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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season1【A面】
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2-1 夜

【2話】Aパート

夜の病院は、どこか異様に静かで不気味だ。



日本と違い、海外の病院は総合病院といえども全体的にコンクリート造りでやや殺風景である。


夜勤以外の看護師の方はとうに帰路についている。


まだ病院では“夜勤シフト”という考え方が無い時代なので、警備をする駐在員が病院の入り口付近で寝泊まりしているだけだ。もちろん夜は寝ている。





---ここからは真也君の記憶。



シーナが奇跡的に意識を取り戻したのは、一週間後の事だった。


実に6日間も生死の淵を彷徨っていたのである。


意識を取り戻し、ベットから半分起き上がった姿を見たとき、僕は涙が止まらなかった。


「ごめんなさい」をひたすら繰り返しながら泣いていた。


諭士さんに言わせたらその様は号泣に近かったと。


そんな彼女もまだしばらくは傷が塞がっていないため退院ができず、暫くは車いすの生活になった。


だから日本に帰るのはもう少しだけおあずけになった。


シーナは優しい表情で涙を流して謝る僕をじっと見ていた。


「大丈夫だよ」という言葉。


少し微笑んだ表情に見えたが、居なくなってしまった父親の事を想ってか、どこか心ここにあらずという感じにも見えた。



かろうじて一命は取り留めた。


しかし彼女はそれ以上に深く傷ついていたんだ。


僕は諭士さんに彼女を元気づけるために何か出来ないかと相談した。


諭士さんは思いついたら教えると告げ、まずは君自身の生活リズムを日本に居た頃に戻すように諭された。


諭士さん自身もシーナの話し相手になったりして、彼女の心理カウンセラーのような役割をしていた。


そう言えば、シーナが治療を受けている間、僕がずっと傍にいたという話をしてくれたらしい。その時は嬉しそうな顔をしていたと後で話してくれた。


でもお父さんの安否が分からいという事実はすぐにシーナの表情を曇らせた。


シーナの家族…


お母さんは…いるのだろうか…。


シーナの国は内戦中とかいう話だったから、おそらくたった一人の家族だったのだろう。


自分も物心ついた時から両親の顔を知らない。


熊本県にある諭士さんの孤児院に赤ん坊のころ預けられたらしく、その後しか記憶が無い。


だからよく分からないけど“親がいる”ってのは子どもにとっては大事なんだろう。


僕にはその大切さが分からないけど、シーナの元気な様子が出会った頃と比べて目にみえて無くなったのを感じていた。


でも退院日が迫るにつれ、気持ちを吹っ切るためというのもあると思う。


諭士さんから日本語のレッスンを熱心に受けていた。


このままじゃ学校で日本語がきちんと理解できなくて困る…そういう焦りから気持ちを勉強に集中させていた。


シーナは退院出来たらすぐに日本の小学校へ編入させることになっていたのだ。


その辺は諭士さんが既に手続きを出していた。


僕は…というと、シーナに日本語を手ほどきできるくらいの力は無かったから、諭士さんの邪魔はしないでおこうと病室から離れていた。



その間、諭士さんから頼み込んでもらい、病院内の積み込み作業など肉体労働を進んで手伝った。


周りの大人達からは「まだ子どもなのに~」という目で見られていたのだけど、何か体を動かしていないと不安でたまらなかった。


毎日湧き出てくる恐怖心と戦うかのように体を限界まで動かし続けた。


そのうち体が強くなったという実感を得られたら不安が少しだけ消えた。


…まだまだほんの少しだけど。


それに夢中で体を動かしている間だけは“あの時の悪夢”から解放されたような気がした。



相変わらず悪夢から何度も夜中に目が覚めるけど、やっと少し眠れるようになった。



病院内でのお手伝いの後は、シーナちゃんの車いすの担当をさせてもらった。


諭士さんの指導を受けながら彼女を車いすからベットに移動させるなど、介護福祉士の初級でこなすような対応はすべて引き受けた。


少し慣れてきた日本語で

「しんや、ありがとう。」と言ってもらえるのが何よりも嬉しかった。


諭士さんからの受け売りだけど、“会話のキャッチボールも日本語の練習として大切なことだ”ということで、きちんと返事もする。


「どういたしまして。お大事に。」


簡単な日本語のやりとりを実践して、覚えてはまたやりとりするという形でシーナの言語能力は少しづつアップしていった。


振り返ってみるととても嬉しかった。


シーナが日本人である僕らと話をするために一生懸命日本語を学んでくれている。


その姿がとても嬉しかった。




* * * * *





夜の病院というものは何とも不気味だ。


でも何かあればすぐに対応出来るように準備は怠らない。


専門的なところはサポート出来ないが、真也はすっかりシーナの専属サポート係になっていた。


そろそろ消灯時間だということで、真也が部屋の明かりを消すために病院内の蛍光管理棟へ行こうとする最中、静那のいる病棟を確認。


そこでは、窓からずっと夜空を見ているシーナの姿があった。


きっと行方不明になったお父さんの事を考えているんだろうか…と感じるような表情の掴めない顔。




管理棟へ行く途中、シーナの病室に入り声をかけてみる真也。



「どうしたのシーナ。眠れないの? …明かり、つけとこうか?いやいや、明かりをつけましょうか?」


「明かり?大丈夫だよ。明かりは大丈夫。」



“大丈夫”の使い方をよく理解している。“結構です”という意味合いだ。


真也の方に振り向いて返答した後、また星を見つめるシーナ。


「星がきれい。」


そうつぶやいたシーナを見てピンと来たのか、真也はある提案を言い出す。


「屋上に行かない?もっとたくさんの星、見えるよ。」


“行く・見る”などのジェスチャも加えながら説明する。



「星、見たいな。」


よしきたとばかりに真也はシーナを無理ない態勢でおんぶする。


シーナが衰弱しているからなのか、自分が普段重い荷物を運んだりして体を鍛えているせいなのかは分からないが、彼女の体はすごく軽く感じた。



少し早い足取りで屋上へシーナを連れていく真也。



やがて屋上にやってくる。


そこでは全てを包み込むような光が夜空を彩っていた。



屋上のベンチにまずシーナを座らせ、星空が見やすいような姿勢に調整する。


星を見ながら真也は少し興奮気味に話す。



「夜は特に星がきれいなんだ!星がいっぱいだろ。」


「夜?」


「そうだよ。夜だよ。皆が寝てる夜!夜は寝る時間なんだ。」


「夜は皆寝る?」


「そうさ。夜は皆寝てるんだ。今世界中で起きているのは僕とシーナだけだ。」


「私…とシンヤだけなの?」


「そうさ、皆寝てる。僕たち2人だけ起きている世界。夜だ。」


「2人だけ…起きてる?」


「そうだよ。起きているのは世界で2人だけ。すごいことだろう。僕ら以外はみーんな寝てるんだ!」


「うん。すごいね。夜に起きてるって…2人しか起きてない世界って…すごいこと…」



まだ会話らしい会話はそんなにしていない。だからどう伝わったのかは分からない。10歳の子ども同士の会話だが、シーナの声色が少し明るくなったのを感じた。


真也なりに必死に元気づけたかったのだ。


少しでも元気になってほしい…自分はシーナのお父さんの代わりなんてとても務まらないけど…それでも…




星の輝きが優しく感じた。




シーナが軽くあくびをしたので、態勢を戻しておんぶする。


「そろそろ寝ようか?みんなと同じように。」


「うん。」


「冷えないようにしないとな。」



シーナとはじめて出会ったあの日からどれくらい経っただろうか…。



久しぶりに彼女と心を通わせることが出来たように感じた。



彼女の声が少しだけ明るくなった…。




寝室へ戻るまでの間、真也は嬉しさを噛みしめていた。



少しでも彼女の力になれた事が、ただただ嬉しかった。

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