第96話 帰国速報
翌朝。
「陸が見えました!」
船の上から声が上がり、リリアーナはすぐに甲板へ出た。
その横では、刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、静かに海の向こうを見ている。
港。
町。
そして、見慣れたリュミエール王国。
「……待て」
ミレーヌが隣へ並んだ。
「どうしました?」
「昨日、日本出たよな」
「はい」
「もう着いたぞ」
「着きましたね」
「また一日やぞ!」
「今回も早かったですね」
「なんでこんなに近いねん!!」
船に乗っていた者たちが一斉に振り返る中、龍馬は楽しそうに海を眺めていた。
「よい船じゃのぉ!」
「船だけの問題ちゃうやろ!」
リリアーナは腕を組み、これまでの移動を思い返す。
「今思えば、学園へ行くんも近かった。貧民街へ行くんも近すぎた。港も王宮も、全部すぐやった」
「確かに」
ミレーヌが頷く。
「俺、国が小さいだけやと思っとった」
「違ったようですね」
「世界そのものが近いねん!」
「便利でよいと思います」
「どんな世界線やねん!」
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、わずかに眉を寄せながら近づいてくる港を見つめていた。
何隻もの船が港へ入っていくと、その異様な光景に気づいた国民たちが次々と集まってきた。
「船が来たぞ!」
「一隻ではありません!」
「大勢乗っています!」
「何があったのでしょうか!」
「王宮へ知らせてください!」
「避難してきた方々でしょうか!」
船から、新選組、幕末反乱軍、明智と兵士たち、アウトテルリッチの戦いで仲間になった兵士たちが、それぞれの家族を連れて次々と降りていく。
子ども。
年寄り。
赤ん坊を抱く母親。
港は、あっという間に人で埋め尽くされた。
「そら驚くわな」
リリアーナも船を降りる。
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、その横へ静かに降り立った。
その時、一人の国民がリリアーナの金色の髪に気づいた。
「あれは……リリアーナ姫様です!」
「姫様!?」
「姫様が帰ってこられました!」
「リリアーナ姫様が!」
「ご無事です!」
「王宮へ知らせてください!」
「姫様がお戻りになりました!」
一気に騒がしくなった港で、人々が次々と声を上げる。
「姫様!」
「お帰りなさいませ!」
「ご無事でよかった!」
「お帰りなさい!」
リリアーナは小さく手を上げた。
「ただいま」
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、その横から集まった国民たちを静かに見渡している。
日本から来た者たちは、その様子を呆然と見ていた。
「本当に姫様だったのですね」
「せや。王女や」
「アニキでは?」
「中身はアニキや」
「難しいですね」
「俺も難しいわ!」
その時だった。
港に設置された大きな画面が、ぱっと光った。
「なんや?」
画面の中では、セリーナが机の前に座り、原稿を手にしていた。その背後には、リュミエール王国の紋章が映っている。
『臨時ニュースをお伝えいたします』
港にいた者たちが一斉に画面を見上げた。
『リリアーナ姫様が、先ほどご無事に帰国されました』
「もうニュースなっとる!!」
「早いですね」
「早すぎるわ!」
セリーナはそのまま続ける。
『姫様は日本から大勢の方々を連れ、ただいま港へ到着されました』
画面が切り替わり、今いる港の様子がそのまま映し出された。
何隻もの船。
日本から来た人々。
そして、画面の隅にはリリアーナ自身まで映っている。
「撮られとるやん!」
「中継ですね」
「もう使いこなしとる!!」
リリアーナは周囲を見回した。
店の中。
家の窓。
広場。
以前より明らかに多くの場所へ魔導テレビや公共スクリーンが設置されている。
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、町中へ増えた画面を静かに見渡していた。
「俺らがおらん間に、めちゃくちゃ普及しとるぞ」
「清司さんが出発前に指示した内容を、皆様が進められたのでしょう」
「明らかに、国が指示したこと成し遂げとるやん!」
「優秀ですね」
「優秀すぎるわ!」
リリアーナは頭を抱えた。
「待て。テレビ作って、放送局作って、中継までしとる。時間の進み方おかしない?」
「清司さん」
「なんや」
「もうすぐ六月です」
「え?」
「まもなく二か月です」
「二か月!?」
ミレーヌは当然のように頷いた。
「清司さんが、この二か月で何をされたか振り返ってください」
「……」
リリアーナは指を折り始めた。
「貧民街行って、料理人拾って、パン作って、工場作って、物流作って、船作って、戦して、日本行って、本能寺止めて、新選組しばいて、人連れて帰ってきた」
「はい」
「……」
自分で数えたリリアーナが黙った。
少しして、勢いよく顔を上げる。
「確かに俺も早すぎる!!」
「今さらですか」
「自分の速度に国が追いついとる!」
「よいことですね」
「感想軽!」
リリアーナは、もう一度町中に並ぶ画面を見上げた。
刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、その横で同じ魔導テレビを静かに見つめている。
自分が全部動かさなくても。
残した者たちが、自分の持ち場で仕事を進めている。
テレビも。
放送も。
街も。
国そのものも。
もう、清司が帰ってくるまで止まって待つ場所ではなくなっていた。
「めっちゃ進化してるやんけ!!」




