第99話 米、食いたい
国王執務室には、リリアーナ、ミレーヌ、オヤジ、姐さんだけが残っていた。
バルドが鈴を鳴らす。
チリン。
「皆様、私についてきてください。大広間で、ご家族と一緒にサンドイッチと紅茶をご用意しております」
龍馬、桂、高杉、西郷、大久保たち幕末反乱軍。明智と新選組。レイナ、心絆、聖子、パード、キルナ、スギナも、バルドに続いて国王執務室を出ていった。
扉が閉まる。
しんと静かになった部屋で、オヤジがゆっくりとリリアーナを見た。
「……で、詳しく教えろ」
「何をや」
「どうやって、あんなすごい奴ら仲間にしたんや」
さっきまでラーメンをすすっていた男とは思えない。
目が完全に歴史好きのそれになっていた。
姐さんまで身を乗り出す。
「清司、詳しく聞かせぇな」
「そんな聞きたいんか」
「聞きたいに決まっとるやろ! 坂本龍馬やぞ! 桂小五郎やぞ! 高杉晋作に西郷隆盛までおるんやぞ!」
「大久保忘れんな」
「おるだけで豪華やんけ!」
リリアーナの横では、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、静かにオヤジたちを見ていた。
「最初は日本に着いた時や。港で龍馬に会った」
「ほう!」
「ただもんじゃないって、初対面で見抜かれとった」
オヤジが嬉しそうに笑う。
「さすが坂本龍馬やな。初対面で分かったんか」
「分かったみたいや。船の話より先に俺見とった」
「やっぱ見る目あるのう!」
姐さんも感心したように頷いた。
「ほんまもんやなぁ」
「それで龍馬に連れられて、志乃に会うことになった」
オヤジの顔が止まる。
「待て。志乃って、信長やろ?」
「せや」
「お前、魂見られるやんけ」
「せやねん」
「どうしたん」
「葉巻の煙で誤魔化した」
「それでいけたんか!?」
「いけた。志乃、葉巻しか見とらんかった」
オヤジが机を叩いた。
「志乃! 本物の信長やんけ! そこまで葉巻好きなんかい!」
「煙宴会なってもうた」
姐さんが吹き出す。
「魂より葉巻見てたん?」
「葉巻しか見てへんかった」
「怖いくらい信長やな!」
ミレーヌも口元を押さえた。
「改めて聞くと、かなり危険な状況でしたね」
「今さら気づいたんか」
「その場では、葉巻の印象が強すぎましたので」
「お前もかい!」
リリアーナは呆れながら続けた。
「それで、志乃が本能寺行く言うた」
オヤジの目が一気に輝く。
「来た! 本能寺の変!」
「楽しそうに言うな!」
「止めたんやろ?」
「止めた。龍馬、桂、高杉、西郷、大久保、全員に協力してもろて、こっちの仲間も合流して本能寺向かった」
「ほう! 明智は?」
「レイナが眠らせた」
「寝かせたんかい!」
「話長なると思って。一番早いやろ」
「正しいけど雑やな!」
姐さんも笑いをこらえながら聞く。
「それで清司は?」
「走った」
「その身体で?」
「走られへんから、バルドがおんぶしてくれた」
「……」
オヤジが黙った。
「なんや」
「本能寺の変を止めに行く若頭が、執事におんぶされとったんか」
「しゃあないやろ! 姫の身体やぞ!」
姐さんがとうとう腹を抱えた。
「あかん、想像したらおもろすぎる!」
「笑うな!」
ミレーヌまで肩を震わせる。
「バルドはとても冷静でした。『姫様、しっかりおつかまりください』と」
「そこだけ丁寧に再現すんのやめろ!」
オヤジは笑いながら目元を拭った。
「ほな、新選組はどうしたんや」
「この時や思って、薬飲んだ」
「例の薬か」
「せや。清司に戻って、しばいた」
「誰をや」
「近藤、土方、沖田。話通じへん奴から順番に」
「一人で?」
「一人で」
「素手で?」
「素手で」
「死なんように?」
「せや」
「……」
オヤジは一瞬だけ黙ったあと、大声で笑った。
「ガハハハハハ!! そういうことやったんか!」
姐さんも机へ突っ伏す。
「あはははは! 薬飲んで新選組しばいたん!?」
「笑いすぎや!」
ミレーヌもとうとう耐えられなくなった。
「ふふっ……改めて聞くと、無茶苦茶ですね」
「お前ずっとおったやろ!」
「その場では現場対応に集中していましたので」
「感想軽いねん!」
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、リリアーナの横で静かに目を細めていた。
しばらく国王執務室には笑い声が響いていたが、やがてオヤジが息を整えた。
「で、種もみは?」
「龍馬にもろた」
「ちゃんともろたんか」
「種もみ、白味噌、赤味噌、ネギ。全部ある」
「やるやんけ!」
「それどころちゃう」
「なんや」
「奴らの家族と仲間、農民やった」
オヤジの表情が変わる。
「……ほんまか」
「米作れる奴、大豆育てられる奴、野菜作れる奴、味噌作れる奴。漬物作れる奴までおる」
姐さんの目が輝いた。
「漬物! おったん!?」
「おった。しかも今すぐ始められるように、種も肥料も農具も全部持ってきとる」
オヤジが身を乗り出した。
「全部か?」
「全部や。『私たちにできることは、これしかありませんので』って言うとった」
国王執務室が、少しだけ静かになった。
オヤジは嬉しそうに笑う。
「最高やんけ」
姐さんも柔らかく笑った。
「ほんまやわ。最高やんか」
リリアーナも頷く。
「そやねん。最高やねん」
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、その横で静かに口元を緩めていた。
オヤジは椅子から立ち上がった。
「早よ農業始めさせたれ」
「まず休ませてからな。長旅やぞ」
「せやな。住む場所も決めなあかんし、畑も見せなあかん。水の場所も確認や」
「分かっとる。明日からや。今日は食わせて寝かせる。それが先や」
「さすが若頭やな」
「当たり前や」
オヤジは少し遠くを見るような顔をした。
「早く米食いたい」
「またかい!!!!」




