D−S−S−V 2
博は、海人の無邪気な言い方に呆れたが、言われてみれば何か盗まれて困るような情報があるわけではないのだった。保存している情報なんて市立図書館の利用者番号くらいなものだった。
博は、好奇心に満ちた海人の顔を見て根負けしたように「入手」というボタンをクリックした。「DSSVがカメラへのアクセスを求めています」という表示が出て、どうしたものかと頭を抱えたが「いいや、もう」と言いながら「許可する」をクリックした。
「アプリを読み込んでいます」というメッセージがしばらく表示された後、「起動しますか?」と表示された。
博がゴクリと唾を飲む音が海人の耳にも聞こえた。震える指で「はい」をクリックすると、黒い画面に“DSSV”という銀色の文字がゆっくりと浮かび上がって消え、”Start”と”Cancel”という二つのボタンが表示された。博は“Start”をクリックした。
画面がカメラの映像に切り替わった。画面の右側は黒い帯となっていて、様々な英語や数字が表示されていた。博が端末を持ち上げると、画面には二人が立っている河原の道が写った。
「ただのカメラ?」
海人がたずねた。
その問いに答えず、博はourPadのレンズを周囲に向けた。画面の中に時おり赤い部分が雲のように現れては消えるが、それだけだった。
「ただのカメラみたいだね」
少し落胆して海人が言った。
博はそれでも諦めきれないのか、周りにカメラを向けては画面に時おり現れる赤い小さな雲のようなものや、黒い縁に表示される数字が変化するのを見ていた。
「なんだろう、やっぱりなんでも無いのかな」
博は左上の赤い丸の中のバツ印を指で押さえた。カメラの画面は消えてデスクトップの表示に戻り、右上に”DSSV”と小さなロゴが残った。そのロゴをタップすると先ほどと同じカメラの画面が表示された。
「ダメか。やっぱりただのカメラの拡張機能か何かみたいだ」
博は肩を落として、端末をランドセルに戻した。
「ねえ、やっぱりこれは何かおかしいよ。学校の先生に話してみようよ」
海人が博に言った。博が黙って海人を見た。
「あ、これっていうのは、このアプリのことじゃなくて、蒔田さんの家のことだよ。変だよ、絶対」
「わかっているよ」
博が硬い表情のまま答えた。
「何度も話したって言ったでしょ?ダメなんだよ、僕たちじゃ」
博はランドセルを背負うと足早に歩き出した。海人は慌てて後を追いながら博に声をかけた。
「でもさ、今まではハカセだけで先生と話してたんでしょ。今度は僕もいるし、先生ももう少し聞いてくれるかもしれないじゃん」
しかし博は振り返ることも、返事もせずに進んでいく。
「ハカセらしくないよ、どうしたんだよ、そんなに怒るなよ」
八雲神社の前で別れ際に、ようやく博が足を止めて海人を見た。
「怒ってんじゃない!」




