5次元人 1
5次元人
翌日、海人は休み時間に博をつかまえて超ひも理論について教えて欲しい、と声をかけた。
「海人は、三次元とか四次元の世界、って聞いたことある?」
海人は、「あの、タイムトラベルとかそういうやつ?」と答えた。昨日の父親の話と全然違う気がした。
「四次元、ていうのは僕たちが今いる世界のことを言うんだ。三次元の空間に一次元の時間が加わって、四次元の時空ってこと。だけど、超ひも理論では時空の次元がもっと高くなる可能性が示されているので、それって僕たちのいる世界とはまた別の世界が存在する可能性があるってことかなと思ってさ」
「ごめんハカセ、全然わかんないよ。その次元って何?」
その言葉を聞くと博が急に目を輝かせた。そしてノートを取り出して開き、そこに鉛筆で一本の直線を引いた。
「線が一次元、それでこのノートのような平面が二次元、それで僕たちが立っている立体的な空間を三次元、って呼ぶんだ。縦、横、高さの三つの次元という意味。それに加えて僕たちはただ一つに決まる時間の流れの中にいるから時間も足すと四次元の時空にいるんだ。でも時空そのものがもっと次元があるかもしれない、っていうのが超ひも理論」
「次元の違い、って何か意味があるの?」
「えっとね、この直線を見て」
博はノートにひいた鉛筆の直線を指差した。
「一次元に暮らす人はこの線の上しか動けなくて、それで方向も前と後ろしかない。でも、二次元の人はこの平面の上をこうやって自由に歩けるから」
そう言いながら博は曲線を描き、書いてあった直線と二箇所で交差させた。
「こんな風に一次元の人の世界に交差、つまり出たり入ったりする。一次元の人は自分の前と後ろしかなくて横がないから、一次元の人から見ると、世界の外側から突然二次元人が現れてまた消えてくように見える。ちょうど塀に囲まれて見通しがすごく悪い交差点で目の前を急に人が横切った感じ」
海人はその情景を思い浮かべてみた。
「なんとなく、わかるかな」
博が嬉しそうに微笑んだ。
「それで、実は一次元の人の動いている線は直線とは限らない。こんな風にぐねぐねしていて、それぞれ交差してるかもしれないけど、一次元に暮らす人は自分の進んでいるものが直線だと思ってるんだ、前後しかない世界に生きているからね。それを二次元の人、つまり平面に住んでいる人の視点から見ると、無数の一次元人がそれぞれいろんな線の上を動いていて平面が埋め尽くされているのに、一次元人自身は自分の進んでいる線以外に宇宙はないと思い込んでいるのを見ることになる。平面に対しての空間にも同じことが言える。空間の中に平面はいくつもとれるんだ」
博は、机の中から「超ひも理論の現在」を取り出した。




