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「カイル様、私の分まで申し訳ありません。ありがとうございます」
「構わない。ミズ・マロウ・ブルー、こちらで大丈夫ですね?」
カイルは言った。マロウさんは、しばらくジッと黙っていたけれど、言った。
「仕事の邪魔はしないようにお願いしますよ。あと、マロウで構わないです」
私はマロウさんとラッテ市場まで歩いて行く。カイルとノエルは、間を取って歩いて行った。
「……マロウさん、すみません……」
私はマロウさんに話すと、マロウさんは、不思議な顔をした。
「何を言ってるんだい、リースの幼なじみなんだろう?」
「でも……本当に何しに来たんだか……本当に爵位を戻すためなのかな……実は監視とか……」
私はため息をつく。だって、きせきみの公式では、去年の四月にフィオレとダナ様が出会って、仲良くなって、日を空けずにフィオレがカメリア学園に編入してきて。二人が仲良くなって、リースがフィオレをいじめだして、十月に婚約破棄と国外追放でしょ。この、二人が仲良くなってーの当たりに、カイルはひっそりとフィオレへの想いを抱えていて。リースの追放後に、フィオレとダナ様が正式に婚約して。公開婚約披露記念日を待たずに、カイルはフィオレへの想いを伝えぬまま、王位継承権を放棄して旅に出るの。私がスペラザにいた時も不思議な行動をカイルはしてる。……どうして? リースとの関係はダナ様同様、決して良くなかったと思う。なのに、今は…………。
私は結局、決められたルートに逆らえなくて、婚約破棄と国外追放となった。公式と同じじゃなくても、エンドは同じだった。……だったら、他のキャラクターも同じエンドな筈…………なのに。
「リース」
マロウさんが声をかける。私が深妙な面持ちでいたせいだろう。ゆっくりとマロウさんは話してくれた。
「色んな事があったから、そう考えても仕方ないけどね、きっと殿下はリースが思っている考えとは違うと思うよ。監視だとしたら、わざわざこんな風に服を変えてまで付いては来ないと思うよ」
「そうですかねぇ…………」
「むしろさ……」マロウさんは何かを考えているような顔をした。
「え?」
「いや、とにかく違うから大丈夫さ」
……違うってどういう意味? だって彼の好きな人はフィオレだもん。爵位を取り戻す事が、カイルにとって良いことなのか、私にはわからない。
私達はラッテ市場に着くと、いつも通り、所定のテントへと向かおうとする。ふと、目をやると、あの時、私からお金をスった小さな男の子と女の子がいる。
私はカイルに伝える。
「あの子達はスリだから気をつけてね」
普通の格好をしているとはいえ、カイルは第二王子だからオーラで品の良さが出てるはず。(※私にはさっぱりわからないけれど)お金は沢山持っていたとしても、取られてしまったら意味はないから。そう思って言ったのだけれど、カイルは言った。
「スリ? ふぅん、じゃあ行ってみるよ」
カイルは私の話を聞いて、逆に幼い子達の所へ向かって行く。
ちょっと! 私の話、聞いてた?!
「カイルっ!」
私も慌てて、彼の後を追いかけて行く。
狭い路地に行き着くと、幼い二人は隅で汚れた白いトップスとパンツと白いワンピース姿で壁に添うようにしている。
カイルは、ノエルに何か指示をする。ノエルはふんわりと手を空間の中で撫でる。魔法で箱が出てきて、ノエルはそれをカイルに渡す。カイルは二人に近づいて、箱を空けて言った。
「少年、少女」
ジッと少年がカイルの顔を見た。顔も身体も服も汚れている。一月だというのに、二人とも素足だった。
「これを使って僕たちの靴を磨いてくれないか、金は用意するよ」
カイルは六枚お札を出した。多くない?! 普通なら、金貨一枚ーー約百円か二百円くらいだと思うのに。だいたい四万円くらい出してると考える。私は困惑すると、ノエルが私に丁寧に話してくれる。
「リース様、カイル様は注意するよりも仕事を与える人なのです」
「仕事……」
「あの子達が貧しい子だと知った上で、物を与えるんじゃなくて、仕事を与えて報酬を高くあげるんだね」
マロウさんは、言った。
「そうなのです。貧しい子達は決してやりたくてスリをする訳ではないと、カイル様は解っています。あの子達が犯罪を起こさないようにするには、まず仕事を与えること。同情が欲しい訳ではないので、物やお金ではなく、報酬として渡すのです」
「思いもつかなかったわ……」
「カイル様は昔平民でしたから。貧しい者の思いはよくわかるのです」
マロウさんも感心していた。
そう言えば。カイルの幼少期は、設定では平民だったな。国王陛下が遠征していた時にそういう事になって、カイルのお母さんがカイルを孕っていた。……ダナ様が産まれて三年ほど経ってから、国王陛下は国中探してカイルを探し出した。カイルが王宮で引き取られるようになってしばらくしてから、お母さんが亡くなった。
王宮に来るまでは親子水入らずで、平民として、ひっそりと暮らしていたんだもの。
少年と少女はしばらく構えていたけれど、カイルに何か言われたのか、靴を磨き始める。
「リース、仕事していていいよ。僕、後で見に行く」
カイルは黒い靴を磨いてもらいながら、私に背を向けている。
「わかったわ」
私は返事した。マロウさんと私は自分達のブースに向かって、椅子を二脚並べて座る。お客さんが早々と来る中、私はカイルの方が気になって、何故だか集中できなかった。
マロウ・ブルー商店は変わらずお菓子がソールドアウトとなった。寒くても、マロウさんのお菓子を買いに来てくれる人は、何だかとても幸せそうで嬉しくなる。
カイルは靴磨きが終わったらしく、ノエルと交代でこちらにやって来た。
「なんだ、もう終わっちゃったのか」
カイルは近づいて来ると、テーブルの上をだらーっと眺めた。
「申し訳ないです。すぐ売り切れてしまうんですよ」
「そうよ、マロウさんのお菓子は、とーっても美味しいんだから、すぐ売り切れちゃうのよ」
私は笑った。
「お菓子が絶品なのは、マロウさんの雰囲気だけで分かるよ。僕もひとつくらいは欲しかったけどね……」
「わが家のは商品が切らしてしまってね。リースの家に新しいお菓子があるんじゃないかい?」
「あぁ、どうだったかしら……」
「あれば買いたいな」
「少し時間をもらえればいいけど…………カイルは、今日中にはスペラザに帰るんでしょう?」
「いいや、しばらくこっちにいるよ。丸ごと別荘を借りたからね」
「え゛っ」
私は構える。今日で一緒にいるのは終わりだーと思っていたら。しばらくいる? 私の頭の中で、しばらくいるというワードがエコーする。
「リース、そんなに嫌がらなくても……」
カイルはポンと私の肩を叩いた。は? と私は思う。
……この人、今大切な時期じゃなかったかしら?
「ねぇ、カイル。あなた、今のカメリア学園は卒業に向けての試験や論文の提出で忙しいでしょう? どうしてこっちにしばらくいられるの?」
「うん、試験は繰り上げでパスしたし、論文はこっちで仕上げて持ち帰るさ。基盤は書けているからね」
私は固まる。…………そうだ、この人は魔法のレベルがものすごく高いから、魔法関連の授業やテストは成績が良いのよね……うん。
「実践試験は魔法を使う物だし、論文も魔法に関する事だものね…………」
マロウさんは、ドンマイと言うように私にポン、と肩を優しく叩いた。
「宜しく」
カイルは笑って言った。やっとブーケ国に慣れてきて、リラックスして楽しく生活ができると思っていたのに。新しい嵐がやって来たのね。……私は目眩を起こしそうになる。だけど、カイルが握手を差し伸べてきたので、とりあえず握手した。何だか私の中で不思議な気持ちになる。手のひらが触れる。……胸が軽くどきり、とした。
「………………」
「…………リース?」
……私は、放心していたのか、カイルに声をかけられてハッとする。何を考えていたんだろう……。私は手を胸に当てた。
「ごめんなさい、ぼーっとしてしまったわ」
私は握手した方の手に、自分の手を添えた。
少年少女のノエルの靴磨きも終わったので、ノエルはカイルの所へ戻って来た。
「ありがとう、ノエル」
「いえ、カイル様の仰せのままに」
「ノエル様、お疲れさまです」
私も声をかけた。
「聞いてみたところ……あの者達は、母親と三人暮らしだそうですね。しかし、数年前から体調を崩し始め、病院に通わせるお金もないので盗みをはじめたと言っておりました」
ノエルは言う。私がマロウさんを見ると、マロウさんは言った。
「そう言えば、最近はあまり姿を見なくなったね」
「母親が病気だったから、盗みか……治療代にしていたのかもしれない」
「本人達の食べ物も盗んではいたと思いますが、大半が治療代稼ぎだったと」
「そうだったの…………」
私は俯いて考えた。どの程度の病状なのかはわからないけど、カイルとノエルの報酬として渡したお金でも、何日かで底をついてしまうだろう。私から盗んだお金も治療代に変わったのなら、納得できる。だけど、こんな事を繰り返していても良くない。……何か少しでもいい方法はないかしら。
悩んでいても何も浮かばなかった。ないのかなぁと思って髪の毛に手を触れる。私は動きを止めた。
私は髪の毛をかきわけて、考えた。
「…………これだわ!!!!」




