食い違う記憶 2
「ていうか、ハカセが覚えていないんじゃない?」
「何を?」
「だから、矢印の先の世界を」
「どんな世界?」
海人はもう一度、半分朽ちた門と坂の上に見えた建物のことを説明したが、博は全く覚えていなかった。
「海人の夢?じゃなさそうだ」
海人の表情を見て博が考え込んだ。
「どういうことだろう?海人が覚えていて、僕は覚えていない」
「怖いけれど、もう一回やってみたら」
海人が言った。
「すごく怖くて暗いところだったけど、行って帰ってこれると分かっていればそれほど怖くないかも」
博がourPadの画面を見た。先ほどと同じように、画面が赤くなり、電子音が断続的に鳴っている。二人が校門の外に戻って、博が向きを調整すると、赤い長方形と黄色い長方形が現れた。
「さっきと同じだ」
うん、と頷いて博が「ここまでは、二人の記憶は同じだね」と海人に聞いた。海人が頷くのを見て、博は海人からランドセルを受け取ってそれを背負い、二人並んで画面の矢印の通りに歩みを進めた。
校門を越えると同時に世界が暗転し、二人は再び崩れかけた木の門をくぐっていた。
「ほら、さっきと一緒だ」
落ち着いた声で話す海人の横で、博が呆然としていた。
「さっきもここに、来たの?」
「そうだよ」
「こんな暗いところに二人だけで?」
「そうだよ。どうしたのハカセ、急に」
「い、いや。気味が悪いよね」
いつもだったら真っ先に怖がる海人が落ち着いているのを見て気が緩んだのか、博は言いようのない不気味さに背筋が寒くなっていた。自分が覚えていないのも、気味が悪かった。
「後ろ、振り向いてみようか?」
博の言葉に、「真っ暗だよ」と海人が言った。
博が振り返ると、海人の言った通りに門の外には闇が広がっていた。
「ね、わかったでしょ。もういいから、リセットボタンを押して帰ろうよ」
海人は、丘の上の古い建物を見て改めて心細くなり、博に頼んだ。
「そうか。リセットボタンで戻る、って言ってたっけ」
博がourPadの画面を操作してResetを表示させたところで、「あ」と言った。
「せっかくだから、ちょっと実験もしていこう」
博は、ランドセルの中から筆箱を出して小さくなった鉛筆を取り出して石の上に置き、崩れた門から少し木片を剥がしてランドセルに入れた。
「これでまた僕だけ覚えていないとか、そんなことになるのかな」
不安そうに博がResetの表示をタップした。
二人は夕暮れのなか校門を踏み越えた。博が構えたourPadの画面からは、その瞬間に緑色の矢印が消えた。
「ほら、やっぱり何も起きないじゃないか」
博の言葉に、海人が肩を落とした。「でも、さっきは確かに暗い世界に行ってきたんだよ」
「海人はどうなの、今回は?」
「何もおきなかった。ただ踏み越えただけだった」
「ほら、だから海人の想像だったんだよ」
そうは言いながら博は考え込んだ。海人は不服そうな表情をしている。
「もう一回やってみようか」
提案した博の言葉に、海人が「やろうよ」と言った。




