23-1 熊野陳平との死闘
【23話】 Aパート
生一達3人が地獄のトレーニング始めてから9日目の夜。
時刻は22時頃。
アジト侵入の決行まであと5~6時間前…といったところだ。
「これからお前らに最終試験を課す。俺ももちろん一緒に参加する。」
「最終試験?」
「無事試験を終えたらそのままのテンションで乗り込む。ええか?」
「何やるんだよ、生一。試験って…夜明け前が決行時間だぜ。
また限界まで筋トレしてたら乗り込む前に体力持たんくなるで。それよりも突入後の打ち合わせとかせんといかんのと違うか?」
「違う…試験って言うのは、最後に仮想となる敵と戦うのが試験やねん。
もちろん勝たないかん。アジト入ってからのシュミレーションは、お前らが生きて試験をクリア出来た後、移動しながら話す!」
「生きてって、何なんその敵って?
どこにおるんよ。」
あれから小谷野も兼元も限界まで心身を鍛え、泣き言を言わずひたすら頑張った。
ネイシャさんに対しての自分の気持ちは本気だというのを態度で示し通した。
どんなに辛くとも、ネイシャさんの事を思えば絶対に死んでたまるかと言う底力が湯水のごとく沸いてくる。
初日から3日目くらいまでは常にかつてないほどの筋肉痛で、見た目は“生まれたての小鹿”のようだったが、4~5日くらいから不思議と体がついていくようになる。
そして一週間を過ぎた頃にはあの狂ったようなトレーニング内容が“普通”のカリキュラムとなっていた。
人間というものはよく“慣れの生き物”と言われるが、そこは本当でどんな過酷な状況でも慣れてしまえばそれなりにクリアできてしまうようになる。
生一は、以前からプロレスラーの限界を超えるトレーニングメニューを入念に調べていた。
思わぬところで効率の良い体の鍛え方として役に立った事になる。
たった9日間だが、小谷野は勿論、兼元も胸板周りが厚くなった。
見た目も自信が持てるようになったようだ。
顔つきだって違う。
修羅場を乗り超えてきた猛者の顔だ。
コップに入った生卵を一気に飲み干した後、生一は最終試験となる課題を発表する。
「ええか!…最終試験の相手はな………熊や!」
* * * * *
とある村では宴会が開かれていた。
料理から立ち昇る煙と一緒に笑い声が外まで響きわたる。
東洋の“日本”という国からやってきた少年が、たった一人で東の村の窮地を救ってくれたからだ。
村の中には障がいを持つ人間以外で“若者”と呼べる人材は居なかった、
それでも家を追い出され、牢屋に入れられていた年長の子どもや比較的元気な老人が、拠点となっていた建物内から強奪されていた食材を運び出してくれた。
何カ月ぶりか、みんなが無事食事にありつけるようになったのである。
牛小屋の布団の上で具合悪そうにしていた老人もベットのある清潔な部屋へ移動させた。
スプーンでスープをすくって口にはこんでやる真也。
老人は涙を流しながらスープを口にしていた。
その横で痩せていた子どもも精いっぱいの笑顔で食事を口にしている。
この光景を見られただけでも本当に良かったと真也は感じた。
他にもあり余るほど穀物類が見つかったが、肉や魚なども隠れて冷凍庫の中に貯蔵しているのが見つかった。
以前、この村の若者たちが収穫したものを後から略奪したものだそうだ。
若者を強制的に僻地や“バーサビア”の要塞へ連行し、老人と子どもだけになってしまったところを恐怖心で押さえつけていたらしい。
やり方が周到とはいえ酷いものだ。
皆で分け合えば皆が幸せに食べられるものを…
「このお魚…出来るなら私がさばいてあげたかったのにな…」
まだ体がうまく動かせない静那が大量の魚を見て残念そうにつぶやいていた。
でもまずは、村人も静那も、そして真也も皆貪るように目の前の食事を口にした。
文字通り“皆”だ。
皆、久しぶりに口にするごちそう。
村の中に心から笑顔が戻った。
おいしい食事は人と人を繋げる大切な潤滑油だ。
お腹が満たされた後、真也はもちろん静那も村人達と積極的にコミュニケーションを図ろうとする。
言葉が通じない者同士というのは承知だが、村人は拒むことなくこの申し出を快く受け入れてくれた。
つたないながらも、やりとりは寝くなるまで続いた。
この村を牛耳っていた屈強な山賊たち50名余り(ボス含め)は真也が全員縄で縛り、牛小屋に監禁してある。
意識が戻った輩も何人か居たが、完全にノックアウトされたボスの姿を見た瞬間、戦意喪失して黙り込んだ。
そう言えばもう一人逃げていった部下が居たような気がするが、どこにも見当たらなかった。
この村から逃げたのだろう。
何にせよ、敵の大将を仕留めたらもっと早く解決したのかもしれないと感じた真也だった。
とりあえずは早く警察に突き出してもらえるようにお願いしよう。
今この村じゃ近くの国家機関まで飛んで行って、輩たちを突き出せるような馬力のある人間がいない…。
“若者がいない”っていう状態があらゆる行動を停滞させ、難しくさせているという事実にも気づいた。
* * * * *
「静那っ!大変だ。ちょっと一緒に聞いてくれ!」
食事を終えた2人は、あれから村人たちとなんとか話がしたいという事で、ゼスチャなども交えながら一生懸命会話をしようと試みていた。
ペルシャの言語は発音も独特で、日本語と全然違う。
今から言語を覚えるのは難解な言語だ。
紙にイラストを描いて見せるなどしつつ、本当に少しづつ少しづつ言葉を通じ合わせていくという難解なやりとりだった。
その最中、真也が聞いた情報で気になることがあったのだ。
いざ静那を呼んだものの、静那はまだ一人で体をうまく動かせない。
村にあった“火傷に効く薬”を体中に塗ってもらった後、毛布に包めてサナギみたいになっていた。
サナギのフォルムのままの静那を抱え、自分が話していた村人の横サイドに陣取らせる。
「ちょっと気になる話を聞いたんだ。ここからは一緒に聞いてほしい。」
「うん。」
静那は小さく返事をした。
そこから2人はその村人の話を真剣に聞く。
話の内容…それはまだ完全に言葉が分からないので内容の誤差はあるものの、要約するとこんな感じだ。
『確か一週間ほど前、あなたと同じような肌の色の人間が7人。この村に連れてこられた。
その後、恐らくではあるが彼らの本部に連れていかれた。
女の人が肩に怪我をしていて痛そうだった。』
…という内容だ。
その後何度も内容の確認を交わした。
この短い内容を完全に理解するまでに1時間近くもかかったのだが確証が持てた。
どうやら先輩方は無事だ。
しかし…
「真也、急がないと…」
静那が穏やかな口調で話す…が、顔は泣きそうだ。
真也も静那が回復するまで待ってる場合じゃないなという表情で
「うん!すぐにでも出発しないとな!」
と言って安心させる。
しかし助けに行こうとしているのを表情で察した村人が慌てて助言する。
村人といっても老人だ。
『我々にはアジト本部の情報が無い。申し訳ない。
ただアジトは危険。それは本当。
どうしても行くなら、他の村で情報を得てから行く事。コレ絶対!』
…だそうだ。
さっきよりも早く理解できた。
焦る2人の気持ちを汲んだのか、老人は急いで自分の家に走って戻り、アジトまでの地図を持ってきてくれた。
地図を交えてまた長い対話が続く。
『ここはアジトからは東に位置する村。
この村からまっすぐ西に進めばいずれは本部に到着する。
でも本部にいきなり入るのは危険。
それは絶対にやめてほしい。
本部がかかる川にそって南・下流側に修道院、北・上流側に大きな村がある。
どちらにも一人ずつ、アジトから逃げ伸びてきた若者が潜伏している。
どちらでもいいのでまず彼に会ってほしい。』
という内容だった。
精いっぱいの彼らからの助言だろう。
とにかく他の老人からも『アジトは危険』という言葉をしきりに言われた。
どうもアジト内に乗り込んできた人間に対して様々な仕掛けという名のトラップが施されているらしい。
おかげで“アジト(基地)”と“危険”という言葉を一番に覚えた。
「早く行こう!」
静那が自分の事は良いから今からでも村を出ようと急かす。
でも真也は首を横に振る。
「明日のお昼までに村の人が火傷の薬をありったけ持ってきてくれるって話をした。
喉から手が出るほど火傷の薬が欲しかったんだ。
だから村の人が用意してくれるまではここでゆっくり休んで備えよう。」
「そんなのはいい。早く出ようよ真也!」
小さい声だが本当に心配そうな顔をしている。
先輩たちの事が気が気でならないんだろう。
あれから随分経った。
本部に連れていかれて何をされているのか分からない。
今にも泣きそうになっている。
それでもサナギになっている静那の顔をしっかり見て真剣な顔で言う真也。
「気持ちは分かる!僕だって一刻も早く助けたい。
でも静那だって同じくらい大切だ。な。今日はしっかり寝よう。
そもそも静那の大好きな先輩達がそんなにすぐ死んだりなんかするかよ!気をしっかり持てよ!」
今までの真也は静那の言う事にはただただ尊重してあげていた。
でも今回の様に少しキツめに言ったのは初めてかもしれない。
目の前の感情に流されてほしくなかったからだ。
その数時間前、静那の体に火傷の薬を塗った時も同じだ。
静那は「自分で塗るからいいよォ」と頑なに恥ずかしがっていたが、両腕をまだうまく動かせない状態。
前側はともかく背中の方の火傷はまだかなり酷かった。
真也は躊躇なく静那に後ろを向かせ、やや強引に服をめくりあげた。
そして背中の大きな傷の事など何も言わず、無言で薬を背中に塗り続けた。
顔を真っ赤にしてうつむく静那…でも火傷が早く治るなら…早く治って痕にならないのなら…今は静那の気持ちやそれ以外の事は関係ない。やっと念願の火傷薬が手に入ったんだ。
食事よりも休憩よりも何より一番にやりたかったことだ。
今まで静那に対してどこか遠慮していた真也だったが、大切な事だと感じる場合は自分の気持ちに素直に従うことにした。
あの日の夜、静那が自分の気持ちを真也に向かってさらけ出してくれたように…
こういった経緯もあり、今までと違った強い口調で言われた静那は大人しくなった。
静那も完全に納得したわけではない。
でも“助けたい”っていう気持ちは、真也も同じくらい強いというのが理解できた。
真也は村人達に、明日“上流側にある村”へ一旦入るため、薬が届き次第ここを発つという旨を伝えた。
バイクなどのガソリンで走る乗り物は全て壊されてしまったそうだが、自転車なら用意できるという事だ。
夜だというのに、子ども以外の老人は、彼の出立を村全員でサポートできるように準備を始めた。
救ってもらった彼に、精いっぱいのお礼がしたかったのだろう。
彼(真也)はまさにこの村の救い主なのだ。
その夜、2人は久しぶりにフカフカの布団で寝る事が出来た。
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