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任侠の若頭だった俺、なぜか乙女ゲームのヒロインになりました――ふわ姫若頭  作者: 夜嶋朔
第二章 日本編

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第89話 人質救出大作戦

 山の砦では、机の上に大きな地図が広げられていた。


「明智、人質はどこや」


 明智が地図の一点を指す。


「ここです。次はこちら、それから、こちらにも」


「多っ!」


「兵が逃げないよう、家族を各地へ分けております」


「最低やな」


「はい」


「そこ即答なんや」


 明智は俯いた。


「私も、止められませんでした」


「責めるんは後や。今は全員助ける」


 リリアーナが地図へ視線を戻すと、ミレーヌも黒革手帖を開いた。


「場所は三つです。山の村、城下町、川沿いの屋敷。三班に分かれます」


「よし」


 リリアーナは地図を指した。


「一班。桂、高杉、心絆、パード。山の村や。逃げ道作って、人質連れてこい」


「任せてください。見つかったら逃げます」


「さすが逃げのプロや」


「褒めていますか?」


「褒めとる!」


 心絆が拳を上げた。


「全員!!! 生きて帰ります!!!」


「声デカ! 山に響くからやめろ!」


「二班。西郷、大久保、レイナ、キルナ。城下町や。子どもと年寄りを先に出せ」


「承知しました」


 西郷が頷く横で、大久保はすでに地図へ目を走らせていた。


「人数も数えます。食料も確認します」


「仕事早っ!」


 キルナが腕を組む。


「見張りいたら?」


「殺すな」


「殴るのは?」


「あかん」


「軽くなら?」


「あかん」


「つまんねぇ」


「救出作戦やぞ!」


 リリアーナは次の場所を指した。


「三班。シャーホムズ、ワトゾン、晴明、式神、アレクシス、スギナ。川沿いの屋敷や。罠、見張り、裏口、全部調べろ」


「了解した」


「記録します」


「火ぃつけられそうになったら、式神。全部消せ」


「任せよ」


「斬りかかってきた奴だけ、アレクシスが止めろ」


「分かった。剣を落とさせればいいんだよね?」


「それだけでええ。終わったらすぐ解け」


「分かった!」


 アレクシスは素直に頷いた。


「スギナは?」


「星々に聞きます」


「道だけ見ろ!」


 スギナが少しだけ不満そうに口を閉じたところで、リリアーナは龍馬を見る。


「龍馬、港へ行け。船の準備して、帰ってきた家族を全員乗せられるようにしろ」


「任せちょけ! ようやく船じゃ!」


「嬉しそうやな!」


「海は未来じゃ!」


「今は避難や!」


 龍馬が嬉々として飛び出そうとする横で、リリアーナは明智へ向き直った。


「明智は兵を連れて、家族の名前と場所を確認しろ。間違えるなよ」


「必ず」


「バルド、全体の進行」


「お任せください」


 チリン。


「各班、準備へ移ります」


「早っ! もう始まるんか!」


「人質は待ってくれません」


「それはそうやな」


 リリアーナは立ち上がり、集まった全員を見渡した。刀を肩に担いだ黒スーツ姿の清司も、その横から地図と一人一人の顔を見ている。


「誰も殺すな。家族見つけたら、ちゃんと名前呼んでやれ。物みたいに運ぶな。子どもは手ぇつなげ。年寄りは背負え。全員、生きたまま港へ戻すぞ」


「はい!!!」


「声デカ!!」



 一班が向かったのは、山の村だった。


 桂が先頭を走りながら道を確認する。


「こちらです! 次の角を右! 見張りが二人!」


 高杉がすぐに前へ出た。


「どけ」


「何者だ!」


「救出班だ」


「名乗り方そのままやな!」


 見張りが刀を抜いた瞬間、パードが銃口を向けた。


「撃つよ?」


「撃つな!」


「脅すだけだってば」


 見張りの手が止まる。


「今のうちです!」


 桂が戸を開けた。


「皆さん、助けに来ました! 走れますか!」


「本当に……?」


 怯える村人たちの前へ、心絆が飛び出した。


「生きて帰りますよ!!!」


「声デカ!! 子ども起きたやないか!」


「起きてください!!!」


「さらに叫ぶな!」


 眠っていた子どもまで飛び起き、村人たちは泣きながら外へ出てきた。


「こっちです! 手をつないで! 転ばないでください!」


「スタコラサッサです!!!」


「それ定着さすな!」



 二班が向かった城下町では、大久保が地図と周囲を見比べていた。


「人質はこの家です。見張りは四人。裏口があります」


「レイナ」


「はい」


「寝かせて」


「承知しましたわ」


 ぱちん。


 レイナが指を鳴らした瞬間、四人の見張りが同時に崩れ落ちた。


「便利すぎるやろ!」


 キルナが戸の前へ立つ。


「開ける」


「待ってください」


 西郷が静かに手を伸ばし、そのまま戸を開けた。


「開いとるやないか!」


「壊す必要はありません」


「つまんねぇ」


「救出に面白さ求めんな!」


 中から人質たちが出てくると、大久保はすぐに人数を確認し始めた。


「子どもから! 年寄りはこちら! 荷物は一つだけ! 食料は持てる分だけ、水は途中で配ります」


「もう避難所の運営始まっとる!」


 レイナは怯えている子どもの前へ屈み、その小さな手を握った。


「大丈夫ですわ。もう怖くありません。急ぎましょう」


「お姉ちゃん……」


 その横では、キルナが年寄りを軽々と背負う。


「軽いな」


「落とすなよ!」


「誰に言ってんだ」


「口悪いけど優しいな!」


「うるせぇ」



 三班が向かった川沿いの屋敷では、シャーホムズが地面へ屈み込んでいた。


「足跡が多い。正面は罠だ。裏へ回る」


 ワトゾンも周囲を確認しながら記録帳へ書き込む。


「裏口に見張り二名。窓にも一名」


 スギナが空を見上げた。


「星々も、裏口を示しています」


「今のは探偵が先に言うた!」


「星々も同意しています」


「乗っかるな!」


「誰だ!」


 見張りの一人が飛び出し、アレクシスへ斬りかかった。


「止まれ!」


 アレクシスが手を上げると、男の身体がぴたりと止まった。


「剣を落として」


 からん。


「そのまま座っててね」


 見張りはその場へ座り込む。


「できた!」


「便利やな!」


「攻撃はさせてないよ!」


「完璧や!」


 その瞬間、屋敷の奥から炎が上がった。


「人質ごと燃やせ!」


「最低やな!」


 式神が前へ出て腕を上げる。


「消えよ」


 大量の水が一気に屋敷へ広がった。


 ぱしゃあっ!


 燃え上がった炎が、一瞬で消える。


「全部消えた!」


「我に任せよ」


 晴明も扇を広げた。


「結界を張ります。追手は入れません」


「陰陽師と式神、救出で便利すぎるわ!」


 ワトゾンが屋敷の戸を開ける。


「助けに来ました! 外へ! 名前を確認します! 家族と一緒に動いてください!」


「ありがとうございます!」


「泣くのは後です! 今は走りましょう!」


「三班もスタコラサッサや!」



 港では、龍馬が船の上から大声を上げていた。


「急げ! まだ乗れるぞ! 家族ごと来い! 荷物は奥へ! 子どもは先じゃ!」


「やっと船で活躍しとる!」


「わしの本職じゃ!」


 最初に一班が港へ駆け込んできた。


「一班! 全員無事です!」


「人質は?」


「全員おります!」


「よし!」


 続いて二班も姿を現す。


「二班! 怪我人なし! 子どもも年寄りも全員います!」


「よし!」


 最後に、三班が全速力で走ってきた。


「三班! 追手が来ます!」


「全員船へ! 急げ!」


 桂が走りながら後ろを振り返る。


「追手、二十人!」


 高杉が刀へ手をかけた。


「止める」


「殺すなよ!」


「分かってる!」


 西郷が道の真ん中へ立ち、追手の前を塞いだ。


「ここは通しません」


 その横でアレクシスが手を上げる。


「みんな、止まって!」


 追手たちの動きが一斉に止まった。


「今や! 全員乗れ!」


 家族も兵も次々に船へ駆け込み、最後の一人が甲板へ上がったところで、バルドが人数を確認した。


 チリン。


「一班、二班、三班。全員そろいました」


「人質は?」


 明智が周囲を見渡す。


 兵士たちも。


 その家族も。


 子どもも。


 年寄りも。


 全員いた。


「全員おります」


「よし!」


 リリアーナは船の先を指した。


「出せ! スタコラサッサや!!」


「家族そろって!!! 生きて帰ります!!!」


「声で追手呼ぶな!!」


 帆が上がり、船がゆっくりと港を離れていく。


 岸では動きを止められた追手たちが、何もできないまま船を見送っていた。


 人質だった者たちは、甲板の上で家族の手を握り、互いの名前を呼びながら泣いている。


 誰一人、置いていかれなかった。

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