16-1 生きて
【16話】Aパート
「ゴウン」という音と共にさらに高度が下がる旅客機。
爆発した右翼から煙を出しながら森林地帯へ突き進む。
高度がさらに下がり、いよいよ墜落が現実のものになってきた。
勇一達の座席は後ろの方だったので前の様子は全て見えていないが、声を殺して泣いている人や一心に祈りをささやく人達の姿が見える。
恐怖に押しつぶされそうになりながら各々最後まで自分自身と戦っているのだ。
もう5分と持たないだろう。
機長が一生懸命頑張ってくれているようだが皆観念した様子だ。
メモの手を止めない男性。家族と抱き合い声を殺して泣いている人達。
目の前の光景は恐らく一生忘れないだろう。
人は死を前にしたとき、大切な人を守ろうとする…大切な人に何かを残そうとする…そんな光景があった。
勇一もここでの幕引きを受け止めたのか、悔しくて涙が出てきた。
もっとしっかり生きておきたかったと思ってももう遅い。
全てがあと2~3分で終わる。
左翼を回し、機体を少し持ち直したがこれが最後のあがきだろう。顔も分からないけど不思議と機長さんには悪い気はしない…さぞ無念だっただろう。
操縦はある程度はオートで行われるらしい。どこかで聞いたことがある。
極限状態なのに、なんだかどんどん落ち着いてきたような感覚の中、誰かの叫び声で我に返る。
叫び声にすぐ反応できた理由は、日本語だったからだ。
静那がすごい形相で叫ぶように発した言葉。
「お願い!みんな一番後ろの席に移動して!」
一体何の事かと思ったが、もう考える時間もない。
真也が一番に反応した。
「皆!静那の言うとおりにしよう!行こう!一番後ろ!」
シートベルトをはずし、左右に大きく揺れる機体の中、全員が一番後ろまで走っていく。
「移動したぞ!静那っ!どうするんだ!」
八薙が次の指示を聞く。
すぐに静那が大きな声で答える。鬼気迫る表情だ。
「一番後ろの席に座ってッ!シートベルトしてッ!絶対に座席から離れないように縛ってッッ!」
こんなに大声で叫ぶ静那は初めてだが、皆1秒でも静那を困らせたら駄目だと言われた通りに動く。あっという間に皆スタンバイした。
一番遅かったのは真っ青になっていた葉月だったが、静那の声に我を取り戻し、意味など考えずに座席に自分をきつく縛り付けた。
全員が静那の言うとおりにした…
だが飛行機は墜落間近だ。
一番後ろの席に移動してシートベルトをギチギチにしたものの絶体絶命なのは変わりない!
前の方では混乱が続いていた。
泣き叫ぶ声が大きくなった。
いよいよだ。
座席や壁にしがみついて悲鳴を上げ始める乗客。
それもそのはず。
もう高度は500mくらいだ。
窓のすぐ下に森が見える。
自分達も絶望的だが、まわりも同じだ。ありったけの叫び声…
こんな光景……とてもじゃないけどもう見ていられない。
静那の言うとおりにしたが、もう無理だと悟って仁科さんは涙を流していた。でも静那に「最後までありがとう」と言った。
仁科さんもこの極限状態で必死に自分と向き合っていたのだ。
そして最後に出た言葉が彼女へのお礼だった。
生一はまだあきらめきれない様子だったが、少し笑いながら静那を見た。いよいよ最後だっていうのを感じたのだろう。
真也は勇一からは一番見えにくい場所にいたが、悔しさで泣いていた…と思う。
兼元と小谷野はいよいよという事で震えていた。そんな姿でも勇一は今まで2人が場を盛り上げてくれたことに感謝を感じていた。
自分にはないものをたくさん持ってるこいつらは、なんだかんだ言って自分たちのメンバーに無くてはならない存在だったんだ…
葉月は家族の事を思ったのか涙を流していた。小さくて聞き取れなかったけど「お父さん…ごめんなさい」と言っていたんだと思う。
そんな姿を見ていたらみんなが愛おしい。
勇一はもう一度皆を見渡す。
…よく自分の元にこんなに素敵な仲間が集まってくれたもんだ。
きっかけはこの目の前の子だけど、最高の仲間が集ってくれていたんだ。
自分はこんなに幸せな人間関係を築けていたんだ…
みんなありがとう。…ありがとう。本当に。
静那…ごめんな…お父さん、見つけてやれなくて…
だんだん勇一の目にも涙が溢れてきた。
でも死ぬ直前に、皆に対しての感謝の思いを心から感じられたことは…良かったと感じた。
自分の人生、無駄じゃなかった。退屈じゃなかった…つまらないもんでもなかった……
皆…大好きだ。静那みたいにうまく言えないけど…
「ありがとう…。」
?!
ん?
勇一は我に返る。
さっきの“ありがとう…”は自分の言葉じゃない!
…なら誰が?
* * * * *
「…ありがとう」
飛行機が墜落体制に入る。
そんな中、静那が皆に対して発した言葉だ。
座っている皆の顔をしっかり見ている。
自分の言う通りに迅速に動いてくれての「ありがとう」なのだろうか…
一斉に静那を見る。
真也は「(何考えているんだ、静那?)」というような視線。
彼女以外は全員、一番後ろの座席に座ってシートベルトをガチガチにしている状態だ。
「生きて!皆、大好きだから!」
そう言って静那は皆から目線を逸らしたかと思うと、機内真横の壁際へ移動した。
激しい揺れの為、もたれかかったのではない。
移動したかと思えば一瞬光が静那の手先から発せられる。
それから閃光のような感じで何が起きたかは分からなかった。
が、次の瞬間。
静那の立っている場所から後ろ、自分たちの座席の部分が飛行機ごと奇麗に輪切りに切断されていた。
静那がどうやって切断したのかはわからない。
繋がりを失った勇一達を乗せた機体の“しっぽの部分”は、慣性の法則こそかかっているが、ゆるやかに飛行機から切り離され森の中へ落ちていく。
静那は皆の落下を確認してから、前方座席の方へ走っていった。
そこで静那と目があったのが最後だ。
飛行機が切り離された瞬間…飛行機ごと静那と別れた瞬間、誰かが叫んでいた。
しかし急に機体の外に放り出された為、耳がおかしくなっており何も聞こえない。
勇一達の機体は乱暴に転がりながらも木々に遮られ、やがて着陸した。
体にムチ打ちはあったものの奇跡的に傷はない。
シートベルトできつく縛ってあったので機体から体が跳ね飛ばされることもなかった。
しっぽ部分も墜落した後、爆発しなかった。
ただ、この後電源コードなどがショートしての爆発は考えられる。
着地後、急いでシートベルトを緩め、各々素早く脱出する。
まだ全員が機内から脱出しきっていないその時…
ドォーーーンというものすごい爆発音と共に2~3kmくらい先で旅客機は墜落した。
ものすごく大きい火柱と火の粉が舞い上がる。
周辺の森が一気に火に包まれたようだ。
…静那は…
静那は一体…。
全員が青ざめる中、ものすごい形相で真也が一人火中に向かって走っていった。
まず、全員機内から脱出。
そして、やっと状況の把握をする。
切り離された自分たちの後部座席は炎上せずに荒い着陸に留まったが、静那の乗った旅客機はそのまま森の中に墜落してしまったのだ。
「行こう!」
八薙が言った。皆も真也の後を追い火中へ向かった。
静那は…静那は無事なのか?もしかして…
ただ、あの墜落音の後の爆炎と舞い散る火の粉である。
自分達が助かったことの喜びなんて考える余地は無かった。
誰もが彼女の……最悪な事態を考えずにはいられなかった。
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