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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: SHUSAKU
season1【A面】
31/241

14-2 進路

【14話】Bパート

やがて、年が明けた。1997年。


秋から冬にかけての月日は、驚くほどの速さで過ぎ去っていった。


今年の初詣は、部員全員で集まった。


勇一たち3年生にとって、こうして全員でいられる機会はもう残り少ない。そのことを誰もが予感し、ひとときを惜しむように笑い合った。


進路も、年明けとともに続々と決まっていった。


勇一は推薦枠で、地元の私立大学への合格を手にした。


仁科さんもまた、高知県に新設された工科大学への進学が決まった。


小谷野と兼元の二人は、香川県の国立大学へ。二人は「静那に何かあれば、地球の裏側からでも飛んでくる!」と豪語していたが、その目は「キャンパスで静那を自慢したい」という不純な動機に満ち溢れていた。


少し後の話になるが、西山は法政、椎原さんはなんと早稲田大学への現役合格が決まる。


西山は学校は違うけど椎原さんとは同じ東京だということでホッとしていたようだ。椎原さんに触発されたのか、生徒会の任期後はものすごく勉強していたのを覚えている。


2人とも凄く優秀でうらやましい限りだ。



「人は人だよ。勇一も受かったんだから、もっと自信持ちなさいよ」


仁科さんの言葉は相変わらず辛辣だったが、その裏にはいつも通りの気遣いがあった。


日本体育大学への進学を決めた葉月は、空手の師範代である父親から猛烈な引き止めにあったらしい。


あの威圧感の塊のような父親が、実は娘可愛さに実家に置いておきたがっていたという話は、勇一たちを驚かせた。けれど、彼女が自分の意志で「親離れ」を決めたことは、全員が心から祝福した。


一方で、真也の方は年末年始も休まずにバイトに明け暮れていた。


ロシアに向けての渡航費を貯める為だ。そのバイトには、八薙も参加していた。


冬の屋外作業は過酷だが、二人はむしろ「体が鈍らなくていい」と、どこか楽しそうに汗を流していた。


そんな中、生一だけは相変わらず謎に包まれていた。


進学も就職もせず、フリーターとして生きていくつもりなのだろうか。誰かに従属することを極端に嫌う彼らしい選択ではあった。


そして、3学期最初の登校日。


下校のメロディが流れる夕暮れの部室に、全員が集まった。


静那が、皆に「話したいこと」があると言っていたからだ。


* * * * *


温かいお茶が全員に行き渡り、少しの沈黙が流れた後、言い出しっぺである静那が口を開いた。


「進路とかで大変な時期にごめんね。

3月に…あることを考えていて…それを皆にお詫びも兼ねて聞いてほしい」


「お詫び?」


この時点ではまだ進路が決定していないメンバーもいた。そんな中、自分のために時間を取ってくれたみんなに申し訳なく感じたのだろう。


でもそんな事は今の静那との関係では、水臭い事である。


「しーちゃん。遠慮しなくていいよ。言ってみてよ。私にできる事があったら何でも手伝うから。

お詫びなんてしなくていいんだよ」


葉月が優しく促す。もともと空手をしていたから心身を鍛えているというのもあるが、自分の意志で歩くようになってからは本当に頼れるお姉さん的存在となった。



静那の顔が緩んだ。その後深呼吸をした後…


「実はお父さんが今のロシアっていうところにいて…その、探しに行きたいって思ってる。

手がかりは少ないけど、学校が始まるまでの3月、現地まで行くつもりです。

…だから、ごめんなさい。みんなの卒業式が終わったら、すぐに日本を発つから、引っ越しとかのお手伝い、できそうになくて……

薄情ですいませんが、3月に入ったら、向こうに行かせてください。」


部室に、静かな沈黙が降りた。



最初に口を開いたのは、勇一だった。


「なんだ、そんなことか……それなら俺も、その家族捜索とやらに一緒に行っていいかな?」


勇一の言葉に、部室がざわめいた。


「地元の大学に推薦で決まったから、4月まで暇なんだ。それに、静那なら知ってるだろ。

俺が今、何を“どうしたい”って思ってるか」


勇一が微笑むと、ダムが決壊したように仲間たちが声を上げ始めた。


「オイオイ、なんで旦那も連れていくって選択無かったの?

静那ちゃんの“お義父さん”だろ?

真っ先に俺が挨拶しないといけないでしょ。嫁と一緒に父親捜しなんて愛を育む障害としては丁度いい塩梅じゃないのかな?だからイかせてくださいなんて言うなよ。二人でイこう」


「何言ってんだよ。お義父さんに挨拶するのはこの俺だ。何ならどっちが先に現地でお義父さんを見つけられるか競争しないか?

勝った方がお義父さんに静那ちゃんとの結婚を申し込めるってルールで」



「ハイハイ、そこバカコンビ! ……静ちゃん。私、静ちゃんがお父さんを探すなら絶対に手伝うって決めてたの。お金もバイトで貯めてるし、行かせて……じゃないよ、行かせてください! 私も、静ちゃんの力になりたい」


仁科さんの力強い言葉に、葉月も続いた。


「私も行っていい?力になりたいの。

家族が居ない寂しさは私には分かってあげられないけど、家族の大切さは分かる。生きているのなら会いたいよね。大学の事は気にしなくていいから」


椎原さんは少し申し訳なさそうな顔で言う。


「私は今結果待ちで、受かればすぐに東京だから…3月はちょっと慌ただしくなるかも。

一緒に捜索手伝えなくてごめんね。でもお父さんが見つかるように祈ってる。静ちゃんが帰国したら私の方から一番に会いに行くから。ね」


遅れて西山も。


「僕も今は静那の手伝いが出来ないけど、無事帰国したら絶対に何か力になれるように協力するから!まずは自分の進路にケリをつけてから静那の帰国を待つよ。

ごめん。いい知らせを待ってる」



静那は“とんでもない、その気持ちだけで充分だ”と嬉しそうな表情を浮かべる。



八薙もまた、少し照れくさそうに口を開いた。


「俺も……先輩方と一緒に、行っていいすか?

海外なんて見たことなかったけど、色んな体験をしてみたいって思えるようになったんです。

もともとバイト代は休みに旅行しようと思って貯めてたやつだし。

それに静那のお父さんも大勢で探したほうが見つかる可能性高いでしょ」


最後に、部室の隅で状況を眺めていた生一が、静かに言った。


「俺もちょうど世界でも見て回ろう思ってたところや。学校も終わるし縛られるモンないし。

…だからちょうどええ。俺も一緒に捜索活動させてや。

海外初めてやし、あてもない旅考えてたけどやっぱり何か行く目的あったほうが楽しいやん。そっち便乗させてくれん?」


「ボスぅ……」


「お前のこと、みんな好きやねん。

だから遠慮せんで、みんなで行けばええ。静公が迷惑やないんなら」


静那は、目を見開いて立ち尽くしていた。


自分のために、これほど多くの仲間たちが、自分の将来や時間を削ってまで動こうとしてくれている。


「……うん。……うん! みんな…ありがとう。大好き!」


仁科さん、葉月、椎原さんが駆け寄り、静那を優しく包み込んだ。


自分も包み込みたいのに…と横目で寂しそうに見る兼元と小谷野。指を咥えている。


暫くして静那がその視線に気づき、彼らの元にやってきてハグをする。


ハグをしてもらい感無量の小谷野。


「おぉ…嫁から進んで……こりゃ3月は新婚旅行になりそうやな…」


兼元も負けない。


「節操無い…静那ちゃん、俺が君のお義父さんを見つけてやるからな。大船に乗ったつもりでいろよ」


「見つけてから言えよ!ったく。あそこ(北欧)どんだけ広い思ってんねん」


半分笑いながら生一が呟く。なんだかんだいって関西つながりの3人は静那を中心にいつもつるんでいるから仲は良い。



勇一は、その光景を眩しく見つめていた。


「目の前のこの人を喜ばせたい」というたった一つの、けれど揺るぎない芯。


それを動きながら見出していけば良い。


大学の4年間でなんとか見つける、というような悠長なものではない。


仕事…というか自分の天職ってそういう流れを経て見つけていくもんじゃないのか…と。



* * * * *



卒業式を終えた3月初旬。


3年生は生一以外、全員の進路が決まり、後は各々の新生活に向けて歩みを進めていくのみとなった。


卒業式の喧騒が去った後、生一が選んだ『自由人』という進路は、学校中の噂になった


静那の方はというと…着々と準備をしていた。


真也がコツコツバイトでお金を貯めていたので費用面は問題なかった。



既に昨年末に熊本にいる諭士さんには欧州への旅行の件を話しており、渡航ルートなどを教えてもらっていた。


インドのインディラ・ガンディー国際空港がハブ空港になっている為、そこまでを一区切り。


そこから北欧を目指すルートがスケジュール的にも無難なようだ。



一緒に同行してくれる心強い先輩方と同級生は7名。


男性側は、勇一を筆頭に、生一、兼元、小谷野、そして八薙の5名。


それに仁科さん、葉月の女性陣2名。


関西国際空港が出発口ということで、高知市内からバスで移動する。


皆旅行鞄をこのために新調したのだろう。


卒業旅行みたいな感じだった。



* * * * *



高知からバスに揺られること7時間。卒業旅行のような浮き足立った空気が空港のロビーに流れていた。


入り口付近には、前日入りしていた静那と真也がいた。


髪を短くまとめ、白いブロンドが朝の光を反射している。


静那は、スーツ姿の背の高い男性と話をしていた。


その人物…30代後半くらいの男性だろうか…背が高くスーツの似合う男性だ。


その男性は静那達2人よりも先に勇一達の到着に気付いたようで、手を振ってきた。



「あ!おはようございます…っていう時刻じゃないですよね。こんにちは」


「私ら早朝スタートだったけど、時計見なさいよ。もう~しっかりしてよね元部長」


意地悪なフォローを仁科さんが横から入れてくる。


気づいた静那が駆け寄って笑顔で迎えてくれた。


仁科さん達女性陣の荷物を「運ぼうか?」という感じで目で促す静那。


かがんだ時に髪が乱れ、少しかき上げたときに耳元にイヤリングが見えた。



勇一は初めて静那に出会った頃を思い出す。


「静那のその白くて丸いイヤリング。久しぶりに見た気がする。」


「あ、これね。そうだよ。学校じゃ、付けたら校則違反だからね。

あんまり付ける機会が無くて…

でもよく覚えてたよね~勇一」


「お前、何“絆アピール”してんだよ。旦那の俺でも知らんやつ持ち出してきてサ!」


ちょっと不機嫌な小谷野。


「これはね。お父さんが誕生日にくれたプレゼントなんだ。

良いでしょコレ!

良いでしょ!」


笑顔で髪をかき上げながらイヤリングを小谷野に見せつける。


小谷野は少し赤くなってから「う…うむ!」と言って大人しくなった。


その無邪気な笑顔の裏側に、彼女がどれほどの想いでこの日を待っていたかが透けて見えた。



随分視線が他の方へ行ってしまったが、先ほど静那達と話していたスーツ姿の男性の方に視線を戻した勇一。


確か諭士さん…という方だ。


視線に気づき、諭士さんの方から話しかけてきた。


「君が静那の先輩さん。部長さんだね。静那がとても世話になってるみたいで、ありがとう」


「あ、いえいえ。大したことはしてないですが」


「でも静那に電話をしたときは必ず部長さんの話をしてくれるんだよ」


「ちょっと待ってくださいィ!その話の中に婚約者の話などは無かったのですか?」


焦った表情で兼元が話に割り込む。


初対面の相手なのに自分の件についていきなり問い詰めるなんて、やっぱり失礼な奴だと感じた。相変わらずといえば相変わらずなのだが。



「静那とは年に2~3回くらいしか電話をしなかったからね…さすがに無かったよ」


「そんな~。俺、旦那やのに…」


「はぁ?お前、誰が旦那やと」


そういうやりとりは今は良かった。


そんな事よりも勇一はこの男性が少し気になっていた。


静那が暮らしていた熊本県にある施設の責任者で2人の保護者にあたる方だと聞いている。


勇一は、この男性が静那の人生を支えてきた存在であることに、言葉にならない敬意と、少しの気圧けおされを感じていた。


「あの、静那から聞いてました。熊本で院長をされている武藤さん…?静那の名字が“武藤”だから」


「そうだよ。無事現地のお父さんと再会するまでは日本で疎開させている。でも国の体制も変わってそろそろ治安も回復してきた頃だから会いに行きたいだろうね…」


優しそうな顔で諭士さんはメンバーと彼らに囲まれた静那と真也を見ながら語る。


「静那には知らない間にこんなにたくさんの仲間が出来たんだね。

あの子が自分一人で決めて選んだ道だったけど結果良かったよ。

あの子…熊本に居た頃はわりと大人しい子だったんだ。でも今は皆に囲まれてとても幸せそうだ。

ありがとう。静那の事をよろしく頼むよ」


「……はい」


自分が代表者として認められたような、誇らしさと責任感。勇一は諭士の温かい眼差しを背中に受けながら、一歩を踏み出した。


「では行ってきます」


「良い旅を」



* * * * *



搭乗ゲートの前で、諭士さんはもう一度渡航ルートの確認を促してくれた。


なにせここにいる同行者7名にとっては初めての海外旅行なのだからきちんとエスコートもしたい。



メンバーの中で一番英語が苦手な生一が呟く。


「渡航経験がある椎原が来れたら随分気が楽やったんやけどな~」


その椎原さんからあらかじめ聞いていたのか、仁科さんがアドバイスする。


「そうでもないよ。欧米って公用語、英語じゃないじゃん。意外と英語通じない国多いみたいよ。だから!」


“旅の指さし手帳/ロシア”という本をサイドバックから出してきて見せつける。他にもドイツの手帳もある。


英語が通じないならこれで乗り切ろうって寸法だ。


「ロシアは柔道あるけど、空手は支部がまだ無いからね~

繋がりある所から攻められたらいいんだけどね」


先の分からない旅に対し、葉月は呟く。期待と不安が半々といったところだ。



やがて勇一達の出発時刻に関するアナウンスが響く。


「では行ってきます!諭士さん!」


大きな声で手をふる真也。


遅れて静那も笑顔で“行ってきます”を伝える。


諭士さんはどうやら熊本から関西国際空港までわざわざお見送りに来てくれたようだった。


遠いのにわざわざこのために見届けに来てくれるなんて…と少し悪い気持ちになる勇一だったが、親心なんだろうなとも感じた。


* * * * * 


いよいよ、出発のときが来た。


初めての欧州、見知らぬ土地への旅立ち。


期待と不安、そしてそれぞれの決意を胸に、彼らは旅客機へと乗り込んでいく。


その列の最後尾、真也だけが、誰にも見せない厳しい表情で、遠い空を見つめていた。


(……絶対に静那のお父さんの手がかりを見つけるんだ……今度こそ、僕が。)


彼は、心の中で静かに、けれど鋼のように固く誓っていた。


それは、彼がずっと探し続けてきた、「償い」の形だったのかもしれない。


機体のエンジン音が、旅立ちの合図のように重低音を響かせ始めた。

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