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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: SHUSAKU
season3【A面】
236/239

62-2 選択と決断①

【62話】Bパート

ここから本当に日本まで何事もなく帰れるのだろうか。


あるいは罠かもしれない。


推測の域でしかないが、考えていても進まないし、意を決して直接確認しに行く事にした。


ただそれも本人が本当に来るならの話だ。




用心の為、現地に向かう前に『MF』本部にて諭士さんに関する情報を調べてもらったのだが、詳しい情報は記載されていなかった。


日本の熊本県熊本市での児童養護施設の施設長という肩書しか分からない。


過去の経歴などは一切不明だ。


ただ、海外を飛び回っていたのだ。何らかの関わりを持っている可能性は有るだろう。



また静那のお父さんであり大佐のミシェルさんが残した記述も調べてもらったが、やはりデータが無い。


セルジオさんの話によると、生前のミシェルさんはかなり警戒心が強く、決して相手に自己開示もしないしこちらの情報も流さなかったらしい。


“用心深い人だったからどんな相手にも完全には心を開いていなかったのかもしれない”との事だ。


本人がいないから今は何とも言えないのだが。




* * * * *




こうして訪れた約束の日。



そこは国際空港のような大きな施設ではなかったのだが確かに滑走路のある飛行場だった。



ドイツ・ベルリンからやや北部。滑走路だけの殺風景な場所へ到着した9名。


ちなみにここまでの移動は、しばしのお別れになるということでジャンヌが車を出してくれた。


嬉しい事に最後の見送りまで付き合ってくれるそうだ。


行く途中、ハインさんのアジトにも立ち寄ってしばしのお別れと再開を誓い合う。



しかしこの後の事を考え、全員どことなく緊張していた。


本当に日本に帰ることができるのか……そこだろう。





そして今、滑走路のある指定の場所まで来ている。



本当にあの武藤諭士さん本人がここへやってくるのだろうか…


広い滑走路。


風の音だけがやたらと聞こえていた。







「来ましたっ!」


勇一の傍で真也が告げる。


セスナ(小型飛行機)が向こうの空から降りてくるのが見えてきた。


皆に少し緊張が走る。



でもセスナ機を見た感じそんなに人間が乗れそうにない。


どう見ても9名全員が乗車できそうな大型旅客機ではなかった。


この時点でやや不安感が走った。




やがて滑走路に着陸したセスナ機は、速度を落として勇一達のいる手前まで近づいてきた。


2人乗っている。


1人はパイロット。


そしてもう一人はおそらく……



ギリギリまで猜疑心が消えなかったのだが、飛行機から姿を現したのは紛れもなく本人、諭士だった。


真也は少し安堵する。



ついに日本から駆けつけてくれた武藤諭士さん本人と再開を果たす時がやってきたのだ。


関西国際空港で別れてから実に11カ月ぶりの再会である。




間違いない。


あとは確かセスナ機に運転手が一人いる。


どこかの飛行場から2人でここにやってきたらしい。



“2人なら手荒な手段に出る可能性は無いかも…”



この時点で勇一達にそういう意識が芽生えたのも事実。


しかし久々に再開する諭士の表情に笑顔はなく、やや冷めたように感じる。


特に真也と静那にとっては久しぶりの再開なのだが、どうも表情に安堵感が見られない。




少し空気が詰まる感じがしたのか、まず勇一が前に出る。



その後ろに生一達が立っているのだが、静那と真也は位置的には一番後方で陣取っていた。


用心を兼ねて真也が静那の傍にぴったりついている。



「武藤 諭士さん。お久しぶりです。

わざわざ日本から迎えに来てくれてありがとうございます。」



勇一が代表して彼に挨拶をしたのだが、そんな彼の言葉はお構いなしという感じで諭士は一番後ろに居る静那に目をやり、彼女に対して話しかけてきた。



「静那。久しぶりだね。

早速だが、君だけこちらに来てもらいたい。

セスナに乗りなさい。」



この言葉で一気に皆の緊張感が高まる。


“誰が静那を渡すか!”という表情になった。


諭士を”キッ”と睨みつける小谷野と兼元。




「あの…諭士さん…私は…」


静那が少し困惑した声で答えた。


「こっちに来なさい…と言っている。

私の言ってる言葉が分からないのか?

久しぶりの日本語だから言葉に混乱しているのかな?」



ここで真也が口をはさむ。



「諭士さん。静那だけってどういうことですか?

何処へ連れていこうとしているんです?

他にも皆が…仲間がいるんです。

彼女だけだなんて無理に決まってるじゃないですか。」



真也は諭士さんには長い間育ての親として世話になってきた。


そんな人間にこんな事を言う自分を疑いたいくらいだ。でも真也は震える声で毅然と伝える。



「静那は渡せません。特に静那だけ…なんて。

そもそもなんで再開して早々にそんな事言うんですか?諭士さん!」



少し沈黙が走る。



風の音だけが聞こえる。




「静那を引き渡してくれないというのか?」


「当たり前です。引き渡すとか…なんで彼女だけ!

そう聞いてるじゃないですか。」


「ノーと言うならこちらにも考えがあるのだが。」


「どうするんですか?」


食い下がる真也。しかし声は震えていた。




ここで今一度、諭士の方を見る勇一達。


セスナの運転手と…諭士の2名だけだ。


運転手がどんな人間なのかはここからだと確認できないが、2人だけで力づくで静那を連れ帰るのは無理だ。何よりこちらには真也がいる。


諭士という男は真也の事をよく知っている。


彼の強さは十分理解している筈だ。ピストルを構えて脅そうが怯むような人間じゃない。


真也も内心“いざとなったら静那を連れて逃げろ”という言葉を思い出し、その“いざという時”を見計らっていた。



「もう一度言う。静那を引き渡してもらえないか?」



「嫌です。冗談じゃないです!」


真也が震える声で抵抗の意志を伝えた。




勇一が後ろの彼を見やる。


真也は震えていた。長い間お世話になった人間に向かって初めて逆らっているのだ。


静那を守るためとはいえ心が拒否反応を起こしているのも事実だろう。


“ここは先輩としてフォローしたい”


そう思った勇一が諭士の方を向き、声を上げる。



「ここはまだ市街地エリアです。派手に発砲するなど強硬手段に出るのはそちらとしてもマズイでしょう。

何よりも自分達は静那を守る為なら壁にだってなる覚悟です。

……お引き取り下さい!

もう自分達だけで静那と一緒に日本へ帰りますので。」



1年前、高校生の頃の勇一からしたら考えられないくらい毅然とした態度で諭士に向かって宣言する。



周りの仲間もそれに同調するように一歩前に出た。


気持ちは同じようだ。



全員怒りの眼差しで諭士に真っすぐ視線を向ける。“静那を諦めてここから立ち去ってほしい”と。



全員の心が通じ合った瞬間だ。



「君達が協力し機転を利かせればここから逃げる事はできるかもしれない。

ドイツでの鎮圧があれほど上手くいったのは、10代だと侮っていた大人達を上回った君らの知恵と行動力だろう。

…だから保険を持ってきた。」



何やら訳の分からない事を言いだす諭士。


“保険”とは何なのか?


不穏な気持ちが頭を巡ったその瞬間、後ろで悲鳴が聞こえた。


これは静那の声…じゃない!




静那のさらに後ろに急いで視線を移す。


すると…


そこに両腕を後ろで縛られ拳銃を突きつけられているジャンヌの姿が見えた。


滑走路の入り口からかなり後方。


用心の為、離れた場所に駐車してもらい、彼女には車内で待機してもらっていた筈なのに、何者かに捕らえられたらしい。



ジャンヌは即座に叫ぶ。


「逃げてっ!」


しかし逃げるつもりなど毛頭ない。


何か彼女を助ける手立てはないかととっさに周辺を見渡す勇一達。



「!?」



しかしその見渡す先…



見渡した先には信じがたい風景があった。




「な…なんで…ここに…」





ネイシャさん…



リーン…



そして今朝訪れたハインさんまでもが両腕を縛られ、口を押えられた状態で捕らえられていた。




「ネイシャさんっ!」


「リーンちゃん!」


「ハインさん!」



口々に叫ぶ勇一達。


しかし身動きを封じられ、どこからともなく現れた屈強な軍人に捕縛されていた。



一通りこの信じがたい状況を確認した後、諭士の方に視線を戻す勇一。


彼を睨みつける。



その自分に対して向けられる視線に気づいた諭士。


「君は当初はノーマークだったが、どうもカンが鋭い。皆の士気を下げる為にも始末しておきたかったのだが、生きていたのか…」


「あなた…やっぱり!」



その言葉には静那さえも怒りの表情を諭士に向ける。滅多な事では怒らない静那でさえ声を荒げた。


「何であんな事を!」



「そんな事はいい。

静那。この人たちがどうなってもいいのか?」



「そんなのって…」



「どのみちこちらの言う事を聞くしかないんだ。お前に選択権は無い。

“はい”か“イエス”か早く応えなさい。

そしてこっちに来なさい。」



「ふざけんな!」


その時、真也が怒鳴りつけた。



「あの時だってそうだった。

こんなの交渉でも話し合いでも何でもない!

一方的な脅しじゃないか!

誰がこんなの納得するんだよ!

大人達はこんな手段でしか対話ができないのかよ!

何だよ!

“はい”か“イエス”かとか!

バカにするな!」



“パンッ”という音と共に銃声が響いた。



小型銃ではあるが、諭士の手から銃弾が放たれたのだ。


その銃弾は目の前の勇一の側頭部を深くかすめた。


遅れて頭から頬へと血が流れてくる。



尚も銃を突きつけた上で再び静那に視線を戻す諭士。



「次は確実に頭を撃ち抜く。

その次は人質の頭を一人ずつ撃ち抜いていく。

もう一度だけ言う。

お前に選択する権利は無い。

静那、あと2秒で答えろ。」



「1…」

「はいッ!だからもう止めてッ!」


怒鳴りつけるように静那が返答した。



「ならこちらに来なさい。

私を待たせるな。

すぐ来ないと、まず目の前の男を撃ち抜く。」



俯いたまま静那は真也の傍を離れ、仲間の間を抜け、黙って諭士の方に向かって歩いていった。



真也は何も声が出せなかった。


自分が何か抵抗すればどうなるかが分かっているから…



あまりにも一方的な出来事に何も言えない勇一達。


何より静那と真也以外の人間は存在自体がまるで無いような扱いだ。



その見解は間違いではなく、勇一達はお構いなしという感じで諭士は静那の方を見やる。


「よろしい。

ではセスナで基地まで案内する。ついてきなさい。」



そう言って静那に手錠をかけ、後方のセスナまで連れていく。


このまま彼女をどこかに連れ出す気だ。




でも「待て!」が叫べない。


それだけ今の自分が置かれている立場は絶望的だった。



ジャンヌやネイシャさん、リーン、ハインさんを拘束していた4人の軍人らしき男達も人質を連れたまま追随するようにセスナまで移動する。


“まさか彼女達も一緒に連れていくつもりか?”と思ったが、飛行機の手前へ4人を固めるに留まった。



尚も彼女達に銃を突きつけ“こちらに近づくな”とばかりに威嚇する4人の軍人。


その後、4人の男達がエンジンのかかったセスナに素早く乗り込んだかと思うと、セスナは滑走路を勢いよく走り出し、そのまま離陸していった。



有無を言わせないあっという間の出来事だった。




飛行機が飛び立ち、何も無くなった滑走路…




「ごめんなさい…」


彼らが去った後、ネイシャさんが力なく詫びてきた。


人質の4人は無事だ。拘束されていたのだろうが目立った外傷は無い。




…しかし体中の力が抜けて膝から倒れ込んだ勇一。


周りの声が聞こえないほど呆然としていた。



側頭部から血が流れているが、そんなのは関係ない。


静那が……連れ去られてしまった…


そして何もできなかった…



己の無力さに少しづつ怒りと涙が込み上げてくる。



今まさに頭の中で何度も繰り返されている言葉が口から搾り出てきた…



「静那を………返せ…

静那を……返せ…

静那を…返せ…

静那を返せ…

静那を…うぅ…」


視界が歪んでいる。


気付けば膝をつき俯いたまま涙が溢れていた。



もう何も考えられない。


これほどまでに一方的な絶望を感じた事は無かった。


どんな形であれ幸せになってほしいと思っていた大切な人が…連れていかれた…


涙と共に頭が割れるような辛さが込み上げる。



その後堰を切ったように大声で叫んでいた。


「ううぅわあああああああああああ!

返せええええええええ!

返せ!返せ!返せ!返せ!返せ!返せェ!!」


その時周りの皆がどんな表情でどんな心理状態だったかは分からない。



勇一はただただありったけの声で地面に向かって狂ったように叫び続けていた。




* * * * *




諭士はドイツでのこと、これまでの動向を知っていた。


恐らく飛行機の事故も仕組まれたものだろう…全員を事故死に見せかけ、静那の遺体だけは回収しようとしたのかまでは分からない。



これは後になって知ることになる。ジャンヌが教えてくれたのだが、諭士のバックにはネイビーシールズというアメリカ特殊部隊がついていた。


人兵器として育った静那を危険とみなし、見つけ次第欧米内の監視下で拘束する事になっていた。

…戦争の交渉道具として…


そして…連れていかれた。



今まで感じた事の無い失意の中、勇一は静那のいない世界なんて考えられないと叫ぶが、どうしようもならない。


圧倒的な軍事力の中ではなす術がない。


今度ばかりはなんとかなる相手ではない。


アメリカの軍隊に対し10代の若者達が正面からケンカを売ってもどうしようもない。


さらに静那という存在がアメリカに渡ってしまった以上、ロシア側が密かに遂行していた人兵器の計画が改めて漏れた形になり、最悪戦争に発展していく可能性もある。



戦争に発展する……その大義がある…



事態は想像以上の規模に膨らむ可能性を残してしまった。


悪夢だ…




* * * * *




涙を流しながら叫び続ける勇一……



今はもう誰が何を言ってるのか分からない。


周りの声もほとんど聞こえない。



頭が割れるほどの辛さの中、勇一の周りで仲間達の声が少しづつ聞こえてきた。



「静那ちゃんのおらん未来に未練なんてあるか?

俺の一番大切な人を奪っておいて五体満足でおれると思うなよ!」



「俺の嫁を…。たとえ相手が国家だろうが知った事か!アイツは…俺を…怒らせた!」



「…大人の言葉なんて…クソくらえだ!交渉なんてクソくらえだ!相手が誰だろうが上等だ!」



「静ちゃん…。静ちゃんの居ない人生なんて考えられない!」



「もう会えないなんて嫌。私が、私が必ず迎えに……」



「静那…絶対に守るって決めたのに。誓ったのに…」




…かすかに皆の声が聞こえる。


…涙声も混じっている。



でも勇一は何もできなかった現実を受け止められず、立ち上がれなくなっていた。


“もうおしまいだ!静那を失ったうえ、世界が滅茶苦茶になるかもしれない…日本へも恐らく…”



完全に道が閉ざされたと絶望感を感じていた。









その時“日本語”で自分達に呼びかける力強い声が聞こえてくる。




「まだ望みはある。」




その聞き覚えのある声と“日本語”に反応し、勇一は顔を上げる。


周りのメンバーも驚きの表情と共にその声の主を見上げる。



…そこには死んだはずの静那の父親・ミシェルさんが立っていた。

62話『選択と決断①』のエピソードはもう1つ続きます。


次回でSEASON3 ドイツ編は終了となります。

欧州の様子は現地取材を経てリライトしたいと感じています。


【読者の皆様へお願いがございます】

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