5次元人 3
珍しく、博が口を開けて笑った。
「でもね、次元の問題は、すごく小さい世界の話なんだ。物質をずっとずーっと細かくしていくと、素粒子って呼ばれる粒子に行き着くんだけれど、この世を作っているおおもととなるこの粒子は、実はものすごい小さいひもの振動、つまり震えで説明できるんじゃないか、っていうのが『超ひも理論』」
「ひものしんどう? 縄跳びの縄で波作ったり、ピアノの弦が震えたりする、あのこと?」
「うん、ピンとこないよね、物質のおおもとがひもの震えだなんて。そのすごく小さいヒモが閉じていたり開いていたり、振動したりすることで粒子をあらわす、って言われてるんだ。その振動の方向が何次元もあるって話なんだ。それが世界の基本になっているんなら、僕たちの今いる世界にもっといくつも可能性が存在しているかもしれないよね。でも、残念ながら次元の話はそういう粒子レベルのすごく小さい世界の話だから、僕たちの生活に影響を与えるようなことはないだろうけど」
博は、そこまで話すと真面目な顔になって、珍しく自分から口を開いた。
「でも、綾音ちゃんは別の空間に行ってしまいたい、って言ってたんだ」
「ちょっと待って、ハカセ。蒔田さんて四年生から学校に来なくなったって言ってなかったっけ。そんな話、三年生の時に蒔田さんと話してたの?」
「うん」と事も無げに博はうなずいた。
「と言っても、その頃話していたのは、超ひも理論ではなくて、量子論だけどね」
ああ、と海人は頭をかいた。
「また分からない話が出てきた。頭がパンクしそう」
でも、と海人は頭を上げた。
「その、りょうしの話、ちょっと聞きたい」
簡単に言うと、と博は話を始めた。
「超ひも理論の手前の理論で、つぶつぶとしての物質ではなくて、音とか光みたいに波として伝わる物質についての理論なんだ。で、僕が好きなのは、物質の状態は確率的にしか決められない、というところ。確率的にしか決まらないので、観測する前にはわからなくて、観測することによって状態が決まる、ってことなんだ」
「全然簡単じゃないよ」と首をかしげている海人を見ると、博は話を変えた。
「朝顔の観察日記、ってあるよね」




