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「マロウさん、私、ちょっと行って来ますね! 先帰っていて下さい!!」
私は言った。
「ん? わかったよ!! 気をつけるんだよ!」
マロウさんは答える。私は走り出して行くと、カイルも後をついて来た。カイルの後をノエルも追いかけて行く。
私はラッテ市場の中心街を真っ直ぐ走って、理容院へと駆け込んだ。
「すみません!!」
「はい、いらっしゃい」ロングティーシャツにパンツにエプロンをつけた、中年のおじさんが挨拶してくれた。
カイルとノエルが同じタイミングに入って来た。血相を変えて、彼は言う。
「リース、どうするつもりだよ」
私は何も答えずに、理容院のおじさんに言う。
「お願いがあります。髪を切って頂きたいです。でも、切った髪の毛は持ち帰ります」
「な゛?!」
カイルは驚いて言葉にならない声を出す。
「あぁ、いいよ。どれくらいの長さにするかい?」
「このくらいで。バサッと切ってしまって欲しいの」
私はおかっぱくらいの長さを、手を横に立てて言った。
「リース! やめとけよ。なぁっその髪、大切にしてただろ?」
「いいのよ。もう手放すことに決めたから」
私は言った。カイルは慌てる。慌てるのも仕方ない。このきせきみの世界で、私は特に髪の毛が綺麗なキャラクターだった。あと、この髪には価値がある。色といい、元貴族の物ならば、私にも出来ることがあると思った。
「だって…………君……兄さんが髪が長いのが好きだったから、のばしているって言ってたじゃないか」
「もう昔のことだから」
カイルが慌てる様子を見て、ノエルは必死にカイルに落ち着いてと言った。理容師のおじさんが、カイル達に構わず、私に近づいて来て言う。
「どうしますか? 切りますか?」
断ろうとするカイルを差し置いて、私はハッキリと言う。
「切ります」
中年のおじさんに椅子に座らされ、柄付きの布を被された。心の端っこでは、中年の理容師さんよりも女性が良かったな、という自分の気持ちも漏れて聞こえて来た。けれど、今はそんな気持ちを考えるよりも、あの子達の為に私も何かできることがないかな? と思った。
おじさんは鋏でさくさくと私の髪の毛を切っていった。
「こんな綺麗な髪の毛、ばっさり切っちゃっていいの?」
おじさんは言った。カイルとノエルは、仕方なく、店の外で待っている。
「……いいんです。自分で決めた事ですから」
ダナ様は…………フィオレが現れる前、リースの長い髪が好きだというのをゲームのワンシーンで見た。ほんの少ししかないシーンだけれど。だから、リースはティルト家にいた頃も、髪のケアは念入りにやっていたみたいだった。
「そうかい、じゃあしっかり切らせてもらうよ」
おじさんは、鋏をちょきちょき、と開いて言った。
あっという間に、私の髪はボブヘアになる。リースのヘアースタイルは緩やかなパーマヘアだったので、ボブスタイルになっても、毛先の緩やかな癖毛は残っていた。
「ありがとうございます。髪の毛もちゃんと一束ずつ切ってくれてありがとうございます」
「いや、よかった。髪の毛は紐で縛っておいたけど、これでいいのかい?」
おじさんは紙袋を出して、私に切った部分を見せてくれた。私の髪の毛が一束ずつ上下に縛られた物が、何本か入っていた。
「はい! ありがとうございます」
私はお金を払おうとすると、おじさんは言った。
「あ、お金はもう貰っているから」
「え?」
「外のお兄ちゃんが払ってくれたよ」
私はカイルの方をチラッと見る。カイルはノエルと話していて、素知らぬ顔をしている。……まったく、背に腹はかえられぬとは言うけれど、これじゃあ借りを作ってしまうわ。んー、なんか悔しい。でも、今はそれどころじゃないから。決めた事を叶えにいかないと。
「そうですか、髪を切ってくれてありがとうございました」
「また宜しく頼むよ」
私はおじさんに挨拶してから、店を出た。
「お待たせ」
私は外で待っていた二人に声をかける。
「リース」
カイルは私を見る。
ノエルも私を見て、すごく驚いた声をあげた。
「リース嬢! 短くなってます!!」
「さっぱりしたわね」
私が言ったけれど、カイルは何も答えなかった。
「…………」
私はそのまま、路地裏にいる少年少女の元へと近づいて行った。少年は私に気づくと、妹に何かされるのかと思い、握りこぶしを作った。両足を肩幅くらいあけて踏ん張る。妹は内股になりながら、俯いていた。
「悪いことはしないわよ」私は彼等に膝をついて話す。
「あのね、お母さん、具合が悪いのよね? お金が必要なのよね。私にはお金はあげられないけど、これはもう必要ない物だから、これを質屋に持って行けばいいわ」
私は少年に紙袋を口を横にして、そこから私の髪の毛を見せた。
「…………!」
少年はびっくりした顔をする。
「私はスペラザ王国の出身なんだけど、スペラザ出身の人って髪の毛に魔力があるっていう話があるのは知ってるかな? ……あれは、この世界で髪には魔力が宿るんじゃないか? っていう言い伝えが少し影響していて、実際のところは髪の毛じゃなくて、民に魔法を使える力があるの。でも、その言い伝えのおかげで、私達スペラザ出身の人の髪は他国でもとても価値があるのよ。特に明るい髪の色した毛はすごく高値だと聞いたわ。真っ直ぐなストレートヘアじゃなくて悪いけど、売りに出せばお母さんの治療代にしばらくは困らないと思うから」
私は少年に紙袋の口を蓋をして、渡す。少年は少女と顔を見合わせて、私を再度見つめる。
「気にしないで」
私は言った。少年と少女はぺこりと頭を下げて、走って行った。私が立ち上がると、カイルとノエルが近づいて来て言う。
「よかったのですか?」
ノエルは心配そうに私を見つめた。
「えぇ。これで良かった」
正直なところ、カイル達がブーケ国に来なければ、気づかなかった。あの子達に対しても、お金を盗られた意識が強くて、どうしてあんな小さい子がやるんだろうなんて考えもしなかったから。
「………………」カイルは黙ったままでいる。
「さて、私は自宅に帰るけど、貴方達はどうするの?」
「そうですね……カイル様、どうしましょうか?」
「……リースに話す事がある。前に言った……」
カイルは言った。私に話すことってなんだろう?
「承知いたしました。では、私は外させていただきます」
「あぁ、すまない」
帰る前にノエルは、私に声をかけた。
「リース様、本日はありがとうございました。カイル様共々、しばらくこちらに滞在する事となります。お忙しいかとは思いますが、宜しくお願いします」
「えぇ、わかりましたわ」
私が言うと、ノエルは胸に手を当てて敬礼した。そして、そのまま歩いて行った。
「リース、話がある。僕の馬車も小さくしておきたいから、リースの自宅前に戻ろう」
「わかったわ」
私達は歩いて、私の自宅へと戻った。戻る時に、気になっていた事を聞いてみる。
「ねぇ、カイル」
「ん?」
「さっきの少年少女達に、靴磨きをさせる時、彼等に何を言ったの?」
カイルは、あぁ、と返事してから話してくれた。
「……少年少女に、こんな所で飢え死にしたくないのなら、働くんだ。働いて自立して、恥を捨てて生きていくしかないんだぞって言った」
「…………カイルにしては……」
「何?」カイルは怪訝な顔つきになった。
「カイルにしてはいいこと言うわねー……と言おうと思ってたわ」
「失礼だなー。僕だって、ちゃんとしたことは言うよ」
「そうね」
私はクスクスと笑った。周りの景色は、どんどん薄暗くなってきて、カイルの顔も暗くなってきた。家にたどり着くと、カイルは指を小さく動かして小さな馬車に変える。服を元に戻して、ポケットの中に馬車をそっとしまった。
私は鍵をあけて、自分の部屋に案内する。
「どうぞ」
私は電気をつけて、カーテンを閉める。薪ストーブをつけるため、薪ストーブの扉を開ける。ふと、カイルを見ると、なんだかニヤニヤして立っている。
「……?」
「いや」
「何よ」
「……いや、ちゃんと生活しているんだなって」
カイルは感心していた。なんで? 普通の事だと思っていたけれど……?
「君は根っからの貴族だから、一人暮らしはできないんじゃないかと思っていたけれど、誤解だったね」
カイルは言う。
部屋の中をぐるりと見渡して、うんうんと言った。
「ようやく慣れてきたところよ。あ、桃のタルトならあるんだけど、食べる?」
「えっ? くれるのか?」
「だって、食べてみたいんでしょう? マロウさんのお菓子の味」
「あ、あぁ。まぁそうなんだけど……」
カイルは言った。少し複雑な顔をした。私は、いまひとつよくわからない。
「夕食の時間帯だけど、食べて行く? 私の家には王子様が食べられるような高級な物はないんだけど……」
「えっいいのか?」
「カイルが良ければだけど……髪のお代金、払ってもらっちゃったし……」
「そっか。じゃあお願いするよ」
カイルは少し嬉しそうな顔をする。ん? と私は思った。なんでなんだろう? よくわからないな。
まぁいいか、と思いながら、私は一日冷やして置いたパスタを出す。何日も食べられるように、多めに作っておいて正解だった。まさかカイルにご飯を食べてもらう機会があるとは思いもしなかったけど…………。
私はベーコンを出して、薄く切ったものを、一センチ幅に切る。鍋に塩を入れてお湯を沸かし、パスタを茹でている間に、フライパンにオリーブオイル、ベーコンと玉ねぎ、牛乳、粉チーズを入れて炒めていった。
パスタを早めに取り上げたら、フライパンに入れて、混ぜる。解いた卵をフライパンの火を止めてから、余熱だけで混ぜる。塩と胡椒で味を整えたら出来上がり。リースお手製、カルボナーラパスタの完成!




