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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: SHUSAKU
season3【A面】
235/239

62-1 選択と決断①

【62話】Aパート

スイスのメディカルルームで治療を受けているうちに年が明け、1998年に入った。



年末に差し掛かる頃には男性陣の怪我も随分回復したため『MF』のドイツメンバーと共にハインさんはベルリンへと戻っていった。


でも寂しくはなかった。


またベルリンに行けば会えるし、帰国前にも顔を出す約束をしたからである。



ハインさんとしても“総長”としてこれからやるべきことが山積しているので、名残惜しいが一旦お別れとなった。



ハインさんや『MF』ドイツメンバーが帰ってしまったことで少し寂しくなったメディカルルームではあるが、勇一たちはお互いに充実した日々を過ごしていた。



これから大人になっていく中で自分達が学ぶべきこと、学ぶ理由が分かったのだろう。



そして施設内にあるインターネットという媒体を使えば何でも調べる事が出来る。夜になればそんな調べた内容をテーマにして各々が話しあった。



リハビリ治療に専念していた勇一の状態も回復していき、普通に歩行が出来るようになった辺りで年越しを迎えたのである。



日本式の年越し行事をジャンヌにも紹介し、施設内にある素材を使ってではあるが日本の「おせち料理」を食堂で再現してメディカルスタッフの皆さんに振舞うなどして新年を祝った。


餅つきにもチャレンジした。


欧州ではクリスマスからお正月にかけては休暇を取って家族と過ごすのが定番だそうだが、無事メンバー全員で年を過ごせたのが何よりだった。


静那も元気でいてくれている。


本当に何よりだった。



でも日本の家族とは再会できていない…


そう……もう1年近くになる。


少しずつ日本を恋しく思う気持ちも募っていたのは事実だった。




また本場ドイツのクリスマスイベントを間近で見てみたかったのは正直な所だろう。


そこは来年以降の冬にドイツに行く理由ができた。



でも仲間と過ごせたこの半月の間はそれ以上の価値があると感じる勇一達だった。


何より静那がよく笑ってくれる。


ドイツ国内では気軽に出歩けなかった静那も、今年もまた皆で迎えられた新年にとても満足そうだった。



そんな彼女の髪もいつの間にか肩にかかるくらい伸びてきた。


そしてその髪を毎日のようにブラッシングしながら褒める勇一。


これだけはいつの間にか勇一の役割というか、お互いのルーティンとなっていた。





年が明け、暫くすると施設の方に新年の挨拶状が届く。


こういう点は世界共通のようだ。



まず届いたのはハインさん達新しいアジトの皆から。


昨年末から早速『MFドイツ支部』のメンバーと連携を取り合って治安維持に努めはじめている。


連絡網などを見直して一からスタートと言う感じだった。




そしてイタリアからも子ども達の元気な様子が写真で送られてきた。


子ども達は“とにかく葉月に会いたい”と恋焦がれているようだ。


もし会いに行くような事があれば婚約でも申し込まれそうな勢いである。




苦笑いをしながら皆でお返しの葉書を書いていた部屋へ勇一がやってきた。


ちなみに静那は今美容室ルームにいる。




「勇一。もう普通に歩いても大丈夫なの?」


「もうあんまし普通の状態と変わらんようになってきたな。」


「うん。おかげさまですっかり良くなった!

ドイツで本場クリスマスを祝えなかったのは残念だったけどスイスの医療施設に移ったのは結果的に良かったよ。

他の病院だったらもっとかかってたと思う。お金も時間もさ。

少し胸のあたりに傷が残ったけどこうして生きてるんだ。

かすり傷みたいなもんだよ。」


現状8~9割完治ということで問題なさそうだ。



「お前運が良かったんやで。

1年で2回も被弾するやつとかなかなかおれへんぞ。」


「被弾ってなあ……

う~ん、まぁそうだな。よく生き延びれたもんだ。

一番初めに被弾したのは肩口だったな~

人生初めての体験っていうか…もう体中が焼けるような感覚がしたよ。

よく無事でいたもんだ。」



その言葉に皆しみじみと感慨にふける。…よく生きてここまで来れたと。



でも兎にも角にも静那が元気でいる事が何よりという感じだ。



「それもこれも静那に救われたんだよな。」


「そうよね。静ちゃんこそ命の恩人っていうか…救ってもらった命、無駄に使わないって誓ったものね。」


「ああ。命知らずな事はしたけど、命を粗末にはしてないで。生かされたって意識はあった。」


生一もあのペルシャでの死闘を思い出す。骨に古傷が出来てしまったのは苦い思い出だが。


「また皆にも会いに行きたいよな…」


「“皆にも”っていうかお前が言うてんのはネイシャさんの事やろ?」


「まぁ…な…」


「どうせ夜な夜なしたー「あばばばばば!」


途端に声を荒げて生一の言葉を遮り、焦りだす兼元。



とにかく会って1年も経っていないのに恋しくなった仲間の事を思い出していた。



「リーンちゃんも…あれから少し成長したかな。ってまだ半年も経ってないけどさ。

葉月はまだ会ってないよね。是非会わせてあげたい子がいるのよ。」


「そうね。何度も聞いてるし会ってみたいね~。すごく心の強い子だって話してくれてたし。」


「きっとお母さんと元気に暮らしてるんだろうな。」


「今度は日本食を御馳走しに行かなきゃね。」


「そうだな。」


「俺らの事も忘れてないハズや。どれくらい成長したか楽しみやなぁ。」


「お前の“成長”っていうんは特定の部位の事やろうがい。まったく。」


「ええやん。彼女はポテンシャル秘めてんねんから。まだ14やで。14!」


「相変わらずですね。」


「なんか最後にハグをした時に計測しておいたとか…アホやろアイツ。」


「らしいって言えばらしいかな…」



少しバカな話に突入しかかった辺りで、部屋に2名の女性が入ってきた。


ジャンヌと…静那だ。


ジャンヌが美容ルームで静那の髪を整えていたのだ。少し切りそろえたようだ。



「おおお!静那ちゃん髪切ったんか~。」


「うん。前髪と後ろをちょっとだけだけどね。」


「いやいやイイ!イイ!整ってて。“お姫様値”上げてるで。」


「めっちゃええやん。今までにも増して女神っぽくなってる!」


「本当。静ちゃんはキレイな髪してるよね。」


「へへ、ありがとう。どうかな真也。」



静那は整えた髪型を真也に見せつけてみる。


真也は少し微笑みながら答えた。


「うん。すごく奇麗だよ。」


「せやろせやろ!」


「絶好調の時は関西弁になるねんな。静公。」


「真也ももっと具体的に褒めたら?あいつらみたいなハイテンションで言わなくてもいいけど。」


「う…ん…。でもホントに奇麗としか…。」


「かまへんて。奇麗なん確認出来たさかい。」


そう言って嬉しそうにする静那。




落ち着いたところでジャンヌが通達する。


「じゃあ今日はもうここの医療スタッフ達も帰るし、私もオフィスに戻るね。」


「ありがとう。理髪も手伝ってくれて。仕事根詰めないでね。」


「いえいえ。静那さんにも何かしたかったから。

ドイツへ行く日が決まったら教えてね。

私が車を出すから。」



そう言ってジャンヌは自分の支部へと戻っていった。


支部といってもこの医療施設に隣接している建物なのでそんな離れた場所というわけではない。明日になればまた会える。相談事があればラッツィオ隊長だっている。



「さて…全員そろったよな。じゃあ話し合うか。新年一発目。」


「これからどうするか…ってことね。」


「うん。慎重にしないといけない所でもあるからな。」




* * * * *




基地内は医療設備もしっかりしている。


あと一週間もすれば最後の患者になっている勇一も無事退院となる。



それは“いつでも帰国する手筈が整う”という意味でもある。


寒い時期が続くが、まずは日本に…という思いは各々大なり小なり抱いていた。


日本を出てもうすぐ1年近くなる。


故郷を恋しく思うのも無理はない。



しかしである…


日本にすんなり戻れないのではないかというのは全員が感じていた。



日本で連絡が取れる諭士さんは果たしてどういう人間なのか…


遠回しに勇一を殺害しようとした黒幕となれば気軽に会いに行くわけにはいかない。


静那や真也にとっては複雑な気持ちだろうが、それでもどうするかを選択しなければ結果としてずっと日本に戻れないままだ。



不安もあるが、それでもなんとか日本に戻れるなら…という気持ちは抱いていた。



「諭士さん…連絡はつくんだよな。」


「うん。」「はい。」


静那と真也が答える。



「用心を兼ねて明日、町中の公衆電話から連絡入れてみないか?」



勇一の提案に暫く沈黙が走る。



しかし…


「分かりました。僕…電話してみます。」


「以前俺が電話で話をした時、確か諭士さんがドイツの空港まで迎えにきてくれるって言ってた。

諭士さんと一緒の便に乗るなら日本まで帰れるかもしれない。

希望的観測だけど“ドイツから一緒に帰ろう”って言ってくれるなら空港まで行ってみないか?

どうだ。」



勇一の提案に対し、誰も何も言えない。



正直なところ皆言葉に悩んでいた。



まず飛行機に対して全員相当なトラウマがある。



でもシベリア鉄道など陸路を使って日本まで戻るのはあまり現実的なルートではなかった。


それでも空路で帰るという決断をするのが怖いのだ。


事故を経験している…


無理もない。




暫くして小谷野が口を開いた。


「会いたい人もいるし、この先ハインちゃんとこの力にもなりたい。でもそれはやっぱり一旦日本に戻ってからにしたい…俺は勇一の意見に同意や。」



葉月が続く。


「私も日本にこだわるつもりは無いけど、まずは家族に無事な姿を見せたいかな。

もし私たちが死んだって報じられてるのなら余計に家族に会いたい。

元気で生きてるって…それだけでも私の口から伝えたいよ。」



生一も言葉を選びながら話す。


「自分達が生きてるいう事に対して都合が悪い人間がいるんよな…

俺も勇一の意見に乗りたいと思うけどちょっと整理せえへん?」


「整理ですか?」


不思議そうな顔をするのは八薙。



「おう。今までの流れから誰にとって都合が悪いかは何となく分かるやろ。」


「そうですね。一度確認しましょう。」



生一はルーム内にホワイトボードがあったので、持ち出して書き出してみる。



「まず北、ロシア側になるよな…。『MF』の人が“今回の件で静那という存在が北側に見つかってしまった”って言うてた。

でもあの精鋭達は全員捕まえられたし、これで俺らが“いつどこに行くか”までは踏み込んで来れんと思う。だから可能性としては低い。」



「じゃあもう片方…」


「せやねん。米国側…。

ここが諭士さんと繋がってる可能性あるんよな。

静那の存在は諭士さんを通じて既に認知されていて、今回相手側に見つかって連れ戻されてしまう前に…」


「逆に連れ戻しに来る…そいう事か?」


「“諭士さん”いう信頼を使うてな…」


「アメリカ側からしたら静那の存在が非人道的な証拠そのものだからな。国際世論を味方に付けてロシアを非難する材料としては大きなアドバンテージだ。戦争の大義にもなる。

…その…ごめん、静那。“材料”なんて言い方して。」



目の前の人間に“材料”なんて言い方は確かに失礼だ。


それでも真剣に論じてくれる勇一の意見に皆は耳を傾ける。



「諭士さんがアメリカ側の人間なら…」


「電波塔を妨害したりこの前の件に間接的とはいえ関与してるなら可能性はあるよね。…どうする静ちゃん。」


「諭士さんを信じたい…けど分からないよ。私、どうしていいか。

6年間もお世話になった人だし。」


「直接会って確認するしかない言う事か…」


「悩んでるだけじゃあね…進まないのは確かだし。」


「そうですね。不安だからってこのままって訳にもいかないですね。」


「じゃあ、真也。明日電話を入れてみよう。直接本人が迎えに来てくれるなら話だって出来る。その場合は会ってみよう。

話ししてみないとわからないこともある。」


「……はい。」





こうしていよいよ帰国の件で日本の諭士さんに連絡を入れることになった。



諭士さんはすぐに電話に応じてくれた。


電話からの口調も以前と変わらない。


真也としては緊張の面持ちを悟られないようにしつつ、これからの予定を話す。


ドイツでの件はあくまでも伏せ、ウソの近況報告を伝えてみる…



「連絡が遅くなってしまい心配をかけました。

こちらは寒さで静那が体調を崩したりして大変でした。

…でももう退院しました。今は元気です。

遅くなりましたがドイツ国内の空港ならいつでも移動できます。

諭士さんはこちらで合流出来そうですか?」



お互いの合流の日取りをつける。



諭士さんはやはりドイツまで直接迎えに来てくれるとのことだった。


“飛行機事故の事もあったから皆心配だろう”とは言ってくれているが、本心はよく分からない。


杞憂であってほしいと願いたいのだが。



複雑な心境で電話をしている真也を見つめる勇一。


あの時…自分が何者かに銃で撃たれた理由がどうしても頭を駆け巡る。


生一の推理でさえ正解という保証は無いのだ。



電話の最中、ふと真也がこちらに目くばせしてくるのに気づく。


“こちらの話は終わりましたが勇一さんからは何か話しますか?”という合図だ。



勇一が話すのを躊躇したので真也は電話を切ることにした。






通話中、他の皆も公衆電話の周りに陣取っていた。


「どうだった?真也。」


「うん。1週間後に指定した空港で合流ってことで決定になりました。」


「じゃああの諭士さんって方…日本からドイツまで本当に迎えに来てくれるってことなんだ。」


「はい…」


少し複雑そうな顔をする真也。本当にこれで帰国出来るのか分からない。



勇一が背中を叩く。


「後になってこの選択が良かったって思えばいいんじゃないか。今の帰国ルートはこれくらいしか思い浮かばないし…

どちらにしても前に進まないと。」


その言葉に嘘はない。


でもこれで良かったのかと感じずにいられない部分もあった。




* * * * *




国際電話で諭士さんから告げられた待ち合わせのポイントをインターネットのマップで検索してみる…


電話を終えた後、施設に戻って早速その住所を検索してみるのだが…国際的な空港ではなかった。


滑走路はあるのだが、空港としては国内で認定されていない場所だ。


飛行訓練場のようなところだろうか……



「どう思うよ、ここ。」


「一応滑走路あるんやけどこんな所で待ち合わせするんか…

店もないし、国際的な手続きする場所もないし……」


「ベルリン州からそこまで離れた場所じゃないっていうのは安心できるけど、てっきり国際空港の入り口とかで待ち合わせするものだと思ってたからな…」


「軍隊が待ち伏せしている可能性は?」


「市街地が近いんだ。さすがに騒ぎになるような事は出来ないだろう。ドイツ政府だって他国の介入を容認するくらい甘くない。」


「でも勇一は怪しいとは思わへんのか?お前、撃たれたんやで。」



「ん……気にならないって言えばウソになるよ。

でも日本に帰る突破口が見つからない今、諭士さんの本心を知るしか進みようがないような気がするんだ。

それとも陸路で帰れるか?」


「陸路で日本までは流石にイメージできんな…」


「そうだろ。諭士さんは静那の里親として、それに真也の保護者として2人を育ててきた人間だ。

それは事実だ。だから無下に扱うとは思えないんだ。

…いや、思いたくないんだろうな…俺。」



「勇一…」


「勇一さん…」



「ただ…あのベルリンで真也と対峙した連中さ、任務を完了させる為なら手段を選ばなかっただろ。

諭士さんって方もそういう人だとは思いたくないんだけど、可能性は拭えない。

だから…こっちはとにかく静那だ!」


「静那が?」



「そうだ。

当日は真也が静那の傍にいてあげてほしい。

いざとなったら静那を連れて逃げろ。

この場合の優先順位は静那を守る事だ。俺達じゃない。」


「……はい。」


「ちょっと待てよ。そんな危ないケースを想像せなあかんのか?」


「諭士さんの本意が分からない以上、あらゆるケースを考えてないといけないと思う。静那に何かあったら一生後悔するだろ。」


「そうやな。

その意見は腹に落ちた。

異議無しや!」


「肉壁になる可能性もあるいう事か…あったとしても俺は同行するけどな。」


「肉壁とかそんなこと言わないの!しーちゃん悲しむでしょ。」


「多分市街地に近いから発砲はしてこないと思う。…いや、そう思いたい。」


「市街地に近いからって理由で必ずしも手荒なことをして来んとは限らんよな…

希望的観測多いな…」


「そう思わな進めんやん。苦しいところやけど…」


「諭士さんって方がドイツまで来てくれるっていうんだから信じたい…よな…」




一体どこまで想定しておかないといけないのか分からない。


でも静那や仲間達と、ふとしたきっかけでバラバラになってしまう最悪の事態は避けたかった。


そして“あの未来”を見てきた勇一だからこそ強く感じていた。

SEASON3 ドイツ編はこの62話にて終了となります。

欧州の様子は現地取材を経てリライトをしたいと感じています。


【読者の皆様へお願いがございます】

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