63-1 〈幕間〉暗躍する兵器
【63話】Aパート
舞台はロシアのとある軍需施設。
その中の一室で、“人兵器”として訓練を受けている人間がいる。
フリートという白髪の少年だ。
まだ10代という若さゆえ、駐在している軍人達からは“フリート君”と呼ばれている。
コードネームは“F”
任務の時はそう呼ばれる。
国家より極秘の依頼が入れば、まるで外出許可が出たかの様に一人で軍需施設を出発し、依頼場所まで任務を遂行させに行くフリート君。
任務が完了すれば自宅に帰るような感覚でまた施設へと戻ってくる。
それを数年間たった一人でこなし続けている。
既に彼の体は銃火器を一切受け付けない仕様になっており、目覚めた力により重機や建物だろうが問答無用に切断していく力は相手側から恐れられた。
彼の姿を見たものは、いつの間にかその白髪の姿より“白い悪魔”と呼ぶようになり恐れられるようになっていく。
彼に駐屯所や基地の場所を特定され、エリア内まで侵入を許してしまうともう打つ手が無い…
大げさなようだが全員基地を捨ててヘリや飛行機で逃げていくしかない……そんな情報が流れるようになっていた。
この日も軍より指令が入った。
国境付近の監視棟からだ。
密かに基地を建設している者がいる。
国境近くで視察のための軍事拠点を米国NATO側がまた密かに建設中との事だ。
小型重機などを運び込み、急ピッチで建設が進められているらしい。
拠点殲滅の命令を正式に受け、出かけていくフリート君。
リュックに少しの食料と衣類を詰め込んで小旅行に行くような感覚だ。
「また性懲りもなく気づかれないようなエリアに基地を建て、こっちに介入しようとしているのか…
いくら国土が広いとはいえ、交わした契約を裏で平気で破ってくるな…
表向きでは停戦をうたっておきながら、極地では密かに侵攻を進めるなんて…
大人達は本気で平和を維持する気があるのだろうか…」
無限に広がる青い空を見上げながらも、ややため息をついたフリート君。
“またこのケースか…”という顔だ。
その昔…自分達を誘拐した自国の大人達も大人達だが、相手も相手だ。
約束の無意味さを感じて空しくなる。
空の青さだけが真実の様に思えてくる。
…しかし基地の建設ポイントへ近づいていくにつれて意識を引き締める。
「だからこそ、自分がいるんだ。」
それからたった1時間後……
欧州NATOエリアにあるアメリカ軍基地駐屯所へ“国境付近の軍事拠点崩壊”の報告が入った。
軍隊が編成され攻め入ってきた形跡はまるでない。
衛星からの写真を見ても、ミサイルが撃ち込まれた様子もない。
狐につままれたような感じで壊滅している。
建物だけがバラバラになっていた。
文字通り“壊滅”だ。
苦々しい顔をしながら一人の男が駐屯所から姿を現し、壊滅した方角を見やる。
「恐らくまた、“白い悪魔”…か……」
その存在がいる限り、最強のアメリカ軍でさえ侵入が敵わないというのを肌で感じていた。
「恐らく向こうはこの件を持ちかけてもシラを切るだろうな。厄介な事だ。」
「捕らえる事も敵いませんか?相手はまだ子どもくらいだと聞いていますが…」
側近の軍人が問う。
「いや、恐らく不可能だろう。
拘束できても切断されるのが見えている。
だから我々は別の手を考えてある。
もう一人の確保を…とりあえずは“彼”の報告を待とう。」
「“彼”ですか?グリーンウェル大佐。あの日本人の…」
「以前その人物の里親をしていたそうだ。彼なら相手の“アキレス腱”をよく押さえてある。
上手く連れてきてくれるだろう。」
「そうでしたか…」
「どのみち相手に対抗し得るカードが無いと一向に進めん…。北の連中も難儀なものを作ったもんだ。」
「全くです大佐。停戦の裏では遺恨が溜まるばかりですな。」
「まったくだよ…」
そう呟いて、アメリカ軍大佐・グリーンウェルと呼ばれている屈強な男はパイプを吹かせた。
* * * * *
「“F”任務完了。これより帰還致します。24時間内に施設へ戻ります。」
「御苦労。ポイントまで移動を願う。
ヘリを出す。」
短いやり取りを終えてフリート君は帰路へと向かった。
帰路の途中、瓦礫と草花だけになった廃村を横切る。
その昔、人々が暮らしていたであろう形跡がわずかに残っていた。
今はもう形跡の殆どが植物に浸食されているが…
とある建物の下に空間を感じたので、近づいていったフリート君はその建物の瓦礫をどけてみる。
その下には子どもが1人隠れていられるような小さい洞穴が見つかった。
勿論そこには誰も居ない。
フリート君はしばらくその洞穴を見つめていた。
その昔…ここに誰かが隠れていたんだろうな…軍からの目を盗むために…
もう自分達の様な悲劇は繰り返してほしくない。
そのために自分が後の任務を全て一人で引き受ける事にした。
「済んだことは仕方ないんだ。大人たちもそこは受け止めている。」
自分に言い聞かせるように呟いた後、フリート君は再び拠点へ引き返していった。
軍需施設に戻り、帰還報告を終えた後自分の部屋に籠る。
さっきの洞穴の事が思い出され、少し心が落ち着かないフリート君。
ふと机の引き出しから“ある物”を取り出す。
それはあの日の別れ際、シーナがとっさに渡してくれた“髪の毛”だった。
ほどけないように糸で縛り奇麗にまとめてある。
任務や訓練の合間…フリート君は時々彼女の髪の毛をじっと見つめていた。
いつしかそれが彼にとって唯一の心の拠り所となっていったのだ。
部屋にずっと一人のフリート君。
もう何年もこの状態が続いている。でもこの選択に後悔は無い。
散っていった子ども達が残した唯一の遺品…壁に貼り付けた名札に向かって祈る。
「皆…神様…どうかシーナが…あの子が無事でいますように。
…どうか彼女をお守りください。」
SEASON3 は終了となります。
本編はこの後、最終SEASON4へ入っていきます。
欧州の様子は現地取材を経てリライトをする予定です。
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