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任侠の若頭だった俺、なぜか乙女ゲームのヒロインになりました――ふわ姫若頭  作者: 夜嶋朔
第二章 日本編

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第99話 米、食いたい

 国王執務室には、リリアーナ、ミレーヌ、オヤジ、姐さんだけが残っていた。


 バルドが鈴を鳴らす。


 チリン。


「皆様、私についてきてください。大広間で、ご家族と一緒にサンドイッチと紅茶をご用意しております」


 龍馬、桂、高杉、西郷、大久保たち幕末反乱軍。明智と新選組。レイナ、心絆、聖子、パード、キルナ、スギナも、バルドに続いて国王執務室を出ていった。


 扉が閉まる。


 しんと静かになった部屋で、オヤジがゆっくりとリリアーナを見た。


「……で、詳しく教えろ」


「何をや」


「どうやって、あんなすごい奴ら仲間にしたんや」


 さっきまでラーメンをすすっていた男とは思えない。


 目が完全に歴史好きのそれになっていた。


 姐さんまで身を乗り出す。


「清司、詳しく聞かせぇな」


「そんな聞きたいんか」


「聞きたいに決まっとるやろ! 坂本龍馬やぞ! 桂小五郎やぞ! 高杉晋作に西郷隆盛までおるんやぞ!」


「大久保忘れんな」


「おるだけで豪華やんけ!」


 リリアーナの横では、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、静かにオヤジたちを見ていた。


「最初は日本に着いた時や。港で龍馬に会った」


「ほう!」


「ただもんじゃないって、初対面で見抜かれとった」


 オヤジが嬉しそうに笑う。


「さすが坂本龍馬やな。初対面で分かったんか」


「分かったみたいや。船の話より先に俺見とった」


「やっぱ見る目あるのう!」


 姐さんも感心したように頷いた。


「ほんまもんやなぁ」


「それで龍馬に連れられて、志乃に会うことになった」


 オヤジの顔が止まる。


「待て。志乃って、信長やろ?」


「せや」


「お前、魂見られるやんけ」


「せやねん」


「どうしたん」


「葉巻の煙で誤魔化した」


「それでいけたんか!?」


「いけた。志乃、葉巻しか見とらんかった」


 オヤジが机を叩いた。


「志乃! 本物の信長やんけ! そこまで葉巻好きなんかい!」


「煙宴会なってもうた」


 姐さんが吹き出す。


「魂より葉巻見てたん?」


「葉巻しか見てへんかった」


「怖いくらい信長やな!」


 ミレーヌも口元を押さえた。


「改めて聞くと、かなり危険な状況でしたね」


「今さら気づいたんか」


「その場では、葉巻の印象が強すぎましたので」


「お前もかい!」


 リリアーナは呆れながら続けた。


「それで、志乃が本能寺行く言うた」


 オヤジの目が一気に輝く。


「来た! 本能寺の変!」


「楽しそうに言うな!」


「止めたんやろ?」


「止めた。龍馬、桂、高杉、西郷、大久保、全員に協力してもろて、こっちの仲間も合流して本能寺向かった」


「ほう! 明智は?」


「レイナが眠らせた」


「寝かせたんかい!」


「話長なると思って。一番早いやろ」


「正しいけど雑やな!」


 姐さんも笑いをこらえながら聞く。


「それで清司は?」


「走った」


「その身体で?」


「走られへんから、バルドがおんぶしてくれた」


「……」


 オヤジが黙った。


「なんや」


「本能寺の変を止めに行く若頭が、執事におんぶされとったんか」


「しゃあないやろ! 姫の身体やぞ!」


 姐さんがとうとう腹を抱えた。


「あかん、想像したらおもろすぎる!」


「笑うな!」


 ミレーヌまで肩を震わせる。


「バルドはとても冷静でした。『姫様、しっかりおつかまりください』と」


「そこだけ丁寧に再現すんのやめろ!」


 オヤジは笑いながら目元を拭った。


「ほな、新選組はどうしたんや」


「この時や思って、薬飲んだ」


「例の薬か」


「せや。清司に戻って、しばいた」


「誰をや」


「近藤、土方、沖田。話通じへん奴から順番に」


「一人で?」


「一人で」


「素手で?」


「素手で」


「死なんように?」


「せや」


「……」


 オヤジは一瞬だけ黙ったあと、大声で笑った。


「ガハハハハハ!! そういうことやったんか!」


 姐さんも机へ突っ伏す。


「あはははは! 薬飲んで新選組しばいたん!?」


「笑いすぎや!」


 ミレーヌもとうとう耐えられなくなった。


「ふふっ……改めて聞くと、無茶苦茶ですね」


「お前ずっとおったやろ!」


「その場では現場対応に集中していましたので」


「感想軽いねん!」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、リリアーナの横で静かに目を細めていた。


 しばらく国王執務室には笑い声が響いていたが、やがてオヤジが息を整えた。


「で、種もみは?」


「龍馬にもろた」


「ちゃんともろたんか」


「種もみ、白味噌、赤味噌、ネギ。全部ある」


「やるやんけ!」


「それどころちゃう」


「なんや」


「奴らの家族と仲間、農民やった」


 オヤジの表情が変わる。


「……ほんまか」


「米作れる奴、大豆育てられる奴、野菜作れる奴、味噌作れる奴。漬物作れる奴までおる」


 姐さんの目が輝いた。


「漬物! おったん!?」


「おった。しかも今すぐ始められるように、種も肥料も農具も全部持ってきとる」


 オヤジが身を乗り出した。


「全部か?」


「全部や。『私たちにできることは、これしかありませんので』って言うとった」


 国王執務室が、少しだけ静かになった。


 オヤジは嬉しそうに笑う。


「最高やんけ」


 姐さんも柔らかく笑った。


「ほんまやわ。最高やんか」


 リリアーナも頷く。


「そやねん。最高やねん」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、その横で静かに口元を緩めていた。


 オヤジは椅子から立ち上がった。


「早よ農業始めさせたれ」


「まず休ませてからな。長旅やぞ」


「せやな。住む場所も決めなあかんし、畑も見せなあかん。水の場所も確認や」


「分かっとる。明日からや。今日は食わせて寝かせる。それが先や」


「さすが若頭やな」


「当たり前や」


 オヤジは少し遠くを見るような顔をした。


「早く米食いたい」


「またかい!!!!」

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