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任侠の若頭だった俺、なぜか乙女ゲームのヒロインになりました――ふわ姫若頭  作者: 夜嶋朔
第二章 日本編

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第90話 御用改めである!

 船が港を離れると、甲板のあちこちから泣き声が上がった。


「助かったぁ! 生きてる! 本当に生きてる!」


 兵たちは泣き、救い出された家族たちも互いの手を握って泣いている。


 その姿を見ながら、リリアーナは笑った。


「まだ終わりちゃう。家族迎えに行け。全員や」


「はい!」


 兵たちは一斉に頭を下げた。


「必ず戻ります!」


「待っとる! スタコラサッサや!」


「はい!!」


「声デカ!」



 数日後。


「戻りました!」


「戻りました!」


「戻りました!」


 港へ次々と兵たちが帰ってきた。


 妻。


 子ども。


 親。


 祖父母。


 中には、赤ん坊を抱いている者までいる。


「多っ!」


「全員連れてきました!」


「ようやった!」


「誰も置いてきてません!」


「最高や!」


 泣きながら家族を連れてくる兵たちの横で、龍馬が得意げに胸を張った。


「宿も押さえたぜよ!」


「仕事早っ!」


「全部貸し切った!」


「え?」


「今日はゆっくり飯じゃ!」


「おぉーー!!」


 歓声を上げる一行に押されるように、リリアーナたちも宿へ向かった。



 やがて、大きな看板が見えてくる。


『池田屋』


 リリアーナの足が止まった。


「……」


 隣を歩いていたミレーヌも止まる。


「池田屋?」


「……」


「清司さん。まさか、イケたやん事件ではなく、本物ですか」


「……嫌な予感しかせぇへん」


 龍馬が振り返った。


「どうしたがじゃ?」


「何でもない。入ろか」


 リリアーナは嫌な予感を押し込み、そのまま暖簾をくぐった。



 しばらくして、池田屋では盛大な宴が始まっていた。


 膳には、炊きたての白飯、焼き魚、煮物、汁物、漬物が並び、酒も次々に運ばれてくる。


 リリアーナは白飯を見た瞬間、目を見開いた。


「米や!!」


 ミレーヌが隣を見る。


「白いご飯ですね」


「久しぶりや……!」


 リリアーナは茶碗を両手で持ち、炊きたての米をじっと見つめた。


「オヤジに見せたら泣くぞ」


「種もみを頼まれていましたね」


「絶対持って帰る。これは産業にする」


「食べる前から仕事になりましたね」


「しゃあないやろ。米やぞ」


 ひと口食べる。


 リリアーナの目が見開かれた。


「うまっ!」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、その横から膳を見下ろし、わずかに目を細めている。


「やっぱ米やわ……」


 周囲でも、兵士たちとその家族が次々に箸を伸ばしていた。


「うまい!」


「こんなに食べていいのか!」


「初めて腹いっぱい食べた!」


 子どもたちが笑い、兵士たちも、その家族も笑っていた。


 その光景をしばらく見ていた明智が、静かに立ち上がった。


「皆……すまなかった」


 笑い声が少しずつ止まっていく。


 明智は深く頭を下げた。


「私が殿を止められなかったために、皆を巻き込んだ。家族まで人質にされ、それでも私は……最後には、殿を殺す道を選んだ」


 一人の兵が立ち上がった。


「違います」


 明智が顔を上げる。


「あなたも苦しかった。俺たちと一緒です」


 別の兵も立ち上がった。


「これから生きましょう」


「……はい」


 明智の目から涙が落ちた。


 兵たちが明智を囲み、その家族たちも泣いている。


 西郷も目元を拭い、高杉は顔をそらしながら目をこすった。桂は静かに笑い、大久保も眼鏡を外して目頭を押さえている。


 そして心絆は、誰よりも盛大に号泣していた。


「生きて帰れましたーーー!!!」


「声デカ!」


「嬉しいですーーー!!!」


「泣きながら叫ぶな!」


 龍馬も豪快に笑った。


「未来は明るいぜよ!」


「せやな」


 リリアーナも笑いながら、集まった者たちを見渡した。


「これから忙しなるぞ。向こう着いたら働いてもらうからな」


「はい!」


「頑張ります!」


「家も仕事も作る。子どもらは学校行け。もう誰かに命令されて死ぬためやなく、自分らが生きるために働け」


「はい!」


 刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、リリアーナの横で静かに笑っていた。


 ようやく。


 全員で次へ進める。


 そう思った、その時だった。



 ガラッ!!



 池田屋の戸が勢いよく開いた。


「御用改めである!!」


 宴が止まった。


 全員が振り返る。


 羽織。


 刀。


 鋭い目。


 入口には、武装した男たちがずらりと並んでいる。


 龍馬の笑顔が消えた。


「……」


 桂も固まった。


「……まずいですね」


「何がや」


「非常にまずいです」


 高杉が刀へ手をかける。


「新選組だ」


「……」


 ミレーヌが静かに黒革手帖を閉じた。


「清司さん」


「あぁ」


「これ、ガチです」


「せやな」


 リリアーナはゆっくりと入口の看板を見た。


『池田屋』


 そして、目の前に並んだ男たちを見る。


「新選組」


 もう一度、看板を見る。


「池田屋」


 もう一度、新選組を見る。


「……」


 リリアーナは大きく息を吸った。


「やっぱり池田屋事件なんかーーーい!!!」


 本能寺の変を止めても、歴史は止まっていなかった。


 次の事件が、普通に始まった。

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