5次元人 2
「今この本の表紙が一つの平面を表していると考えて。それでこうやって本を動かすと平面が空間の中にいくつもできることになるじゃない。それで、この平面のうえに人がいるとすると」
そう言って人差し指で本の表紙をまっすぐに指し示した。そして、人差し指を支点にして、本をいろいろな角度に動かした。
「こうすると、この人は実は、一つの平面だけでなく、いろんな平面に乗っているとも言えるでしょ」
いつしか海人も話に引き込まれて、「ふんふん」とうなずいていた。
「それで、この人が何歩か歩くと、それはある平面の上を歩いていることになるよね。二次元人にとってはその平面はあらかじめ決まっているたったひとつの平面だけど、三次元人の僕らから見れば、その二次元人はいくつもある平面の中から自分が動いた平面を選んだように見える。僕たちには他の平面があることが見えているからね」
なるほど、と海人が頷いた。
「なんとか、わかるかな」
「それで、四次元の時空を自由に動ける人、多分それは五次元の時空にいる人なんだけれど、そういう五次元人には、僕たちはどう見えるのかな、ってこと」
「どうなるの?」
「僕たちは今の時空がたった一つ決まっていると思っているけれど、五次元人から見ると僕たち四次元人は他にもいっぱいある時空に移動できるのにそうしないで、僕たちが今いる時空から動かないように見えるんじゃないかな。時間がいくつも存在するのかもしれないし、僕たちには見えない形で空間がいくつも存在しているのかもしれない、まるで紙の上に線が無数に引けるように。超ひも理論では、もっと高い次元の存在が考えられているから、楽しいな、と思って」
「楽しい?どゆこと?」
「他の三次元空間と今僕たちがいる三次元空間が、線が平面の上で交差するみたいに交差することがあるかもしれないでしょ」と博が笑った。
「うーん」と海人はうなった。
(このいま僕たちがいる空間と交差してくる空間って、それってどんな空間なんだろう?そっちの空間に何かの拍子に移ってしまったら、それって僕の周りの世界が変わるってことなんだろうか?なんだか壮大で、すごい話だ。めっちゃ難しい本を読んでいるのに、考えていることは空想小説みたいだ)
「すごい話だな。でも」と海人は表情を曇らせた。「僕はこの世界のままでいいかな。なんだか怖いよ、他の空間なんて」




