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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season1【A面】
11/198

5-2 上流階級

【5話】Bパート

そこはホテルの最上階…ではないのだが上階で東京のとある議員さんと対峙する諭士。


以前からコンタクトをとっていたのだ。



2人での話が進む。


「茂木さんの提言に関しては大きく賛同できます。今回はこちらも是非取り入っていただけないかと。候補者に関しましてはこちらの面々が…」



“茂木さん”というスーツ姿の議員さんはどうやら福祉や養護に関する法案を通してくれる、いわば諭士さん側にとってはありがたい存在である。会話のやりとりからしても付き合いは長そうだ。


依頼書に一通り目を通した後、深く腰を掛けなおし茂木さんと呼ばれている男性は口を開いた。


「“赤ちゃんポスト”に関する一連の趣旨、承りました。御意見、心遣い感謝します。またご足労に関しても。」


「とんでもございません。」


なんとか法案として通してもらえる目途が立ちそうで、ひとまずホッとする諭士。



「ところで武藤さんの本日の宿泊先はどちらになりますか?

今このホテルには党大会のメンバーが入っておりますので、あまり頻繁な立ち入りは控えていただけないかと。」


さっきまでの会話から一転、妙な事を言うなと感じたものの、素顔で返す。


「いえ、こちらのホテルを利用しておりますよ。アクセスも駅から徒歩圏内ですし。」


「…そうですか。でしたらあまり施設内を深く徘徊しないようお願いします。実は当ホテルは我々のグループが秘密裏に動くための拠点となる施設でもありますので。」



何か裏で大きな話や事が進んでいるのだろうか?妙な質問に感じたものの深く追求することは避けた諭士。



「承知いたしました。それでは失礼します。」



軽く会釈をして部屋を後にした。


夕食に出かける為、真也たちの部屋へ向かった。


真也たちの部屋は2階。かなり下だ。


奥行きもある広いホテルだが、ここは茂木さん達のテリトリーでもあるらしい。



“無暗に徘徊するな”という先ほどの忠告は何だったのだろう。世間には出回らないような極秘の会合がこのホテルのどこかで行われているのだろうか。



部屋のドアをノックして2人がいるベットのある広間へ戻ってみると、静那は持ってきたガイドブックを読んでいた。が…真也がいない。



諭士はこの時何か嫌な予感がした。



少し焦り顔で静那にたずねる。


「真也?うん。さっき“誰かが呼んでる”って急に廊下の方に出ていったよ。さっきまで観光地の話で盛り上がってたんだけど、急に真顔にになってね、すぐ戻るから気にしないで。ここに居るようにって。」


「出ていったのはいつ?」


「ほんとについさっきだよ。時間で言うと2~3分くらい前。」


「しまった!遅かったか!」


諭士さんはただならぬ不安を感じ、部屋を飛び出した。



部屋を挟んだ廊下。


ドアを隔てて誰かがいるかもしれない為、叫ぶことはできなかったが真也の行方を必死で探しす。



真也の言った事は実はただ事ではなかったんだという事に気が付いた静那も急いで後を追う。



よく考えれば分かるはずだ。


真也は人が殆ど立ち入らないような自然の中で長い間心身を鍛え続けてきた子だ。


普通の人間よりも気配や聴覚といった感覚が飛びぬけているのは考えればすぐに気づく。


間違いなくこのホテル内で何か良くないことが起こっているようだ。



「ねえ!諭士さん。真也は?真也は大丈夫なの?」


焦る表情で後ろをついてきた静那が尋ねる。


「分からない。とにかく真也を探そう。なるべく静かに。見つけられたらすぐにここから離れるんだ。」



何が起きているのかの全貌は分からない。


でもいくら強いとはいえまだ真也は中学生だ。大人が相手だと太刀打ちできないだろうと感じる諭士。


それに捕まってしまえば彼はどうなるか分からない。


何故なら彼にはいわゆる“親の庇護”が無いからだ。


それに政治家のバックにはどんな面子がいるのか分からない。


上流階級達の圧力で何人もの誠実な議員が知らない間に失脚させられたのを知っている。行方不明になった方もいる。そんな闇を操る組織がこのホテルに潜伏していたら…


そう考えると、あの茂木議員は事を起こすためのカムフラージュだったのか…


諭士のこれまでの体験上、昔の色んな憶測が飛び交う。が、今は真也の安否が心配だ。


非常階段から順に各階をまわっていってるが、真也の気配が感じられない。



もしかしたらもう部屋に戻っている…いやまだ回っていない階もある。早合点かもしれない。



しばらくして、静那はなんで彼の本心に気づけなかったのだろうかと今にも泣きだしそうな表情になってきた。


諭士さんの焦った表情から察知したというのもある。


大事の前の小事と判断した諭士は誰もいない非常階段に一旦入ると、立ち止まり静那の肩をつかんだ後しっかりと彼女の目を見て話しだした。


「真也は誰かが助けを呼ぶ声がしたから気になって向かっただけだ。大丈夫。いなくなったりなんかしないさ。

もう静那が“誰かを失うこと”は誰よりも怖いっていうのはよく理解してる。大丈夫。

真也が見つかればあとは僕が命がけで守るから。」


力強く肩を握った。


静那の肩の震えが少しだけ収まった。





その時。


“ダーン”という銃声が聞こえた。


この階の上くらいだ。


合っていてくれという祈りの言葉と共に非常階段を駆け上がる。



客室の廊下に出る。


ふと、一つだけ扉が開いている部屋がある。


「あそこだ!」


急いで扉に向かうとその扉の向こうには“相手の銃口”を握りしめた真也の姿が見えた。




黒いスーツの相手が奥の手である「銃」を取り出したため、とっさに踏み込み銃口を掴み、握りしめて弾道を変えたようだ。


男は弾道を避けた真也からの打撃を胸元へモロに受けたようで、吐血し、気絶したようにその場に崩れ落ちた。


それ以外だと、部屋の中は拷問されているような跡があり“その被害者”は隅っこで震えていた。



もう目も半開きになった状態で顔面血だらけになっている女の子がそこにいた。



見た目は高校生くらいだろうか。歯が抜け落ちありえないほど顔が腫れていた。


片腕が変な方向に曲がり、脇腹も執拗に蹴られた跡があった。


複雑骨折しているように見えるがすぐには分からない。


黒服の男たち全員の気絶を確認したところで真也が重傷を負った女性に手を伸ばす。


「立てる?もう大丈夫だよ。怖かったよね。」


女子高生くらいの女の子の視界は殴られて殆ど塞がれていた。なんとか目の前の真也の姿を確認し、自分は助かったんだと理解し、涙を流しながら「ごめんなさ…い」と何度も呟いていた。


真也の手を借り、涙ながらにフラフラと起き上がる。しかしとても立てそうになかったので、両手で抱きかかえた。


そんな様子を愉士と静那がドア越しから見ていたら、真也が2人の存在に気づいた。




発砲事故は未遂に終わった。


でも銃声はこの階とその近くの階で認識されたのは事実だろう。


駆けつけた真也によって返り討ちにされた男たち…仲間の誰かが報復でここへ駆け付けてくる可能性は高い。


状況整理したくても予断を許さない状況であるようだ。


諭士はそんな状況を察知し静那達に告げた。


「ここを出よう。今すぐだ!」




* * * * *




あのホテル内で何が起こっていたかの全貌はまだ分からない。



とにかく愉士達3人はホテルを出る。


そして駅前まで出て急ぎタクシーを呼ぶ。


その後できるだけ都心から離れた場所まで移動し、降ろしてもらった。



傷だらけの女子高生はひどいありさまだったので、怪しまれないようにタクシーに乗せる前、悪いけど体をグルグル巻きにしてバッグに隠し、やりすごした。


彼女はひどい暴行を受けていたようで、目も開かず今は満足に話せる状態ではなかった。



やがて小さい公園に出た。


静那が近くのお手洗いから水を持ってきて幹部を水洗いする。そして濡らしたタオルで出血部分をふき取るという応急処置を行い、とりあえずその女性にはベンチで横になってもらった。


出血は止まっているが、おそらく脇腹などを複雑骨折しているような感じだ。


横になっているだけなのに苦しそうに見える。


顔の腫れは少し引いたが、可哀そうに前歯が何本か折られている。


なんでここまで酷い暴行を受けたのか理由が気になるが、今は話を聞く状態じゃない。



そんな凄惨な状態にまずは現状報告をする事からだと感じた真也がまず2人に対して口を開く。



「ごめんなさい…諭士さん。静那も。勝手なことして。」



諭士は少し深呼吸して話始める。


「すんだことは仕方ないさ。この女の子が助けを呼んでいたのを察知して駆けつけたのだろう。そしてその場で真也君のやれることをやった。それだけの事だ。」



真也の顔がこわばる。


“気にするな”という表情で諭士は話を続ける。


「本当に落ち着いたら何があったか状況を話してくれないか?落ち着いてからでいい。

こっちも妙な事を聞かれたんだ。このホテル内をうろうろしないでほしい…なんてね。」


そうなんだという表情を浮かべた後、うつむき加減で低めのトーンで話し出す真也。



「その…急に悲鳴が聞こえたんです。いくつも部屋を隔ててるから本当に声は小さかったんだけど、振動のような感覚で悲鳴と殺意が伝わってきて……。

まさかって思ったんだけど、その…静那ごめん。」



会話の途中、一旦静那の方を見た上で話を進める。



「今でも覚えてるあの時の感覚……

あの時、僕と静那が怖い人たちに囲まれた時と同じ感覚がしたんだ。


本当に胸騒ぎという感じのレベルだけど何だか異常なくらいザワっとして。…それで一応は様子を確認してこようと思った。

静那は絶対に巻き添えにしないって決めてたから、わざと何食わぬ表情でちょっと出てくるって言って出ていった。

そして悲鳴に似たような感覚がした部屋に近づいたら、男性の怒鳴り声がして誰かを殴る鈍い音がしたんだ。血の匂いがしたし、ただ事じゃないって分かった時にはドアを無理やり突き破ってた。

 そしたら驚いたよ。黒いスーツでガタイの良い男達が何人も……たった一人の女の子を滅茶苦茶に蹴り続けてた。

思わず“やめろよ!その子が死んじゃうだろォ!”って叫んだら一斉に僕に向かって黒い棒やナイフを振り向けてきたんだ」



「ナイフ…だと!真也。無事だったのか?今更だけど切り傷なんかは?」


「それは大丈夫。男たちはそこまで強くなかった。でも既に女の子の方はもう死んじゃうんじゃないかってくらいぐったりしてた。だからここは状況的に一人づつ確実に気絶させていって、この場から早く離れてこの子を病院に連れて行かないと危ないって感じたんだ。」



「その中で最後に残った男が奥の手…拳銃を手にかけた…というわけか。」



「うん。拳銃は自分も見た事が…あるし…どんなものか知ってた。」



真也はまた静那の方を見て申し訳なさそうな表情を見せた。


静那に昔の事を思い出させたかもしれないという申し訳なさからだろう。



「最後の男が拳銃を構えたとき、これは受けきれないと思った。だからとっさの判断…距離を一気に詰めて、銃口の部分を握った。相手が苦し紛れに銃を撃った時は弾道をずらしていた。

だから大丈夫だったし、あれで…あの音で諭士さんもあの場所に気づいたんでしょ。」



真也が部屋を出てからの一連の動きは把握できた。


しかしなぜこの女の子がこんなになるまでひどい暴行を受けたのか…疑問は尽きない。


女子高生の方は先ほどから出血は見られなかったものの、腕や腹部の骨が折れているのか弱弱しくうめき声を挙げるのが精いっぱいだった。話せる状態じゃない。どう見てもまず入院が必要だ。


静那がいつでも水を飲ませられるようにスタンバイしている。



少しの沈黙を経て諭士は決断をする。


「まだ分からないことはいっぱいある。がまず、優先順位としてはこの子を救急病棟へ連れていくことだ。今すぐ。

でも追跡される恐れがある。もしもの事を考えていないといけない。

相手は恐らく政治家を裏で操っている人間だ。真也たちは今はそれ以上の事は知らなくてもいい。


まず、現段階で彼女を病院に連れて行くことが一番だ!

その後はできるだけ病院から離れて明るい通り(繁華街)へ隠れよう。

我慢だが今日はカンタンな宿に泊まり、明日朝には熊本に帰る。2人ともそれでいいな!」



英断である…と真也は感じた。さすがは大人だ。



状況をきちんと把握して、今どうするべきかの意見をきちんと言える人間。


今回、悪そうな大人達をねじ伏せられたのは、とっさの事とはいえ今まで鍛えに鍛えてきた努力の賜物だ。しかしその後の対応に関してはあの時考えが至っていなかった。


自分に足りない思考はこういう部分なのかもな…そう感じながら女の子を丁寧に背負い諭士の後について走る真也。


「わかるかい。これから君を病院に連れていくからね。もう少しの辛抱だよ。安心して。」


女の子は薄目で真也を認識。うわごとの様に声を吐き出す。


意識はしっかりしているようだ。


「痛いよね…。すぐに助けにいってあげられなくてごめんね。」


彼女だけに分かるよう小声で謝った。




東京にしてはややさびれた郊外に近い場所だったが、ほどなくして道路沿いに電話ボックスを見つける。


電話ボックス内に掛けられてあるハローページから最寄りの病院を必死で探す諭士。



諭士が必死で病院を探している間、少し離れた建物の隙間に3人は隠れていた。



そのうちちょっと遠いが、緊急でも対応している総合病院が見つかった。


こういう“分母”が多い所は人口の多い東京のすぐれた点だ。


電話ボックスから再度タクシーを呼んだ後。4人は最寄りの総合病院へ急いだ。




病院到着すぐ、重傷の女の子の身柄を病棟にお願いする。


彼女を引き渡した後、辺りが暗くなる前にすぐ3人は病院を後にしようとした…のだが、この子を運び込んだ代表者の名前だけでも記入しないと患者の対応許可が出ないという事だった。


運転免許所の提示も必要だった。


仕方なく諭士さんは署名に応じる。



* * * * *



それから手続きが30分くらいかかった。



その間、諭士さんは熊本の事務所へ病院の電話を使って連絡を入れていた。


“明日朝そちらへ向けて発つ。出発前にもう一度東京こちらから連絡を入れます”…と。



少し待たされたが急患の先生方が集まりだし、すぐに彼女の治療に取り掛かってくれることになった。


一安心した3人。


お互い顔を向き合わせ安堵の表情を浮かべる。


あの子はかなり衰弱していたが、これで死ぬ事はないだろう。


全治3ヶ月くらいだろうが、いずれは元気になるだろう。


真也が一番ほっとしていた。



この後彼女のお見舞いに行けないのは心残りではあったが、ここからは気持ちを切り替えないといけない。


これからこの郊外から繁華街まで、できるだけ目立たないルートを使って走り抜ける必要がある。




しかし病院を出ようとしたところ、病院の玄関口に真っ黒い車が3台ほど駐車していた。


先ほどまでは居なかった車。


明らかにこの病院には不似合いな車だ。



そして諭士達が病院の正面玄関から姿を現した途端、車から一斉にスーツを着た男達が現れたのだ。


男たちのサングラスの向こう側はどう見てもこちら3人を見据えている。


この2~30分の間に情報が洩れ、この場所に先回りされていたのだ。



無言でスーツ姿の男達は諭士さん達に迫ってきた。捕縛するつもりだ。

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頑張って執筆致します。よろしくお願いします!

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