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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
3章
73/161

29

「カイルはどう考えているの? 策はある?」


 私は言った。カイルは、足を組み直し、含み笑いをして言う。


「義兄さんとフィオレ嬢の婚約披露会には、沢山の客人が招かれる。スペラザの公爵家の人間は元より、他国からも客人を招いて、祝宴するんだ。そこを突く」


「お客様の振りをして、紛れ込むって事ね」


「ノエミちゃんも、わかってきたね」


 ノエミの理解力にカイルは余裕の表情を見せる。


「他国からの客人もそれなりにいるからね、関門さえパス出来れば、スペラザに侵入する事は容易いよ」


「色んな人が集まるんだな」



「……でも、この前は直接聞いても何も答えてくれなかったわ。婚約披露会の忙しい時に、話を受け付けてくれるかしら?」



「そう、そこが問題。やっぱり真正面からじゃ、吐いてくれないと思う。だから、僕もそれまでに、確かな証拠を掴めるように努力するよ」


「大丈夫なの?」


 私はカイルを見つめると、カイルはグラスの中に入っている氷を、カラン、と一度かき混ぜる。


「何とかする」



「一か八かってとこか」


「うん」


「私も、できる限り王子とご一緒に調べようと思っております」


 ノエルも言った。私はカイルが無理をしてしまわないか、少し心配になる。


 カイルは、続けて話し始めた。



「そうそう。……当日、皆のカッコをどう変えていこうかなぁと思っているよ……」



「え? このままの格好で行けないの?」


 ノエミは腰につけたエプロンを握る。ノエルが申しにくそうに話した。



「この国でいる分には悪くありませんね。ですが、スペラザに入ってからは、貴族のが多いですから、ドレスアップする必要があります」



「スペラザは平民もいるけれど、婚約披露会を見に来る多くは、貴族だものね」



「蟻の中の蟻になるには、蟻の格好をしなければならないという事だね」


 私の一言にマロウさんが例え話をする。わかりやすいと思っていると、カイルは言った。


「そうだね」



「ドレスアップ!! 私、ドレスアップなんて初めてだわ!!!! 浮かれちゃう」



「遊びに行くんじゃねえーっての!」


 レオはいつものように、ノエミのお団子を鷲掴みにしようとしたけれど、今日は華麗に避けられる。レオはちぇっと呟いた。ノエミはニヤニヤしてドヤ顔をした。



「僕が皆の着る物を、丸ごと買ってあげたいのだけれど、あれから、少し周りに目をつけられていてさ。反逆を心んでいると思われていて、なかなか動けないんだよね…………」


 カイルはため息をつく。



「私のせいで……ごめんなさい」



 カイルが目をつけられてしまったのは、私が動き出したからだ。私が本当の事を知りたいと思って、カイルを、巻き込んでしまっている……。


 私は胸がギュッと締め付けられる思いになった。グラスを強く握りしめると、カイルは首を振った。



「君のせいじゃないよ、僕が自分で決めた事だから」



「でも……」


「リース」



 私が頭を抱えていると、マロウさんが、ギュッとまた私の手を握ってくれた。



「皆、自分で決めて、あんたを助けたいと思っているよ。だから、今はリースは何も後ろめたさを感じなくていいんだ。あんたが望むものを手に入れる事が、大切だろう?」


「マロウさん…………」



 皆は、私を見る。皆、真剣な顔をして、私を見つめていた。

 そうだ。私はスペラザに行って、フィオレ嬢と話をしないといけない。皆の為にも、自分の為にも。そして何より、本当は何があの日、あったのか知って、カイルの為にも、自分自身の爵位を取り戻したい。



「そうだよ、リース。もっと、私達の事、頼ってくれていいのよ。私、リースと会わなかったら、こんな風に冒険が出来なかったわ!」


「冒険じゃねえけどな! あんまり一人で抱え込むなって、いつも言ってるだろうがよ」



「こちらも、できる限りの事はしますので」



「大丈夫だよ、リース。僕を信じてくれ」


 皆が私に優しくしてくれる。



「ありがとう…………」



「ほらね、あんたは一人じゃない。私もいるよ」


 マロウさんは、笑って私の肩に手を置いた。




 こんな幸せな事があるのかしら。……ねぇ、リース。貴女は孤独だったかもしれない。でも、今は、貴女には沢山の協力者がいて、貴女の為に命をかけてくれる人がいるわ。


 私は目をつぶって、もう一度、皆に言った。


「本当にありがとう」




 暫くして、レオが、話を切り出した。


「多分だけどよ、ボンボン。うちは母さんと父さんの結婚式に着ていた服が、まだ残ってると思うんだよな」


「へぇ! いいね、それ!」



「あー、そうねぇ。母さんと父さんはこの街に来て、結婚式を若い時にあげたって、言っていたから、多分、まだ残っているはずよ! アレンジすれば、いけるかもしれないわ!!」



「じゃあ、私がアレンジについては、アドバイスさせていただきます。他国から来ても引けを取らない服装にする為に協力致しますね」


「ありがとう!! ノエルさん!!」


 ノエミは笑って言った。ノエルも微笑む。ノエルとノエミは仲がいいなぁと、私は思う。でも、レオはその仲の良さを邪魔するように、ジィーっと、ノエルに圧をかけているけれど。



「私はどうしようかしら……スペラザから持って来たドレスは全部売っちゃったし、新しいドレスを買うお金もないわ…………」



「そうだよなぁ、俺らも出してやれねぇからなぁ」


 レオはうーむと言って、腕を組んだ。カイルも、どうしようかと、考え込んでいる。


 ふと、マロウさんが呟く。



「何かいい方法がないかねぇ…………ドレスになるような、布があれば………………」


 マロウさんは、別荘のお屋敷あたりを見て、考え込む。ふと、何かを見つけたらしく、ハッとしてカイルに言った。



「カイル公爵殿下! ドレスになる布、見つけたよ!! これなら、きっと大丈夫だよ!!!!」


「本当ですかっ?! マロウさん?!」



 マロウさんは、別荘の窓を指差した。







 その後、暫くしてから、作戦会議はお開きになった。

 私はカイルに呼ばれて、別荘に残る事になる。

 カイルは、言った。


「しかし、マロウさんはすごいね」



「本当よ、ここのカーテンを使ってドレスを作るだなんて。洋裁も出来るなんて無敵過ぎるわ」



「本当に。弱点を探したくなってしまうね」



 ノエルはキッチンで後片付けをしている。カイルは、片付けが済んだテーブルと椅子で、新しくノエルが淹れた紅茶を飲んでいる。

 昼下がりも過ぎて、夕暮れが近くなっていた。彼は、自分の別荘だからか、とてもリラックスしている。



「洋裁までは私も教わる事は出来ないわね。どうも苦手で……」


 私が言うと、カイルは言った。


「お菓子作りやハーブの扱いが上手い上に、洋裁も出来たら困っちゃうよ」



「そう?」


 私は微笑む。私もノエルが淹れてくれた紅茶を、一口、飲んだ。



「リース、ごめん」


 カイルは、リラックスした状態で、言う。テーブルは横にして、椅子と体を私の方に向けていた。



「何が?」



「国王陛下に目をつけられてしまった。フィオレ嬢の秘密を何が何でも暴かないと、僕達の命も危ない」



 穏やかな気候とは裏腹に、カイルは言った。



「わからなかったら、処刑……される……とか?」



 冗談で、私が言うと、カイルは笑わなかった。



「…………うん」


 カイルは言葉を躊躇いながら、頷いた。

 マジか……と私は思う。



「本当に……私のせいで……」



「これは僕のせいでもあるから。国王陛下は遊びが過ぎる人だから、大らかだと思っていたんだ。卒業と同時に、スペラザを出てしまえば、どうにかなるとも思ってた」



「でも、関係ない、貴方まで巻き込んでしまったわ」



 カイルは私の手を引っ張って、私を立たせる。私は彼の力で、ぐいっと引き寄せられて、距離が近くなった。藍色の目が夕陽に反射して、煌めいている。



「さっきも言ったけどさ。君を守るって決めたのは、僕自身だから。君は、何も罪悪感を感じなくていいんだよ」


 カイルが、ぎゅっと私を抱きしめる。私は、またドキッとしてしまう。顔が見られなくて、下を向いていたら、カイルに、顔を上に向けられてしまう。



「でも、証拠をどうやって探すの? 神殿では欲に塗れないようにと、魔法が禁止されているでしょう?」



「うーん、そこなんだよねえ……」


 カイルは私を抱きしめたまま、困った顔をした。記憶記録の書はその日、神殿で何があったかを記録する物だから、魔法には当たらない。けれど、その日に起きた事を魔法で再現するのは、魔法を使うことになるから、禁止。となれば、どうやって解くものか…………。



「本の切れ端を、フィオレ嬢が持っているかもしれないのね」


「うん、手に入れられたら、助かるんだけどさ。神殿で、物を直すとか、そういう事は魔法を使っても可能なんだけどさー…………」



「今は、フィオレ嬢の持っている本の切れ端を手に入れるしかないわね……」


 私は呟いた。


「難しいけど、頑張ろう。僕達の命の為にも。君に爵位を戻して、義兄さんと君が結婚すれば、君もきっと元いた世界に生きて戻れる筈だから…………」


 カイルは言った。私は、カイルの腕の中で、言う。




「貴方は、私と以前のリースが望むものが、本当にダナ様だと思っているの?」


「それしか考えられない」


「けど、私…………




 カイルは、私が言い終わらないうちに、ゆっくりと自分から、私を引き離した。



「君は、義兄さんと一緒になるべきだよ」



「カイル…………」



「不本意な形ではあるけど、きっと義兄さんも君を愛していると思う。この前、会った時に義兄さんを見て、思ったんだ。二人が一緒になれば、君は…………」


 カイルは、言葉の続きを言わなかった。



 この世界で、私と以前のリースが望むものを手に入れた時、私達の繋がりは解かれ、元に戻るーーーーーーーーーーーー。全てが普通に戻る。私がこの世界にいた〝以前〟に。そうなる事は、間違っていないーーーーでも、それは、どんな形であれ、私が()()()()可能性があるという事。



 それで、良いのかしら?


 本当に、私はそれで良いの?



 カイルは、困った顔をしながら、私を見つめる。

 私は、言った。



「嫌」


「リース……」


 カイルは呟く。



「貴方と一緒にいられないのは、嫌よ……」



「わがまま言わないで。これは君の為だよ」



「違うわ。私はそんな事、望んでいない。私は、貴方の事が……」



「だけど、僕達は元々違う世界の人間なんだ」



 カイルは、ハッキリと言った。



 その一言に、私は気付かされる。……そうだ。カイルはこのきせきみのキャラクター。私達は元々、次元の違う世界に住んでいる。ラクアティアレントにリースが落ちて、彼女の前世として産まれてしまった私か、または温泉で転倒して溺れて亡くなって来てしまった私。……どちらも本来、この世界には、存在すべきではなかった私…………。



 次元の違う世界に住む二人が、一緒になる、だなんて、そもそも間違っているんだ。


 カイルが言っているのは、私達は一緒になるべきではない相手だと言っているんだと思う。ダナ様と私が一緒になる事は、二人のリースが望むものだから、問題ない。ダナ様と結婚したら、私は取り込まれて、元のリースに戻るか、または私が成仏して元のリースに戻るだけ……。でも、私とカイルは、違うんだ。どんなに、私がカイルを好きでも、私はずっと、カイルと一緒にいられない。この世界を元に戻す為にも、いつかは手放さなくてはいけない。きっとこれが私の運命なんだ。……………………わかってる。






「でも……この気持ち、止められない……わかっているのに。理解しているつもりなのに…………想像するのは、いつも、貴方との未来なの……」





 私は、言った。



 カイルは私に近付き、口付けをした。長く長い口付けだった。私の腰がテーブルに当たったので、カイルにテーブルの上に乗せられる。目線がカイルと同じ位置になり、私は何度も、彼のキスを受け入れた。手を伸ばして、彼の背中にぎこちなく、手を添える。

 最初に馬車でキスされたあの時よりも、切なくて、何だか、泣けてきて。私が涙をつつー……と、流すと、カイルは顔を離して一言言った。




「君は……ずるいよ……」



 カイルも涙ぐんでいた。


 私達がこの世界で、一緒になれる方法があればいいのに。私達が何も考えずに、一緒にいられたら、どんなに幸せなのだろう。


 私は彼におくってもらう帰り道に、何度も何度も思った。






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