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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season1【A面】
43/228

21-2 萌える闘魂

【21話】 Bパート

兼元の体調が完全に戻ってから2日が経った。


もう3人とも問題なく動ける状態に戻ったのだ。


生一達がかくまわれていた修道院では、決して贅沢ではないものの、パンや温かい芋を研いだスープなど献身的に食べ物を出してもらった。


兼元がまだ「アウチアウチィ」とか言ってネイシャさんにスープを“あーん”して飲ませてもらっていたっけ。


小谷野が真っ赤な形相してた。


「オマエ後から蘇生した権利行使して、ああいうテクニック使うんどうかと思うわ。そういう事するんなら俺にも考えがあるし~」


そう言った後、ネイシャさんの所に直行し、日ごろの感謝とか言ってネイシャさんを“入念にマッサージしようか”という提案をかましていた。


ネイシャさんは2人以外にも、両親をあの要塞に連れていかれたため孤児となっている子ども達の世話も受け持っていた。


そういうこともあり結構疲れが溜まっていたらしい。


『じゃあ、ここは素直にお願いしようかな。』


すんなりOKしてくれたわけだ。



首元のチャックをうなじが見える状態まで降ろし、震える手でネイシャさんの肩口に触れようとした小谷野。


傍から見たら変態の何物でもない手つきだった。


まさにマッサージせんと彼女の首筋に振れようとしたその時、兼元が叫んだ。


『ネイシャさーん、子ども達が泣いてまーす。ちょっとお願いして良いですクゥア~?』


ネイシャさんがスクッと立ちあがって


『あの子たち…仕方ないなぁ。あ、小谷野君ごめんね。ちょっと行ってくる。』


首元のチャックを直しつつ、そのまま子どもたちのいる聖堂会館へ小走りで移動したネイシャさん。




その後姿を見て小谷野は兼元を睨みつける。…今回はマジだ。


「そろそろ軽量級のお前には分からせてやらんとなぁ。この先俺様の前に立ちはだかるんならよォ。」


「アン?やる気かあぁ?表出ろやコラ。デカいだけで勝てる思てんのか?あぁ?」



「バン!」と机をたたき、こちらに意識を向けさせる生一。



「お前らさぁ。あのデブに秒殺されたん忘れたんか?なぁ。お前らええ加減優先順位考えろ!

ええか?体力戻ったんやしそろそろ俺ら動かなアカンやろ。勇一達置き去りにしてんやで。」


兼元の顔色が途端に少し暗くなった。


「それに関してやけどよ。もう生一だけで行ってくれへんか?」


「なっッ?お前…」


「…もう俺、“ネイシャ命”やねん。命かけて俺の看病してくれた彼女とマジで結婚したい思てる。

……俺、本気やで。

ここに残るのも辞さん気持ちや。ごめん…俺の愛…本気やねん。愛とか恋とか言えるナリちゃうけどさ……今は言える…。本気で好きや!…って…。」



「俺も…すまんけど正直本気やねん。あの子と結婚できるんやったらもうなにもいらん。全てを捨ててでもここで彼女と幸せになれるんやったら居たい…って思いが芽生え始めてる。

ごめん、生一……俺も、マジで苦しいくらい好きやねん。こんなに人を好きになったの初めてやねん。もう日本戻って大学とかどうでもええくらいに好きやねん。」




「じゃあ静那の事は?どうなんよ!」


「あいつは嫁1号やねん。そんでネイシャさんが嫁2号。」


「オマエらここまで最低やとは思わんかったわ。皆がまだ生きてんねんで。何とかしようと思わんのかよ!」


「そんなん……お前やて肌合わせてさ。見たやろ、あのハイキックの奴とか、あと……あの……デブ。」


「怖いんか?」


「あ…ああ。怖いよ」


小谷野は即答する。


「お前が俺らのメンバーやったら一番体が大きいねんで。それやのにそんな情けない事言うなよな!」


「うっさいわ!あいつどんだけバケモノかお前も思い知ったやろ。

俺さ…あいつ目にしたとき足が震えてションベン漏らして…おまけに怖さで肩震わせて…もうどうひっくり返っても倒せるわけない思ったよ。結果…箸にも棒にもひっからんかったし…そのまま殺される思た。


でも彼女は全てを忘れさせてくれるねん。今の俺には彼女が全てやねん。何言われてもええ。彼女が好きや。1号とか2号言うたんは真面目にあかん事や。けどな…もう死ぬような思いしたくないねん!

彼女が大事やって思ったら思う程、もうええやんって感じる。俺のさ…この“怖い”って気持ちをさぁ、お前は全否定するんか!俺の正直に沸き上がる感情に対して真っ向から否定するんか?なぁ!」



小谷野がこんなに具体的に自分の心情を吐き出してくれたことは無かった。


だから生一は何も言えなくなった。


睨みつけるわけでもなく、じっと2人を見る。




そこへネイシャさんが戻ってきた。


『兼元さんっ。子ども達泣いてなかったみたいよ。きっと遠目で見てて心配で声をかけてくれたんだと思うけど、子どもたちの中での事なんだから彼らを信じて見守ってあげようよ。

どうしようもなくなった時に大人が“一声”かけてあげたらいいんだから。』



怒る様子もなく兼元に呼びかけた。


「そうだね~」と表情を恵比寿顔に変えて頷く小谷野と兼元。


その様子を見ながら生一はそっぽを向いている。


そして2人に聞こえるように日本語でつぶやく。


「じゃあお前らはここいろ。

………マジで好きなんやろ…やったら止めたりせんよ。おればいいやん。俺は明日には出て行くから。」


「生一…」



「マジで怒ってへんから。

お前らの気持ちを尊重しただけや。そりゃあ怖いよな。殺されかけたもんな…あのデカいんに。」



そのまま生一は食堂横にある寝室へ消えていった。


『キイチさんどうしたの?』


ネイシャさんが聞いてきた。


『いや…あいつちょっと用事があるんで…明日先に出るって言ってまして。その確認で。』


小谷野が答える。


『そう…でもこの辺一人は危ないよ。野生の…』


『いや、あいつが自分で選んだ事ですから大丈夫ですよ。』


兼元も気にしなくていいという感じでネイシャさんにフォローを入れる。




* * * * *




その夜、近隣の老人も招き、夕食を囲んだ。


子どもも混じり結構な人数になったが、この日のメニューも質素だった。


モヤシとパセリのお湯みたいなスープとパンではあったが、みんなで食卓を囲むと気持ちも和む。


貧しいながらも子ども達の世話をしながらなんとか生きていこうとしているのが分かる。



兼元、小谷野はネイシャさんの両サイドにぴったり座る。


…静那の時とまるで同じだなと少し静那の事を思い出す生一。


その生一は少し離れた場所に座り、無言で夕食を摂る。


これが3人での…最後の晩餐となってしまうのだろうか。




ふとドアを叩く音がした。


元気になった生一達3人を紹介する為、隣町の老人も呼んでいたのだ。


「そういえば呼んでたな♪」という表情でネイシャさんはドアを開けた。


ドアの向こうには思った通り隣町の老人が立っていた…が、表情が冴えない。


生一達が遠目から見て、どうも怯えている感じだった。


その老人はなにやら切羽詰まったような感じでネイシャさんや他の大人に向けて話始めた。


しかし生一達は言葉が分からない。


話が終わった瞬間、ネイシャさんは険しい顔になり生一達に向かって指示を出した。


『今すぐこの食堂の屋根裏に隠れてッ!早く!』


意味を理解した小谷野と兼元が生一の手をつかみ、すぐに屋根裏に移動する。


屋根裏はわずかに下の様子が見える隠れスポットとしては申し分ないスペースだった。




* * * * *




程なくして…


屈強な男達が修道院の食堂に乗り込んできた。


生一達が見て一発で分かった。


あの山賊軍団“バーサビア”の一味だ。


山賊たちがネイシャ達シスター数人に問い詰めている。


誰かを探しているようだ。


逃げた誰か…なら…もしかして俺達!?


ネイシャは両手を肩のあたりで広げて必死に“知りません”アピールをする。


周りの表情や口元を見る限り“知らないですから帰って下さい”という感じだ。


しかし“バーサビア”の連中は不審な顔をしてなかなか引き下がらない。


そのうち子どもの一人が泣き出した。


うるさいとばかりに子どもの所へかけより蹴ろうとした男性。


それを身代わりになって蹴りを腹部に受けるネイシャさん。


「あ!コイツッ!」キレた顔になる小谷野と兼元。


顔がプルプル震えていた。


腹を蹴られたネイシャさんだったが子どもの前に仁王立ちになり、何やら発言している。


おそらく“子ども達は関係ないから手を出さないで”ということだろう。


立派なシスターだ。


「(まぁ、見た目だけじゃなくてこういうトコに心底惚れたんやろな…)」と感じる生一。



だが次の瞬間信じられない暴挙に出た。


ネイシャさんの腕を乱暴に掴んだかと思うと、軍団の輪の中に引き込む。


そして鉄製ではないが、手錠のようなものがネイシャさんに括りつけられた。


ネイシャさんは一気に怯えた目になった。


「あの野郎ッ!殺す!」目を血走らせながら2人はこの狭い屋根裏から飛び出そうとする。


その時生一は彼らの頭をグイッと思いっきり力づくで引き止め、耳元であくまで小さい声で怒鳴る。


「堪えろ!全てを無にする気か!ネイシャさんのとっさの対応に対して!」


その声を聴いて2人は堪えた。


しかし目が血走っていて、拳が震えている。


爆発寸前のようだ。


「あそこよう見ろ!」


あくまで小声で言った後、生一は2人の頭をつかんでドアの方を見るように仕向ける。


そこには30人程の山賊たちがスタンバイしていた。


ムチを持っている奴もいる。



この難局をもしかしたら切り抜ける事ができる…かもしれない。


でも、ここにいる子ども達は守りきれるのか?


他のシスターや老人たちは?


そういう少し俯瞰した考え方が、この待機している30名の山賊達を目にしたときに頭に浮かび上がってくる。



結局、人質としてネイシャさんは捉えられ、連れていかれた。


ネイシャさんは美人なので、あいつらにどんな事をされるのか…考えるだけでも怒りがこらえきれなくなる。


すぐにでも要塞に乗り込んで彼女を奪回したい。


…そう感じる小谷野と兼元。




ようやく30名ほどの“バーサビア”の連中は闇の中に消えていった。


一番子ども達の面倒を見てくれていたネイシャさんを失った修道院内は子ども達の鳴き声が響き渡った。


奴らが居なくなったことを確認して、狭い屋根裏から3人は姿を現す。


ネイシャさんのやったことだから…ということで皆、東洋人である生一達3人を責める事はしなかった。


それでも生一は土下座のような形でシスターや老人一人ずつに丁寧に謝り、そしてゼスチャを交えながら聞いていた。



「あいつらが何を言っていたのか。全て教えて下さい」と。


そこからの翻訳は時間を要したのだが“バーサビア”の突きつけてきた要件はなんとか理解できた。




まず、ネイシャさんが機転を効かせることで、ここに東洋人は来ていないと伝えた。


結果3人は捕まらなかった。


しかし、これから10日以内にこの周辺に逃げたであろう4名の東洋人を探してきて差し出せと。


そうでないと、このシスターを10日目に処刑するという事。


逃げた東洋人は4人いる。彼らはこの周辺にまだ潜伏しているはずだという事。


近隣の村を回ってしらみつぶしに探しているという事…




「?」



“4人”という言葉がひっかかった。



でも4人目は…あの八薙も脱出してどこかで生きているって事だ。


生一は少し安堵した。


しかし小谷野と兼元はそんな事などまるで頭に入らない。


怒りで目を血走らせ、ずっと体を震わせていた。




* * * * *




「八薙はなんとか脱出して生きとる。俺はあいつと約束した。

俺はやる。一人ででもな…。おまえらはどうする。やるか…それとも逃げるか…逃げても咎めー」


「誰が逃げるかよ。ああん?」


生一が話終わる前に小谷野が応えた。


「ああ…あいつらは俺の命よりも大切な人に手を出しやがった…絶ッツ体に許さん!」


これまでと目つきが違う。



「ただ、確認しとく…。あのアジトにはあのデブも…ハイキック野郎もおるねんで…ネイシャさん助けに行く過程ではち合うんは不可避や。怖ないんか?」


「生一…俺“あの子命”言うたやろ…俺の覚悟なめんなよ。」


「あいつら確かにバケモノやった…でも9日も猶予あるねん。絶対に勝つ手立てはあるハズや。」


「あぁ…逆に9日も猶予をくれやがった事、後悔させてやる。」


「おう、ええ返事や。心の方は仕上がってると見てええねんな。俺も正直ネイシャさんは命の恩人や。好きに決まっとるやろう。

命を懸ける価値がある子や。脳内ではもう5人家族で暮らしとるイメージすらある!」


小谷野と兼元が目で相槌をうつ。ツッコミナシだ。


「ええか。俺は一人でも乗り込む覚悟で考えてた。その為の作戦もある。そして時間ボーナスも出来た…。今から俺のビジョンを全て話す!全部言うた後から早速トレーニングや!日本人の底力…見せてやろやんけ!」


「おう!俺に後れを取んなよ!」


「やり切ってから言えボケが!今度こそただのデカブツやないっていうの証明してからにせえ!」


「………分かったわ。今の俺は何も言う資格ないしな。何でもしたるよ。」


2人ともまるで剃刀のような鋭い目をしている。言い訳も一切ない。


完全にやることが決まった。


「2人に作戦話す前にやることがあったわ。」


そう言って村の方々を呼び止める。



丁度隣町からも老人ばかりだが村人が集まっている。


先ほどあいつらが“言っていた事”以外の情報、そして確認したいことがある。




生一が聞いていたのは…


地理的な事。


今いる現在地点や、要塞までのルート。


そして少しでも要塞内の構造を知っている人はいるか?という点。


村人の中に、30代中盤くらいの若者が一人混じっていた。その若者は当時集団で連れてこられ要塞の地下牢で働かされていた経験がある。


だが途中、奴らの中継地での臨時の労働者として連れ出された。その時にスキを見て脱出してきたそうだ。


だからその若者は宮殿内の大体のマップを知っていた。




この話が一番の収穫だった。




情報を村人と確認した後、生一は村人にゼスチャを交えて伝えた。


『自分たちはこれから作戦を練り、体を鍛え、10日目の夜明けにあの要塞に乗り込む。ネイシャさんは勿論、捕まっている村の女性を奪回する!』と。


村人はもちろん“たった3人ではどう考えても無茶だ”と言った。


向こうは武器も大量に所持している。それに村の女性は人質である。“あなたたちが死ぬ以前に、反逆行為をすれば見せしめに彼女達が殺されてしまう”という反対意見が多かったのだ。



「だからまずは武器庫を破壊して…」など生一は説得という名の説明をするが、たった3人で仮に乗り込めても攻略すること自体が不可能だと言われた。その後、罪のない女性たちがそのとばっちりを受けてしまうと…



「だからって黙ってネイシャさんが処刑されるのを待つのかよ!」


元々お互いの言葉が分からない状態での会話だ。


生一はなかなかコミュニケーションがうまくいかないもどかしさもあるが、「そんなに報復が怖いならもう自分達だけでやる!」と啖呵を切って他の部屋に行ってしまった。


2人も一緒についていった。


「英語も話せるネイシャさんが入ってくれていたら村の人とももっとスムーズに話できたのにな…」と生一は悲しげにつぶやいた。



村人と生一達……問題は共通しているのに、足並みが揃わない…




* * * * *



改めて、生一の提案で10日目の夜明け前に奇襲をかけることで決定した。


見つからないよう、トレーニングは夜から明け方が主。


夜明け前の奇襲ということで、夜目を鍛える意味合いもある。


日中は屋根裏の見つかりにくいスペースで睡眠&精神修行。


9日目までは己を限界まで鍛える。


その後は最後の作戦を練った上、アジトに潜入する。


死ぬ気でトレーニングと戦う者の極意を注入することを誓った。



* * * * *



一方、いち早く脱出に成功していた八薙はバーサビアの連中よりも一足先に近隣の村を駆け回り、要塞の地下で起こっている実態を伝える。


幼い子どもと老人ばかりになってしまっている近隣地域の過酷な現状も知ることができた。


労働者として捕らわれた村人、村の女性を奪還するために近隣の村と連携を取るべく奔走していたのだ。


かくして巨大な要塞から無事脱出出来た4人。


革命戦争への準備が進みはじめた。

【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は大いに勇気をくれます!


現時点でも構いませんので、ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです!


頑張って執筆致します。よろしくお願いします

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