61-2 凱旋とはじまり
【61話】Bパート
合流地点で静那とハインさんの帰りを待つ勇一達。
そこへ無事2人が戻ってきた。
静那の無事を確認して泣き出す小谷野と兼元。
「もう一人にさせへんからな。」
「何も力になれなかった自分を許してな。」
「…うん。」
口々に叫んで力強いハグをする。
2人に抱きつかれた静那は困惑するでもなく落ち着いた表情で2人を受け止めた。
「私は約束を守る女ですよ。
まぁこれからは旦那様を心配させたお詫びとして完治するまでしっかり看病させていただきますから。」
少し離れた所では仁科さんも涙を流していた。
その様子に気付いた静那は駆け寄り声をかける。
「心配させてごめん。
私もそうだけど真也も何だかスッキリした顔してた。
あとは真也達に任せようよ。
事を終えたら必ず戻るって言ってたし。」
「ん…。そうね。」
そう言って涙を拭う仁科さん。
何事も無く無事静那と合流出来たからというのもあるが、ようやく勇一達に笑顔が戻った。
今回“見えない相手と向き合いながらも自分の足で立ち続けること”の厳しさを痛感した。
勿論精神的な部分が大きい。
心休まらない中で立ち続けられたのは、大切な人のため。
改めて仲間がいる事の大切さや心強さを感じた。
「まずは基地まで帰ろう。」
静那が皆に呼びかけた。
* * * * *
「じゃあ行こうか。」
基地で一夜を過ごした後、次の日の朝を迎えた。
車を出してくれるのはグリムバートさん。
2回目になる。
今度こそスイスにある本部まで送迎してもらうことになった。
真也はまだ合流できていないが、ジープに荷物を積み込む皆の表情は心なしか明るい。
まだフルメンバーではない…が、静那がいてくれる事が嬉しいのだろう。
少なくともグリムバートさんにはそう見えた。
「あの、真也君の荷物ってコレで全部かな?」
そう聞いてきたのはハインさんだ。
彼女は包帯だらけの変わり果てた4人の姿を見て、彼らが完治するまでのサポートを申し出てくれた。
勿論スイスまで同行してくれた上でだ。
彼女なりに今回のお礼がしたかったようだ。
「あっ、兼元さん。持たなくてもいいからね~。」
そう言ってまだ体調が回復していない彼の荷物を持とうとする。
「ああ…ありが、おっとっと。」
そう言って兼元はハインさんにもたれかかった。
慌てて抱きかかえるハインさん。
“ケガしてるとはいえ、さっきの倒れ方絶対ワザとだろ!”と内心感じている生一と小谷野。
2人にはもたれかかった魂胆がバレバレのようだ。
“よし”とばかりに小谷野も自分の荷物を運ぼうとする。
しかしすぐにハインさんがかけつけた。
「小谷野さんっ。まだ怪我人なんだから大人しくしてて。」
少し注意されてしまった。
「クソォなんやねんコレ。」
小谷野が少し悔しがっていると横目で兼元が呟く。
「バーカ!タイミングってモンがあるだろうがよ。ま、ココよココ。」
日本語でそう言いながら自分の頭を指さす兼元。得意げだ。
「うーん。
あのバカ達も平常運転に戻りつつあるかな…」
生一もようやく安心した表情になる。
あの時……雪山で首無し人間に出会った時は生きた心地がしなかった。
“本当にここ数日は心が休まらんかったなぁ”というしみじみした表情を浮かべる。
「そろそろ車に乗ってくれ。天摘氏、2人を呼んできてくれないか?」
荷物を積み込んだ後、各々ジープに乗り込んでいく。
そこへさっきまでベットにいた勇一が葉月と静那の肩を借りてやってきた。
重症とはいえ”両手に花”の勇一。
それを見ながら冷めた感じの小谷野。
「今回の功労者が最後か~。まぁええ身分やな~」
「そう言わないでよね。勇一が今のところ一番重傷なんだから。」
葉月が注意する。
「勇一さん、体調は大丈夫?何なら車の中でも横になってて。
車内はちょっと狭いけど私が膝枕するから。」
ハインさんが気づかいの言葉をかけると、お約束の様に”日本語”で2人が突っ込んでくる。
「オメェズリいぞ!膝枕とかふざけんな。
いくら重傷やから言うて甘え過ぎやで!」
「せやで!その膝枕ポジション ジャンケンで決めようや!
ちなみに3回勝負な!」
なんだかこのバカなやり取りが妙に懐かしい気がする。
日本語のやりとりなので内容がイマイチ分からず、ハインさんが不思議がる中、他の4人はクスクス笑っていた。
…しかしほっておくとこういう会話はロクな方向に行かないのもお約束。
「ついでにハインちゃんからのマッサージ権も賭けて…」
「望むところや!」
そこでようやく勇一も突っ込む。
「お前らええ加減にしろ!静那もいるってのに!」
早朝の出発とはいえ陸路のみを使ってスイスまで走るのはかなり遠い。
バカなやり取りはほどほどにして車はベルリンの街を発った。
クリスマスイベントは見てみたかったけど一旦ドイツとはお別れだ。
「お前言うとくけど60分経ったら替われよ!絶対やぞ!」
後ろの席では静那にかわりばんこで膝枕をしてもらうことになった2人。
助手席で仁科さんが運転手のグリムバートさんに謝る。
「すいません。バカで…」
「いいよいいよ。ようやく君達らしい姿が見れたような気がするし。」
「はぁ…」
「それに本来訓練でも受けていない人間が戦線エリアに立つもんじゃないんだ。
今回どう思った?
あのままずっとあそこに居たら、気が狂ってしまうんじゃないかって。」
「そうですね…面目ないですが。」
八薙が呟いた。
車の前方ではグリムバートさんに対して仁科さん、葉月、そして八薙が話をしている。
窓の景色を見ながら生一も一応耳を傾けていた。
「人はずっと戦場というか戦闘の状態が続く場所に居ると気が狂ってくるんだ。
だっていつ自分が殺されるか分からないだろう。
そのためずっと気を張っていないといけない。
それこそ寝る時間すらね。」
「…はい。」
「そんな極限の状態が続いていくと、どんな人間も“気”がおかしくなる。
寝不足も積もり、やがて正常な心が保てなくなる。」
「そうですね…そんな感じがしました。」
「日本では衣・食・住と言われるだろうが、この3つがあって安心できることが生きていくうえで大事だ。分かるね。」
「その感謝を忘れてきていると…」
「鋭いじゃないか。
我々はつい無いものねだりばかりする。
しかし今回の体験を通してどうだ。
“ある事”のありがたみがすっかり見えていなかったと分かったんじゃないか?」
「………はい。」
「それでも”ある事”に慣れ過ぎてしまった人間は歯止めが効かなくなる。
“もっと、もっと…”と言うふうに。」
「それがまさか…」
「その行き過ぎた先が……」
「戦争だよ。」
「それは飛躍し過ぎじゃ。」
「だが戦争の基本は奪い合いだ。何万年も昔の争いのルーツを見ていけば分かる。」
「奪い合い…か…」
「“あるもの”に目が行かなくなった末路という感じかな。
そこに気付けば争う理由は無くなる。
さらに“あるもの”に感謝できれば調和も起こせる。
それなのに“あるもの”以外の物を夢中で作り続けていく。
その本来無いものでお互いを比較したり争おうとする。」
勇一は安静にするため横になっていたが、グリムバートさんの話には耳を傾けていた。そして言わんとする意味が何となく分かる。
臨死体験を経て自ら感じたことと少し似ていた。
「“あるもの”は本来地球上にちゃんと備わってるんですけどね…」
そう勇一が呟くとグリムバートさんは少し驚く。
「これは驚いた。
私の発言を先取りして言われるなんて…ははは。」
「でもその通りですよね。」
葉月が同調する。
「我々が活動している『MF』は何も争いを止めるのが本懐ではない。
最終的には人の“気づき”だ。
広い視点から導くため、人間が長く繁栄していくために過去の文明を紐解いたりと幅広い分野で研究を進めている。」
「今回スイスに戻る目的は単なる治療だけではないって事ですか?」
「そう感じているなら嬉しいかな。
もう国に主導権を任せていては地球がもたなくなる。
無茶なエネルギーの使い方で気候も今後おかしくなるだろう。
そんな状態でもお互いの国家をどう維持させるかに焦点が当てられてしまうので、これはある程度は仕方のない事でもあるのだが…
これからは有志ある市民の力が必要だ。勿論国籍などは関係ない。」
「はい。」
少し間を置いた後グリムバートさんはこう告け加えた。
「それに、日本人には大切な役割がある。神話の伝承が本当ならね……」
* * * * *
「お帰りなさい。」
事前に詳細は聞いていたが、包帯だらけの4人の帰還を聞いてすぐに駆けつけてくれたジャンヌ。
温かい紅茶を持って出迎えてくれた。
ジャンヌだけでなくラッツィオさん達もスイス本部に隣接しているメディカルルームに見舞いに来てくれた。
「おう!今帰ったで俺の嫁!早速手厚く介抱してもらおか。」
「おいコラ!日本語で言うな!
ったく…隣にハインさんいるからって…調子のいい事言いやがって。」
「ええやん。これから美女たちの看護三昧やし。」
「言い方がなぁ…」
苦笑いをする勇一。
勇一もこれから治療に専念する。
メディカルルームに入った後、小谷野と兼元にとっては夢のような時間が待っていた。
まず静那とハインさん。
そして仕事の合間を縫ってジャンヌまでもが交替しながら5人を看病してくれることになったのだ。
「この3人ったら、私たちがピンチの時、前線で命がけで助けてくれたのよ。
そんなだから名誉の負傷ってことでしっかり看病してあげてね、ジャンヌさん。」
葉月がジャンヌに怪我のいきさつを簡単に説明する。
勿論ジャンヌは快諾した。
「ええ。彼らには少しでも恩返しをしていきたいから。」
そう言って小谷野と兼元に微笑みかける。
「よ…よろしくお願いしますっ!
ってか葉月もエエ仕事するや~ん。」
「ちょっと!最後のは余計よ。
でもしっかり治してね。」
そう言って葉月は仁科さんと共に別ルームへ移動していった。
どこに行くかというと…
グリムバートさん主導の基、今の世界的な情勢がどうなっているのかを学ぶそうだ。
全員聞いたこともないジャンルで『地政学』というものらしい。
日本にいては見えてこなかったであろう世の中の動きもここでは知る事が出来る。
ちなみに看病している時間帯以外はハインさんと静那も一緒に同席して学ぶ。
彼女達は彼女達で今の時間を大事に使いたいと考えているのだ。
それにスイスに到着してからすぐ、ドイツ支部より嬉しい報告が入ったのも大きかった。
セルジオさんから“任務完了。これより帰還する”とのメッセージが届いたのだ。
夜になるとまた追加でメッセージが届いた。
“明日朝・2名戻る”との事だ。
* * * * *
夜明け前のまだ薄暗い夜空---
肌寒いのは仕方ないが、まもなく真也とセルジオさんがこちらへ戻ってくるということで、施設の外まで繰り出しているメンバー達。
小高い丘になっている。
そして銀色の雪が舞う。
この見栄えの良い丘で名誉ある彼らの凱旋を迎え入れるためだ。
報告によればもう間もなくこちらに到着するということだ。
少しずつ明るくなっていく日の出前の空に向かってハインさんが小さく呟いた。
「これで兄さんも…」
肩を貸してもらっている勇一が頷く。
「でも今回の事で相手はかなり後退しただけだ。
解決したわけじゃない…
一旦姿をくらましたようなもんだ…」
「そうね。
これからは国民一人一人が強い心を持たないと、また同じような事が起こる。」
「その通りだ。」
2人の傍に居たグリムバートさんも同調する。
「そして一度起こってしまえば歯止めが効かなくなる。
そうなる前に社会に対して国民の意識を少しでも高くしておくんだ。」
「そうですね…
あの総長さんがやってきたように。」
「勇一さん…兄さんのこと知ってるの?」
「何となくだよ。
俺は君の兄さんと直接会ってないんだし…
でも彼は立ちはだかる現実をなにも直視できていなかったんじゃないと思うんだ。
現実から目を逸らしていたわけじゃない。
ただただ皆の意識を底上げするのが自分の役目だと思ってたんじゃないかって…」
「勇一さん…
やっぱり見てる所が違うというか。」
「そうか?
でも総長と出会ってから八薙を筆頭に小谷野や兼元、生一も何か変わったように感じるよ。
たった2日間のつき合いなのに相当彼から影響を受けたんだな…ってさ。」
「だったら……嬉しいかな…兄さんもきっと喜んでくれると思う。」
「これからは総長としてやっていくんだろ。」
傍にいた八薙が話を聞きつけ近づいてきた。
「ええ。私2代目総長だもん。
ズーニャさん…いえ、静那さんが命がけで乗り込んで私たちを助けてくれたように。
ドイツの平和は壊させない。
小さなほころびも出さない。
…兄がそうしてきたように。
…私、強く生きるから。」
「ああ。俺達もフォローする!し続けるさ。」
その言葉に笑顔で返すハインさん。少し目が潤んでいた。
八薙はそんな彼女に向けて、総長から別れ際に手渡されていたハチマキ(Stirnband)のようなものを渡した。
「これって…兄さんの。
…兄さんの。」
「ああ。
総長に…アジトの仲間達に誓った。
まだシティ内には反勢力が。
奴らとの戦いはまだ始まったばかりだ。」
やがて眩しい朝日が差し込んできた。
雪が朝日に輝いて幻想的に見える。
暫くして生一が何かに気づいたようで、ハインさんを真っ先に呼ぶ。
「おーい。コレ使ってこっちから見てみいや!ええもん見れるで~」
声のする方を見ると、双眼鏡というより“スポッティングスコープ”のようなものを持って手招きしている生一がいた。
その見据える先には帰還する真也達2人の歩いてくる姿?もしくは“何か”が見えるらしい。
「いや~この“モロ日の出”をバックにしながらの登場はなかなか憎い演出やで~」
何が見えるかは何となく想像がつく。おそらく2人が無事帰ってきたんだろう。
でもあえてハインさんは聞いてみた。
「”憎い演出”って一体何が見えてるんですか?」
その問いにニヤリとして生一が応える。
「ドイツ連邦共和国の…新しい……夜明けぜよ!」
物語はSEASON3、ドイツ編は終了となります。
次回衝撃展開を経て、最終SEASON4へ入っていきます。
現地取材を経てリライトをする予定です。
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