1-3 脱出
【1話】Cパート
目が覚めると、そこは白く、消毒液の匂いが鼻を突く病院の一室だった。
どこからか聞こえる異国の言葉。
逃避行の記憶は、断片的な映像として真也の脳裏に焼き付いている。
瀕死のシーナを担ぎ上げ、銃声が響く中を車で強行突破したこと。 後部座席で冷たくなっていく彼女の名を、喉が枯れるまで呼び続けたこと。
「シーナは、まだ眠ったままだ」
病室に入ってきた諭士が、重い口を開いた。彼女は奇跡的に一命を取り留めたものの、深い昏睡状態に陥っていた。 真也は、ベッドの横で震える拳を握りしめる。
「僕のせいだ……僕が、あんなところで遊ぼうなんて言ったから……」
「真也君。君が叫んでくれたから、助かったんだよ」
「違う! 僕が……僕がもっと強かったら、あんなことにはならなかった……!」
拭っても溢れ出す涙が、シーツを濡らす。
あの時、自分はただ震えて、彼女に二度も守られた。
彼女の背中を切り裂いた刃の音。顔にかかった血の熱さ。
そのすべてが、自分の「弱さ」の証拠に思えてならなかった。
諭士が去った後、真也はそっとシーナの手に触れた。包帯に包まれ、点滴が繋がれた細い手。けれど、そこには微かな、しかし確かな体温があった。
(……温かい)
その温もりに触れた瞬間、真也の脳裏に昨夜の光景が蘇った。
薪ストーブの前で泣いていた彼女。
かける言葉が見つからなくて、それでも必死に振り絞った自分の声。
『……日本、来たら……。ぼくが……いるから』
あんなに大きな口を叩いたのに。守ると約束したはずなのに、自分は一番肝心な時に、彼女の後ろに隠れて震えていただけだった。
「ごめん……ごめんね、シーナ……」
彼女の手を握りしめると、止まっていた涙がまた溢れ出した。 昨夜の約束が、今の自分の不甲斐なさを突きつけてくる。
窓の外は、深い闇に包まれている。
いつまた「あいつら」がやってくるか分からない。
その恐怖で、目を閉じることさえ恐ろしかった。
けれど、握りしめた彼女の手の感触が、真也の心に小さな、けれど消えない火を灯した。
(僕たち、これからどうなるんだろう……)
彼女を握っていたその手は……やがて震えているんだと気づく。
未知の不安に押しつぶされそうになりながらも、少年の胸の中には、これまで抱いたことのない、剥き出しの意志が芽生えていた。
「強く……なるんだ!」
二度と、大切な人の盾に甘んじないために。怖くて震えるだけの自分を、ここで捨てるために。
あの時の弱い自分から決別するために。
真也は、涙を拭わぬまま、暗闇の先を見つめ続けた。
ED曲:ふたり ♪いきものがかり
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