17-2 追憶の彼方
【17話】Bパート
ここは日が落ちて薄暗くなった旅客機の墜落現場----
未だに消えない業火…
旅客機から立ち昇り続ける火の粉…
そんな中、止まない立ち上るどす黒い煙と戦いながら真也の捜索活動は続いていた。
日が沈んでも真也の周りは明るい。
火が絶えず燃え続けているからである。
「早く誰か気づいてくれ!こんな派手な火災なのに誰も来ないという事は、ここはよほどの僻地なのか…」
煙がとにかくひどいため一気に作業が進まない。
煙を吸い込んで何度も頭がクラッとした。
視界が悪く涙が出る。
その度にたまらず一旦煙から距離を置く真也。
これではらちが明かない。
それでも捜索から20時間近くが経過した頃になると、周りの気温も下がってきたせいもあり、少しづつ落ち着いてくる。
燻った火種はまだ多いが、当初と比べてかなり現場に近づけるようになった。
機体の熱もなんとか収まり、素手で片付けられるようになってきた。
そんな中、破損した機内の様子が少しづつあらわになってくる。
焼け焦げた死体…そこに機内の破片などが巻き込まれたように覆いかぶさっている。
本当に酷い有り様だった。
遺体は顔の原型をとどめていないのが殆どであるが、真也は目を逸らさずそばにあった遺品などと一緒に一つ一つチェックしていく。
親子だと思われる遺体は…一緒にする。
原型が分かるなら体のパーツをまとめて一つにする。
こうしてそんな遺体を機体から少し離れた場所…広場ともいえないくらいの小さくて平たい場所なのだが等間隔に並べていく。
腐乱してコバエが沸かないように上から少し土を被せてやる。
“少し”というのは、後々遺族たちが分かるかもしれないから。
捜索隊が駆け付けた時、死体検証などができるようにしておきたいという真也の配慮だ。
こうやって何時間も延々と死体の仮埋葬を続けているのだ。
沈んだ顔の真也。
遺体を一つ一つ丁寧に調べて、埋葬しているのだが……静那は未だ見つからない。
ふと黒焦げになっている遺体が目に留まる。
肩口に大きな傷が見える。
殆どの遺体は服が焼け焦げていた。
少し緊張した面持ちで真也は遺体を見る。パリパリと肩口付近の服を剥がす。
女性だった……でも、傷は肩口だけ…だった。
…静那ではなかった。
少し冷や汗が出たが…絶望的な状況に変わりはない。
心を落ち着かせ、遺体の回収と埋葬を続けていった…
* * * * *
しかし、あたりはすっかり暗くなってきた。
20時間以上休みなく力技での回収作業と遺体整理を続けていた真也の体もさすがに限界にきているのだろうか。
今日一日で吸い込み過ぎた煙の影響もかなりある…
何度も視界がもうろうとしてくる。
水だって口にしていない。
日が暮れ、真っ暗になった。
それでも火に照らされる森の中、飛行機の機材破片で作った簡易シャベルで土を掘り起こし続けていた。
遺体に被せる土作りだ。
ふと真也はまだ子どもだった頃を思い出す。
土の掘り起こし作業をはじめてやったのは、静那が入院していたジョージアにある病院だ。
無我夢中で土のう袋に使う為の土を掘り起こす作業……
それを袋に詰めていくというものだ。
何かしていないと落ち着かなかったから、病院の方に無理やりお願いして手伝いをさせてもらった思い出がある。
あの当時は自分自身眠れずに落ち着かない時間を過ごしていた。
でも無心でこうやって体全体を使ってシャベルを動かしていたら、その時だけは不安や恐怖を感じなくても済んだ。
こうやって体を一心不乱に動かしている時が一番不安感が無くなるっていうのが分かる。
それからは無心で力仕事を、それこそ気絶するまで続けていたっけ…
そんな幼い頃の自分。
頭がフラフラする中、ふと昔の記憶が蘇ってくる。
* * * * *
----あの日の大惨事。
走っていた…
泣きながらだ。
自分の前には諭士さん。
瀕死の“シーナ”を抱きかかえて車に走り込む。
真也自身もその後ろを必死に追いかける。
車の後部座席に静那を乱暴に乗せて、急いで前の運転席に飛び移った諭士さん。
そしてエンジンをかける。そのエンジン音くらいのタイミングで真也も車内の後部座席に何とか乗り込む。
「真也はそこでシーナを見てろ!揺れるぞ!
しっかり抑えとけ!いくぞ!!」
手短に叫んだ諭士さんは勢いよく車を吹かして惨劇の場所を後にする。
ミシェルさんが相手をくい止めるために頑張ってくれている。
僕たちが逃げる間を稼ぐため。
命をかけて足止めしてくれている。
後部座席にシーナを寝かし、車の揺れに振り落とされないように真也は必死に彼女の体を押さえつける。
諭士さんは運転に集中しているようだ。
ものすごいドリフトを利かせながら現場から走り去ろうとしているのが分かる。
追撃の銃声音は…無い!
”今のうちにできるだけ遠くへ!”という事だろう。
兎にも角にも運転に全集中している諭士さん。
蛇行運転が終わり、少し道が直線になっていく。
直線道路では200kmくらいは出してるんじゃないかと感じるくらいエンジン音が凄かった。
ありったけの速度で飛ばしながら諭士さんは今まさに国境を出ようとしている。
追手の気配が無いのが確認できたのか、諭士さんがこちらに質問してきた。
一刻を争う事態だから怒鳴るような声色だ。
「シーナはどうだ。真也!」
シーナの体制が崩れないように必死に抑えている。
…が目を見ると血で充血していた。
瞳孔が開いているのかどうか分からないが視点が定まっていない。
か弱く息をしている口からは吐血が止まらない。
車が大きく上下に揺れると、その反動で口から血が溢れ出てきた。
喉が血で詰まっているのか、せき込んで必死に息をしようとしている。
この傷でも尚生きようとしているのだ。
でもその時の真也は目の前のあまりの出血量に涙し、とても助かりそうだとは思えなかった。
「諭士さん!シーナちゃんが死んじゃう。血が出て、血が…血が…血がぁ!」
「泣くんじやない!!落ち着け。シーナは息してるか!意識あるか?」
顔は振り向かないが叫んで返事をする諭士。
「分かんないよぉ。口から血を吐いて…血がぁあ」
泣きながらなんとか返事をする真也。目の前の出血に頭が追い付いていない。
「よく聞け!だったら頭を少し上げるんだ!そして呼びかけろ!」
言うとおりにする。
真也の手も血まみれになっていたが、気にせずシーナの後頭部を少し上げる。
とたんにシーナの空きっぱなしの口から血が流れだしてきた。恐怖で震えるが手を離さない。
そして耳元で呼びかける。
「シーナ!シーナちゃん!シーナァ!」
しかし、尚もか弱い呼吸だけで何も反応が無い。
車が揺れた。
それと同時にまたせき込みながら血を吐き出すシーナ。
「呼んでも何も反応しないよ!諭士さん助けてよォ!諭士さん!!」
もちろん諭士さんは運転に集中している。そんな余裕はない。
叫ぶように返答する。
「それでも呼びかけ続けるんだ!」
「呼んでるよぉ!死なないでって!諭士さぁあああああん。」
泣きじゃくりながら返事をする真也。
「こう言うんだ!
ウズナイチェッツ オンニュドゥジュンノミリーツィ!
バーシャイツエッツビザパスネスチェン!
“君のお父さんは生きてる!だから死んじゃ駄目だ”って言う意味だ。
言えるかッ!?」
その時の真也は、瞬時に耳に叩き込めた。それを訴えればいいって事だ。
今の自分の最大の役割は“それ”。
それしかできないと分かった。
一回目は諭士さんと一緒に叫ぶ。
「ウズナイチェッツ オンニュドゥジュンノミリーツィ!
バーシャイツエッツビザパスネスチェン!」
そこからはシーナの後頭部を少し持ち上げた状態で、必死に叫び続ける真也。
「ウズナイチェッツ オンニュドゥジュンノミリーツィ!
バーシャイツエッツビザパスネスチェン!」
何度も何度も叫び続けた。
…それでも反応が無いシーナ。
口からは吐血が続き、こちらの呼びかけに対し表情が変わらない。
だがその時に真也が出来る事はそれしか無かった。
だんだん涙声になりながらも、真也はこの言葉を怒鳴り続けた
「あなたのお父さんは生きている。だからまだ死んじゃ駄目だ!」って。
* * * * *
舞台はその後、病院内でのシーナの病室でのシーンに移る----
病院で昏睡状態のシーナをずっと見つめる真也。
それはシーナが意識を取り戻した後もずっと続いた。
真也自身もあの日のトラウマから眠れない夜が続いていた…
「僕が弱いからいけないんだ…」とずっと自分を攻め続けていた。
でもある日、諭士さんが急いで知らせに来てくれた。
まだ包帯ぐるぐる巻きだがなんとか歩けるまでになったシーナの事だ。
真也がかけつけるとシーナは少しよろけながらも2~3m程歩いて見せた。
そして真也を見て微笑む。
その表情を見て思わず泣き崩れてしまった真也。
彼女を見て何度も「ごめんなさい」と言い続けていた。
その場でずっと泣いていた。
声を殺すこともなく大声で…
「僕、絶対に強くなるからさ。誰よりも強くなって今度はシーナを守るから。」
その時のシーナはまだ日本語がそこまで分かっていない。
でも真也に近づき、そんな涙を流し続ける彼に対し優しくハグをした。
彼が泣き止むまでずっと……
* * * * *
無事日本に帰国した後……
熊本県・阿蘇のとある渓谷に舞台は移る。
気が遠くなるほど自分の体を痛めつけ、心身を鍛え続ける真也。
まだ10歳である。
骨格もまだ形成しきっていないながらも、積み荷を持ち上げる為、今出来る限界まで力を入れる。
震える腕で何度も岩を運ぶ。
まずは自分の弱い心をここから叩き出す。
それでも弱い心なんかが自分の中にまだ住んでいるのなら全て克服する。
そして誰よりも強くなるんだと。
…目を瞑るとあの自分に向かって振り下ろしてくるチェンソーの残像が蘇る。
あの時見たアレを素手(手刀)で、粉々に粉砕してしまえるくらいの強靭な肉体をまずは手に入れるんだと。
そんな気概を持って繰り出し続けてきた正拳や手刀は、いつしか“振りが音を置き去りにする”程になっていく。
研ぎ澄まされた自然界に身を置き、来る日も来る日も体を限界以上まで鍛え続けた。
ある日、家に帰ったら夜食が置いてあった。
やっと帰ったかという顔で愉士さんが食堂にやってくる。
冷蔵庫からラップした魚を出してくれた。
静那が魚をさばけるようになったからということで、自らが捌いた刺身を食べてほしかったそうだ。
少し悪い顔をした後、真也は食事に手をつける。
諭士さんが問う。
「真也、まだ学校には行きたくないか?見た感じ随分心身共に強くなったのに。」
「確かに鍛えはじめてから心は強くなったよ。
…でも僕はまだ弱いんだ。弱くて自分が嫌になるくらい。」
「真也…でも静那だって本当はー」
「やっぱり学校よりまだやることがある。本当に強くあるために。」
「でも片道4時間はかかるだろう。
阿蘇市に入るまでの国道を未成年の子どもが毎朝走っていたら警察の方にも流石に不審がるぞ。
学校にも行かないで子どもが何をやっているんだって。」
「ああ、その点に関しては大丈夫だよ諭士さん。
僕、山道の方通ってるから。」
「お前、山道って言うとあの……」
「うん。ずっと険しい獣道。
でも人が殆ど通らないから警察にもバレないよ。」
「呆れたな…あの道を。
しかしだ。雨の日は家で大人しく勉強しろよ。そこは約束だからな。」
「それも守ってるでしょ。義務じゃない、僕と諭士さんの約束ってことで!」
すがすがしいまでの返答に諭士は何も言えなくなった。
今の彼には躊躇というものが無い。
それからは時々静那が夜食を用意してくれるようになった。
寮が同じだけど殆ど会う事は無かった。
でも煮つけや刺身など…静那は静那なりに色々と頑張ってるんだなというのを知ることが出来た。
中学生になっても、阿蘇市…そして高知市の学校に通いながら真也は心身を尚も鍛え続ける。
時には川に転落して溺れそうになったこともある。
その時は体が疲労困憊の為、川の勢いに流されてしまいそうになった。
必死に岩にしがみつき流れから浮上する真也。これくらいで死んでたまるかという強靭な精神力がそれを阻む。
“サアァァァァァ”という雨の音。
………気が付くと、真也は気を失って倒れていた。
追憶の彼方から感じたのは川の流れ……ではなく、雨粒だった。
頬をたたく雨で意識を取り戻したらしい。
まだ薄暗い夜明け前。
土を掘り起こす作業の途中、いつの間にか気絶していたのに気づく。
寝ないまま限界まで捜索を続けているうちに気を失っていたようだ。
慌てて正気に戻る。
そして小雨の中、また捜索を再開する。
「ウズナイチェッツ オンニュドゥジュンノミリーツィ!
バーシャイツエッツビザパスネスチェン!」
……そう何度も叫びながら…
……何度も……何度も……
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