キイチさん、どうしたの? 急に暗い顔をして……』
ネイシャさんが心配そうに聞いてきた。
『いや……あいつ、ちょっと急ぎの用事があるみたいで。明日、先にここを出るって言ってたんです。その確認をしてて』
小谷野が、生一たちを庇うように答える。
『そうなの……でも、この辺りを一人で歩くのは危ないわよ。森には野生の…』
『いや、あいつが自分で選んだ道ですから。大丈夫ですよ』
兼元も、生一のことは気にしなくていいというニュアンスで、ネイシャさんにフォローを入れた。
* * * * *
その日の夜。修道院では、近隣の村の老人も招いて夕食の席が設けられた。
子どもたちも合わせるとかなりの人数になったが、食卓に並ぶメニューは、やはり質素なものだった。
モヤシとパセリを振りかけたお湯のような薄いスープ。そして乾燥して硬くなったパン。
それでも、大勢で一つの食卓を囲むと、凍りついていた心もわずかに和らぐのを感じた。
貧しい生活の中でも、ネイシャさんたちシスターが、慈しみの心で子どもたちを育て、懸命に生きようとしているのが肌で伝わってきた。
兼元と小谷野は、ネイシャさんの両サイドの特等席をしっかり陣取っている。
その光景を見て、生一はかつての静那の時と同じだなと、少しだけ彼女のことを思い出していた。
生一は少し離れた末席に座り、無言でスープを喉に流し込んだ。
自分は明日、この修道院を出る。
これが、3人での「最後の晩餐」になってしまうのだろうか。
その時、重厚な扉を叩く、控えめな音が響いた。
元気になった自分たち3人を近隣に紹介するために、あらかじめ呼んでいた隣町の老人が到着したようだった。
「そういえば、呼んでたわね」
ネイシャさんは穏やかな表情でドアを開けた。
そこには、予定通り隣町の老人が立っていた……が、その表情がどことなく冴えない。
その老人は、部屋に入るなり、切羽詰まった様子でネイシャさんや周囲の大人たちに、激しい口調で語り始めた。
生一たちには、言葉の意味は分からない。けれど、彼が何かに酷く怯えていることだけは理解できた。
話が終わった瞬間、ネイシャさんの表情が、今までに見たこともないほど険しいものに一変した。
彼女は、自分たち3人に向かって、鋭い口調で指示を飛ばした。
『今すぐ、この食堂の屋根裏に隠れて! 早く! 質問は後よ!』
ただならぬ殺気を感じ取り、小谷野と兼元は生一の腕を掴むと、すぐさま建物の天井付近にある屋根裏スペースへと移動した。
そこは、床板の隙間から下の様子を窺うことができる、隠れ場所としてはこれ以上ない場所だった。
* * * * *
程なくして……
武装した屈強な男たちが、土足で修道院の食堂へと雪崩れ込んできた。
その姿を見た瞬間、生一の血が逆流した。
あの山賊軍団、「バーサビア」の連中だ。
山賊たちは、ネイシャさんたちシスターを荒々しく問い詰め始めた。
誰かを執拗に探しているようだ。
(……逃げた誰か? もしかして、俺たちのことか!?)
ネイシャさんは、両手を広げて男たちの前に立ち塞がり、必死に「知りません。」という身振りで抗議を続けている。
周囲の村人の表情や、ネイシャさんの口の動きを見る限り、「ここには誰もいません。早く帰ってください」と伝えているようだった。
しかし、バーサビアの連中は不審な表情を崩さず、執拗に部屋の中を物色している。
その張り詰めた空気の中、怯えきった子どもたちの一人が堪えきれずに泣き声を上げた。
『うるさい! 黙れ!』
苛立った男の一人が、泣き叫ぶ子どもの元へ駆け寄り、重いブーツで蹴り上げようとした。
ネイシャさんは、咄嗟にその子の前に身を投げ出した。
鈍い音が響き、男の蹴りはネイシャさんの腹部を容赦なく撃ち抜いた。
「あ……っ! あの野郎……ッ!」
屋根裏で見ていた小谷野と兼元の顔が、怒りでプルプルと震え始めた。
腹部を蹴られ、あまりの激痛に顔を歪めるネイシャさんだったが、彼女は必死に痛みを堪え、再び子どもたちの前に仁王立ちになった。
そして、男たちを強い眼差しで射抜き、何かを凛として言い放った。
おそらく、「子どもたちは関係ない。手を出さないで」という、彼女の誇り高い叫びだった。
(……見た目だけやなくて、こういう芯の強さに、こいつらは心底惚れたんやろな……)
生一はそう感じ感銘を受けていた。
だが次の瞬間、山賊たちは信じられない暴挙に出た。
リーダー格の男が、ネイシャさんの細い腕を乱暴に掴み上げ、軍団の輪の中へと強引に引きずり込んだのだ。
そして、彼女の手首に、手錠のような拘束具を無理やり嵌めた。
ネイシャさんの瞳に、一気に隠しきれない恐怖の色が広がった。
「……あの野郎ッ! 殺す! ぶち殺してやる!!」
小谷野と兼元の目が一瞬で血走った。二人は、今にもこの狭い屋根裏から飛び出そうと、身を乗り出した。
生一は咄嗟に、二人の頭をグイッと力任せに引き止め、耳元で、最小限の声で怒鳴りつけた。
「堪えろ! ここで出たら、ネイシャさんのあの勇気ある対応が全部無駄になるんやぞ!」
生一の必死の制止に、二人は歯を食いしばり、なんとかその場に踏みとどまった。
しかし、二人の拳は白くなるほど握りしめられ、全身が怒りで激しく震えていた。爆発寸前の火山のような状態だった。
「それに、あそこをよう見ろ!」
自分は、窓の外を指差した。
暗闇の中、食堂の外にはさらに二十名ほどの山賊たちが、松明を掲げてスタンバイしていた。
中には、あの忌々しいムチを携えている奴もいる。
自分たちだけなら、この難局を切り抜けることができるかもしれない。
だが……ここにいる子どもたちは? 他のシスターや老人は?
その「最悪の結果」が、冷静さを失いかけていた生一の脳裏を掠めた。
結局、ネイシャさんは人質として男たちに連行され、漆黒の夜の森へと消えていった。
ネイシャさんは、誰の目から見ても美しい。あんな連中に捕まって、これからどんな屈辱を受けるのか…
それを想像するだけで、屋根裏には重苦しい沈黙と、熱い怒りだけが充満した。
山賊たちが完全に視界から消え、静寂が戻ったことを確認してから、自分たち3人は屋根裏から皆の前に姿を現した。
そこには、ネイシャさんという心の支えを失い、泣きじゃくる子どもたちの声だけが響き渡っていた。
* * * * *
ネイシャさんが自らを犠牲にして自分たちを守ったことを、村人たちは皆理解していた。
だから、東洋人である生一たちを責める者は、誰一人としていなかった。
それでも生一は、食堂の中央で、シスターや老人たち一人ひとりに、日本語で土下座をするように深く頭を下げた。
そして、ジェスチャーを交えながら、切実に問いかけた。
「あいつらが何を言っていたのか、すべて教えてください。お願いします」
翻訳には長い時間を要したが、バーサビアが突きつけた要求の内容は、おぼろげながら把握することができた。
・ネイシャさんの機転により、ここには東洋人は来ていないことになった。だから自分たちは捕まらなかった。
・しかし、奴らは「これから十日以内に、周辺に逃げたであろう四人の東洋人を捜し出して差し出せ」と命じた。
・もし期限までに差し出さなければ、十日目の夜明けにネイシャさんを処刑する、と。
・逃げた東洋人は「四人」いると言っていた。
(……四人?)
その言葉に、生一は微かな希望の光を見た。
四人目……それは、あの八薙も無事に脱出し、この地域のどこかで生き延びているということだ。
生一は少しだけ安堵したが、隣に座る小谷野と兼元には、そんな余裕は一ミリも残されていなかった。
二人は、怒りで赤く染まった目で、ただ一点を見つめて体を震わせ続けていた。
「…八薙は、なんとか脱出して生きとるみたいや。
それに、俺はあいつと約束したんや」
生一は、沈黙を破って静かに切り出した。
「俺は、やる。一人ででも、あのアジトをぶっ潰す。
お前らはどうする。まだここで、平穏を願うんか? それとも…」
自分が話し終える前に、小谷野が、裂けるような声で応えた。
「誰が逃げるかよ、ゴラァ!」
「ああ……あいつらは、俺の命よりも大切な人に手を出しやがった。
…絶対に、絶ッ対に許さん!!」
兼元の目つきも、先ほどまでの怯えが嘘のように、鋭く、研ぎ澄まされていた。
「……ただ、確認しとくぞ。
あのアジトには、あのデブのバケモノも……あのハイキック野郎も間違いなくおる。
ネイシャさんを助けに行く過程で、はち合うのは避けられん。
…正直に言え、怖ないんか?」
「生一……俺、“あの子命”や言うたやろ。俺の覚悟を、なめんなよ」
小谷野が、低い、地を這うような声で言った。
「あいつらは確かにバケモノやった。…でも、幸か不幸か、九日の猶予があるんや。九日あれば、絶対に勝つ手立てはあるはずや!」
「ああ……逆に、九日も猶予をくれやがったこと、後悔させてやるわ」
「……おう、ええ返事や。心の方は、ようやく仕上がったようやな」
生一も、二人と同じ方向を見据えた。
「俺も正直ネイシャさんは命の恩人や。大好きに決まってるやろ!
命を懸ける価値がある人や。俺の脳内では、もう将来、彼女と五人家族で暮らしとるイメージすら出来上がっとるわ!」
いつもなら猛烈なツッコミが入るはずの冗談に、小谷野も兼元も、一切笑わなかった。
ただ、強く頷き、生一を信頼する目で見ていた。
「ええか。俺は、最悪一人でも乗り込む覚悟でずっと考えてた。そのための作戦もある。
そして、時間的なボーナスまで手に入ったんや!」
「今から、俺のビジョンをすべて話す。全部言った後から、早速トレーニング開始や。
日本人の底力……見せてやろうやんけ!」
「おう! 俺に後れを取るなよ!」
「やり切ってから言え、ボケが!
今度こそ、お前がただのデカブツやないっていうのを証明してみせろ!」
「…………分かったわ。今の俺には、何も言う資格はない。何でも、お前の言う通りにしたるよ」
二人の瞳は、もはや迷いのない、剃刀のような鋭さを湛えていた。
言い訳も、愚痴も、もう一切聞こえてこない。
自分たちがなすべきことは、完全に決まった。
「ただまず、二人に作戦を話す前にやることがあったわ」
自分は、解散しようとしていた村人たちを呼び止めた。
隣町から来た老人たちも含め、彼らから可能な限り情報を引き出す必要がある。
自分たちが確認したのは、以下の点だった。
・要塞までの詳細なルートと、現在地の正確な位置。
・要塞内の情報や構造を、わずかでも知っている人間はいないか。
奇跡的に、村人の中に三十代半ばの若者が一人いた。
彼はかつて、要塞の地下牢で働かされていた経験があった。
中継地点での労働に連れ出された隙に、命がけで脱出してきたのだという。
彼からは、宮殿内の大まかな構造や、隠し通路の存在など、喉から手が出るほど欲しかったマップ情報を得ることができた。これが、最大の収穫だった。
情報を整理し終えた後、生一は村人たちに、力強いジェスチャーを交えて宣言した。
『自分たちは、これから死に物狂いで鍛える。そして十日目の夜明け、あの要塞に乗り込む!
ネイシャさんはもちろん、捕まっているすべての村の女性たちを、俺たちが奪還する!』
……
しかし…返ってきたのは、賛辞ではなかった。
村人たちは一様に首を振り、「たった三人では無茶だ」「自殺行為だ」と、悲痛な顔で訴えてきた。
相手は最新の武器を大量に所持し、冷酷な軍隊のような組織だ。
「あなたたちが死ぬのは勝手だが、反逆を起こせば、見せしめに人質の女性たちが殺されてしまう……」
彼らも、何もしたくないわけではない。何度も抗おうとして、そのたびに多くの命が失われてきたからこそ、彼らは「仕方ない」という重い沈黙を選ばざるを得なかったのだ。
「だからって、黙ってネイシャさんが処刑されるのを待つんかよ!」
言葉が通じないもどかしさの中、生一は懸命に食い下がった。
けれど、彼らの瞳には、繰り返されてきた絶望と諦めが、深く澱のように溜まっていた。
「そんなに報復が怖いなら、もうええ! 俺たちだけでやる!」
生一は啖呵を切ると、二人を連れて、村人たちのいる部屋を後にした。
(…こんな時、英語も話せるネイシャさんがいてくれたら、もっとスムーズに話ができたのにな……)
生一は悲しげに呟き、暗い夜空を見上げた。
* * * * *
修道院の村人たちと、自分たち3人。
「大切な人を救いたい」という共通の目的を持ちながらも、失うものの重さと経験の違いから、その足並みは容易には揃わなかった。
改めて、生一たちは十日目の夜明け前の奇襲を決行することを再確認した。
見張りの目に触れないよう、トレーニングは夜から明け方にかけて行う。
それは、夜目を鍛え、暗闇での感覚を研ぎ澄ませるための修行でもあった。
日中は、あの狭い屋根裏に籠り、睡眠と精神統一に当てる。
九日目までは、己を限界まで追い込み、肉体を「武器」へと変える。
そして最終日に、練り上げた作戦をもってアジトに潜入する。
死ぬ気でトレーニングと戦う者の極意を注入することを誓った。
* * * * *
一方、いち早く脱出に成功していたあの八薙は、バーサビアの追手よりも一足先に、近隣の村々を疾風のごとく駆け回っていた。
彼は、要塞の地下で目撃した凄惨な実態を、村に残された人々に伝えていたのだ。
そこで彼は知った。
幼い子どもと老人しか残されていない、この地域のあまりにも脆弱で残酷な現状を。
それでも八薙は、奪われた若者たち、そして女性たちを救い出すため、村同士の連携を強固なものにしようと奔走し続けていた。
かくして巨大な要塞から無事脱出出来た4人。
彼らの「反撃」という名の革命戦争が、静かに、けれど熱く、動き始めた。
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