11-1 道場の跡取り娘
【11話】Aパート
「で?誰なのこの2匹の野生動物みたいなのは?」
部室内、怪訝そうな声で不満を漏らすのは仁科さんだ。
放課後になり、部活に行こうとする静那。その両サイドに小谷野君と兼元君が親衛隊のごとくピッタリとついてくる。
「なにアレ…キモいよ…」
横目で見る静那のクラスメイト。
苦笑いするしかない静那。
傍から見たら親衛隊が祀る王女様みたいな扱いだ。
ちなみに小谷野君も兼元君も2年生。勇一達と同い年である。
下校のメロディーが流れたら「ムッ、王女様のお下校だ。お供せねばッ!」とか言ってホームルームほっぽり出して静那の教室に向かったらしい。
後々、2年の“クラス10”の生徒から聞いた話だ。
しかし、男子校とはいえ大阪から田舎の高知県の高校に編入してきてすぐにこんなアクションを取るとは、恐ろしく考えにブレが無い。
どこかズレているが本気さが見える。
だって普通転校初日はクラスメイトと親睦を育むものだろう。
なのにまるで“いざ鎌倉!”の如く静那のお迎えに馳せ参じるとは…本人たちにとっては相当運命を感じているのだろう。
「おまえ、やっかいなライバル出てきたな~」
クラスメイトの男子が廊下を横切る3人の妙な隊列を見ながら話してきた。
「ライバルなのかな…あいつらもう静那さんの事“嫁”って言ってるからもう俺に入る隙間は無いんじゃないかと。」
「お前絶対に本気でそう思ってないだろ。まずどんなに好きになっても一方的に“嫁”なんて言わねえし。あいつらいきなり“クラス10”に転入してきたかと思えば、誰かと話するわけでもなく鏡見たり香水かけたりして相当痛々しいらしいぞ。俺でも思うよ。ありゃ、すぐに自滅するって。」
「うーん、でも簡単に自滅はしないだろ。静那さん自身が本気で嫌がってないわけだし。」
「いやいや。静那さんもある程度常識あるんだからどっかで見限るって。それが速いか遅いかだけの事!」
「そうか?」
実は勇一としてはこのままでも良いのではないかと感じていた。
理由はやはり『日本文化交流研究部』のメンバー数だ。
2人は恐らく静那と一緒に居たいがために入部してくれるだろう。
恐らくでなく100%。
…そうなるとこれでメンバーが7人になる。
部活登録までリーチがかかっているのだ。つい欲が出てしまう。
でも“それ”が目的じゃあない。
ここら辺は三枝先生にしっかり釘を刺されている。
この部活動の目的はあくまで静那に日本の素晴らしさを伝える事だ。
まずは2人部員が増えたという事で7名全員が集ったところで自己紹介をしてもらうことにした。
「初めまして、僕は小谷野 弘之と申します。ここにいらっしゃる静那さん…この子の将来の旦那となる男です。」
シーンとする部室内。
女性陣はもちろん、生一も若干引いている。
「ええ、さっきの小谷野とかいう奴の発言には間違いがありまして…ええ、私こそ静那さんの未来の旦那である、兼元賢太郎です。
将来は実家にマイホームを建てて、野球チームできるくらいの子ども達に囲まれながら余生を過ごしたいと考えています。そして新婚旅行はー」
「待った!本妻の旦那はこの俺でして…」
…静まり返る部室。2人ともイメージがたくましいのは認めよう。
しかしながら自分達は一体何を見せられているんだろうかという空気。
こんな時、少し気性の荒い仁科さんが真っ先に突っ込み役をしてくれるのだが、もう何だか呆れかえっている。
男性と言うよりは別の生き物か何かを見る目だ。
椎原さんは癒し枠らしく、そこを貫きながらおとなしく静那と2人で見守っている。
「彼の新婚生活は“芯”というものがありません。」
「今の意見を聞いて、はい!兼元賢太郎君!」
生一が国会議事堂の答弁にいる司会役のマネをやりだした。
さらに状況を滅茶苦茶にするな!と言いたい。
「そもそも貴方の女性を見る目は誠に嫌らしく、男性である私も遺憾に感じております。」
「はい!小谷野変態大臣。」
「そちらこそ下着の収集をしゅー」
「ちょっとストーップ!!!」
生一も混ざってバカみたいな言い合いが始まったので勇一は仕切ることを決意。
「結局2人はこの部活が何をするところか分かってんのか?
静那や椎原さんに日本の良さを伝えるって目的で先生が活動立ち上げの許可をくれたんであって…そのためにー」
「お前、他にも考えてることあるやろ。登録の件とか!」
生一が突っ込む。
…的確かもしれないと勇一が口ごもる。
「何よ?お前も野心があるんか?コラ、隠し事は部長として無しやで。言ってみ。」
小谷野と兼元2人が食いついてきた。
少し間があったが、ここで話さないと後々チクチク言われそうなので観念して話す。
「その…うちの高校はメンバーが8名揃わないと正式な部活としては認めてくれないわけでさ…
その代わり8名揃ったら部になるし…活動経費…も、ちゃんと出るし。」
「なぁ~~にぃ~~!」
大きく叫ぶ小谷野と兼元。
この2人はいちいちリアクションがやかましい。
「部になって経費落とせるんならよ、その金で今度こそ合宿と言う名のハーレムキャンプみたいなんが合法的にできるんと違うんか?」
とんでもないことを言い出す生一。
「ナ~~ニィ~~!」
なんでカタカナで叫んだのか分からないが、鼻息を荒くして2人の野獣は叫んだ。
「部費ってそういうもんに使うんじゃないでしょ!何考えてんのよ!」
やっと仁科さんが突っ込む。
この部活内で男性陣に上から意見を言うタイプは仁科さんしかいないので、早く何か言わないとこいつらの無法地帯になる。
静那の方はというと…「合宿とハーレムキャンプとどう違うんだろ」と呑気な顔で椎原さんに聞く始末。
さらに仁科さんは畳みかける。
「それに使用用途とかきちんと後でレシートとかと一緒に書類にまとめないと最悪一発廃部とかになるかもしれないし!」
「何ィ!」
今度は短く叫んだ。
…いちいちやかましい。
「俺の気持ちがぐらぐらしてたら皆不安になると思う。だからさ。メンバーは“登録できるくらい集まればいいな”くらいな気持ちで居ようと思う。
俺たちの本当の目的からブレたら駄目だ。大丈夫?静那もそれでいいよね。」
「うん。みんなが居て…この素敵な集まりがあるだけで十分だよ。小谷野君も兼元君も加わってくれて嬉しいし。あ…先輩…だったね。」
「オオ…何と言うやさしきお言葉。さすが嫁は言う事が違う。」
「その嫁っていう言い方はやめてくんない!妙な空気になるし、静ちゃんもちゃんと名前で呼んでほしいよね。」
「なんだね貴女、もしかしてこの私に妬いているとか…」
ブチッという音がした。
「よし、殺そう!」
「待ってって仁科さん!落ち着けって。」
「うん、仁科先輩!ちょっと待ってみてよ~」
「“待ってみてよ”って静那、日本語ちょっとおかしいぞ。」
「まったく暴力的な女性だ。ま、ポテンシャルだけは秘めているというのは認めましょうか。」
カッコつけながら小谷野は仁科さんの胸元に視線をやりながら反論する。
そのセリフが彼女の火に油を注いだようで、収拾がつかなくなる。
さすがにまずいと思った勇一…ではなく静那が対応する。
ちょっとわざとらしいくらい大きめの声で…
「ウン!そうだね。やっぱり名前で呼んでほしいかな。その方が嬉しいな!」
そこで一斉に静那の方を見た後、現場は落ち着いた。
「(ごめん。一番下の後輩に気を使わせてしまって。)」
* * * * *
それでもやっぱり“部”に昇格した方が活動がやりやすい。
歴史資料館や展示会などの文化施設へ、合法的にタダで見に行けるというのは願ってもない事だ。
静那は正直もとから金欠気味だったので美術館などはまだ行ったことがないそうだ。
部活動の一環として出来る事なら見分を広げてやりたい。
「やっぱり部になった方がいいよな。」という問いに関しては素直に首を縦に振った。
あと1人。
あと1人いればそれが可能になる。
* * * * *
小谷野と兼元が部員に加わってから3日後の放課後。
部室に集ってからまず女子と男子で分かれて雑談に入ったころ、新戦力の2人が新入部員勧誘の案を切り出す。
まだ日が浅いのにえらく用意周到だ。
まるでこうなる事を分かっていたかのようだ。
「ダンナ、いい話ありますぜ」
「どこで覚えた?その言い方。」
小谷野の悪徳セールスマンみたいな切り出しに少し警戒する勇一。
しかし"案"と言うその内容はまともだった。
気になった生一も途中から会話に参加してきた。
「いやねェ。今現在の部活動してない女の子をリサーチしてみたんですよ。
そしたらイルジャナイデスカ!小動物系の可愛い子が!」
「お前その情報源俺だろ!何自分の手柄みたいな言い方してんだよ。」
兼元が割り込む。
「チッ。とりあえずまず情報言うで。その美少女が潜伏しているのが隣町の空手道場って訳。」
「美少女…潜伏…って。」
でも“空手道場”という言葉に聞き覚えがあった。
そこの道場主である“天摘師範代”が県内ではそれなりに有名な方で、新聞やメディアに出ていた事もある。その師範の娘が確か同い年だったはずだ。
「あの師範代の娘さんがうちの高校に通ってたのか…」
そう呟いていたら仁科さんがやってきた。
4人の会話を聞きつけたようだ。
「勇一そんな事も知らなかったの?
私転入だけどあの道場がここの地域では有名なのはすぐ分かったのに…。
こんな身近な世間に対しても関心ないよね、勇一…というか部長サンは。」
少しズキッとする言葉だが、確かに3カ月前までは近所の事など殆ど無頓着だったのは事実だ。
でも3月から引っ越してきた仁科さんにさえ町の情報網で後れをとってるって…俺、何だろ…と落ち込む勇一。
少し落ち込んだものの、会話の途中だ。
「その師範の娘がうちの高校の2年で、今も帰宅部って話か?」
「そうなんよ~。O型で身長は160cm。で、スリーサイズはさ。」
彼は一体何を調べてきたのだろう。仁科さんのゴミを見るような視線もあるのでここで遮った。
「まぁ待てって!
天摘さんって子が今フリーなのは確かだとしてもさ、どうやって勧誘するんだよ。」
「モロチンこれから道場へ乗り込んで、略奪みたいに連れ去るわけよ。
洋画・卒業(THE GRADUATE)みたいに花嫁を奪いに行くあのノ~リよ。
俺は調べたね!彼女は一人娘でどうやら将来既定路線な“道場の跡取り”を煩わしく思ってる。しかしとにかく親が厳しくて徹底的に生活を管理されているんだ!
そこで“自由”っていう名のフリーパスチケットと俺の笑顔を見せれば…なびくって寸法。」
「それはその…天摘…さん?が本当に自由を望んでいるのか聞いてからにしないと。」
話後半の部分はスルー。
「私も同感かな。天摘さんの本当の気持ちなんて分かんないじゃない。憶測でしょそれ。」
「でも授業終わったらすぐに帰宅してるぞ。寂しそうに。」
「え…本当なのソレ?
ってかアンタなんでそんなトコまで見てんのよ。」
仁科さんの半信半疑な質問に対し、小谷野が達観した顔になり語りだした。
「そりゃ…あの寂しそうな横顔。…フッ。初めて見たときはポテンシャルを感じたね…ああ。
間違いない。
平らな胸を霞ませるほどのうつろで危うい表情が俺のナニかを突き動かしたのサッ。」
「あんた何言ってるのか分かんないけどまったくカッコ良くないからね。ちなみに私がソレ言われたら今頃窓から突き落としてる。」
静那も話に入ってきた。
リアルファイトに発展しそうだと判断したのだろう。
「小谷野…先輩。その、人を無理に変えようとするのはやめませんか?
確かに入ってくれたら嬉しいけど。
今から道場へ行くのもちょっと厳しいと…ねぇ、“旦那様”。」
“旦那様”という言葉に思わずピクッとしたが、小谷野はあえて引かずに真顔になって静那を諭す。
ガッツリ手を握りながらささやく。
「でも俺、今回の調査はある程度確信があるんだ。不安そうな顔をしなくていいんだよ。ベイビー。
明日にはちゃんとこの俺が8人目を連れてくるから。そしたら正式に“部”になる…無事本懐を遂げたなら、僕ら…結婚しよう!」
何が“ベイビー”だ。センス無いな~と感じる勇一。皆も同じように感じたのか、誰も何も言わない。
そしてもちろん全員会話の後半部分はスルーした。
何にしても、愛しの嫁を喜ばせたいということで早速勧誘に行くことになった。
場所は分かっている。
「おまえよくこんな短期間で調べ上げたよな~兼元も。」
生一が感心して呼びかける。
「な~に良いってことよ。女の子の情報なら俺に任せておけって。」
「…お前、やっぱり入る高校間違えてへんか?この学校、伝説の木ィとか無いぞ。」
どこの高校の事を言ってるのかはよく分からないが、日も暮れていない今から道場へ行くようだ。
「本当に大丈夫なのか?」
勇一の不安な気持ちは変わらない。
「さぁ行くぞ。兼元。あと生一と部長。王女様がお待ちだ!」
「なんで俺がいかにゃならんのだ。」×2
珍しく息の合う生一と勇一。
「そりゃ部長だからに決まってんだろ。あと、生一!!スリーサイズの情報元はお前からって言うのバラされたくないんなら一緒に手伝え!」
「あ!コラテメェッ!聞こえてるっての!」
引き気味の女性陣を背に道場へと向かった4名。
勢いよく校舎を飛び出す4人の背中を見ながら仁科さんは静那に向かって呟いた。
「静ちゃん…ああいう男どもは深く相手しちゃだめよ。関わってるとろくな大人にならないから。」
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