表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season1【A面】
34/229

17-1 追憶の彼方

【17話】Aパート

夕方になった。


勇一達7名が墜落地点から南に向けて歩き続けて既に8時間くらいが経過した。


仁科さんと兼元が腕時計をつけていたため、経過時刻だけは分かった。


しかし、時差の為この場所の正確な時刻が分からない。


夕方なのは分かるが…




皆、弱音を吐かず一心にけもの道を進んでいたが、湿気が多いうえ、8時間も歩いているのだ。


さすがに喉の渇きに耐えられなくなる。


水が欲しい…


もう水たまりの水でもいい…


なにか水分が無いと苦しい。


そんな時間帯にきていた。



人間の体の60%は水だと言われているが、本当に人間は水分を失うと色んな意味で危険である。


まず正常な判断が出来なくなる。


運動能力が落ち、ひどくなるとめまいや頭痛など脱水症状と一緒に引き起こされる。


歩き始めて半日。


まだそこまで悲壮感を感じるほどではないにしても、3日もこのままだと流石に自分の体がもってくれるような気がしない。



「は、は、は…」


葉月の呼吸がなんだか苦しそうなのが分かった。


勇一のすぐ前を歩いているのでよく聞こえる。


「八薙、ちょっと休憩にしよう。葉月がちょっと…」


「えぇ。葉月先輩!大丈夫すか?」


八薙はなんだかんだ言って一番体力がある。先頭を歩いてくれている。


葉月の表情を見る。


彼女は水分不足のためか、やや喉が枯れて呼吸が苦しそうだ。


「コレ…飲んで下さい」


八薙がポケットから取り出したのは液状の酔い止め薬だ。


八薙はどうも乗り物酔いするタイプらしい。そのため酔い止め薬は旅行中はポケットに常駐させているのだ。


これで少しでも水分を…という意味だろう。


葉月は心配させてごめん…という表情を見せたが実際このままでは危ないと感じ、素直に薬を飲み干す。


少しでも水分を補給したいという所だ。背に腹変えられない。


兼元や小谷野、そして生一は男だから耐えていたものの、やはり疲れがピークなのかあまり話したがらない様子だ。


少しでも体力の消耗を抑える為無言を貫いている、あと少し荒い息遣いをしていた。


あまり目に精気はない。


仁科さんは大丈夫だろうか…勇一が彼女に目を向ける。


仁科さんは絶対に静那に助けてもらったこの命を無駄にしないという気迫を感じる。


意外と一番、目に力を感じる。


でも彼女だって相当疲れているだろう。



「八薙…日が暮れるからそろそろ…」


勇一が八薙に出発を促す。


もっと休んでいたい気持ちはあるが、水源を見つけるまでは落ち着けない。


こんな密林地帯では寝る事も出来ない。


状況を把握しているのは他のメンバーも同じだ。


八薙は軽く頷き、再び森の中を進んでいく。


その後ろを皆黙ってついていく。


夕暮れの中、無言で歩く。


おそらく他のメンバーも同じだと思うが打開策を考えているだろう。


ここは場所で言うとイランという国だ。


言語は何になるんだろうか?


ペルシャ語?それかヒンディー語?


どっちにしても喋れない。


「助けて」の一言も言えない。


今日の朝から言葉がしゃべれない辛さを痛いくらい感じたのに、また同じことを感じた。


喋れないのは命に係わる事を。


でもヒンディー語なら一つ分かる。


「ナマステ(こんにちは)」なら言える。あいさつの言葉というのをかすかに思い出す。


もう「ナマステ」でも言いながら歩くしかない。


恥も何もかなぐり捨ててとにかく助けを求めるためにいっちょ叫んでみるか…


そう考えていた勇一。



その時、疲労困憊だったメンバーの2人。


先頭を歩いていた八薙と生一が何かに反応して走り出した。



「どうした生一!なにかあったのか?」


勇一が問う。


「わからんけど先行って確認してくる。おまえらはゆっくり来い」


“何か”を見つけたようだ。


それが川…もしくは水脈であってくれ!頼むから…と祈る面々。


このままだと日が暮れる。


火…いや、あかりも無いのに真っ暗な森の中での野宿は勘弁してほしい。




* * * * *




生一と八薙が見つけたのは湖だった。


念願の湖だ。


例えるなら学校のプールくらいの小さい湖…天然のオアシス



歩き始めて9時間…どれだけ体が水を欲していたか。


遅れて到着した5人も地獄から生還できたような気持ちで安堵の表情を浮かべる。


湖を見つけるやいなや小谷野が湖に走っていき、水をすくおうとする。


その気持ち…よく分かる。



「あッ!待っッツ!」



しかし慌てて飛び出した八薙が小谷野の後ろ襟を鷲掴みにして後ろに乱暴に引き戻した。


むち打ちみたいに後ろに倒れ込む小谷野。


そして八薙を見て睨みつける。


「カハッ!何すんだよ。オマエ!」


疲労のため大声は出せないが、怒っている。



生一が小谷野の頭を掴むと水を飲もうとした湖の4m先くらいを見るように指示する。


そこには大きな岩………ではない。


生き物の背中が顔を出していた。



ワニだ。


ワニの背中だ。



小谷野はそれに気づくと「あわわわはわはわはわ」と声がしゃがれて悲鳴にもならないような声を挙げて後ずさりしていく。


勇一も岩だと思っていた。


ただよく目を凝らしてみるとワニの背中だと分かる。


実は勇一も喉の渇きから、正直小谷野に続き水を飲みに行こうという衝動で頭がいっぱいだった。


もし小谷野じゃなく自分が湖に向かっていたら…


八薙が止めてくれなかったら…


考えるだけで背筋が凍り付く。


水分を失うと人は冷静な判断が出来なくなるんだというのを感じずにはいられなかった。


「その…八薙…あがと…ハアハア。」


小谷野はだいぶ混乱していたが、呼吸を整えるうちに落ち着いた。


「危なかったっすよ。まだほかにも湖の中にいるかもしれないし…」



…そう、ワニの背中が見えただけで何メートルのワニかも分からない。


一旦ワニの獰猛な牙に捕まればこの湖に引き込まれ……


そんな事を考えると皆ゾッとした。


でも、希望もある。


生一が「そんな事よりも」と湖を挟んだ向かい側の方向を指さす。



なんと湖の向こう側、湖を隔てた反対側に、獣道ではなくどう見ても人間が通るような道があった。


この湖はとてもじゃないけど近寄れない…でも希望はある。


あの道をたどれば人間の住む集落にたどり着けるんじゃないかと!


希望が出てきた。



小谷野の意見で、湖の近くではなく森の中を通って湖を軸に半周周るように歩いていく。


そして、人が通ったであろう形跡の道へと出る。


日はじきに暮れるけど、道に遭遇できた。


希望が出てきた。


疲労困憊なのは事実だが足取りが少し良くなった。


もう一度確認……明らかに人が利用している道だ。


歩きやすい。


これまで歩いていた獣道とは全然違う。


簡易的だが人の手によって道が整備されている。


これなら現地人と出会うのも時間の問題かも…。





* * * * *





ほどなくして待望の“人”と出会った。


3人程の男性だ。


やっと助かるんだと心から安堵の表情を浮かべる勇一達。


しかし葉月さんの彼らを見る目がおかしい。


その中東の男性はジロジロこちらを見てから何やらしゃべりだした。


そして勇一の腕を強引に掴んできた。


その瞬間に葉月がうでを捻り男性と勇一を引き離す。


何をしているんだと驚く勇一。


葉月がすぐに叫ぶ。


「コレ山賊よ。逃げて!」


皆考える余地は無かった、男性が現れた道をまっすぐ突っ切ることに。


1人の男性はとっさの葉月さんに腕を極められすっころんだが、残りの2人は脇から小型の槍のようなものを抜き出した。


「(山賊…おいはぎだ!)」逃げながら彼らの武器を見てそう確信した6名。


残り少ない体力を使いありったけの力で走り始めた。


しかし八薙がすぐに振り向く。


信じられないことに葉月が武器を持った男と応戦しているのだ。


相手は殺傷能力が決して高くはないとはいえ槍を持っている。


刃物だ!


刃物を突きつけられているのだ。




「葉月先輩ッ!」


八薙は叫ぶ。


葉月は呼びかけに振り向くことなく八薙に向かって言う。日本語で。


「あなたは仁科先輩を命がけで守りなさい。約束して!」


葉月はここで山賊を一人で食い止める覚悟を決めたらしい。


女性なのに無茶だ。


一瞬勇一は葉月に加勢することを考えた…が、覚悟を決めたのか八薙は仁科さんの肩をポンと叩くとこっちだと言わんばかりに走り出した。


葉月は女性といっても幼少期からずっと空手一筋の子だ。


そう簡単にやられはしない。


きっと勇一よりも…兼元や小谷野、生一よりも強いだろう。


でもこれは空手の試合じゃない。


相手は武器を持っている。


刃物を前にして戦えるのか…それに彼女は7名の中で一番体力的に参っていた…



この逃げるという判断が正しかったのかどうかは分からない。


でも“見殺しにしたわけじゃない”と自分に言い聞かせて勇一も走り出す。


八薙と仁科さんが先頭。しんがりを勇一が務めるという感じだ。



山賊たちが追いかけてくる気配は……ない。


それよりも気になる葉月さんの悲鳴…もない。まだ彼女は3人を食い止めてくれているようだ。


絶対に死なないでほしいと願う反面、実は勇一達もあまり体力が残されていない。


疲労困憊の上に走ると容赦なく体力が削られる。


走っている中で足がふらついてきた。


そういえば水分を摂ってなかったのを思い出した。


「ハアハア」という息遣いが声がしゃがれて「ガッガッッ」という声になる。


頭もくらくらするがそれでも今は逃げないと。


葉月の事は心配だが、今は自分たちがまず逃げ延びる事が一番だ。



状況をきちんと把握しろ!


自分たちがまず助かって体制を整えられないと、とても葉月を助けになんていけない。


真也だって。


そして………静那……も…。




各々最後の力を振り絞って走る。



その道の向こうに広場が見えた。


もしかして助かったのか…?


同時に川も見えた!今度は湖ではない。


集落こそ無かったが、広場と川が見える。


あそこまで!!


先頭の八薙が川の見える広場に出たとき、希望と同時に絶望が待ち構えていた。




そこには大勢の山賊が待ち構えていたのだ。


全員が槍を勇一達に突きつける。


八薙が山賊らしき男達を睨みつけたが、すぐに冷静になる。


数が多すぎる。


奇跡的に八薙自身がこの境地を切り抜けられたとしても“誰かを守りながらこの状況を突破するのは無理だ”というのは感じた。



もう一度あたりを見渡す。


数が…多すぎる。


少し離れた小高い山にもいる…


八薙は隣にいた生一、そして勇一に目をやり、観念のポーズをとった。


この状況で仁科さんを守るのは無理だと断念したのだろう。




殺されるのか、この面々に…と思ったのだが、族たちは一旦全員の手を後ろにして入念にロープで縛り付けた。


かなりきつく縛った上に6名全員連結させられた。


連行されるような形でどこかへ連れていくようだ。


頑丈に縛っていたため、勇一達全員を縛り付ける作業はすぐには終わらなかった。


部下らしい人間が縛りの作業をしている中、10名くらいの男性が一人の少女を縄で縛りあげた状態にして運んできた。



葉月だ。


「葉月!」


思わず仁科さんが叫んだ。


肩口に傷を負っている。


傷口は大きくないにしても出血が目立つ。


痛そうだ。


自分達を逃がすために必死に抵抗をしたのだろうが、多勢に無勢というのだろうか。


10人を相手にするのは無茶だ。


あの矢じりで突かれたのだろう。


女性に対して酷いことをする…と勇一は怒り心頭だった。


この時の八薙の心境はどうだったのだろう。


でももうこれだけの人数に囲まれてはどうしようもないと悟ったのだろう。


彼の一番の目的は自分だけでも生き延びる事ではなく、“仁科さんを守る事”という先輩との約束だったからだ。


縄で括られて連れて行かれるも。足腰が限界だったため足取りは遅い。


棒でしばかれ無理やり歩かされる7名。



彼らは一体どこへ連れていくのだろうか。



捜索隊を呼んで、無事真也の元に戻ってこれるのだろうか。



でも冷静に見て、まず一番に解決しないといけないのが葉月の肩口の治療だ。


出血しながら縄で一番ひどくグルグル巻きにされた状態で歩かされている彼女を見て、いたたまれなく感じる。


とっさに体をはって命がけで皆を守ってくれた彼女なのに…こんな目にあわせてしまった。自分達の無力さが歯がゆかった。

【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は大いに勇気をくれます!


現時点でも構いませんので、ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです!


頑張って執筆致します。よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ