5次元人 4
ようやくわかる話が出てきて、海人は激しくうなずいた。
「観察しないと、どうなっているかわからないけれど、観察するとどうなっているかわかる。観察する前は元気か、枯れているかわからないよね」
「でも観察する前からどうなっているかは決まっているでしょ」
「朝顔の観察ではそうだね、でも量子論では、観察する前には状態についてははっきりしたことは言えない、というよりもいろんなパターンの可能性がある、ってことしか言えなくって、観察するとはっきりする、ってことなんだ。だから、僕たちの世界や、空間にも別のものがある可能性もあるってこと」
「僕たち自身も?」
「かもしれない」
自分自身の別の可能性、と考えて海人は変な気持ちになった。自分の左右にちょっとずつ違う状態の自分が見えないけれども存在している、そんな状況を想像すると気味が悪かった。
考え込んでいる海人に、博が話しかけた。
「別の空間っていう話は蒔田さんは大好きで、いつも行きたい、行ってしまいたい、って言ってたんだ。でも」
寂しそうな表情で博は海人の顔を見た。
「こういう話は家ではできないし、すごく怒られる、って言ってた。そうこうしているうちに四年生に進級する時に突然、学校に来なくなっちゃったんだ。何度も先生に話してみたし、蒔田さんの家も見にいってみた。でも、何もおこらなかったし何もできなかった。だいたいあの家には近づくこともできないし。先生が一度電話でネグレクト、って言っているのを聞いてしまって、それでしつこく先生に聞いたんだよ。そうしたらやっとちょっとだけ教えてくれた」
そこまで話すと、海人の顔を真剣な眼差しで見て声を落とした。
「昨日はつい話しちゃっただけだから、絶対人に話さないでね」
海人が、「うんわかってる」と頷いた。
「お父さんが学校の教育をよく思っていないらしいんだけど、それでも普通に学校に来ていたんだ。でも今はもう連絡も取れないんだ」
ハカセとりょーしろんとかそういう話を楽しくできるくらい勉強好きだった子が、学校に通わせてもらえないなんて、それは辛いことに違いない、と海人は思った。
「かわいそうだ」と海人は素直に口にした。
「僕なんて、ハカセの話を聞いてるだけで湯気が出そうなくらい頭がフル回転しているのに、蒔田さんはハカセと普通に話せたんでしょ?そんなに勉強が好きなのに、蒔田さんも、ハカセもかわいそうだ」
「仕方ないんだろうね、僕たちまだ子供だから」
(頭のなかはすっかり大人だよ)と海人は思った。
そして「自分のできることを精一杯やるんだよ」といつも言う父の言葉を思い出した。
「そうだ。今日、蒔田さんの家を見に行かない?もしかしたら顔を見れるかもしれないじゃん。そしたら、元気付けてあげようよ」
博が半分呆れたような顔になった。
「海人は、いい人だよね。だけどそんなの意味ないよ。あの家はすごく厳重で近寄れないんだ、普通の家と違うんだよ」
いつもの穏やかな博とは違う、決めつける言い方に海人は驚き、腹が立った。
「でもさ、今日は僕もいるし、何かが変わるかもしれないじゃん。自分でできることはやってみたいんだ」
博が、驚いて海人の顔をまじまじと見た。
「え、なんかついてる?」
首を振ると博は、ふっと笑い「いつもと違うね」と答えた。
「いいよ、行こう。ありがとう、海人」




