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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: SHUSAKU
season1【A面】
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17-2 追憶の彼方

【17話】Bパート

日は既に落ち、辺りは薄暗い静寂に包まれていた。


旅客機の墜落現場では、未だに収まらない業火が、どす黒い煙を夜空へと吐き出し続けている。


真也しんやの捜索活動は、孤独な闘いとして続いていた。


周囲を焼き続ける炎の明かりが、皮肉にも彼の手元を照らし出している。


「早く誰か、気づいてくれ…!」


これほどの巨大な火災が起きていながら、未だに救助の影すら見えない。ここは、それほどの僻地なのだろうか。

煙を吸い込むたびに、真也の意識は朦朧もうろうとし、眩暈が襲う。


視界を遮る涙を拭い、一旦煙から逃れては、再び中心地へと戻る……その繰り返しだった。


捜索を始めてから、20時間近くが経過していた。


夜の冷気が降りてきたおかげで、ようやく現場の熱が少しずつ下がり始め、当初は近づけなかった機体付近まで足を踏み入れられるようになった。


燻る火種はまだ多いが、鉄の残骸も一部、素手で動かせる程度には冷めてきている。


そして、剥き出しになった機内の凄惨な情景が、月光の下で露わになった。


焼け焦げた死体。そこに、ひしゃげた機体の破片が、無慈悲に突き刺さっている。


真也は、顔の原型を留めていない遺体を、一つ一つ丁寧に調べていった。


* * * * *


親子だと思われる遺体は、決して離さないように寄り添わせる。


バラバラになった部位があれば、それがその人のものであることを祈りながら、一つにまとめる。


そうして集めた遺体を、彼は機体から少し離れた平坦な場所へ、静かに並べていった。


腐敗を防ぐため、そして何よりその尊厳を守るために、上から薄く土を被せていく。


「少しだけ」というのは、後で捜索隊が来た時に、遺族が身元を確認しやすくするための、彼なりの細やかな配慮だった。


何時間も、何時間も。


真也は黙々と、死体の仮埋葬を続けていた。


だが、いくら探しても、静那の姿だけは見つからない。


ふと、黒焦げになった遺体の肩口に、大きな傷跡が見えた。


真也は喉を鳴らし、震える手で焼け焦げた服の断片を剥がした。


……女性だった。けれど、その傷は静那のものではない。


静那ではなかった。


その事実に一瞬だけ安堵したが、絶望的な状況であることに変わりはなかった。


彼は再び冷や汗を拭い、重いシャベルを動かし続けた。


* * * * *


20時間を超える休みなしの肉体労働。


吸い込みすぎた煙の影響で、真也の肺は悲鳴を上げ、視界は何度も白く霞んだ。


水さえ一滴も飲んでいない。


それでも彼は、飛行機の破片で作った急造のシャベルで、土を掘り起こし続けた。


無心で体を動かしているうちに、真也の意識は遠い記憶の底へと引き寄せられていった。



……そうだ。初めて土を掘り起こす作業をしたのは、まだ子どもだった頃だ。


静那が入院していたジョージアの病院。


彼女を失うかもしれないという恐怖から逃れるために、彼はがむしゃらに土嚢どのう袋に詰める土を掘り続けていた。


何かをしていないと、頭がおかしくなりそうだったから。


無心で体全体を使い、シャベルを動かしている間だけは、不安を忘れることができた。


気絶するほど自分を追い込めば、恐怖は消える。


そんな幼い日の自分を、彼は今の自分に重ねていた。


* * * * *


意識が朦朧とする中で、あの日、あの瞬間の記憶が、鮮烈なフラッシュバックとなって蘇る。



――あの日、僕は走っていた。


頬を涙で濡らし、必死に足を動かしていた。


前を行く諭士さとしさんは、瀕死の“シーナ”をその腕に抱きかかえ、車へと滑り込んだ。


真也もまた、必死の形相でその後を追う。


車の後部座席にシーナを乱暴に横たえ、諭士さんは運転席へと飛び移った。


エンジンが轟音を立てるのと同時に、真也も車内へと転がり込む。


「真也、そこでシーナを見てろ! 揺れるぞ! しっかり抑えとけ! 行くぞ!!」


背後では、ミシェルさんが命を懸けて追っ手を食い止めてくれていた。


俺たちが逃げるための、わずか数分を稼ぐために。


真也は、激しく揺れる車内で、振り落とされないようにシーナの体を必死に押し留めた。


諭士さんは凄まじいドリフトで悪路を駆け抜け、現場から遠ざかろうとしている。


追撃の銃声はない。


* * * * *


一刻も早く、遠くへ。


エンジンの絶叫と共に、車は時速200キロ近い速度で国境を目指していた。


諭士さんの怒鳴るような声が、前方から響く。


「シーナはどうだ! 真也!」


真也は、彼女の体を支えながら、その顔を見つめた。


血で充血した、その瞳。


瞳孔が開いているのかさえ分からないほど、視点は虚空を彷徨っている。


か細い呼吸の合間に、溢れ出す吐血が止まらない。


車が上下に跳ねるたび、彼女の口から鮮血がこぼれ落ちる。


「諭士さん……! シーナちゃんが死んじゃうよ! 血が、血が止まらないんだ……血が……!」


「泣くんじゃない!! 落ち着け! シーナは息をしてるか! 意識はあるか!」


諭士さんは前を向いたまま、喉を引き裂くように叫んだ。


「分からないよお……口から血が……あぁ……っ!」


血まみれになった自分の手を見て、真也の思考はパンクしそうだった。


「よく聞け! だったら頭を少し上げるんだ! そして呼びかけろ!」


真也は震える手で、シーナの後頭部を支え上げた。


途端に、彼女の口から溢れた血が真也の腕を伝い、熱を持った感触が肌を焼いた。


「シーナ! シーナちゃん! シーナ!!」


返答はない。


車が再び激しく揺れ、彼女は激しく咳き込んで血を吐いた。


「呼んでも何も言わないよ! 諭士さん、助けてよ……諭士さん!!」


「それでも呼びかけ続けるんだ!」


諭士さんの声もまた、必死だった。


「呼んでるよ! 死なないでって……うあぁあああああん!」


「こう言うんだ! “ウズナイチェッツ オンニュドゥジュンノミリーツィ! バーシャイツエッツビザパスネスチェン!”」


君のお父さんは生きている。だから死んじゃダメだ、という意味の言葉。


真也は、その一言を脳に叩き込んだ。


今の自分にできる、唯一の戦い。


真也は諭士さんと共に、全身の力を込めて叫んだ。


「ウズナイチェッツ オンニュドゥジュンノミリーツィ! バーシャイツエッツビザパスネスチェン!」


何度も。


喉が枯れ、声が掠れても、彼は叫ぶのを止めなかった。


「ウズナイチェッツ オンニュドゥジュンノミリーツィ! バーシャイツエッツビザパスネスチェン!」


シーナの表情は変わらず、吐血は続いている。


けれど真也は、その呪文のような言葉を、彼女の魂に届けるように怒鳴り続けた。


”お父さんは生きている。だから、まだ死んじゃダメだ。”



* * * * *



やがて舞台は、ジョージアの病院へと移る。


昏睡状態から目覚め、包帯に包まれながらも静かに眠る彼女のそばに、真也はずっと付き添っていた。


自分自身のトラウマで眠れない夜を過ごしながら、彼は「僕が弱いからいけないんだ」と、自分を責め続けていた。


でもある日、諭士さんが急いで知らせに来てくれた。


まだ包帯ぐるぐる巻きだが、なんとか歩けるまでになったシーナの事だ。


危なっかしい足取りで数メートル歩いて見せたのだ。


そして、真也を見て柔らかく微笑んだ。


真也はその瞬間、堰を切ったように泣き崩れた。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


大声を上げて、子どものように泣きじゃくる彼に、シーナはそっと近づき、その小さな体でハグをした。


「僕、絶対に強くなるから。誰よりも強くなって、今度は僕が守るから……」


まだ日本語が分からない彼女は、彼が泣き止むまで、ずっとその温もりを離さなかった。



* * * * *



舞台は日本、熊本県の阿蘇へと移った。


真也は10歳。


彼は、気が遠くなるほどの苦痛を自分に課し、心身を鍛え続けていた。


まだ骨格も未発達な幼い体で、自分より重い岩を持ち上げる。


腕が震え、膝がガクガクと音を立てても、彼は岩を運び続けた。


まず、自分の内側に潜む「弱さ」を、この阿蘇の山々に叩き出すのだ。


それでも弱い心なんかが自分の中にまだ住んでいるのなら全て克服する。


そして誰よりも強くなるんだと。


目を閉じれば、あの凄惨な現場で振り下ろされたチェーンソーの残像が蘇る。


あの恐怖を、素手の手刀で粉々に粉砕できるほどの強靭な肉体を。


来る日も来る日も、彼は自然の中に身を置き、限界を塗り替え続けた。


いつしか彼の拳は、振るうたびに空気を切り裂き、音を置き去りにするほどの鋭さを帯びていった。



* * * * *


ある日の夜。


家に帰ったら夜食が置いてあった。


やっと帰ったかという顔で愉士さんが食堂にやってくる。


冷蔵庫からラップした魚を出してくれた。


静那が魚をさばけるようになったからということで、自らが捌いた刺身を食べてほしかったそうだ。


少し悪い顔をした後、真也は食事に手をつける。


諭士さんが問う。


「真也、まだ学校には行きたくないか? 随分と心身共に強くなったように見えるが」


「…心は強くなったよ。でも、まだ僕は弱い。自分が嫌になるくらい弱いんだ」


真也は、自分の手に残る感覚を見つめて答えた。


「でも片道4時間はかかるんだぞ。阿蘇の国道を、毎朝子どもが走っていたら不審がられる。

学校にも行かないで子どもが何をやっているんだって」


「その点に関しては大丈夫だよ、諭士さん。僕、山道を通ってるから」


「山道……? まさか、あの断崖の……」


「うん。獣道なら、誰にもバレないしね」


諭士さんは絶句した。


今の真也には、躊躇ちゅうちょという概念が存在しなかった。



それからは、静那が時折夜食を用意してくれるようになった。


彼女もまた、自分なりにできることを探し、魚を捌く練習をしていたのだ。


中学生になっても、真也の修行は終わらなかった。


激流の川に転落し、溺れそうになったこともある。


必死に岩にしがみつき、流れから何度も浮上する真也。”これくらいで死んでたまるか”という強靭な精神力がそれを阻む。


* * * * *



……



“サアァァァァァ”という雨の音。


………気がつくと、真也は冷たい地面に突っ伏していた。


追憶の彼方から感じた流れ…それは川ではなく、激しく叩きつける雨粒だった。



頬を打つ雨に、彼は意識を取り戻した。


夜明け前の、薄暗い墜落現場。


寝ないまま限界まで捜索を続けているうちに気を失っていたようだ。


「しまっ……!」


慌てて体を起こし、小雨に打たれながら捜索を再開する。


泥まみれの体で、再びあの言葉を、天に向かって叫び続ける。


「ウズナイチェッツ オンニュドゥジュンノミリーツィ! バーシャイツエッツビザパスネスチェン!」


……そう何度も叫びながら…


……何度も……何度も……

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