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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: SHUSAKU
season1【A面】
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9-2 日本人ってややこしい?

【9話】Bパート

➡静那達の部活動の様子『日本語文化交流会編』は《B面》にて掲載しています。

授業が終わり、放課後を告げるメロディーが校内に流れ始めた。


この学校では、ホームルームの終了を告げるために、ビートルズの『♪イエスタデイ』が流れることになっている。


授業も大切だが、静那にとってはそれ以上に重要な放課後の時間がやってきた。


これから勇一部長の元で、日本のことについて生の声で語り合える活動が始まるのだ。


日本に住み始めてから五年が経ち、日常会話には困らなくなったが、独特の文化や風習に関しては、まだ理解できないことが多い。


他国から来た人間が、ニュースやラジオから流れる断片的な情報だけを聞いていても、どうしても掴みきれない部分がある。


生の体験や、誰かの実体験に基づいた話を経なければ、気づけないこともあるのだ。


日本人が普段当たり前のように使っている言葉さえ、静那にとっては謎だらけだった。


以前、諭士さんが新幹線の中で言ってくれた言葉を、彼女は思い出していた。


『これから出会う友達と、色んな“知らない”を分かち合うのが素敵なんじゃないかな? 知ったかぶりをするより、素直に飛び込んでみよう。』


(……そう、今日はその初日なんだ。)


彼女はワクワクする気持ちを抑えきれず、二階の部室へと急いだ。


* * * * *


その途中、部室へと繋がる曲がり角付近で、静那は一人の長身の生徒に呼び止められた。


静那よりも十五センチ以上は背が高い。女性にしてはかなりの長身だ。


武藤静那むとう しずなさん……ですか?」


「あ、はい。静那です。あの……」


椎原しいはらと申します。三枝先生からお話があったと思うけれど、今日からこちらの活動に参加させてもらうことになったからよろしくね。」


その言葉を聞いた途端、静那の顔がパアァと明るくなった。


この人が、今日から一緒に活動してくれる新しい仲間。


背は高いけれど、その眼差しは驚くほど優しげだった。


これまで茶道を嗜んでいたということもあってか、彼女の立ち居振る舞いには、日本女性らしいしなやかさと気品が漂っていた。


「あの、私はベラルーシというところから来ていて…その…」


静那が自己紹介を始めようとすると、後ろから遅れてやってきた僕が声をかけた。


「自己紹介は、部室内でやるっていうのでどうだ?」


まずは僕から、椎原さんに挨拶をした。


「椎原さんですよね。ありがとうございます、こちらに参加してくれて。」


「白都君ね。部長だって聞いてた。」


「まあ、成り行きなんですけどね。三枝先生、決断が早いというか……決めたら後はサッとこっちに振るような感じなので。」


「多分、そんな流れだろうと思ったわ。」


椎原さんが、少しだけ楽しそうに微笑んだ。


彼女の印象は、とにかく穏やかで優しそうだ。背の高い癒やし系、といった感じだろうか。


西山はこういう雰囲気の女性が好みなのだろうか。


僕はあまり初対面の女性をじっと見すぎるのも失礼だと思い、二人を部室の中へと案内した。



ドアを開けると、生一は既に中で漫画を読んでいた。


「なんだよ。いるんならドアと窓くらい開けておいてくれよ。」


「いや、勇一以外に先公(先生)が来るかもしれんやろ。一応、用心して閉めておかんと。」


「漫画、見つかったら没収されるからか……」


僕もどうやら、生一の会話のペースを掴みつつあった。


それよりも、まず伝えたいことがあった。特に静那に対してだ。


「自己紹介の前に……。今日は椎原さん以外にも、もう一名新入部員が見つかったんだ。」


「もう一名増えたんですか? 勇一、すごーい!」


静那は僕の予想通り、目を輝かせて喜んでくれた。


いつの間にか彼女を喜ばせることが、大きなやりがいになっている気がする。


静那は嬉しい時は本当に素直にその感情を表に出してくれる。


僕が誰かの役に立てているという『承認欲求』を満たしてくれているからなのだろうか。


今の自分にはまだそこまで深くは分からないけれど、部員が増えたと聞いた時に真っ先に静那の笑顔が思い浮かんだのは事実だった。


* * * * *


やがて、僕が勧誘した西山を連れて部室に戻った。


西山は少し緊張した面持ちで入ってきたが、椎原さんの姿を見つけるなり驚いた顔をした。


「あれ、西山君じゃない……生徒会の?」


椎原さんの問いかけに、西山はたどたどしく答えた。


「うん。こんにちは、椎原さん。……と、静那さん。

初めまして、これからよろしくお願いします」


「……なんだか俺どうやら空気みたやな」


部屋の隅っこで、生一が少し不貞腐れたように呟いた。


「まあまあ! 隅っこで漫画を読んでいたら分からないって。ほら、七組の生一もいるよ」


僕が呼びかけると、静那がすぐさま生一の元へ駆け寄った。


「ボス! こっちに来てください。みんなで自己紹介しましょう」


「めんどいなぁ……」


「でも、私、ボスのことだってまだよく知らないですもん。是非ボスのこと知りたくて……なにとぞ!」


静那はいつの間にそんな言葉を覚えたのだろうか。


生一は「まあ、いいか」とばかりに、椅子を引いてこちらの輪へと移動してきた。


大きな机の周りに、五人の輪が出来上がった。


「まずは、皆の自己紹介から始めよう――」


僕が話し始めたその時、部室のドアが勢いよく開いた。


「すいません! 白都君の立ち上げた部活動って、ここで合ってる?」


勢いよく入ってきたのは、自分と同じクラスメイトの仁科にしなさんだった。


* * * * *


仁科さんは僕と同じクラスで、数少ない会話を交わせる知り合いだった。


彼女も今年、二年生から編入してきた生徒で、部活動をどこにするか決めかねていたらしい。


お昼休みにクラスで彼女が悩んでいる声を漏らしていたのを思い出した。


「仁科さん? 部活はこれから始まるところなんだけど……うん、ここが部室だよ。」


クラスメイトということで、西山もフォローを入れた。


「仁科さん、ここに来てくれたっていうことは、一緒に活動に参加してくれるっていうこと?」


「うん。……いいかな?

三枝先生が教えてくれたの。やりたいことが見つからないなら、内申点上げてくれるからここへ行きなさいって」


「内申点か……

フン、現金な女だ。」


生一の小声の呟きを、仁科さんは聞き逃さなかった。


「ちょっと! なんであんたにそんなこと言われなきゃならないのよ!」


初対面の生一に鋭く突っ込む仁科さん。そんな険悪になりそうな空気をものともせず、静那が彼女の元へと駆け寄った。


「あの。私、静那と言います。是非一緒にこの交流会に参加してください。お願いします!」


静那の眩いばかりの眼差しに、仁科さんはあっという間に毒気を抜かれてしまったようだ。


「えぇ……

私が何か教えられることって、あまり無いかもしれないけど……よろしくね、静那さん」


「やった」という顔で、静那がこっちを振り返った。


文化交流会の活動を立ち上げたばかりで、既にメンバーは六名も集まっていた。


部長を任された僕は、当初は三人いれば十分だと思っていたが、いきなり倍の人数になったことに少しだけ気後れを感じていた。


自分なんかが部長を務まるのだろうか、という不安。


けれど、対面に座っている静那があまりにも嬉しそうな顔をしていたので、その弱気もどこかへ吹き飛んだ。


(……そうだ。この部活は、彼女に日本のことをもっと知ってもらって、日本を好きになってもらいたくて立ち上げたんだ。

純粋に彼女の力になりたいと思った……今まで、こんなに誰かを喜ばせたいと感じたことは無かったな。)


僕は自分の素直な気持ちに向き合い、できるところまでやってみようと心に決めた。


改めて、自己紹介が始まった。


『日本文化交流研究部』の、本格的なスタートである。



* * * * *



部活動の初日は、丸一日かけて全員の自己紹介を行った。


静那が一人ひとりの話をあまりに熱心に聞くものだから、話す側も自然と饒舌じょうぜつになっていた。


彼女は、今は亡きソビエト連邦時代の『ベラルーシ』という国からやってきたこと。


紛争で家族が行方不明になり、いつか必ず捜しに行きたいと考えていること。


僕たちが全く知らなかった彼女の背景が、次々と明かされていく。



戦争を知らない僕らにとって、その話のリアルさは想像を絶するものだった。


戦火を生き延びてきた彼女には、いつか家族と再会して、絶対に幸せになってほしい……そう強く願ったのは、自分だけではなかったはずだ。


自己紹介を通じて、メンバーの出自も意外に多彩であることが判明した。



椎原さんはアメリカ、主にカナダのトロント。


仁科さんは東京。


生一は関西で、西山は岡山。


この部屋にいる生粋の高知県民は、自分だけだったのだ。


でも、その分みんな違った環境と文化を背負っている。


「みんな違うって、良いよね」


静那はそう言って微笑んだ。


僕はこれまで、そんなふうに考えたことはなかった。


なんとなく、似た者同士が群れて、違うものは排除し合うのが当たり前だと思っていたからだ。


静那の話を聞くときは自分の常識を一旦止めて真っさらな状態で聞いてみよう。そう感じた。


こうして活動内容は、日本に関することなら何でもいいので、順番にテーマを決めて静那や椎原さんに発表する、という形式に決定した。


* * * * *


第一回目の活動を終え、今日はひとまず解散となった。


帰り際、仁科さんが僕に小声で囁いた。


「白都君さ、急に押しかけたりして、迷惑じゃなかった?」


「全然。むしろ嬉しかったよ!

俺、あまり喋る方じゃないから、仁科さんが入ってくれなかったら、こんなふうに話すことも無かったと思うし」


僕は少し間を置いてから、お礼を言った。


「静那も、すごく喜んでいたよ。ありがとう」


「……呼び捨てにしているけど、静那さんって彼女? 入学前からの?」


「いや、俺にもあの子にも、まだそんな意識は無いと……思うけど」


「じゃあ、頑張りなよ。西山だって頑張ってるんだから」


「え? なんでそれを……」


問い返す前に、仁科さんはサッと帰っていった。


(女の勘は恐ろしいな……男が思っている以上に、洞察力が鋭すぎる。)


僕は女という生き物の恋愛戦闘能力の高さに、改めて戦慄した。


静那本人は、自分のことを心底信頼してくれているのは間違いなさそうだが、それ以上の感情についてはどうなのだろう。


先日、あの情けない姿を晒してしまったわけだし……と、僕は自分を落ち着かせようと努めた。


帰る前に、僕と静那は三枝先生のいる職員室へと向かい、活動申請書を提出した。


先生は僕たちの顔を見るなり、ニヤニヤとした表情を浮かべた。


仁科さんを送り込んだサプライズがどう作用したかを確認したかったのだろう。


静那が嬉しそうに何度もお礼を言うのを見て、先生は僕に話しかけた。


「この子は感情を前面に出すから、本当に気持ちいいわね。なんだか応援してあげたい気持ちになるでしょう、白都君」


「ええ……まあ、それは事実ですね。」


僕は少し照れながら答えた。


三枝先生は表情を引き締め諭すように言った。


「いい、白都君。ただメンバーが集まればいいってものじゃないのよ。内申点は考えてあげるけど、自分たちが学んだことを静那さんにきちんと教えてあげるのがあなたたちの役割なんだから」


先生の言葉には熱がこもっていた。


「分かっていないと人に教えることはできない。自分の意見を言語化して伝える練習が必要よ。

“知っている”のと“説明できる”のは、全く別物なんだから」


その狙いもあって、あえて僕を部長にしたのだと先生は言った。


「まずは、簡単な文化紹介から始めてみようかと思います。」


「そんなに堅苦しくならなくていいのよ。初めは簡単な雑談からでいいんだから」


「雑談でいいんですか?」


「ダメ」


「ダメじゃないですか!」


「何かに結び付けるためには雑談も大事ってことよ。“テーマを決めて雑談”してみなさい」



三枝先生はそう提案すると、ふと思いついたように尋ねてきた。


「ところで、二人は来月のゴールデンウィーク(GW)はどうする予定なの?」


急な問いかけに、僕たちはまだ予定がフリーであることを伝えた。


「実は、先生方のネットワークで、日本の歴史や文化を集中的に学べる合宿があるのよ。

静那さんに本気で伝えたいと思うのなら、参加してみなさい。」


「合宿って……あの、泊まり込みで寝食を共にするやつですよね……?」


静那は興奮すると、少しだけ日本語がたどたどしくなる癖があった。


「そう。場所は熊本県で少し遠いんだけど、大丈夫かしら?」


「熊本……?」


その言葉を聞いた途端、静那の表情が微かにこわばった。


どうやら静那にとって、熊本はかつて住んでいた場所であり、同時に複雑な思い出が詰まった場所であるようだった。


「場所はね、熊本の『国立阿蘇青少年交流の家』っていうところ。大自然の中で、朝から夕方までしっかり勉強してもらうよ」


「勉強かぁ……」


僕は少しだけ腰が引けた。合宿といえば、もっと開放的な環境で遊ぶイメージがあったからだ。


静那も、熊本には恥ずかしくて消し去りたい過去もあるようだが、今は勇一という心強い先輩がいる。


二人一緒なら、何とか前向きになれるような気がした。


こうして、静那にとっては三ヶ月ぶりとなる『里帰り』が決定した。

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