第97話 姫は何しに日本へ
港に設置された大きな画面から、セリーナの声が響いた。
「リリアーナ姫様。国王陛下がお呼びです」
日本から来た者たちは、一斉に画面を見上げた。
「……人が、板の中にいるぞ」
近藤が目を見開く。
土方はすぐに画面の裏へ回った。
「誰もいねぇぞ」
山南が首を傾げる。
「では、なぜ人が映っているのですか?」
沖田は画面へ向かって手を振った。
「こちらが見えていますか?」
「見えてへん」
「そうなのですか。でも今しゃべっていますよ」
「中継や」
「中継?」
「説明長なるな」
龍馬も画面へ顔を近づけた。
「この中へ入れば、遠くの者と話せるがか?」
「入るな。割れるぞ」
明智も驚いた顔で画面を見つめている。
「異国では、人を板の中へ閉じ込めるのですか」
「閉じ込めてへん!」
その時、心絆が画面を見上げ、勢いよく拳を上げた。
「TVまである!!!」
「声デカ!」
麗聖子も目を輝かせる。
「ほんとだぁ!! TVだぁ!!」
「お前らは知っとる側やろ!」
「でも異世界にあると思わないじゃん!!!」
「それはそうやけど、うるさい!」
近藤たちは、心絆と麗聖子を交互に見た。
「TVとは何だ」
「説明長なるから後や!」
リリアーナは頭を抱えた。
その横では、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司が、騒ぐ日本勢と画面を静かに見比べている。
「説明は後でする! 今は王宮や! 全員ついてこい!」
「はい!」
王宮へ向かう道でも、日本勢は町中に設置された画面から目を離せなかった。
「また人がおる」
「こっちにもいるぞ」
「店の中にもあります」
「全部同じ女じゃないか」
「セリーナや」
「何人いるんだ」
「一人や!」
「どうして全部に映る」
「説明は後や言うたやろ!」
その横で心絆と麗聖子だけは、画面を見るたびに妙な方向で感動していた。
「公共TVまである!!!」
「ほんとだぁ! お店にもあるぅ!!」
「お前らまで一個ずつ反応すな!」
「だって異世界だよ!!!」
「分かったから歩け!」
そんなやり取りを繰り返しながら王宮へ着くと、門番が姿勢を正した。
「リリアーナ姫様! お帰りなさいませ!」
大きな扉が開く。
リリアーナは後ろを振り返った。
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、静かに全員を見渡している。
「家族と子ども、年寄りは大広間へ案内したって。サンドイッチと紅茶も出してやれ。長旅で疲れとる」
「承知いたしました」
王宮の者たちはすぐに動き始めた。
「こちらへどうぞ」
「お子様はこちらです」
「ゆっくりお休みください」
日本から来た家族たちは何度も頭を下げた。
「ありがとうございます」
「本当に、ありがとうございます」
子どもたちも少し安心したように笑う。
リリアーナは、龍馬、桂、高杉、西郷、大久保たち幕末反乱軍と、明智、近藤、土方、山南、沖田だけを見た。
「お前らは一緒に来い。オヤジに会わせる」
「はい!」
龍馬が嬉しそうに笑った。
「王様じゃ!」
「まず挨拶や」
「分かっちゅう!」
「ほんまか?」
国王執務室の大きな扉の前で、門番が声を張った。
「リリアーナ姫様! ただいまお帰りになりました!」
扉が開く。
広い執務室の奥では、オヤジと姐さんが机を挟んで、普通にラーメンを食べていた。
ズルルッ。
ズルルッ。
「帰ってきたか」
「帰ってきたで」
オヤジはラーメンをすすりながら、リリアーナの後ろに並ぶ者たちへ目を向けた。
龍馬。
桂。
高杉。
西郷。
大久保。
明智。
近藤。
土方。
山南。
沖田。
「……」
オヤジはもう一度、ラーメンをすすった。
ズルルッ。
「清司」
「なんや」
「お前、何しに日本行ったんやっけ?」
「おい!!!! なんで忘れてんねん!!!!」




