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スープは、玉ねぎとトマトとバジルに塩で軽く味付けした物にした。そんなに頻繁に肉や魚は買えないから、加工食品を買う人は多い。こんな食事でお腹を満たしてもらえるか……私は心配になる。
「できたわよ」私は濃いブルーのランチョンマットにお皿を並べて言った。たまにマロウさんとも私の家で食事をするので、用意しておいたランチョンマットが役に立って良かったな。
カイルは、料理を見て不思議な顔をしていた。
「お肉は滅多に買えないのよ、ごめんね」
「いや、違うんだ……」
「え?」
「……君は確かに魔法以外は何でもできたけど、あのリースが、今こんなにしっかりとした料理を作って僕にも食べさせてくれるとは……」
カイルは、また不思議な顔をして、今度は私の顔を見る。
まぁリースは何でも侍女任せのところはあるし、わかるけど。
「こっちに来てから、自分でやらないとやっていけないから……食べないの? 麺伸びるわよ」
「食べる…………すまなかった。苦労させた」
「カイルが悪い訳じゃないわよ」
「だけど…………」
カイルが言いかけている途中で、私は手を合わせて言う。
「いただきまーす」
カイルも、手を合わせて、小さくいただきます。と言った。一口パスタを食べると、カイルは暫く黙ってから…………顔が柔らかくなる。
「美味しい」
彼はもぐもぐと口を動かし、手を動かして笑った。
「お口に合ってホッとしたわ」
「君に料理の才能もあったとは」
「才能ってほどじゃないでしょう、ただのパスタとスープよ」
「でも…………」
私は冷静に返したけれど、本音で言うと嬉しかった。私はOL時代には、料理はあまり…………というか、ほとんどしていなかったし、男性に料理を食べてもらう事は当然なかった。恋人でも何でもないけれど、美味しく食べてもらえるのはありがたい。
「ハーブも育てているんだな」
「うん、一度雪に埋まっちゃったから、どうかなぁと思ったんだけど……何とか生きてくれてるね。このまま、もってくれれば……」
「ハーブは貴族も飲む物だけれど、奥が深いもんな。侍女だって、修道院に買い付けるだけで、育てはしないんだよな」
「そっか、私は侍女達が庭園のどこか一角で育てているのかと思っていたわ」
私は桃のタルトをお皿に盛り付ける。桃には、香ばしい紅茶がいいなと思って、ポットにお湯を入れて温める。
「いいや、違うんだよ。しかし……薔薇も多いな」
カイルは立ち上がって、窓際に私が置いておいた鉢植え達を見る。
「薔薇は冬でも咲く物が多いでしょう? 他の植物も同じなんだけど、今は少しずつ育てて、冬越しを乗り越えたら畑に植え替えようと思って」
「真冬だからな、今は。……ん?」
カイルはひとつずつ鉢植えを見てから、〝あの鉢植え〟を見て止まった。
「………………」
私はティーポット のお湯をティーカップに注ぐ。私は言った。
「その鉢植え、クリスマスの朝に気付いたらあったの。……誰がくれたのかわからなくて……。カイルだった?」
「………………」
彼は黙っていて、何も話そうとしない。私の方から見ると、後ろ姿しか見えないので、彼がどんな顔をしているのか分からなかった。
「…………カイル?」
「俺じゃないよ」
「……え、違うの? じゃあ誰が…………」
「きっとサンタクロースだ」
彼は振り向いて、にこりと笑う。あ、この人、またふざけようとしてる。もう、馬鹿にして。
「もう、カイルなら最初から言ってよ! 驚いたじゃない」
「いや、俺じゃ……」
「何よ、他国に来た時に魔法陣使った魔法は禁止〜とか言っちゃって。思いっきり、使ってるじゃない」
「いや、あのさ、それは」
私は話も程々に、ティーカップのお湯を捨てて、ティーポット に入れておいたアールグレイティーを淹れる。空気中に微かに鼻先をツンと刺激する香りが漂った。
「紅茶、淹れたわよ」私が言うと、カイルは渋々座った。
「このタルトも美味いな」
「ありがとう。マロウさんから教えてもらったの。白桃は販売用でもあるから、経費は出るんだけどね、ラッテ街って割と果物が安い物もあるの!」
「……へぇ、柑橘とか?」
「うん、オレンジもすっごく安いけど……苺もすっごく安くて……っ!! 苺はジャムにもできるし、タルトもケーキもゼリーにもできるでしょ?! 用途が多いのに、安くて助かるわよ〜」
私は一人で熱弁すると、カイルは黙っている。何も話さないので、私が恥ずかしくなってくると、ふふっと彼は笑った。
「本当に頑張ってるな」
彼は何気なく微笑む。…………。私は一瞬、ドキッとしてしまった。こ……こ……この人、無意識でそういう表情するの?! なんか……あれ、その……可愛いんですけどっ。
いやっ!! 違う!! 違うんだよ、私っ!! 私にはダナ様という神様的な推しがいるんだから!!
それでも、私は彼を見る。
何でこんなにドキッとするのかしら。西嶋さんに顔が似ているからなのかな? 冷静になるのよ、相手は十九歳の男性。十九歳の男性。十九歳の男性…………。私は本当は三十二歳。三十二歳……。
……でも、どうしてかな…………目が離せない……
「なぁ、リース」
「はっはいっ!!」
私は不本意に声が裏返ってしまった。カイルは私が思っていたよりも真剣な顔をする。
「話なんだけどな」
「うん」
カイルが更に真面目な顔をしたので、私は気持ちが切り替わる。
「君がラクアティアレントに落ちた日のことだ」
「その話はもう気にしなくていいんだけど……」
「聞いてくれよ」
カイルは言った。避けられないな、と私は思った。椅子に座って、私は彼を見た。
「何?」
「カメリア学園の高等部一年に、不登校気味の生徒がいるんだ」
「えぇ」
「ミアという生徒だ。彼女は不登校気味だが、十月のあの日は珍しく、午後から来ていた。周りは授業後、人通りは極端に少なくて、彼女は来ては見たものの、やっぱり自宅に帰ろうと思ったそうだよ」
「うん」私は言った。少しずつ、自分の緊張が増してくる。
「その時、ミアは……君とフィオレが、神殿に向かって歩いて行く姿を見たと話している」
カイルは一口、紅茶を飲む。私はティーカップの取手をぎゅっと握りしめる。
「カイル」
「何だい」
「前に……ラクアティアレントの魔力で、自分の記憶が映像で蘇る事があるって言ったでしょう?」
「あぁ、前に話していたね」
「この前、私ーー見たの。言い争っているイメージ。それで……………………」
私はごくりと唾液を飲み込んだ。言ってしまったら、元には戻れない気がした。けれど、あれは偽物でも何でもない。私が見たものだからーーーーーーーー。
「それで?」カイルは言った。目線ひとつ晒さない。
「……私を突き落とした人、フィオレだったのーーーーーーーーーーーー……………………」
私は言った。
「……………………やっぱり」
「信じるの?」
「そうかなと思っていたよ。最初から。だけど、目撃情報が極めて少なかったし、確証が掴めなかったから動くに動けなかった。リースの記憶で、納得ができるよ」
彼は言う。最初から、フィオレが怪しいと思っていたの? 断罪された収穫祭のあの日、言っていた、わかったことーーーー。フィオレに関することだったの?
「で……でも、顔はよく見えなかったから何とも言えないわ。どうして……あの子はそんなことするような子じゃないのに………………」
「……そんな事、わからないだろ?」
「ううん、やらないわ!! きっと何かの間違いよ! だって、フィオレは…………!!」
きせきみのヒロインだから…………! と、言おうとしてしまった。ヒロインなのだから、そんなはずない…………。はず……。
「本当に彼女はやらないと言い切れる?」
「…………それは……」
カイルは、瞬きもせずに言い始めた。一口、紅茶を飲み、持っていたティーカップを脇に下げる。
「確かに、彼女は正義感も強くて、優しくて芯が強いよ」
カイルが言う。何だか、フィオレを褒める時の言葉が違うように聞こえる。……やっぱり、カイルはフィオレのことが好きなのかもしれない。と思った。何だか、聞いていて辛いな。
「だけどな、フィオレには君を陥れる明確な理由があるだろ。君に嫌がらせをされてた」




