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「カイルはどう考えているの? 策はある?」
私は言った。カイルは、足を組み直し、含み笑いをして言う。
「義兄さんとフィオレ嬢の婚約披露会には、沢山の客人が招かれる。スペラザの公爵家の人間は元より、他国からも客人を招いて、祝宴するんだ。そこを突く」
「お客様の振りをして、紛れ込むって事ね」
「ノエミちゃんも、わかってきたね」
ノエミの理解力にカイルは余裕の表情を見せる。
「他国からの客人もそれなりにいるからね、関門さえパス出来れば、スペラザに侵入する事は容易いよ」
「色んな人が集まるんだな」
「……でも、この前は直接聞いても何も答えてくれなかったわ。婚約披露会の忙しい時に、話を受け付けてくれるかしら?」
「そう、そこが問題。やっぱり真正面からじゃ、吐いてくれないと思う。だから、僕もそれまでに、確かな証拠を掴めるように努力するよ」
「大丈夫なの?」
私はカイルを見つめると、カイルはグラスの中に入っている氷を、カラン、と一度かき混ぜる。
「何とかする」
「一か八かってとこか」
「うん」
「私も、できる限り王子とご一緒に調べようと思っております」
ノエルも言った。私はカイルが無理をしてしまわないか、少し心配になる。
カイルは、続けて話し始めた。
「そうそう。……当日、皆のカッコをどう変えていこうかなぁと思っているよ……」
「え? このままの格好で行けないの?」
ノエミは腰につけたエプロンを握る。ノエルが申しにくそうに話した。
「この国でいる分には悪くありませんね。ですが、スペラザに入ってからは、貴族のが多いですから、ドレスアップする必要があります」
「スペラザは平民もいるけれど、婚約披露会を見に来る多くは、貴族だものね」
「蟻の中の蟻になるには、蟻の格好をしなければならないという事だね」
私の一言にマロウさんが例え話をする。わかりやすいと思っていると、カイルは言った。
「そうだね」
「ドレスアップ!! 私、ドレスアップなんて初めてだわ!!!! 浮かれちゃう」
「遊びに行くんじゃねえーっての!」
レオはいつものように、ノエミのお団子を鷲掴みにしようとしたけれど、今日は華麗に避けられる。レオはちぇっと呟いた。ノエミはニヤニヤしてドヤ顔をした。
「僕が皆の着る物を、丸ごと買ってあげたいのだけれど、あれから、少し周りに目をつけられていてさ。反逆を心んでいると思われていて、なかなか動けないんだよね…………」
カイルはため息をつく。
「私のせいで……ごめんなさい」
カイルが目をつけられてしまったのは、私が動き出したからだ。私が本当の事を知りたいと思って、カイルを、巻き込んでしまっている……。
私は胸がギュッと締め付けられる思いになった。グラスを強く握りしめると、カイルは首を振った。
「君のせいじゃないよ、僕が自分で決めた事だから」
「でも……」
「リース」
私が頭を抱えていると、マロウさんが、ギュッとまた私の手を握ってくれた。
「皆、自分で決めて、あんたを助けたいと思っているよ。だから、今はリースは何も後ろめたさを感じなくていいんだ。あんたが望むものを手に入れる事が、大切だろう?」
「マロウさん…………」
皆は、私を見る。皆、真剣な顔をして、私を見つめていた。
そうだ。私はスペラザに行って、フィオレ嬢と話をしないといけない。皆の為にも、自分の為にも。そして何より、本当は何があの日、あったのか知って、カイルの為にも、自分自身の爵位を取り戻したい。
「そうだよ、リース。もっと、私達の事、頼ってくれていいのよ。私、リースと会わなかったら、こんな風に冒険が出来なかったわ!」
「冒険じゃねえけどな! あんまり一人で抱え込むなって、いつも言ってるだろうがよ」
「こちらも、できる限りの事はしますので」
「大丈夫だよ、リース。僕を信じてくれ」
皆が私に優しくしてくれる。
「ありがとう…………」
「ほらね、あんたは一人じゃない。私もいるよ」
マロウさんは、笑って私の肩に手を置いた。
こんな幸せな事があるのかしら。……ねぇ、リース。貴女は孤独だったかもしれない。でも、今は、貴女には沢山の協力者がいて、貴女の為に命をかけてくれる人がいるわ。
私は目をつぶって、もう一度、皆に言った。
「本当にありがとう」
暫くして、レオが、話を切り出した。
「多分だけどよ、ボンボン。うちは母さんと父さんの結婚式に着ていた服が、まだ残ってると思うんだよな」
「へぇ! いいね、それ!」
「あー、そうねぇ。母さんと父さんはこの街に来て、結婚式を若い時にあげたって、言っていたから、多分、まだ残っているはずよ! アレンジすれば、いけるかもしれないわ!!」
「じゃあ、私がアレンジについては、アドバイスさせていただきます。他国から来ても引けを取らない服装にする為に協力致しますね」
「ありがとう!! ノエルさん!!」
ノエミは笑って言った。ノエルも微笑む。ノエルとノエミは仲がいいなぁと、私は思う。でも、レオはその仲の良さを邪魔するように、ジィーっと、ノエルに圧をかけているけれど。
「私はどうしようかしら……スペラザから持って来たドレスは全部売っちゃったし、新しいドレスを買うお金もないわ…………」
「そうだよなぁ、俺らも出してやれねぇからなぁ」
レオはうーむと言って、腕を組んだ。カイルも、どうしようかと、考え込んでいる。
ふと、マロウさんが呟く。
「何かいい方法がないかねぇ…………ドレスになるような、布があれば………………」
マロウさんは、別荘のお屋敷あたりを見て、考え込む。ふと、何かを見つけたらしく、ハッとしてカイルに言った。
「カイル公爵殿下! ドレスになる布、見つけたよ!! これなら、きっと大丈夫だよ!!!!」
「本当ですかっ?! マロウさん?!」
マロウさんは、別荘の窓を指差した。
その後、暫くしてから、作戦会議はお開きになった。
私はカイルに呼ばれて、別荘に残る事になる。
カイルは、言った。
「しかし、マロウさんはすごいね」
「本当よ、ここのカーテンを使ってドレスを作るだなんて。洋裁も出来るなんて無敵過ぎるわ」
「本当に。弱点を探したくなってしまうね」
ノエルはキッチンで後片付けをしている。カイルは、片付けが済んだテーブルと椅子で、新しくノエルが淹れた紅茶を飲んでいる。
昼下がりも過ぎて、夕暮れが近くなっていた。彼は、自分の別荘だからか、とてもリラックスしている。
「洋裁までは私も教わる事は出来ないわね。どうも苦手で……」
私が言うと、カイルは言った。
「お菓子作りやハーブの扱いが上手い上に、洋裁も出来たら困っちゃうよ」
「そう?」
私は微笑む。私もノエルが淹れてくれた紅茶を、一口、飲んだ。
「リース、ごめん」
カイルは、リラックスした状態で、言う。テーブルは横にして、椅子と体を私の方に向けていた。
「何が?」
「国王陛下に目をつけられてしまった。フィオレ嬢の秘密を何が何でも暴かないと、僕達の命も危ない」
穏やかな気候とは裏腹に、カイルは言った。
「わからなかったら、処刑……される……とか?」
冗談で、私が言うと、カイルは笑わなかった。
「…………うん」
カイルは言葉を躊躇いながら、頷いた。
マジか……と私は思う。
「本当に……私のせいで……」
「これは僕のせいでもあるから。国王陛下は遊びが過ぎる人だから、大らかだと思っていたんだ。卒業と同時に、スペラザを出てしまえば、どうにかなるとも思ってた」
「でも、関係ない、貴方まで巻き込んでしまったわ」
カイルは私の手を引っ張って、私を立たせる。私は彼の力で、ぐいっと引き寄せられて、距離が近くなった。藍色の目が夕陽に反射して、煌めいている。
「さっきも言ったけどさ。君を守るって決めたのは、僕自身だから。君は、何も罪悪感を感じなくていいんだよ」
カイルが、ぎゅっと私を抱きしめる。私は、またドキッとしてしまう。顔が見られなくて、下を向いていたら、カイルに、顔を上に向けられてしまう。
「でも、証拠をどうやって探すの? 神殿では欲に塗れないようにと、魔法が禁止されているでしょう?」
「うーん、そこなんだよねえ……」
カイルは私を抱きしめたまま、困った顔をした。記憶記録の書はその日、神殿で何があったかを記録する物だから、魔法には当たらない。けれど、その日に起きた事を魔法で再現するのは、魔法を使うことになるから、禁止。となれば、どうやって解くものか…………。
「本の切れ端を、フィオレ嬢が持っているかもしれないのね」
「うん、手に入れられたら、助かるんだけどさ。神殿で、物を直すとか、そういう事は魔法を使っても可能なんだけどさー…………」
「今は、フィオレ嬢の持っている本の切れ端を手に入れるしかないわね……」
私は呟いた。
「難しいけど、頑張ろう。僕達の命の為にも。君に爵位を戻して、義兄さんと君が結婚すれば、君もきっと元いた世界に生きて戻れる筈だから…………」
カイルは言った。私は、カイルの腕の中で、言う。
「貴方は、私と以前のリースが望むものが、本当にダナ様だと思っているの?」
「それしか考えられない」
「けど、私…………
カイルは、私が言い終わらないうちに、ゆっくりと自分から、私を引き離した。
「君は、義兄さんと一緒になるべきだよ」
「カイル…………」
「不本意な形ではあるけど、きっと義兄さんも君を愛していると思う。この前、会った時に義兄さんを見て、思ったんだ。二人が一緒になれば、君は…………」
カイルは、言葉の続きを言わなかった。
この世界で、私と以前のリースが望むものを手に入れた時、私達の繋がりは解かれ、元に戻るーーーーーーーーーーーー。全てが普通に戻る。私がこの世界にいた〝以前〟に。そうなる事は、間違っていないーーーーでも、それは、どんな形であれ、私がなくなる可能性があるという事。
それで、良いのかしら?
本当に、私はそれで良いの?
カイルは、困った顔をしながら、私を見つめる。
私は、言った。
「嫌」
「リース……」
カイルは呟く。
「貴方と一緒にいられないのは、嫌よ……」
「わがまま言わないで。これは君の為だよ」
「違うわ。私はそんな事、望んでいない。私は、貴方の事が……」
「だけど、僕達は元々違う世界の人間なんだ」
カイルは、ハッキリと言った。
その一言に、私は気付かされる。……そうだ。カイルはこのきせきみのキャラクター。私達は元々、次元の違う世界に住んでいる。ラクアティアレントにリースが落ちて、彼女の前世として産まれてしまった私か、または温泉で転倒して溺れて亡くなって来てしまった私。……どちらも本来、この世界には、存在すべきではなかった私…………。
次元の違う世界に住む二人が、一緒になる、だなんて、そもそも間違っているんだ。
カイルが言っているのは、私達は一緒になるべきではない相手だと言っているんだと思う。ダナ様と私が一緒になる事は、二人のリースが望むものだから、問題ない。ダナ様と結婚したら、私は取り込まれて、元のリースに戻るか、または私が成仏して元のリースに戻るだけ……。でも、私とカイルは、違うんだ。どんなに、私がカイルを好きでも、私はずっと、カイルと一緒にいられない。この世界を元に戻す為にも、いつかは手放さなくてはいけない。きっとこれが私の運命なんだ。……………………わかってる。
「でも……この気持ち、止められない……わかっているのに。理解しているつもりなのに…………想像するのは、いつも、貴方との未来なの……」
私は、言った。
カイルは私に近付き、口付けをした。長く長い口付けだった。私の腰がテーブルに当たったので、カイルにテーブルの上に乗せられる。目線がカイルと同じ位置になり、私は何度も、彼のキスを受け入れた。手を伸ばして、彼の背中にぎこちなく、手を添える。
最初に馬車でキスされたあの時よりも、切なくて、何だか、泣けてきて。私が涙をつつー……と、流すと、カイルは顔を離して一言言った。
「君は……ずるいよ……」
カイルも涙ぐんでいた。
私達がこの世界で、一緒になれる方法があればいいのに。私達が何も考えずに、一緒にいられたら、どんなに幸せなのだろう。
私は彼におくってもらう帰り道に、何度も何度も思った。




