表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: SHUSAKU
season1【A面】
39/239

18-2 静那

【18話】 Bパート

ーーーこれは静那の意識の中なのだろうか。


どこか遠い国の、軍事拠点で起こった出来事。



施設内に、刺すような警報ブザーが勢いよく鳴り響いた。


この基地に侵入者が現れたことを告げる合図。


誰かが、攻めてきたのだ。


相手は高度に連携を取って動いている。5人ほどの、選び抜かれた精鋭たち。


エリアに侵入するや否や、彼らは瞬く間にそれぞれのポイントへと散り、各々の役割を冷徹に果たしていく。


そのうちの一人が、爆風が渦巻く中、中枢の施設まで単身で乗り込んできた。


軍人としての訓練を十分に積んでいるようで、一挙手一投足に一切の無駄がない。


彼は施設の急所を完全に把握していた。


周辺の人間が駆けつける前に、すべてを終わらせるつもりなのだ。


やがて、巨大な鉄格子の前に到達した一人の軍人は、小型の銃を構え、鍵穴を狙った。


銃に特殊な細工でもしてあるのだろう。


不思議なほど簡単に、頑丈な鉄格子は粉々に砕け散り、扉が開かれた。


薄暗い部屋の中にいたのは、二人の子どもたちだった。


一人は、男の子。ひどくやつれ果てていて、幼い子どもなのに、白髪のような真っ白い髪をしている。金髪ではない、生気を失った白髪だ。


もう一人の女の子の方も、同じように真っ白な髪を乱し、ひどくやつれていた。


二人は、怯えた瞳で侵入者を見つめた。


「時間が無いから、手短に言う。

君たちを、助けに来たんだ。事情はすべて知っている。心配しなくていい。

今まで、本当に辛かっただろう。おじさんを信じて、ついてきてくれ!」


男は、切実に訴えかけた。


目の前の二人は、どう見ても10歳にも満たない子どもだ。これまでの生活が本当に地獄だったなら、救いの手を拒む理由など、どこにもないはずだった。


けれど、白髪の男の子は、静かに首を振った。


やつれた顔ではあったが、しっかりとした受け答えをした。


「……僕らが二人ともいなくなれば、あいつらはまた替わりを、誰かを誘拐すると思う。

だから、二人一緒には行けない。

おじさんが本当に僕らを助けてくれるのなら、この子だけ、連れて行ってほしい」



ドォン!



背後で、激しい爆発音が響いた。音はすぐ近くまで迫っている。


あまり考える猶予は残されていなかった。


子どもの瞳をじっと見つめ、その軍人らしき男は、一言だけ問いかけた。



「……君は、本当にそれでいいのか。最後に、確認させてくれ」


「いい! この子だけでも!」


男の子は即答した。迷いは、微塵もなかった。


これ以上、理由を聞いている時間は無かった。


男は、女の子の方へ視線を向けた。


彼女の胸元の名札には、「Schina 」という文字が書かれていた。


「信じてくれ。絶対に、二度と辛い思いはさせない」


男は短く告げると、その名札をつけた少女の手を取り、走り出そうとした。


けれど。


「待って!」


その少女は、その手を強引に振りほどいた。


「……嫌なのか? おじさんのことが信じられないか?」


男の問いに、少女は違うと激しく首を振った。


彼女は、すぐに近くに落ちていたカッターナイフを手に取った。


何をするつもりだ、と男が息を呑んだ次の瞬間。


少女はカッターの刃で、自らの髪の一部を、バッサリと切り落とした。


そして、不器用ながらもそれを一房に結ぶ。


彼女はその切り取った髪を、残される男の子の方へと手渡した。


「生きて! 絶対に死なないで!!」


やつれきった、けれど精いっぱいの声を、彼女は男の子に浴びせた。


「いいかい? 行くよ!」


「はい」


男の子は、渡されたその髪の毛を、ただじっと見つめていた。


こちらを振り返ることは、一度もなかった。


時間がない。


女の子を担ぎ上げた軍人は、施設を後にした。


一目散に外へと飛び出し、事前に決めていた“ポイント”へと移動する。


前方で、信号の光がキラリと瞬いた。


「……ということは、逆側か……」


男は低く呟くと、反対方向へ向かって走り出した。


腕の中に抱えている少女を見やる。


抱きかかえられたその体は、驚くほど軽く、壊れそうだった。


成長期の子どもであるはずなのに、今までまともな食事すら与えられなかったのだろう。


あんな極寒の地に隔離され、大人の……“実験台”として使い潰されて。


親から引き離され、行方も、手がかりさえも奪われた子どもたち。


この子も、想像を絶する痛みを抱えて生きてきたはずだ。


これでは、救いが……あまりにも、無さすぎる。


少女の羽毛のような軽さを感じながら、男はエリアの外へと走り続けた。


ある程度距離を稼ぎ、男の表情にわずかな安堵が浮かんだその時、少女が弱々しく尋ねてきた。


「……おじさんは、誰なんですか?」



男は少しの間を置いてから、答えた。


「お前、忘れたのか? お前のお父さんだよ。お前がいなくなってから、ずっと捜していたんだ。毎日、毎日……

でも、もう大丈夫だ。もう……お父さんがお前を絶対に独りぼっちにはさせない。絶対にだ」


「本当? お父さん…なの?」


「当たり前だ。親が、娘の顔を忘れるはずがないだろう!」


男の声は、わずかに震え、涙が滲んでいた。


「お父さんの名前…思い出せない。ごめんなさい」


「ミシェルだ。もう、親の名前まで忘れるなよ。

親不孝な子だな~お前は」


「でも、もう大丈夫だ。これからは、ずっと一緒だ。

いっぱい、いっぱい……美味しいものを食べような」



やがて、ミシェルという軍人らしき男は、仲間のチームと無事に合流を果たした。


完全にエリアを抜けるまでは予断を許さないが、今のところ追手の気配はない。


無事に、撒くことができたようだ。


「第一次のミッションは、ひとまずコンプリートという所ですかね」


隊員の一人が、ミシェルに声をかけた。


「ああ、セル。ひとまずは、な」


ミシェルは短く頷き、少女を見た。


彼女は、安らかな寝息を立てて眠っていた。安心したのだろう。


ミシェルは少女を背中に背負い直し、その上から自らの大きなコートを羽織らせた。


(…この子の父親になることで、せめて、この子のこれからの人生が救われるなら…)


彼は、心の中で静かに誓った。


(この子には、幸せな人生を送ってほしい。戦争のない、平和な世界で…)


* * * * *


「お前は、本当に綺麗な髪をしているなあ」


二人での暮らしが始まってから、シーナの髪をかすのが、父であるミシェルさんの日課になった。


毎日、飽きることもなく髪を褒めちぎってくれるので、シーナはいつもご機嫌だった。


後ろから優しく髪を梳かしてもらい、彼女はまるでお姫様のような気分に浸っていた。


「シーナ。これからは少し引っ越しが多くなるけれど、心配はいらないよ。お父さんがついている。

絶対にお父さんが、シーナを一人にはさせない」


鏡越しに、シーナはお父さんの顔を見つめた。


何も言わなかったけれど、その瞳には、背後にいる父への絶対的な信頼が宿っていた。


「この地方だと、お前の名前は“ズニャ”というんだな。この前の地方だと“シーニャ”だったのに。随分と違うものだ。お前は、どの呼ばれ方がいい?」


「ん……全部。」


「ははは、欲張りだな。じゃあ、地方ごとにお父さんも名前を使い分けないといけないな」


* * * * *


ーーー舞台は変わり、とある町中の公園。


顔を真っ赤にさせた男の人が、こちらに向かって突進してきた。


さっき通り過ぎた、あの高校の生徒さんだろうか。


彼は隣にいた大きな男性を突き飛ばすと、自分の手を強く握り、走り出した。


「こっちだ」と。


その後、助けてくれたお礼を言おうとしてその人を見たら、彼は自分の目を見て言った。


「髪が、すごく綺麗で驚いた」


日本語ではあったけれど、お父さんに言われた時以来、初めて聞く言葉だった。



後日、自分が通いたい高校が見つかったということで、歩いて真也と一緒に校舎を見に行った時のこと。


「自分を助けてくれた人は、あそこの公園でね……」と言おうとして、自分はその場所を指差した。


そこで、その男の人が倒れていた。


本当に、驚いた。


真也が急いで担ぎ上げ、寮まで戻ってくれた。


自分が涙目になっていたからか、真也はものすごく飛ばしていた。


真也は「あとは静那の役目だよ」と言って二階まで運んでくれたけれど、その後はどこかへ消えてしまった。


その人は、勇一ゆういちさん。


なんだか、お父さんに少しだけ似ているところがある人。


勇一さんは、私の世界に、たくさんの大切な仲間を連れてきてくれた。


変な先輩もいた。


けれど、よく分からない世界をいろいろと教えてくれる。


仁科にしな先輩は反対していたけれど、「世の中には悪い奴もたくさんいるから、“しなやかさ”というやつを身につけておけ」という彼……ボスの言葉が、なぜか心に深く刺さった。


ボスは、お昼休みに屋上に行けば、だいたいいつもそこにいた。


仁科さんは、いつも自分に優しくしてくれる。


男性陣が変なことを言い出したら、すぐに鋭いツッコミを入れて守ってくれていた。


“ボケとツッコミ”という概念を本で読んでもよく分からなかったけれど、彼女を見て「こういうことか」と理解できた。


優しくて、私の話をいつも真剣に聞いてくれる、大好きな先輩。



葉月はづき先輩。


家族がいない自分の境遇を理解しようと、親身に話を聞いてくれた。


体はそれほど大きくないけれど、本当の意味での“お姉さん”。


八薙やなぎ君にはお姉さんな口調で接しているけれど、大事な話をする時は必ず相手をしっかりと見て話す、その凛とした姿が素敵な人。



八薙君は、同級生。


同い年なのに、将来のことをすごくしっかりと考えている。


空手が天才的に強いのに、それを一切前面に出さないところが素敵だと思った。


学校ではそんな素振りを一切見せず、いつも大人しくしている。


葉月先輩には頭が上がらないみたいだけれど、自分の筋は絶対に通す、強い心を持った子だった。



小谷野こやのさんと兼元かねもとさん


私の、初めての旦那さんになってくれた人。


昔、「あんなエグい傷がある子なんて、嫁の貰い手なんて絶対に出てくるわけがない」と言われたことが、実は心の奥でずっと引っかかっていた。


(自分は、一生結婚できない体なんだ……)あの時、自分は深く傷つき、自分の体が嫌いになっていた時期もあった。


けれど、二人はいつも、自分のことを嫁だと言ってくれる。


言うだけじゃない。いつも真剣に、自分の話を聞いてくれる。


……時々、顔がすごく近いけれど。


実は、一緒に服を買いに行った時、更衣室を少しだけ覗いていたのを知っている。


たぶん、背中の傷痕を見られたのだと思う。


それでも、彼らは変わらず、私のそばにいてくれている。



西山先輩、椎原先輩、そして才川さいかわさん。


みんな優しくて、素敵な人たちばかりだった。


西山先輩には、よく勉強を教えてもらった思い出がある。隣には、なぜかいつも椎原さんもいた。


ボスがそれを見てニヤニヤしながら見てた様な…


「これからも二人に勉強を教えてもらえ。“かすがい”」


それは、どうやら彼なりの褒め言葉だったらしい。




才川さんは、自分にお洒落という自己表現の楽しさを教えてくれた、大切なクラスメイト。


女の子のお洒落は、自分を表現すること。それを通じて、見える世界がぐんと広がっていくのが楽しかった。


お互いの世界が広がっていくのを感じるのが、自分は本当に嬉しかった。




誰かのために、自分はここにいていいんだと思えて、嬉しかった。


大好きな先輩や仲間に囲まれて……自分は、幸せだった。



毎日が、輝くように楽しかった。



お父さんに続き、もう二度と、大切な人を失いたくないと感じた。



(……もう、どこへも行かないでほしい。)



(二度と、いなくなってほしくない。)



“みんな”がいればいい。



みんなと一緒にいたい。



みんなに、元気でいてほしい。



それだけを、今、強く、強く感じている。



生きて……いてほしい。



どんな形でも。



生きていれば……いつかは……



* * * * *



真也は、体の限界をとうに通り越してもなお、捜索活動を続けていた。


気が遠くなるような、終わりの見えない作業。


一体どれほどの土砂や破片を、その手で撤去し続けてきただろうか。


意識が再び朦朧とし始めているものの、彼の手が止まることはなかった。


バラバラになった遺体を集め、弔う作業も、ようやく終わりが近づいていた。


並べられた遺体の数は、既に100体を超えている。


昨日からずっと、一人で休みなく続けられてきた重労働。


さすがの真也も、疲労という現実に直面せざるを得なくなっていた。


やがて、二日目の夜が訪れようとしていた。


腕に力が入らなくなり、空腹も彼の体力を削り取っていた。


それでもまだ、静那は見つからない。


視界がぐらりと揺れる中、彼はシャベルを置き、少しだけ手を止めた。


「……ふぅ……」


夜空に向かって、大きく、溜まっていた息を吐き出した。


静那の記憶を、彼はもう一度、必死に振り返ってみる。



“みんな”がいればいい。

“みんな”と一緒にいたい。



彼女はそう言っていた。


(……そうだ。彼女は、そう言っていた。)


もし、自分自身も助かりたいと願うなら、あの瞬間、彼女も俺たちと一緒に飛行機のしっぽの方へ飛び移って着地すれば良かったはずだ。


どうやって機体を切断したのかは分からないが、切り離した直後に飛び移る時間は、わずかだがあったはずなのだ。


(……なんで彼女は、あそこで引き返した?)


真也は、思考の視点を変えてみた。


飛行機が墜落し、真っ先に爆発する場所、火の粉が上がる場所はどこだ。


おそらくは、左翼のエンジン部分。


……そうだ。そのために、彼女は何をした?


(一人でも多くの命を助けるために、彼女は何を…)


(皆が助かるなら。その可能性があるのなら…)


(自分たちを助けたあと、彼女は、あの一か八かの方法でエンジン部分も切り離そうとしたのではないか?)


だから、彼女は前方座席の方へと引き返していったのだ。


真也の視線が、闇の中に横たわる左翼部分へと向けられた。


エンジン部分は完全に焼き尽くされ、そこから機体への引火が始まったはずだ。


その無残な左翼は、森に突っ込み、土砂崩れのような土に覆いかぶされていた。



客席からは離れた場所。翼の付け根の部分。


当然、そこに誰かが乗っているはずなどない。


(…誰も、乗っているわけがないのか?……もしかして……)


真也の心臓が、ドクンと大きく波打った。


震える手足に、彼はもう一度ムチを入れた。


泥にまみれた膝を突き、彼は左翼部分を覆う土砂をかき分け始めた。


体力は、もう底をついている。


残された最後の力を振り絞り、ひしゃげた破片や残骸を取り除いていく。


すべてが、手作業だった。


全焼したエンジン部分は、もう熱を失い、冷たく沈黙している。


土砂で埋まった鋭い破片を、彼は力任せに引っこ抜いた。


「ゔ、ゔ、おォォォッ!!」


声を絞り出し、エンジンに繋がる太いコードや鉄板を、まとめて力尽くで引きちぎる。


渾身の力を込めて引っこ抜いた。


阿蘇の山々で鍛え上げてきた真也だからこそ成し遂げられた、人間離れした離れ業だった。


それでも手を休めることなく、彼は左翼の部品と土砂が混ざり合った瓦礫をかき分け続けた。


何の保証も、確信もない。けれど、彼はただひたすらに瓦礫をかき分けていった。



「っ……!」


ふと、真也の手が止まった。


土砂の中に、わずかな、けれど確かな空洞の感覚があった。


力任せだった動作を一転させ、彼は恐る恐る、指先で瓦礫をかき分けていった。


心臓の鼓動が、激しく、速くなっていくのが分かる。


かすかな、本当に微かな気配を感じた。


自然の中で心身を研ぎ澄ませてきた彼だからこそ捉えられる、生命の予感。


誰かが、そこにいる。


小動物ではない。こんな地獄のような火災の中心に、小動物が残っているはずがないのだ。


真也は、泣きそうな顔で瓦礫を撤去していった。


ドクン、ドクン、と耳の奥で自分の心拍音が響く。


瓦礫をどかしたその隙間に。


焼け焦げ、泥にまみれた、ブロンドの縮れた髪が見つかった。


鼓動がさらに早まる。


真也の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。


土砂まみれの瓦礫をかき分ける手は、さらに加速していった。



その先……



瓦礫をすべて取り除いた、その場所に。



全身に激しい火傷を負い、すべての髪が焼け落ち、土にまみれた女性が横たわっていた。



その傍らには、壊れたイヤリングが落ちていた。


それは……全身焼け焦げた姿の…


「…………静那……し……」


「う゛わ゛わ゛わ゛わ゛わ゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ォォォッ!!」


目にした瞬間。


真也は目を見開き、焼けつくような喉から、声にならない絶叫を、ありったけの金切声で天に向かって叫んでいた。

【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は大いに勇気をくれます!

現時点でも構いませんので、ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです!

よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ